俺の予想をはるかに超えた妖精が現れた。えっ妖精のイメージって?
「0番、それじゃあ行ってくるな」
「ご主人様、旅の安全をお祈りしています。3番、5番、リリ、ララご主人様をよろしく頼むわよ」
「任せてください。愛の力で必ずや守ってみせます」
「今度こそお役に立ちます」
リリとララは0番に大きく頷き手を振る。
まぁ少し大げさに0番が言っているが、正直それほど危険なことはないと思っている。
5番の村が違法薬物まみれになっていたとしても、2年間立てば色々と大きく変わるには十分な時間だ。
少し打算がないかと言えば嘘になる。
今回の旅で5番の妹が手に入ればもちろんそれが一番だ。
だけど、もし手に入らなかったとしても、5番のスキルは普通の狩人のものではない。
この数日間の旅で5番の村と交流が持てるようになったり、人材を得られれば、かなりのメリットになることは間違いなかった。
元商人の57番は、残念だけど商品価値を見誤っている。
目先のお金だけが全てではないのだ。
うん……やっぱり目先のお金も大事だけど。
今回、キャリッジの運転は5番と7番が交代ですることになった。
そこにリリとララもサポートとして入ってもらう。
普通ならまだ竜の扱いなど、覚える必要はないのだが、知っておいて損なことはない。
途中まで交代しながら順調に進んで行く。
「ご主人様、竜の運転楽しいです」
「ご主人様、私は苦手です」
二人にも少しずつ個性がでてきているようで嬉しいかぎりだ。
自分の好きなことや苦手なことをしることは非常に大切だ。
もちろん、苦手意識からチャレンジしないのはダメだけど、好きなことを極めることで道が開けることもあるのだ。
3番とララがキャレッジを運転している中、リリに家族のことを聞いてみた。
もし、なんとかなるなら一緒に住めるようにしてもいい。
「リリの家族について聞いてもいいかい?」
「うん」
「お父さんとお母さんは今どうしているかわかる?」
「うーん。お父さんもお母さんも狩りに行くって言って帰ってこなかったの。ご主人様も知ってるとおり、私たちは呪印を刻まれて奴隷市に売られたの」
俺のところに来た時、姉のリリの場合は視覚と触角を完全に奪われ、妹のララは聴覚と味覚がなくなっていた。
奴隷商人もまさかこの二人が雷帝と風帝の一族の血縁だとは思わなかっただろう。
それでなくても5歳くらいでは、まだ売り先が限定されてくる。
二人とも可愛いが……でも、呪印を刻まれている奴隷に手を出す人間は少ない。
もしかしたら、その自分が呪印をもらうこともあるからだ。
「私と妹のことはビリビリの精霊とヒューヒューの精霊が守ってくれていたの。だけど、あの呪印はビリビリさんもヒューヒューさんも感じれなくなるくらい強かったんだよ」
今回この二人を助けられたのは本当に運が良かった。
呪術を解除する元神官の4番の力と多分、二人の周りにいる精霊のおかげだと思っている。
俺だけの力ではあれだけの呪術を解除することはできなかった。
「雷と風の精霊と話ができるの?」
「できるよ。でも、私よりもララの方がいっぱい会話できるみたい。色々注意をしてたり教えてくれるよ。あっちょっと待って」
「リリ、ご主人様、天気が悪くなるみたい」
「うん。ご主人様、雷が近づいてきてる」
天気は曇っているが、まだそんな荒れた天気ではないが、この二人が言うなら間違いない。
「3番、どこかに休めそうな場所あるか?」
「あそこに洞窟みたいなものが見えますね」
「少し休んでから行くか」
その洞窟はキャリッジごと入れるくらい大きな洞窟だった。
奥もかなり広そうだ。
ここなら雨風をしのぐことができる。
洞窟の中に入ると、ポツポツと雨が降り出してきた。
「5番、急ぎたい気持ちもあるだろうが、雨を避けていくからな」
「もちろんです。一緒に行ってくれるだけでありがたいので」
「ここで少し早いけど食事にしよう」
「わかりました」
3番と5番が手際よく料理の準備をしてくれ、リリとララも一生懸命手伝ってくれる。
俺も手をだそうと思ったが、3番に止められてしまった。
「ご主人様が優しいのはわかりますが、奴隷と一緒に食事をすることさえ嫌がる奴隷商は多いです。一緒に料理なんてしたら、それこそ問題として騒ぐ馬鹿がいますから、ここは大人しく座っていてください」
こんなところで誰も見ていないが、普段の行動がでてくるそうだ。
俺たちの住まいならいいが、外では絶対にダメらしい。
手持ち無沙汰で待っていると、段々と雨が強くなってくる。
さすが、雷と風の精霊に愛されている二人だ。
天気予報に間違いはない。
「すみません。ご一緒させて頂いてよろしいですか?」
みんなが食事の準備をしていると、温かい季節だというのに長いローブを着こんだ5人の男女がやってきた。彼女たちも急な雨で避難をしてきたようだ。
この感じでは今からテントを建てるのも難しい。
「あぁいいぞ。俺たちはもうここにキャンプをはりだしているから奥を使ってくれ」
「ありがとうございます」
声をかけてきた奴以外は俺たちの視線を避け、奥へと歩いて行く。
彼らを見送ると、リリとララが俺の服を引っ張ってきた。
「二人ともどうした?」
「ビリビリが騒いでる」
「ヒューヒューもかなりうるさい」
「大丈夫だよ。ここにいれば問題ないから」
何か精霊が騒いでいるようだが……この子たちを経由して精霊たちが何を言いたのかはわからなかった。まだ小さいから仕方がない。
食事を簡単に済ませると、交代で仮眠をとることにした。
ここにはさすがに俺も入ることにした。
俺は明日のキャリッジの中で寝ていればいいが、他のメンバーは違う。
安全に村まで行くためには眠れなかったからと言って運転中に居眠りをされたら困る。
リリとララは朝まで寝ていてもらうことにした。
いくら奴隷とはいっても、さすがに子供に夜の警備は難しい。
俺が最初に警戒につく。
リリとララはキャリッジの中で眠ってもらい、3番と5番は焚火の側で寝てもらう。
外の雨と雷、風が段々と激しくなっている。
時折、雷の明かりが辺りを明るくする。
嵐は収まる気配をみせずだいぶ激しくなってくる。
精霊たちはこれを伝えたかったのかもしれない。
火を絶やさないように時折、木を投げ入れる。
ここ最近忙しかったので、焚火を見ているだけで心が癒される。久しぶりに何も考えずにゆっくりとしている。
「ご主人様、寝れない」
「ご主人様、怖いの」
リリとララが馬車の中から起きて来た。
「いいよ。こっちでみんなと一緒に寝な」
リリとララが俺の側にくると膝の上に座り抱き着いてくる。
あれだけ強い、二人でもまだまだ子供ってことだろう。
二人を優しく抱きしめてやると、ぬくもりのせいか俺もうつらうつらしてきてしまった。
「ご主人様、妖精さんがきてる」
「ご主人様、妖精さんが話したいって」
気が付くといつの間にか外の嵐が収まっていた。
「行こ」
「行く」
リリとララが俺の手を持って洞窟の外に連れ出す。
「3番と5番を起こさないと」
「いいの」
「大丈夫」
俺が外にでると、空には満点の星空が広がっていた。
嵐がすべてを流していったかのように、今までで見た中で一番美しい星空が広がっている。
「どこに妖精がいるんだ?」
「もうすぐくるよ」
「ご主人様見えないの?」
ん? どこだ?
俺が辺りを見渡すと、目の前にふわりと2匹のドラゴンが降り立った。
大きさは俺の身長の2倍以上ある。
ちょっと待って。
俺のイメージしてる妖精と全く違っているんだけど。