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5番の気持ち

 森の中をひたすら走り続けていると、いくつものトラップが仕掛けられていた。

 さすが5番の狩人のスキルがあるだけのことはある。

 この短時間にこれだけの罠を仕掛けられるなんて、通常ではなかなかできることでない。


 だが……リリとララの前ではまったくといっても無意味だった。

 罠を見つけるとリリが雷で破壊するか、ララの風魔法で罠自体が吹き飛ばされる。


 二人はただふざけているような感じでやっているが、末恐ろしいほどの力を持っていた。

 この二人の力を見て改めて思う。


 俺はきちんとこの力の使い方を教えてやる義務がある。

「ララ、もう少しだね」

「リリ、そうだね」


 急に視界が開け、そこに一人の女性が倒れていた。

 5番だ! どうやら首輪がしまり気を失ったようだ。


「ありがとう。リリ、ララここでちょっと待っていてくれ」

 少し離れたところに二人に待っていてもらい、5番に近づく、胸がしっかりと上下していることから生きているようだ。


「大丈夫か?」

 5番を抱きかかえ、奴隷の首輪の締まるのを解除して、下級ポーションを口の中にいれる。


「ご主人様……ごめんなさい」

 俺の右の脇腹に何か熱い感覚がある。


 頭の中に5番が言っていた言葉を思い出す。

『流れる先がある場合に動かすことができる』

 

 脇腹から一気に血が噴き出した。

「ご主人様! ララ!」

「ご主人様! リリ!」


 俺の側にいた5番がいきなり吹き飛び、リリとララが俺と5番の間に割り込んでくる。

 この子たち、戦闘慣れしている……とっさにリリとララの身体を抱え二人に覆いかぶさる。

「バァン」


 5番はリリとララが来たことで、一瞬躊躇した。

 何かを投げたが、見当違いの方向へ飛んでいき爆発した。

 元々たいした威力ではないようだ。


 どうやら、俺たちを殺すつもりはないらしい。

 爆発の威力よりも、音で俺たちの動きを封じるつもりだったのか?


 もしくは時間がなくて準備できなかったのか。

 だけど……もうさすがに許すことはできない。

「リリ、ララ大丈夫か?」

「うん。ご主人様出血している」

「うん。動かないで、死んじゃダメ」


 リリとララの目から大きな涙がこぼれる。

 こんな小さな彼女たちもきっと大切な何かを失う悲しさを知っているのだ。


「5番……いや、アグネスお前は誤解をしているようだが、奴隷商の能力を舐めすぎた」

「私は……妹を助けに行かなきゃいけないんだ。だから見逃し……ハァハァハァ……呼吸が……苦しい……」


 アグネスがこれだけの能力を持ちながら、今まで逃げることができなかったのは、違法薬物によって肺をダメにしていたからだった。

 彼女が俺のところに来た時、歩いて数十メートル歩くのがやっとだった。


 俺はそれを一時的に回復させたのだが……彼女からすれば完全に回復したと思っていたのだろう。


「助けて……呼吸……できない」

 アグネスは陸にあがった魚のように、のどを抑え苦しんでいる。

「残念だけど自業自得だよ。恩を受けた人間を裏切る奴をそう何度も助けると思うのか?」


「お願い……します。妹……助けに……」

「最初から相談をしてくれればまた違った道もあったかもしれないのにな……」


「ご主人様、アグネス助けて」

「ご主人様、アグネスいい人」


「二人はアグネスを知ってるのか?」

 二人はほぼ同時に頷く。


「同じ奴隷小屋にいた。ご飯少ないのに私たちにわけてくれたの」

「馬車の中に閉じ込められた時も、私たちが潰れないように庇ってくれたの」


「そうか……だから、二人は5番がいなくなったのもわかったのか」

「5番は悪いことした。でも、理由も聞いてあげて」

「できれば、助けてあげて」


 はぁ、二人にそう頼まれては仕方がない。

 5番も二人が俺の前に来た時、躊躇していたのは、この子たちを傷つけたくなかったからだろう。

「5番、残念だけど今回の逃亡に関しては本来なら許されるものではない。だけど、理由くらいなら聞いてやる。この二人に感謝するんだな」


 俺は、5番の肺に補完スキルを使って呼吸ができるように戻してやる。

「ご主人様、申し訳ありませんでした」

「次はない。この二人に感謝するんだな」

「ありがとうございます」


 5番は泣きながら地面に頭をこすりつけた。

 はぁ、本当に甘い性格で嫌になってくる。


「ご主人様! 何かありましたか? 森の中で爆発音が聞こえて……」

 3番が単独で俺たちを追ってきてくれた。

 他の仲間はきっと置いてこられたのだろう。


「いや、大丈夫だ。5番が久しぶり力が戻ってはしゃぎすぎたみたいで」

「そうですか……リリとララを連れてわざわざこんな森の中へ?」


「3番細かいことは気にするな。それよりも食料が充実したら、5番の故郷に新しい奴隷を探しに行くから、早めに食料を準備してくれ」

「わかりました。その時は今日みたいにのけ者じゃなくて連れて行ってくれるんですよね?」

「うーん。でも、そうすると、ここの守りが心配だからな。まぁ人数がいるし大丈夫か」


「私たちも行こうねー」

「行こうねー」

 リリとララはもう行く気まんまんだった。

 下手な人間連れて行くなら、たしかにこの二人の方がいいか。


「とりあえず、3番悪いができるだけ早く次の奴隷を手に入れたい。俺は欲張りだからな。だから、食料と冬に備えてできるだけ沢山の家畜と食料を集めてくれ」

「わかりました。4人で戻るのは問題ありませんか?」


「あぁ大丈夫だ。こっちにも優秀な狩人がいるからな」

「では、先に失礼します」

 来た時も、ものすごいスピードだったが、帰る時もめちゃくちゃ早かった。


「ご主人様、私の村へ連れて行ってくれるんですか?」

「勘違いするな。俺は奴隷商人だ。お前をわざわざ連れて行くのは奴隷交渉する時に有利だから連れて行くだけだ。早く出発したいなら早く準備しろ。奴隷を買ってきてここで飢え死にさせたいなら話は別だがな」

「わかりました。このまま単独で行動してもいいですか?


「いいぞ」

「いいんですか?」

 5番は自分で聞いておいてビックリしているようだった。


「当り前だろ。その代わり俺の知らないところで勝手に死ぬな。それと夜までには帰って来い。お前の村にどうやって行くのか、どれくらい準備が必要なのか聞く必要があるからな。リリ、ララ、俺たちはゆっくり帰るぞ」


 来た時と同じスピードで帰られたら俺がもたん。

 俺はあくまでも一般人なんだからな。

「ご主人様、戻って仕事いっぱいあるでしょ?」

「ご主人様、急いで帰って仕事しないと」

「いやー」


 森の中で俺の叫び声がこだましていたが、3番は助けに来てくれなかった。

ゴル「脇腹から出血してる。ねぇ出血してるって。ゆっくり帰ろうよ」


子供たちに加減という言葉を教える必要性があると思った。


★★★★★

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