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ペガサスが俺だけに触らせてくれない件

「安全性が確認できない従魔は認められないから売ってきなさい」

「ご主人様、こんな可愛い従魔を売れだなんて鬼ですか? もしかしてデーモンの生まれ変わりなんじゃないですか?」

「いや、0番には懐いたけど、他の人にはわからないだろ。現に俺にまったく懐いていないし」

「じゃあ、わかりました。他の人にも懐けばいいわけですよね? 見ていてください。72番ちょっと従魔借りるわよ」


 0番がペガサスを連れて、他の奴隷たちのところへ連れて行く。

 まだ朝早かったが、9番がすでにレンガで家の枠を作っていたところだった。


「9番、そんな朝から働かなくていいぞ。休める時に休んでおけ。休むのも仕事だからな」

「ありがとうございます。でも、身体を動かせるのがものすごく嬉しいんです」

 9番めちゃくちゃいい奴だ。本当に助かるが無理はよくない。


「9番さん、仕事中申し訳ないんだけど、ちょっとこのペガサスに触ってもらってもいい?」

「おぉー幻獣種ですね。この辺りでは見かけることがまったくなかったですが、毛のつやといいすごいですね。幻獣種は誇り高き種族って言われていますけど、大丈夫でしょうか?」


「9番やめた方がいいぞ。噛まれるぞ」

「ですよね。幻獣種は自分より下だと思った相手に触れられるのを極端に嫌がるっていいますもんね。0番さん僕にはやっぱり……」

 ペガサスは0番の意図をくんだのか、9番に自分から近づいていくと、そのまま座り込んだ。


「えっ? 触ってもいいってこと?」

 ペガサスが頷く。

 嘘だろ? 本気か?

 9番が恐るおそる触ると、ペガサスは反抗することもなく、身体を任せている。

 なんで俺だけ触らせてくれないんだよ。


 ペガサスはなぜか俺の方を見て勝ち誇ったような表情をしてくる。


「このくそペガサス」

「ヒン」


「72番、なんで俺だけこんなに敵対してるんだ?」

「わからないです。いつもこの子は人慣れしているんですけど……」

「0番、起きてる奴隷を集めろ。疲れている奴はいいから」


「わざわざ触らせるために全員でやるんですか?」

「当り前だ。たまたま0番と9番は大丈夫だったが、こいつの危険性は俺が一番知っている。絶対に俺以外にも危害をくわえるはずだ。そしたら即追放してやる」


「ご主人様……やってること子供みたいですよ」

「子供でいいんだよ。ペットに舐められたら終わりなんだ」

「小さっ! 人としての器がこんなに小さいとは思いませんでした」

「小さくて結構だ」


 0番が奴隷たちに声をかけると、全員が起きてきて集まってきた。

 まぁほとんど元気になって身体が動くようになったのに、寝ている方が難しいか。


「休んでいるところ悪いが、ちょっとこのペガサスの危険性について確認をしたいから、みんなに協力してもらいたい。やることは全員がこのペガサスをなでてくれ。それだけでいい」


「ご主人様の初めての命令がペガサスをなでろだなんて……面白すぎですね」

 0番は何が楽しいのかわからないが、すごく嬉しそうにしている。

 俺としてはこのペガサスの危険性をみんなに知らせて、なんとしても追い出したい。

 いや、できれば売り払ってこの生活を立て直す資金にしたい。


「まずは……触りたい奴いるか?」

 声をかけるとほとんどの人たちが手をあげた。


 みんなペガサスに触りたいらしい。

 まぁたしかに色艶ともにきれいではあるからな。


「じゃあ適当に並べ。一人ずつ触るだけでもいいからな。もしかしたら噛まれる危険もあるから気を付けてくれ」

「みんなをそんな危険にさらしてまで追い出そうとするなんて、なんて鬼畜なんでしょう」

「大丈夫だ。下級回復薬は持ってきている。噛まれてもすぐに回復させることはできる。クックク……化けの皮をはがしてやる」


 最初に飛び出したのは5歳の双子の姉妹だった。

「リリ、ララ危ないから気をつけるんだぞ」

「ご主人様? 危ない?」

「ご主人様? 怖いの?」


 二人は首を傾げて聞いてくる。

 俺が噛まれたことを考えると、最初にこの二人を犠牲にすることはできない。

「リリとララの二人は他の人たちが触ってからにしようか」

「うん。わかった」

「あとにするー」


「ちょっと、ご主人様なんで二人は名前で呼んでるんですか? 全部番号で管理するって言ってたじゃないですか」


「8歳未満の子供は例外だよ。まだ自分の名前も覚えられない子供を番号でなんか呼んでたら、自分の本当の名前を忘れちゃうだろ。もちろん、できることはやってもらうつもりだけど。彼女を含めいずれはここをでて行くんだから、せめて自分の名前を憶えていられるくらい大きくなるまでは親からもらった名前で呼んでやらないと」

「意外とちゃんと考えてるんですね」


「じゃあ俺から行きますよ」

 そう言ってくれたのは元冒険者の槍使いの男だった。

 申し訳ないがちょうどいい生贄じゃないか。


「番号を覚えるために自分の番号を言ってくれ」

「34番いきます」


 34番は恐るおそる触りにいく。

 ほら、ペガサス噛みつけ。それでお前を退場させてやる。

 なんだか、自分でもどちらが悪者なのかわからなくなってくる。


 だが、ペガサスは嬉しそうに34番に身体を触れさせた。

「ご主人様、めっちゃ可愛いじゃないですか。そんな危険だんなて驚かして人が悪い」

「あっ……あぁじゃあ次から次触っていってくれ」

 

 34番が触ったのを確認すると、みんなが優しくペガサスに触っていく。

 ペガサスは営業スマイルでもしているかのように、誰に触られても嬉しそうにしていた。


「ご主人様、やっぱりうちの従魔は危なくないですよ。きっとご主人様の時には何か別の理由があったんですって」

「そうなのか?」

  

 72番がそう言っているが、そんなことを言われても信用できない。

 だけど、目の前ではどんどんペガサスを触っていく。


 その中で何人かのご老人が俺の方にも深々と頭を下げてくれる。

 そして一番最後にやってきたのは3番だった。


「ご主人様がペガサスに怖くて触れないと言うのは本当ですか?」

「怖いわけじゃない。こいつの危険性をみんなに知らせようとしただけなんだ」

 

 全員に触らせた結果、触れなかったのは俺だけだった。

 そこへご老人たちが俺たちの元へやってきた。


「ご主人様、この度は私たちに天馬に触れさせる機会を作って頂いてありがとうございました」

「天馬……?」


「はい。ペガサスのことを私たちのような年寄りは天馬って言うんです」

「私たち世代には天馬伝説というのがありまして、死ぬまでに天馬に触れることができると、死んだ後に天国へ導いてくれるって話なんです。みんな若い頃は仕事の合間を縫って天馬を探しに行ったものです」


「天国へ……?」

「はい。老い先短い私たちが後悔なく天国へいけるように今回は開催してくださったのでしょ? わざわざ天馬を怖がっているように見せかけて」


「いや……そんなことは……」

「そうですよ。ご主人様は天馬伝説を知ってみなさんに触ってもらいました。まさかご主人様がそんなペガサスに触れないなんてことはないです」

「さすが、ご主人様ありがとうございます」


 無言の圧力が俺に集まってくる。

「大丈夫ですって。ほらこうやって優しく触ってみてください」

 俺は3番に言われるがままペガサスに触れようとすると、ペガサスはそのまま空に飛びだっていく。


「あぁ逃げていってしまいましたね」

「だいぶ我慢していましたからね」


「ご主人様、私たち年寄り一同この度はありがとうございました。私たちはいつ死んでも後悔ありません」

「だから……前にも言ったけど勝手に死ぬな。俺が死んでいいと言うまで勝手に死ぬのはなしだ」

 なぜかその後も老人たちから感謝をされ続けたが、別にそんな意味でやってないんだけど。

ゴル「よし、ペガサスに触ってやろう」

『ガブッ』

また噛みつかれた。


★★★★★

挿絵(By みてみん)

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