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ずっと遠い未来の人類のお話  作者: お近くの埼玉
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第一章~伝説の復活~

「ずっと遠い未来の人類のお話」を開いてくれてどうもありがとう!

最後まで読むことに意味があるんだ。是非、最後まで読んでいってくれよな!!

 この世界では殺人は罪にならない。なぜなら人は永遠の命を手に入れたから。簡単に言えば、人類は何億年に渡り愛用してきたこの”肉体”を捨てたのだ。全人類は肉体を捨て意識をデータ化し、仮の肉体である「hiroshi」に意識のデータを移し、あたかもここが現実であるかのような仮の世界を脳に直接映し出すことにより、まるで今までと何ら変わりない生活を送っている。いわゆるバーチャルリアリティーというやつだ。人間はこの作られた世界で日々の生活を送っている。

 先ほど名前を出したこの「hiroshi」だが、この装置にもかなりの数の種類がある。それぞれ能力や機動性が格段に違ってくるのだ。そしてこのhiroshiは国民が自腹で購入することになる。つまり肉体を金で買うということだ。勘のいい方はもう気付いていると思うが、この世界では金持ちが強く貧乏人は弱い。金をかければ機動性の高い丈夫なhiroshiが手に入るし、金がなければボロボロな貧弱の青ざめhiroshiしか手に入らない。だから貧富の差は目に見えるほどにまでなっている。もちろんこのhiroshiは改造可能だ。社会人になり、成功して金を手に入れれば自分の好きなボディにチューニングができる。君たちの世界で言う車みたいなものだな。そしてこの世界ならではの流行りのスポーツもある。それが「キルチャー」いわゆる「殺し合い」だ。これはボクシングのように1v1で戦うスポーツ。だが細かいルールなどはほとんどなく、殴ってもいい。蹴ってもいい。噛みついてもいい。どちらかのhiroshiがズタボロになるまで戦うのだ。このスポーツは老若男女愛されていて、スクールカーストで言えばキルチャーが強いやつが一軍。君たちの世界での「野球」や「サッカー」のような位置付けだ。

 そしてここ、「小泉学園」にもキルチャー好きの高校生たちが揃っている。

 「キーンコーンカーンコーン」

 一限目の授業の終わりのチャイムが鳴ると同時に、普通の高校生二年生「阿部サダヲ」の机に何やら大興奮の男が小走りで駆け寄ってきた。彼の名は「坂上忍」阿部サダヲとは高校からの友達であり、大の親友だ。

 「おいサダヲ!お前いよいよ今週の日曜日だな!」

 そんなことを聞いてもサダヲは何が今週の日曜なのかさっぱり分からない。

 「今週の日曜?ってなんかあるのか??」

 すると坂上は顔に血を巡らせ、真っ赤にしながら目一杯怒鳴った。

 「お前マジかよ!!今週の日曜は年に一度しかない関東のキルチャーの大会だろ!!」

 サダヲはすっかりそんなこと忘れていたが言われてみれば何となく思い出してきた。確か小泉学園からもマヂカルラブリーズという名のチームの出場が決まっていたはずだ。

「あ~、俺も出てみてえなあ。ただうちは貧乏だから予備のhiroshiを買う金なんてないんだよなあ」

 坂上は笑って貧乏を誤魔化しているが本当は自分もマヂカルラブリーズの一員になりたくて仕方がない、それがサダヲには分かっていた。

 サダヲは坂上を励まそうと自分なりに言葉を考えた。

 「貧乏ったってそりゃあうちも同じだぜ。うちだって親父は仕事が忙しくて月に一度しか帰ってこないし、お袋だって朝から晩まで働きづめだ。」

 坂上は目を膨らまして言った。

 「つってもお前はキルチャーなんか興味ねえんだろ?そんなんじゃあ俺の気持なんか分かりっこないさ。」

 「まあそうだけど...」

 すると坂上は今度は目を輝かせて言った。

 「はぁ~、しかし何と言っても今年は転校してきた「遠藤憲一」が強いからなあ」

 遠藤憲一。彼は今年九州の方から転校してきた、九州最強と言われたキルチャーのトッププレイヤーだ。サダヲ達とは同学年だが、ほとんど学校にいる時間はなく、いつもジムで練習をしているらしい。まあサダヲには全く興味のない話ではあるが。

「憧れるよなあ。噂によれば遠藤って奴、九州の方の大会を総なめにしてきたらしいぜ。本当だったら少しでいいから話を聞いてみたいよな。」

 サダヲはまるで魂の抜けた人形のような顔で返事をした。

 「ああ。」

 「ったくお前は何でこうもカルチャーに興味がねえんだよ。男なら強くなりたいとか憧れとかねえのかよ。」

 こんな会話をしているといつの間にやら二限目の授業がもう始まりそうである。坂上は自分の席に戻り際にサダヲの方を振り返り、やや急ぎ目で言った。

 「まあとにかくサダヲ!日曜は俺と一緒に齋スタにマヂカルラブリーズの応援に行くんだからな!予定空けとけよ!」

 「ああ、分かったよ。」


~放課後~


 この日、サダヲは楽しみにしていたお笑い番組を見るために、坂上を置いて一人小走りで家に向かっていた。

 帰りの途中、少し疲れたサダヲは道中にある小さな公園のベンチに腰をかけ、少々休憩を取っていた。公園には誰もいなく車のクラクションや人の叫び声、ドアを開ける音までが繊細に聞こえてきた。サダヲはこんな一人の空間が大好きだった。すると公園の入り口に一人の男が入ってきた。サダヲはその男を見て目を疑った。なんとその男は遠藤憲一だった。

「久しぶりだな、サダヲ。」

 遠藤はサダヲの方を見ながら言った。

 実はこの二人、実のいとこであった。ただ別にサダヲはそれを人に言いふらしたりなどしていなかった。

 サダヲは特に何も言わずにただ空を見上げていた。

 「なあサダヲ、俺が日曜、キルチャーの関東大会に出ることは知っているよな。」

 サダヲは少し喉を唸らせ気味に答えた。

 「ああ、知ってるよ」

 すると遠藤は自分が着ていたシャツの袖をまくり上げた。するとそこには、ところどころの配線が切れ、肩の金属がドロドロに溶けたまるで使い物にならない腕が姿を現した。

 「この間、町の連中達と少し揉め事があってな、無茶しすぎちまったんだ。」

 サダヲはそんな遠藤の腕を見て答えた。

 「こりゃあかなり無茶したな。ただ金持ちのお前からすれば安いもんだろ、腕の一本や二本くらい。すぐ新しいのを発注してもらえよ。」

 遠藤は真剣な表情で答えた。

 「それが実は交通関係の問題で日曜までに腕が発注できないんだ。」

 「それじゃあ今週の関東大会はどうするんだ、出ることができないだろう。」

 「ああ、出ることができねえ。」

 すると遠藤はサダヲの方によってサダヲの目を見て答えた。

 「だから今日はお前に頼みがあるんだ。」

 「頼み?」

 すると遠藤の口から衝撃の一言が発せられた。

 「今週の日曜、俺の代わりに大会に出場してくれないか?」

 サダヲは遠藤の突然の頼みに驚き、少し間を開けて答えた。

 「ダメだ。俺はもうキルチャーは引退したんだ。お前も知っているだろ。中学の頃、俺は関東制覇を達成し、その流れで挑んだ全国大会の決勝で俺はあの萩本欽一に敗れたんだ。」

 そう、「阿部サダヲ」実はこの男、関東で最強と言われたキルチャーのトッププレイヤーの一人であった。しかもサダヲの使っているhiroshiは1980年代に主流だったモデルで、今では旧式と言われているモデルである。キルチャーの選手ではこの旧式を使ってでの関東制覇は、それまでの常識を覆すような異例の記録だった。彼はまさに歴史に名を刻むほどに逸材の選手であった。

 そんな彼が全国大会の決勝で唯一敗れたのが萩本欽一。彼もまた逸材であり、天才と言われたプレイヤーの一人である。だが、hiroshiの性能から見ても、どちらが強いかは一概には言えなかった。

 それでも遠藤は諦める気はない。

 「そんなこと知ってる。でも負けられないんだ。三年の先輩に藤原竜也ってのがいる、俺はあの方に世話になった。だから最後に勝たしてやりたいんだ。頼むよ」

 「ダメだ。俺はもうキルチャーはやらん。」

 サダヲは痺れ切らし、遠藤の言葉をよそに走って公園を後にした。

 その日の夜、サダヲは楽しみにしていたお笑い番組を見ながら、布団に横になってくつろいでいた。するとサダヲの携帯に一通のメールが届いた。サダヲはメールの内容を確認すると、それは遠藤からのものであった。日曜の大会にもし出てくれるのだったら、お前が前から欲しがっていた、キューティーハニーの限定ストラップやる。だからどうだ、もう一度考え直してくれ。というものだった。サダヲは携帯を横に置き、深呼吸して天井を眺めた。何かサダヲの中にこみ上げてくる感情があった。しばらくサダヲはそのまま天井を見つめていた。そしてすぐさま携帯を手に取り、坂上にメールで、日曜の観戦に行けなくなったことを伝えた。サダヲの中で一つの覚悟が決まった瞬間だった。


~日曜日~


 そして、日曜日。マヂカルラブリーズのメンバーは皆遠藤から話は聞いていた。言葉には出さないが、チームのエースである遠藤の代役ということで、サダヲには相当の期待値が寄せられていた。ただサダヲはそんなことをよそに一人控室のベンチに座り込んだ。他の選手はシャドーやサンドバックでウォーミングアップをしているが、サダヲはどうもウォーミングアップというものが好きではなく、いつも試合前になると一人でベンチに座り込んでいた。すると何やら会場が湧き始めた。どうやら三年の部門の第一試合が始まるようだ。この大会は全部で二年生の部門と三年生の部門があり、それぞれ代表の選手一名が試合に出場するといった形だ。三年生にとってはこの試合が最後となる三年間の集大成のような大会であった。そして、三年生の部門からは例の藤原竜也が出場することになっていた。

 そしていよいよ第一試合が始まった。藤原は三年のみんなから背中を押され、飛び出るように会場に出ていった。その後を追いかけるように、一年のセコンド達も藤原の後について行った。チームのみんなは唾をグッと飲み込み、会場が見えない控室からただただ藤原の勝ちを祈るだけだった。

 そして、数十分後。会場に鳴り響いた試合終了のゴングが控室の方まで聞こえてきた。皆は結果はどうであれ、既にここまでやり切った藤原に感動さえしていた。そして藤原が一年のセコンドと共に控室に入ってきた。皆は静かに藤原の第一声を待っていた。

 「負けちまったあ!!!!!」

 藤原は悔しさをこらえながら叫んだ。藤原の目には涙が溢れかえっていた。ただ誰も藤原を攻めずにに、その努力とキルチャー人生の終わりにただただ慰めかえっていた。サダヲも初対面ではあったものの、その藤原の涙に、チームの皆と感動して少し泣きそうになっていた。しかし、こうしてはいられない。すぐ二年の試合も始まろうとしている。藤原はサダヲに一言「リラックスして挑め」とだけ伝え、ぐったりとベンチにもたれかかっていた。

 そしていよいよだ。二年生試合が始まる。サダヲは遠藤を含んだチームの皆に背中を押され、飛び出るように会場へ出ていった。サダヲにとって、この感覚は久しぶりだ。一年生のセコンドも慌ててサダヲについて行く。既に会場には相手選手が上がっていた。サダヲも少し急ぎ気味で会場に上がった。するとどうだろうか、その瞬間会場が一気にドワッと湧き出した。恐らく、サダヲの旧式のhiroshiに観客が驚いたのだろう。相手選手もサダヲを見ては、唾を吐くように笑いを吹き出していた。そしてレフリーが二人を中央へ寄せ、相手選手はサダヲをバカにするようにニマっと笑っていた。しかし、サダヲはそんなこと気にせず定位置についた。

 「カアアアアン!!!!」いよいよ試合開始のゴングが鳴った。それと同時になめ腐った相手選手はガードがら空きで、サダヲ目掛けてすごい勢いで突進してきた。その瞬間会場の誰もが、サダヲの終わりを覚悟した。しかしその時、一体何が起こったか分からない。床に倒れたのはサダヲではなく相手選手だった。会場は騒然とした。相手選手は体中からビリビリと電流が流れ、もう動けなくなっている。その場で試合は勝敗がついた。

 これには一年のセコンド達も皆唖然とし、バカになったかのように口をポカンと開けていた。

 控室に戻ったサダヲは、皆に第一試合の結果を報告すると、皆はこれは行けるんじゃないかと言わんばかりに、表情に笑顔が戻っていた。

 そして第二試合、第三試合と勝ち進んで行き、いよいよ決勝まで上り詰めた。

 「カアアアアン!!!!」試合開始のゴングと共に今度はサダヲが相手に猛突進して行った、相手は流石決勝に来るだけあって、サダヲの突進をいとも簡単にサラッとかわした。かと思ったのだ、すると、さっきまでそこにいたはずのサダヲが会場から消えている。相手選手は急いで後ろを振り返ったが、もう遅かった。サダヲは渾身の右ストレートを相手の後頭部目掛けて「ズドン」と打ち込んだ。

またもやあっさりと決着がついてしまった。会場は大盛り上がりだ。凄い新人が来たと騒ぎ立っている。何も知らず観客席で見ていた坂上も、まさかあれがサダヲだとは思わず周りの観客に飲まれて、一緒になって大盛り上がりしていた。

 見事その大会で優勝したサダヲは、遠藤にマヂカルラブリーズに入らないか?と勧誘を受けた。久しぶりのキルチャーに少し血が騒いでしまったサダヲは、マヂカルラブリーズに入ることを決意した。

 ここからが本当の阿部サダヲの伝説の始まりであったのだ。

最後まで読んでくれた君が大好きだよ!

もしお時間よろしければ、僕の他の作品にも是非目を通していってくれよな!

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