最終話「筋肉を抱いて、未来へ」
その少女は、かつて勇者だった。
人類を守るため、身を粉にして戦った。
彼女はただ、優しかったから。
助けを求める人々の力になりたかったから。
少女は苦難の末に、仲間と共に魔王を打ち破った。
しかしその少女は、奴隷となった。
かつて助けを求めた人々は、助けを必要としなくなっていた。
少女に救われた事を忘れ、人類は少女を虐げた。
少女は、助けを求める人々に手を差し伸べた。
しかし、その少女が助けを求めた時、誰もが手を振り払ってあざ笑った。
辛かった。
苦しかった。
誰も、助けてくれない。
少女が振りまいた優しさは、ドス黒い悪意となって返ってきた。
────少女の人生は、何だったのだろう。
────何のため、一生懸命に戦ったんだろう。
「もう、人類なんて信じない」
そして少女は、魔王になった。
「……カールさん」
そこには漆黒の世界が広がっていた。
イリューが放り出された空間は、息もできず、目も見えず、冷たくて何もない。
ただ、膨大な虚無の空間がイリューを苦しめるためだけに存在していた。
死ぬことも許されず、誰かとしゃべることも、何かを見ることも、息をすることすら許されず、永遠を生きる。
そんな苦痛に耐えられるはずがない。
「私、わた、し」
「……怖かったろ。もう大丈夫だ」
全てに絶望し、無限の生き地獄に落とされかけた直後。
彼女の伸ばした手を、掴む存在が居た。
「やっと、助けを求めてくれたな」
どれだけその手を待ってきたことだろう。
どのくらいの年月、さし伸ばされる手を渇望しただろう。
「俺でよければ力を貸すぜ、イリュー」
ユリィが地獄に落とされるその直前、最後の最後に手を差し伸べてくれたのは。
自ら救いを拒絶した筈の、カールだった。
ユリィは思った。自分はどうすればよいのだろう、と。
お人好しのカールは、自分を庇い立ってくれている。
その背中は隙だらけだ。殴っても、魔法を唱えても、カールを楽に殺すことが出来るだろう。
自分は魔王だ、魔族の為ならなんだってする。しなきゃいけない。
だからユリィは、勇者のその背を魔法で切り裂かなければならない。
「何で助けてくれるのですか。だって、もう私は仲間じゃないんでしょう」
魔王は震える声で、勇者にそう問うた。
カールを殺すより前に、疑問がわき上がったのだ。
わからない。助けられる理由がない。
救い出してほしかった時、どれだけ待っても助けてもらえなかったのに。
何故、絶対に誰も助けてくれないだろう今、その手は差し伸ばされたのか。
「イリュー。勇者ってのは、助けを求める者をみんな救うんだぜ。仲間しか救わねぇみたいな、ケチな存在じゃない」
カールは、迷わずそう言った。
その彼の笑顔に、イリューはかつての仲間たちの姿を幻視した。
「それはお前も一緒だったんじゃないのか? 勇者の大先輩ユリィさん」
目の前の男は、かつてのユリィの仲間と比べて弱くとも。
その心は、誰かを守りたいという精神は、ずっと人類に受け継がれてきた。
彼女の目の前にいるのは、間違いなくかつてユリィが勇者として力を合わせ戦った『仲間』と同じだった。
「……馬鹿者、そやつは倒すべき者だ。人類の敵、諸悪の根源よ」
「俺はそうは思わねぇな。ちょっと辛い目に遭い過ぎてパニック起こしただけの、優しい奴にしか見えない」
人類にも、優しい人間は残っていた。
そんな事には気づいていた。
「もう一度聞くぜ、イリュー。和平を結ばないか」
「この馬鹿者! 今更そんな話が通ると思うか、後はその女を封印して魔族を滅ぼせば良いだけなんだぞ」
「お前が改めて、戦いたくないというのなら。この俺が、全力で守ってやる」
「……」
だけど、どうしても────ユリィにはソレが受け入れられなかった。
優しい人間なんかほんの一握りしかおらず、人類の大半はおぞましく残虐な性格で。
話し合いで解決なんか、絶対に出来ないのだ。
「俺は頼ってくれた奴を絶対に見捨てねぇ」
そのユリィの心の弱さこそが、今回の戦争の引き金なのだ。
「────そっか。私、パニックになってたんですか」
その時ふっと、ユリィの顔から憑き物が落ちた。
人類へのトラウマ。自分を虐げた者たちへの憎悪。
苦痛を受ける事への恐怖、滅ぼされることに対する怯え、辱められることへの悔しさ。
それらが全て混ざり合って、ユリィは正常な判断が出来なくなっていた。
「そっか。あの時カールさんの手を握っていれば本当に……」
魔族と人類の怨恨は根強い。
彼女の仲間はみんな、人類を滅ぼすことに積極的だった。
しかし、目の前の漢────カールは本気で戦争を止めに来てくれていたのだ。
そうでなければ、今になってなおイリューを庇ったりするものか。
ユリィが彼を信じ、仲間を根強く説得すれば、戦争は起こらなかったかもしれない。
彼らに賛同し指揮を執り、今回の戦争の引き金を引いたのは、間違いなくユリィ本人だ。
「私の妄執のせいで、みんな……死んじゃったんですね」
ユリィは周囲を見渡して。
物言わぬ骸となった愛すべき魔族たちへと目をやった。
「私が、皆を不幸にしていたんですね」
「おい、イリュー?」
ポロポロと、目を見開いて涙をこぼす。イリューは、ついに自覚してしまった。
自分が生んで育てた仔が、人類に殺されたのは。
自分と契り、子を生した魔族が死んだのは。
「私が、皆を殺した」
復讐に取りつかれ、恐怖に支配され、冷静な判断をできなくなった自分の責任であると。
誰よりも優しい聖女は、久々に誰かに救われて、正気に戻った。
「うああ、ああああぁっ!? じゃあ私のせいで、皆が、皆が!」
「おい、イリュー!?」
そして彼女は、魔王ではなくなった。
誰よりも心優しい、聖女に戻ってしまった。
「私は何を? 何で? どうしてこんな────」
その慟哭は、誰のせいだろう。
イリューは正気に戻ってはいけなかった。
誰よりも優しかった彼女は、気が狂ってしまっていたからこそ戦えた。
狂気に脳を焼かれていたからこそ、敵を殺せたのだ。
生存競争。生き残るため殺す。そう言った建前を振りかざし、自らの復讐心を満たしていたことを自覚した彼女に、もう戦う意欲は残っていなかった。
「……成程。肉体を殺せぬから、心を殺したかカール」
「ど、どうしたイリュー。突然、そんな金切り声を……」
何が起こったのかわからぬカールは目を白黒とさせて、何となく『察した』アルデバランは大きく嘆息した。
お人好しのカールは魔王ユリィを救うつもりで、もっとも残酷な手段をとってしまったのだ。
「確かにもう、この女は人類の敵にはなりえん」
「う、うぅ、うヴぉっ……」
愛した家族の死体が、イリューを守るように囲んで転がっている。
そんな状況で、正気に戻された『聖女』の心境はいかなるものか。
胃の中が空になるまで、イリューは血反吐を吐いて泣き喚いていた。
「だって憎かったんです! だって辛かったんです!」
聖女は目を閉じて、冷たくなった小ゴブリンの手を握りしめ叫ぶ。
「あんな事されて恨まない訳ないじゃないですか! 殺したくなるに決まってるじゃないですか!」
その体躯は、血で塗れて。その金髪はドス黒く凝血して。
「でも、堪えてさえおけば、この仔達は死んで無い」
少女は力なく、大事な家族の死体に抱き着いて泣き伏した。
「────もう、見るに堪えません」
そんな、彼女を見かねたのか。
貴族令嬢が、ゆっくりとイリューの元へと近寄った。
「イリーネ……?」
「少し、お時間を頂けますか」
その眼に浮かぶのは、不思議な表情だった。
ただ憐れんでいるというより、優し気に諭すようにその眼は透き通っていた。
「……イリューさん。いえ、聖女ユリィ」
「あ、う……?」
そして令嬢は、聖女に微笑みかけた。
かつての、聖女の本当の名を呼んで。
「辛かったですわね。これから貴女は、どうされたいですか」
「どう、するって」
「まだ、人類を殺したいのか。それともただ、静かに隠れて生きたいのか?」
その言葉に、聖女は呆ける。
今の彼女には、もう大それた野望も目標もなかった。
ただ、後悔と悲哀だけがユリィに渦巻いていた。
「死にたい、です」
「……」
「もう、封印されるのは嫌。でも」
既に、尽きてしまったのだ。彼女の、イリューの生きる活力が。
「私も、普通に死にたい。私一人、いつまでもこの世界に縛り付けられたくない」
聖女は、事切れた様な表情で。
涙と血に塗れ、静かにそう零した。
「ん。では、その身に宿る呪いを解きましょう」
「……」
するとイリーネは、何でもない事の様にそう言った。
数百年にわたりイリューを苦しめ続けた、威龍の呪い。それを、消し去ってあげると。
「……いや。この私に出来ないのにどうやって解く気です?」
「ふふ、まぁ見ていてくださいまし」
「今この世界で、一番の解呪術者は私ですよ。……なんなら、過去の人類史全部ひっくるめても私が最優の術者な自信があるんですけど」
その言葉に、ユリィは少し業腹して目を吊り上げた。
呪いを解けるのであれば、最初からやっている。呪魔法の何も知らない現代魔術師が、何を言うのだと。
「ま、精霊術者って結構デタラメなんですの。貴女もご存じと思いますが」
「ええ、知ってますとも。貴女よりずっと強力な、遠い御先祖の精霊術師でも呪いを解けませんでしたがね」
「……それは、申し訳ありませんでした」
イリーネはその言葉に小さく謝って。
「でも、今ならばなんとかして見せます」
「……出来るものなら、どうぞ」
「きっと出来ますとも」
そのまま、令嬢は魔王の肩にゆっくりと視線を寄せた。
「私一人ではなく、貴女とずっとともに居た精霊の力も借りますので」
「精霊?」
「ええ」
イリーネに見えたモノ。
それは、ずっと心配そうに彼女に取り憑いていた小さな精霊たち。
「ずっと、貴女に引っ付いて力を貸し続けていた魂みたいですよ」
「ずっと?」
「7体ほど、居るでしょうか」
「……へ」
その精霊たちの数にイリューは驚愕し、息を飲んだ。
「それは貴女が魔族に落ちようと、貴女が人類へ復讐しようと。ずっと、貴女に力を貸し続けていた精霊です」
「嘘でしょう。そんなハズはない。私は、皆を裏切りましたし」
「ユリィをよほど、心配していたのでしょう。よほど、愛されていたのでしょう」
そのユリィの守護霊の様な精霊が、ついに精霊術師に接触したのだ。
彼らの主である、聖女ユリィの為に。
「『彼女が望むなら、解放してやってくれ』と仰ってます」
「それは、まさか────」
「彼らは、貴女が裏切ったとは考えていません。むしろ、貴女を皆が裏切ったのだと理解しています」
その7つの魂は。
きっと、いや間違いなく。
「皆。そこにいるの、ですか?」
「ええ。貴女の肩で、笑っておりますよ」
────かつての、彼女の仲間達の魂なのだ。
その精霊の1体が、俺に突然に話しかけていた。
そろそろ、ユリィを解放してやってくれと。
その精霊は野良精霊にしては妙に魔力が濃く、何者だと思っていたが……。何と過去のユリィの仲間達、つまり勇者の魂であったというのだ。
話を聞くと、彼らは割と人類には激おこで、割と真面目にユリィが人類を滅ぼす為に力を貸していたらしい。だから、今まで俺の前に姿を見せなかったのだとか。
かつての仲間があんな目に遭えば、そりゃあ怒るわな。
────ユリィさえ解放してくれれば、我らの魂も救われる。
その精霊はそう言い、ユリィが死を望んだのを聞いて先程の提案をしてきた。彼ら曰く、ちゃんと呪いを解く手段は存在したという。
ただしその導きによると、呪いを解くには物凄く魔力を食うことになるらしい。
俺は二度と魔法を使えなくなるっぽいが、まぁそれは別に構わん。
「では、お願いします。皆の言う事なら、私は信じられます」
「承りましたわ」
俺は自信満々にそう言い切って、精霊たちに具体的な方法を教えてもらい始めた。
ふむふむ、詠唱は歌なのね? そしてユリィ本人やアルデバランや勇者キチョウ、サクラにイノンにも協力してもらえ、か。
成程、別に俺一人で呪文を唱えなくても良い訳だ。
全員の魔力を合わせれば、俺の魔力切れは回避できるのね。
「お、おい。イリュー……」
「カールさん、ありがとうございます。最後の最後に私、貴方に引き戻して貰えたみたい」
俺が詳細を聞いている間に、カールはイリューにおずおずと話しかけた。
彼には、一抹の不安があったのだ。
「お前、呪いが解けたら、その、もしかして」
「即死するでしょうね。龍の身体だからこそ400年も生きてるわけで、いまさら人に戻ったら体は朽ち果てるでしょう」
「っ!!」
「変化系の呪いはどんなに見た目若々しくとも、解呪されたら実年齢に戻っちゃうんです。400歳のお婆ちゃんの死体が、此処に転がるわけですね」
そう言うユリィの顔に、悲壮感はまるでなかった。
むしろ、やっと『念願』が叶う瞬間であるかのような。
「やっと、戻れる。やっと、解放される────」
想像を絶する時を生きた彼女の、心の底からの願いは『死』だった。
その顔を見て、カールはユリィに『死なないでくれ』という言葉をかけることは出来なかった。
「ねぇ、最後のワガママを言っていいですか」
「何だ、聖女」
「私の骸は、魔族のみんなと共に。私と最後まで一緒にいてくれた、家族なので」
「ああ、承った」
アルデバランもわざわざ彼女を地獄に叩き落としたいわけではない。ユリィが死ねるのであれば、それに越したことはない。
遠い未来に次元の狭間がうっかり開いて、魔王復活なんて可能性がゼロになるのだから。
「ありがとう、皆さん。私なんかと一緒に、旅をしてくれて」
「……ん。強かったわよアンタ、イリュー」
「本当、もう戦いたくないわぁ」
「レヴさん、レイさんは、その。申し訳ありませんでした」
「……」
「……俺の両親は、戦いの末に死んだ。そこに転がっている貴様の仲間と同じだ、謝る必要はない」
俺が話を聞いている間に、一人一人、イリューに別れを告げていく。
それは共に旅した仲間として。命を懸けて戦った強敵として。
「古の聖女よ、貴様の無念は決して忘れん。以後、貴様の様な存在が出ぬ事を私が保証しよう」
「……ありがとう。貴女は、勇者でもないのにとても強かったですよ」
「ふふ。女神に選ばれずとも、自分が勇者だと思えば勇者である。だから、私は勇者なのだ」
「そうですね。確かに、貴女が私の知る勇者の在り方として一番近かった」
アルデバランはその言葉に、少し嬉しそうな顔をした。
まぁ、確かに一番勇者してたなアルデバランは。
「……カールさん。私は貴方を信じられなかったけど、貴方は私を最後まで信じてくれた」
「本当に逝くんだな、イリュー……」
そして。
イリューは、改めてカールに向き合った。
「もうちょっとくらい、お前と楽しくバカやって旅をしていたかった」
「そうですね。貴方達との旅は、私も昔に戻ったみたいで楽しかったです」
「せめて最期にお前と酒を酌み交わせてよかった。……戦う前のあの一杯が、別れ酒になったな」
「……もう少し、味わって飲むべきでしたね。すごく美味しかったですけど、もしかしてあれっていいお酒なんですか?」
「バカ野郎。冒険者なりにかなり奮発して、凄ぇ良いのを用意したんだぞ」
タラ、と透明な涙がカールの目からあふれ出す。
「お前、本当に死んじまうんだな」
「……はい。出来れば返してほしかったけど、もうそのパンツも差し上げます。形見にでもしてください」
「う、うぅ、イリュー……」
カールは形見のパンツを本人の前で握りしめて大泣きし始めた。
ユリィは少し嫌な顔をした。
「よし。では皆さん、準備が整いました」
「……そうですか。やっと、終われるんですね」
やがて。
令嬢イリーネが立ち上がり、最期の刻を告げた。
「心の準備は宜しいですか、イリューさん」
「ええ、とっくに」
厳かな雰囲気で覚悟を問うイリーネは、ユリィを迎えに来た天使の様。
「……死者との会話、それが精霊術師の真骨頂なのですね」
「ええ。その死者が精霊化していないと、お話出来ませんけども」
「ではもし私が精霊になったら、貴女に取り憑いてあげますよ。お喋りできた方が、楽しそうなので」
「それは、楽しそうですわね」
軽口を叩いているような口ぶりで、二人は笑いあって。
「では、彼女を送りましょう」
イリーネが口火を切り、厳かに詠唱が始まった。
「「────貴女の為に歌いましょう」」
「「────貴女の道を開きましょう」」
キラキラと、眩い白光が修道女の体躯を包みだす。
血に汚れ、ボロボロになったその肉体を美しく染め上げていく。
「「────貴女の苦も、貴女の善も、全て等しく平等」」
「「────貴女の罪は裁かれる。しかし、貴女の徳は我らに安寧を与えたもう」」
「「そして願わくば貴女のその徳を以て────」」
意味も分からぬまま、皆がイリーネの唄を追唱する。
しかし、間違いなくその暖かな光はイリューを救うものだと、その場にいた皆が感じていた。
「あ、私、消え────」
「「我々は、貴女の旅路の多からんことを願う────」」
そして、魔王は霧散した。
身にまとっていたボロボロの修道服だけを残して、ユリィはこの世から消え去った。
「終わった、のか?」
「その様ですわ」
同時に、彼女に取り憑いていた精霊たちが光の粒子となって溶け消えた。
きっと、大気に帰ったのだろう。
「……消滅、か。成程、死ねぬユリィの呪いを解くには、存在ごと消すしか無かったのだな」
「え? じゃあ、アイツは……消えたのか。じゃあ、生まれ変わったりとかは……」
「出来ないでしょう。でも、永遠に生きるよりはマシかと」
「……ん、なんだかなぁ」
カールは少し納得のいっていない表情だったが、俺だって同じ気持ちだ。
しかし、イリューの事を何より大事に思っているだろう精霊達が頼み込んできた訳で。
きっと、これが彼女にとって一番幸せな結末なんだと思う。
「よし。これで魔王は滅び、人類は勝利した。勝鬨をあげるぞ」
「あ、おお!!」
「勝鬨を上げるのは、この場の全員だな。誰一人かけてもこの結末には辿り着けんかったから」
「……そうですわね」
イリューが消滅したのを確認し、アルデバランは空に杖を掲げる。
……そして、厳かな声で彼女は叫んだ。
「我々の、勝利である!!」
「「おおっ!」」
こうして。
俺の、長いようであっという間だった『魔王討伐の旅』は終わりを迎えたのであった。
ここから先は、後日談のようなものだ。
イリューと言う切り札を失った魔族達は、みな逃げてしまった。
おそらく、今後は野生の魔物として生きることになるのだろう。そして討伐依頼という形で、各地で冒険者を動員することになりそうだ。
その討伐の際、今後も俺達の力を借りたいとガリウス様はおっしゃった。
そして。今回の戦争における俺とイリアの姉妹の戦果は、ヴェルムンド家に寄与する事になった。
父ヴェルムンド伯爵の命令により俺達は動いたという扱いで、父自身も手早く要請に応じ軍を率いて駆けつけたことを評価され、我が家の爵位が侯爵に上がった。
給料が増えるのは喜ばしい。さらに領地も増やして貰えるって話だったが、それは父が固辞した。
人手も足りないし、どうしても手に余るとの判断だった。俺達の街の政務を、おろそかには出来ない。
「爵位は上がったが、権勢は変わらずそのまま。それくらいの地位が性に合ってるのさ、僕らは」
父は権力に全く興味がない様子で、戦争が終わると褒賞をすべて兵士に分け与えて早々に領地に戻ってしまった。
俺とイリアを、王宮に残して。
「今ほど、引く手数多な状況はないからね。今のうちに良い婚約者を見繕ってきなさい、うちの爵位も上がったので相手の家柄も気にしなくていい、まさにより取り見取りさ」
3か月後に迎えにくるよ。父はそう言うとお目付け役としてサラを残し、ニヤリと笑って去っていった。
要は3か月やるから、婚約者見つけるついでに有力貴族と顔つなげって話らしい。
ウゴゴゴゴ。まぁ俺は年齢的に、今の内に婚約者を見繕っとかないと厳しいんだけども。
結婚したくねぇー。
「む、静剣レイとな」
「ああ」
因みに戦後、レイは自らの出自を隠さず明かした。
自らが指名手配犯であることをガリウスに告げた。
「事情は分かった。……そうか、悪党族も魔族が原因であったか」
「ああ」
「────嘆かわしい。つまりは、巡って王家の責である」
その場で処刑されるリスクもあってハラハラしたが、ガリウス様にレイを捕らえようとする気配がなかった。
どうやら後で聞くと、内々で取引が済んでいたらしい。レイが指名手配犯だと気付いたガリウス様の方から、話を持って行ったそうだ。
レッサルに帰ってからサヨリに迷惑を掛けぬようにと、レイは今回の功績で恩赦を貰えた。
「カール。また、レッサルに遊びに来てほしい」
「もちろん、ちょこちょこ顔を出すよ」
そして、レヴとレイは仲良く故郷に帰った。レイの過去の行いから、流石に二人を貴族として取り立てることは出来なかったらしい。
ただ二人は不満げな様子もなく、笑って故郷に帰って行った。
「うん、待ってる。……ねぇカール、少し目を閉じて」
「あん?」
レヴちゃんが、カールとの別れ際にキスをしてひと悶着あったが。
「ふっふっふ、あーっはっはっはっはっは!!」
次にサクラ。彼女は個人で爵位をもらい、国から正式にレーウィンの管理者として任じられた。今後は『テンドー家のサクラ』ではなく、『サクラのテンドー家』となる。
つまりサクラは、家出した父親も追い出せる立場になったとのこと。それを、悪人みたいな高笑いで俺に自慢してきたのが印象的だった。
……そういや、悪人だったっけ。
「国に領地と兵士を保証してもらえたら、私達の天下よ。あの腐れギャングどもを、私の領土から追い出してやれるわ」
「……」
彼女はテンドー家の当主として、これから街を切り盛りしていくそうだ。マスターは、彼女の腹心として今後も付き従うらしい。
後サクラは俺達の領地の治安の良さに感心し、参考にしたいから留学生を派遣したいとの話も出た。
俺達ヴェルムンド家とテンドー家はもともと親交がなかったが、今後は彼女とよく付き合っていくことになるだろう。
「────助けてくれイリーネ!」
「……」
とまぁ、ウチもテンドー家もかなり出世した訳だが、一番出世したのは間違いなく彼女だろう。
今代の勇者にして炎魔法の達人、アルデバラン。
「そのドレス、よく似合ってますわよ」
「あいつら人を着せ替え人形にして、3時間も部屋にすし詰めにするんだぞ!? どれが一番似合うかって」
「貴女自身に任せたら、その、アレですからねぇ」
勇者としての功績を認められ、平民から大物貴族になるというシンデレラストーリーを成し遂げたアルデバランは、貴族生活に辟易していた。
もともと平民として自由に生きてきた彼女にとって、スケジュールが分単位で刻まれるのはかなり辛いらしい。
「で? そんなにおめかしして、誰に会いに行くんです?」
「むぐっ」
俺の突っ込みに、紅の勇者は顔を真っ赤に染め上げる。
先日、アルデバランはめでたく幼馴染キチョウからプロポースを受けたそうだ。
まあ、あの子はどう見てもアルデバランLOVEって感じだったしな。アルデバラン自身に好きな人が居ると聞いて、彼女が誰かに告白する前に奇襲をかけたらしい。
その直後、なんとマッキューン家から正式に婚約要請が来たからさあ大変。なんとあの変態兄貴、アルデバラン相手に求婚しやがったのだ。
『形だけの結婚ですよ。愚かな父親が認知しやがらないので、僕と結婚してアルをマッキューン家に戻すのです』
なんてニヤニヤしながら言い出したもんだからさあ大変。幼馴染キチョウと実兄イノンの喧嘩が勃発しアルデバランはパニックになったそうだ。
で、父親代わりの中年槍使いはと言うとゲラゲラ笑って様子を見るだけらしい。
「モテモテですわね」
「勘弁してくれ!!」
二人から求婚され、対応に困った彼女はとりあえず二人と距離をとって時間を稼いでいる。
その関係で、暇な俺の部屋によく遊びに来るのだ。
「そういうお前だって、毎日求婚を受けているそうじゃないか。求婚をあと腐れなく処理する方法があるなら教えてほしいんだが」
「そんな方法ありませんわよ」
そう。
アルデバランの微笑ましい三角関係は、あまり他人ごとではない。
俺やイリアにも、鬼の様に求婚がやってくるのだ。
「じゃあお前はどうやって断っているのだ?」
「別に断ってるわけじゃありませんわ。先延ばしにしているだけですの」
俺は王族からの覚えもめでたく、凄まじい魔力を有し、勇者の仲間として活躍した貴族令嬢。
ついでに、俺はかなり見目麗しい。だもんで、割と本気の奴や駄目元の奴からえげつない数のラブレターを頂く羽目になっていた。
「よく納得してくれるな。イリーネの歳なら、決断しろと言われないのか?」
「ああ。私に力比べて勝てる殿方とだけ結婚すると、条件を付けておりますの。なぜか今のところ、全滅なのですが」
「……」
「そしたら体を鍛えて出直してくると、皆さん納得いただいております」
手紙くれた連中の前で、俺は猫を被りながらこう言った。
『旅をする中で気付いたのですが、やはり逞しい殿方が好ましいですわ。せめて、私に腕相撲で勝てる程度に鍛えている方でないと』
『ようし、では僕が相手になりましょう。こう見えても、我が家は剣を生業としていて────』
そして俺は身体強化魔法を使うまでもなく、全員をマッスルで一刀両断した。鍛えていてよかったぜ。
それで、女子に力比べで負け流石に恥ずかしいのか皆一様に『鍛えなおしてくるからもう一回』と言って帰って行った。
さてさて、果たして俺に勝てる筋肉は現れるのか。
「さては結婚する気ないな?」
「いえいえ、本当に私に勝てる方なら前向きに検討しますわ」
実際、これは嘘じゃない。
俺のトレーニングを受け入れてついて来てくれる奴じゃないと、結婚したくないし。俺の相手がより取り見取りなら、出来るだけ良い相手を選びたいものだ。
「だが3か月たって婚約者が見つかってなければ、家に帰して貰えないかもしれんぞ」
「う……」
「とりあえず、一番ましなのを見繕ってみてはどうだ。イノンに聞くと、アイツでもお前に力比べ勝てる自信ないらしいぞ」
「まぁ、あの方程度の筋肉には負ける気がしませんわ」
「国最強の剣士に向かって……」
国最強、ねぇ。
普通に対人はレイ、対魔族はカールのが強いと思うがな。
「……あ、そうですわ」
「どうした?」
結婚相手探しに頭を悩ませていた俺は、その時ふと妙案を思い付いた。
「カールさん、カールさん」
「お?」
思い立ったが吉日。
俺はすぐさま、カールの部屋へと歩いて行った。
「カールさん、今日は休日ですわよね」
「急にどうした? あ、今部屋に誰もいないから、いつもの口調で良いぞ」
「あ、そう? いや、ちっと頼みがあって」
今回大活躍だったカールは、新設された王都騎士団の団長に取り立てられた。
魔族退治のスペシャリストとして先陣に立ち、野良魔族を仕留める役目だ。
しっかり爵位まで貰っており、コイツも大出世枠の一人である。
そして参謀という形でマイカを騎士団に入れ、現在は幼馴染コンビで国防を担っている。
「俺に筋肉で勝てる奴と婚約するって話にしてるだろ?」
「そうらしいな」
「いやさ、それで万一俺のマッスルに勝てる奴が現れなかった時だけど」
「おう」
「お前をとりあえず『俺の婚約者』って事にしていい?」
「ちょ!?」
そんな一応貴族で超強いカールを婚約者に指名しとけば、かなり丸く収まる気がする。
さっき、そう思いついた。
「分かってる分かってる。俺にいい感じに見合う奴が現れたらすぐ解消するから」
「俺の立場がマズいだろそれ!」
「お前んとこにも縁談が来て苦労してるって聞いたぞ? ここは、互いに婚約した事にすれば縁談来なくなってウィンウィンだろ」
「でも、お前と婚約とかマイカが聞いたらどうなるか」
「無論、事情は話す話す」
カールはどうせマイカと結婚する事が確定している。
だからマイカに説明しとけば、彼自身の恋愛に迷惑は掛からない。
大してデメリットないし、ちっと名義貸ししてほしい。
「うーん、ちゃんとマイカに説明してくれるならアリか? 確かに縁談は困ってたし」
「だろ? じゃ、そう言うことで頼むぜ」
「……。因みにイリーネ、俺とちょっと腕相撲してみない?」
「おい」
……この馬鹿、まさか俺に変な感情まだ引きずってんじゃねーだろうな。
「違う違う、婚約の話で思い出したんだけど。俺の筋肉って、そもそもイリーネに勝てるのかなって」
「ふむ。そっか、そう言えばお前と純粋に力比べはしてなかったな」
そうかなんだ、カールは単純に筋肉比べがしたかったのか。
そういう話ならよくわかる。俺も自分の筋肉がいかに優れているか、人と競ってみたいという稚拙な欲望を持っているからな。
「ふっふっふ、こう見えて俺も結構鍛えているんだ。騎士団入りしてからは、かなり肉体を虐めているぞ」
「それは楽しみだ。正直、俺と張り合える筋肉は今のところ師匠しか見たことがなくて」
俺とカールは向き合って腕をまくり、台上に腕を置いて組み合う。
「ようし、かかってこいカール」
「吠え面かかせてやるぜ、イリーネ」
そして、渾身の力を込めて互いに押し合った。
「……うおぉぉぉ!」
「……っ!!」
動かない。
この男、マジか。いつの間にこれほどの筋力を……っ!
「ぐ、ぐ、ぐ……」
「ふ、ぬ、ぬ……」
しかし、厳しいのはカールも同じらしい。
奴も本気で力を込めている様子だが、俺を組み伏せるには至っていない。
「────っ!!」
「お、お────!」
汗がタラリと俺の額を伝う。
流石は今代の勇者。流石は、たった一人で魔族を圧倒する男。
その筋力は伊達ではなかった。
……そして。
「どりゃあああぁ!!」
「アッーーーー」
筋力は互角でも、持久力はずっと旅を続けてきたカールに分があったらしい。
数分以上競い合い、やがてスタミナが切れたころ、俺はカールに敗北してしまった。
「……嘘だろ? 俺が、負けた────?」
「よっしゃ。よっしゃ、よっしゃああああああ!!」
カールは気持ち悪いほど喜んでいた。一方で俺は茫然自失状態。
嘘だろ、この俺が?
ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬ。
「まだだ。まだ俺は身体強化魔法を使っていない」
「それ使われたら勝てないけどよ。でも……素の筋肉は俺の勝ちのようですなぁイリーネ」
「ふ、ふぬぬぬぬぬ」
だめだ、めっちゃ悔しい。この野郎、マジか。
いつの間に、俺に匹敵するほどのパワーを身に付けやがった。
「これで大手を振って『婚約』受けてやるよイリーネ。あー、気持ちいい」
「ま、前はそこまで鍛えてなかっただろお前! いつの間にそんなマッスラーになった!?」
「騎士団入ってから、マジで虐めまくってんだわ。お前に勝つのを目標に」
「……いや、確かにめっちゃ鍛えあがってたけども」
そっか、俺が求婚の処理や顔つなぎの宴会に時間をとられている間に、コイツはみっちり鍛えていたという事か。
筋肉が努力がものを言う。今のコイツの筋肉は、確かにすさまじかった。
こうなれば、俺も同じ密度で筋トレをせねば……。
「……で? イリーネの婚約者って、俺はどうすりゃいいの」
「貴方はどうもしなくても構いませんわ。今後プロポーズしてくる相手に『イリーネと婚約した』旨を説明していただくだけで結構」
「お? どうした、口調戻ってるぞ」
「こちらの方で声明は出しておきますので、お気になさらず。……つーん」
「っくっくっく、成程。怒るとお前、その口調に戻るのね」
別に怒ってないし。胸に滲む悔しみをちょっと誤魔化してるだけだし。
「まぁ、俺にリベンジしたければいつでもかかってきな。受けて立ってやる」
「……無論、すぐに伺いますとも」
「まったく、イリーネも大変ね」
あー。くっそぉ、いつの間にカールの奴こんなに筋肉質になってたんだ。
今日からメニュー見直して、求婚者の相手をしなくてよくなった分を更にハードスケジュールに……。
……。あれ、いま誰かいなかったか?
「そっかそっか。成程、イリーネに腕相撲で勝ったのねカール」
「……あれ? マイカ、お前いつからそこに?」
……。
「婚約。へー成程、イリーネと婚約したのねー」
「あ、その。ちょっと話を聞いてくださいましマイカさん?」
「良かったじゃないカール、念願かなってってところかしら? 最近妙にトレーニングに励んでいると思ったら、成程ふーんそう言う狙い……」
「ちょいと落ち着けマイカ」
マイカは瞳の光を消し、静かにうんうん頷いている。
あ、これはアカン奴や。
「……う、う、う。裏切り者ぉ! カールなんてもう知らない!」
「ちょ、ちょっと待てぇ!!」
直後、マイカは全力疾走して部屋から消えた。
そして本気で逃げるマイカを、レヴちゃんなしに追いかけることが出来る筈もなく。
俺達は数日かかりでマイカを探し出し、事情を説明する羽目になったのは別の話。
「────よし、頚を落としたぞ!」
そして。
消えた筈の修道女は、突然に『目を覚ました』。
「よっしゃ! 威龍討伐だぜ!!」
「怪我人はいないな? ……おいユリィ、どうした」
呆然と。
彼女はその光景を見つめていた。
これは夢か、走馬灯か。
目の前に、かつて信じ共に戦った仲間の顔があったからだ。
「おい、ちょっとユリィを診てくれないか。呼びかけても反応しないんだ」
「ん? 催眠でもかけられたか、どれ」
魔法剣士がユリィの顔を覗き込み、回復術師が彼女の顔に手を当てて詠唱する。
やがて修道女はその光景が夢でないと、自分の体に走った痛みで気が付いた。
「あ、右手……」
その時、苦し紛れに放たれた龍の鱗が、彼女の右腕を傷つけたのだ。
「……何だったんだ?」
「イタチの最後っ屁だろ」
……その傷には、よく見れば小さな小さな呪いが乗っていた。
数年単位の時を経て作用する、非常に弱くて気付きにくい呪いが。
「……おかしいな、ユリィは何ともない。健康そのものだぞ」
「にしては様子がおかしくないか」
消せる。
今の彼女なら、いともたやすくその呪いを消し去ることが出来る。
そうか、彼女────イリーネの言っていた『呪いを消せる』とはこういう事か。
時の魔法を利用した、『呪いを受ける直前』への転移。
「う、あ……」
「ちょ、ユリィ!?」
ポロポロと、修道女はその場で大泣きし始めて。
混乱した彼女のパーティメンバーは、何とか彼女を落ち着かせようと抱きしめたり慰めた。
「ごめん、なさい。もう、大丈夫、です」
「本当にどうしたユリィ、様子がおかしすぎる。何か、変な呪文をもらったんじゃないか」
「ちがうんです。ただ、ちょっと、夢を見ていたみたいで」
やがて泣き止むと、イリューは儚い笑顔になり。
心配そうに彼女を囲む仲間たちに、こう告げた。
「長く、辛く、苦しく、そしてちょっぴり優しい夢を見たみたいです」
「そっか、白昼夢ってやつなのかな。……まぁ無理すんな、今日はもう休め」
「ええ。明日からやることがいっぱいです」
そう。
今ならば、この時代ならば。
まだ、魔族と人間の『怨恨』は取り返しがつく筈である。
「早く戦争を、止めましょう」
「ん? ああ、そうだな」
「そのためにはまずクーデターですかね。王様ぶっ殺しましょう」
「……ん!? ユリィ!?」
────それは、もしかしたら有り得た世界。
敢えて魔族になる事を選んだユリィが、魔王を食べその座を乗っ取って、人類と講和を結んだ。
そして人類と魔族は、互いに条約を結んで共存して繁栄し続けた。
そんな世界も、あったかもしれない。
これにて本作は、いったん完結となります。ここまで長い話数をお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
いつも優しい読者様に誤字報告をいただいたり、たくさん感想を書いていただけて、作者としては無上の喜びでした。私の作品では過去最大の文字数と更新頻度で正直かなりしんどかったですが、同時に書いている側としてはこれ以上なく楽しくやらせていただきました、
そして、今作もいろいろと相談に乗っていただきました師匠や弟子諸兄にもお礼を申し上げます。色々とご助言いただきありがとうございました。
それでは、毎度のことになりますが少し自分語りをさせていただこうと思います。くだらない話も多いですので、興味のない方はお飛ばし頂ければ幸いです。
まず、お気づきの方もいると思いますが本作は過去作のサブヒロイン、現地主人公モノと世界観を共通しております。
私は本来、新規の読者様を置いてきぼりにするのはよろしくないと考えていまして、なるべく過去作のキャラは出したくありませんでした。そして、出来るだけ過去作を読んでおらずとも話が通じるように書いたつもりです。
じゃあそもそも過去作のキャラを出すなよと。そう突っ込まれる読者様もいるかもしれません。
私は、その突込みはまさにその通りと考えています。一つの作品は、その作品だけで完結しなければなりません。タイトルの違う話のキャラを持ってきて色々話を動かすのは、正直ダメだと私は思います。
では何で、ユリィが出てくるんだよと。実は白状しますとこの作品、途中からプロットのない状態で書き続けていたのです。
私の職場は、コロナ下で一時的に凄く暇になりました。なので序盤は時間に余裕があったのですが、徐々に仕事の忙しさが普段通りに戻ってきて、趣味の小説にかまける余裕がなくなってしまったのです。
具体的にはレッサルに入ったあたりから忙しくなり、その日のノリとテンションで展開を書いております。タイムスケジュール管理不足は、作者としての不出来をお詫びするしかありません。
さて忙しくてストーリーを考える暇がない、じゃあどうするんだと。
……私は元々用意していたサブヒロイン外伝『ユリィルート』のプロットを再利用する形に致しました。なので、ユリィが出ざるを得なかったんですね。
このユリィルート、展開を練ったがいいが文字に起こすとサブヒロイン本編の文字数を超えかねないとのことでお蔵入りしていたモノです。いつか別に全く新話として書こうと思っていたのですが、今回使わせていただきました。
そして、最終話が遅れた理由ですが。それは投稿前日、
「師匠、最終話の展開はこうこうこういう感じで」
「ボツ」
「……」ブリュリュリュリュ
と投稿前日に師匠にボツを食らったのが原因です。なので本最終話は、1日で書き上げたので矛盾点があればこっそり改稿するかもしれません。
では最後になりますが、皆様コロナ下で大変不便な思いをされていると思います。しかし、わずかでも皆様の慰みになるような作品をかけるよう今後も精進するつもりです。
今後は短編をメインに、ちょくちょく投稿は続けていく所存です。よろしければ、たまに覗いていただけると幸いです。
この度はご精読ありがとうございました。できればまた、どこかでお会いしましょう。




