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39話「ヨウィン決戦」

 俺の人生では二度目の、本格的な魔族との決戦。


 しかしその襲撃の手段は、俺の想像していたものとは違った。


 俺は魔族どもが大挙として押し寄せてきて、街で破壊の限りを尽くすものだと思っていた。


「そうよね。ソレが出来るなら、遠距離から魔法ぶっ放した方が安全で手っ取り早いわよね」

「……想定外」


 当たり前のことだ。わざわざ敵は、俺達の想定通りに動いてくれない。


 この街に攻めてきたのは以前戦った四足類人猿の魔物ではなく、全く別の敵。おそらく、魔導師。


 あの予知夢で見たとおり、敵は人型をしているのだろうか。それともあれは、やはりアルデバランが操られた姿なのだろうか。


「……偽勇者が砲撃地点に向かっているなら、任せよう。我々は、ここで街への被害を防ぐぞ」

「了解ですわ」


 カールの判断は早かった。砲撃がまだ続いているだろう時から、既に敵目掛けて走り始めていたそうだ。


 俺がアルデバランと協力し街の被害を防いでいる間に、カールが敵を討てれば勝ち。


 この戦いの全ては、奴の剣に委ねられた。


「キチョウとイリ……、ウサギちゃん戦士も防御魔法を張っておいてくれ。イノン達は、周囲を警戒して奇襲に備えろ」

「ま、任せてアル!」

「分かりました、リーダー!」


 向こうのパーティーの魔法職二人が、俺達の背後に来た。バックアップしてくれるらしい。


「イリーネ、私達で敵の魔力砲を弾くぞ。街から逸らすようにして、敢えて斜めに撃つんだ」

「ええ」


 アルデバランに促され、俺は自身の頼りない魔力で小さな渦を練り上げた。


 勇者や魔族に比べたら、俺の魔法なんて小石のようなものだ。だが小石でも、当て方次第では────


「2射目、来るよ!」

「応とも」


 きっと、何かの役に立つ。そう信じて。
















 凄まじい爆炎が、白髪少女の鼻孔に煤を香らせた。



「……おいおい。これが、勇者の力だとでも言うのかい? 何とも非常識な」



 ユウリは、目の前で繰り広げられる人外どもの狂乱に、常識という壁を打ち壊されていた。


 何もかもが、規格外。これが勇者という存在か。


 人類最強の魔法たるイリーネの『精霊砲』ですら、魔法学者をして『あり得ない』威力だ。


 というのに、その精霊砲ですら霞むほどの極光が力を競っているのは悪夢としか言いようがない。闘いが始まったら予知魔法を使うという使命も忘れ、ユウリは呆然とその場に突っ立っていた。


「ユウリ。今、予知魔法使える?」

「あ、ああ。やろうか」


 マイカに促され、ようやくユウリは我に返った。


 既に戦いは始まっている、ユウリは先の展開を予測してイリーネに伝えねばならない。


 少女は何とか心を静め、自身のか細い魔力で未来を予知しようと前を向き、


「……て、マイカ上!! 何か降ってくるよ!?」

「あら」


 高速で飛来してくる、無数の物体に気が付いた。


 先程の砲撃の、余波だろう。空高く舞い上がった木々の残骸が、魔法を準備しているユウリへと降り注いだ。


「レヴ!!」

「……がってん」


 思わずユウリは魔法を中断し、頭を手で覆って蹲った。しかし、木の残骸が彼女に降り注ぐ事はなかった。


 見上げれば、カール一行の二人がユウリを守って木を弾き飛ばしていたからだ。


「……あ、ありがとう。助かったよ」

「守ったげるから安心して魔法を使いなさい、こう見えてそこそこ修羅場潜ってんのよ私達」

「ああ」


 存外に機敏な動きだ。彼女達が周囲を固めてくれれば、きっと安心だ。


 非力そうなマイカに、小柄なレヴ。その二人が弓と拳を構え守るその奥で、ユウリは静かに予知魔法を詠唱した。












 ────見えたのは、廃墟。



 ────一面に広がる、無人の石櫟。



 ────大地に転がる、黒色の人形。




 燃え盛る家は朽ちて、一面に死が広がり。広がる滅びた街並みに、蠢くものはない。


 ただ、ただ残酷な光景が広がる。全てが終わった世界で、静止した時間が流れ続ける。


 ユウリはその景色の中に、ヨウィンの象徴である『リッセル古代図書館』の残骸があると気がついた。


 すなわち。この終わった『世界』は、明日のヨウィンの姿であった。















「……」


 へたり、とユウリは尻を着いた。


 それが、この街の結末だった。


「ユウリ?」

「嗚呼」


 届いていない。


 昨夜にイリーネが見たという悪夢。炎に覆われて壊滅する、ヨウィンの運命。


 勇者カールがこの街に残った程度では、その未来は覆せていない。


 このまま、指を咥えて戦いの行き先を見守った先には、地獄しかない。


「駄目みたいだ。……このままでは、街は」

「あーそうなのね。そんな気はしてたわよ」

「そんな気はしてた、って……」


 マイカはそう言うと、髪を括りあげて前の方へ振り返った。


「予知をイリーネに伝えてくるわ」

「イリーネに?」

「だって。あの娘しか未来を変えられないんでしょ?」

「あ、ああ。その通りだ」

「ならイリーネに、魔力をこれ以上使わせないようにしないと」


 マイカに出来ることなど少ない。


 彼女に出来ることはせいぜい、安全圏で冷静にモノを判断することだけ。


「……イリーネ、もう2射目に備えて詠唱し始めてる」

「あらら。よし、急ぐわよ」


 マイカはイリーネに向かって駆け出した。


 アルデバランとは異なり、あくまで『人間としての範疇の』魔力しか持たない彼女(イリーネ)の為に。



「未来を変えられるのは、精霊が関与した時だけ」


 その言葉の意味を、ユウリから又聞きしただけのマイカが誰よりも理解していた。


 1を聞き10を知るその利発さこそが、勇者カールの最初の仲間マイカの武器である。


「それってつまりは────」


 精霊のみが、未来を変えられる。その言葉の意味は、


「イリーネが『精霊魔法』を使う以外に、未来を変える術がない」


 だからイリーネに、魔法を無駄撃ちさせる訳にはいかない。


 彼女は以前、1日に撃てる『精霊砲』は2発までと言っていた。つまり、未来を変えるためのチャンスは後2回。


 今、あの生真面目で少し変わった性格のお嬢様だけが、この場の全てを救える人間なのだ。



















「てな訳で、あんた一人で頑張りなさいよアルデバラン。未来を打ち破るのは、私達でやるから」

「ちょっと待てぇ!! 次の砲撃は防げるか分からないんだが、本当に」

「死ぬ気で防げ。元々はあんた一人で対応するつもりだったんでしょうが」


 精霊砲の詠唱を行っていた最中、俺はマイカに口を塞がれた。


 聞けばどうやら、ユウリの見た未来が『破滅』だったそうで。だから俺に、精霊砲を無駄打ちするなと止めに来たらしい。


「イリーネ、精霊砲の射程ってどのくらい? 向こうの砲撃地点に届く?」

「絶対届きませんわ。杖で強化された分を加味しても、おそらく敵までの距離の半分にも届かない」

「となると敵に近付くか、敵にぶち当てる以外の選択肢を探すか、ね」

「おい、もうすぐ2射目来るぞ! ああもう、(えん)(えん)(えん)(えん)。我に集いし────」


 マイカが話しかけてくる隣でアルデバランがギャアギャア叫んでいる。


 すまん、アルデバラン。正直、俺の雀の涙みたいな火力であの砲撃を迎撃しても、気休めにしかならなそうだ。


 だったら未来を変えられそうなタイミングまで、出し惜しみさせてもらいたい。


「と言ってもどうするんですか? あんな遠くにいる敵、いくら姉様の精霊砲でも届かない。リーダーと一緒に魔法を迎撃するくらいしか、活用法がないのでは?」

「そんなことないわよ。と言うかわざわざ魔法ぶつけ合わなくても、もっと楽に敵の攻撃を防ぐ手段があるかもしれないし」

「えっ?」


 マイカはそう言うと、ウサギ達に向けて遠くアルデバランより先の地面を指さした。


「アルデバランの後ろで防壁張るんじゃなくて、アルデバランよりずっと先にある地面を隆起させなさい。それも、なるべく多くの土を」

「え、はあ。つまり、撃たれる前に土の障壁を準備させておくのですね?」

「そう言う事」


 む、砲撃の合間に土で防壁を築くのか。でも、それって大丈夫なのか?


「2射目来てるぞぉぉ!! 惨劇の幕よいざ開かれん! 焔神覇王(アルドブレイク)!!」

「頑張りなさい、アルデバラン。私達のリーダーが敵を切り滅ぼすまで」

「手伝えぇぇぇ!! あ、ちょ、ヤバいって!」


 しれっとした表情で、アルデバランに無茶振りするマイカ。


 直後、再び極光が俺達に向かって迫り、アルデバランの猛炎に防がれる。


「ぐぎ、ぐぎぎぎぎ……」

「うん、やっぱりね。貴方達は、今回の砲撃が終わった直後から土をせり上げて頂戴。出来るだけ長い距離に、魔力の防波堤を作るわ」

「何がやっぱりなのだ! 手伝、え、オオオオ!?」

「アルー!?」


 再び、アルデバランが死に物狂いで敵の砲撃を押さえている。


 レーザーの如く凶悪な密度を持った魔力の奔流だ、もしアルデバランが撃ち負けてしまえば町は消滅してしまうだろう。


「がぁ、が、ぐ。あぁぁ……」

「お、よく頑張ったじゃないアルデバラン」


 しかし、そのレーザーもやがて細まり終息する。アルデバランは何だかんだといいながら、見事一人で2射目を防ぎきった様だ。


「カールも大体半分の距離まで到達してるわね、これ間に合うんじゃないかしら」

「し、死ぬ……」


 ぜぇぜぇと、死にそうな形相で倒れ込むアルデバラン。


 しかしその成果として、彼女は再び街を敵の砲撃から守りぬいた。


「もう無理、だ……。今ので、正真正銘、すっからかんだ」

「あいあい、今よみんな! イリーネ、サクラ、貴女達も土魔法唱えて! 特にイリーネは、土の精霊とかにお願いして超固い防壁にしてもらいなさい」

「え、ええ。分かったわぁ」

「いえ。マイカさん、それで本当に大丈夫なんですの?」

「大丈夫、大丈夫」


 有無を言わせぬマイカの指示で、サクラや向こうのウサギ怪人が大地をせり上げ始める。


 先ほどの砲撃で抉れた地面が、逆に競りあがって小さな山を形成していく。


 しかしこの防御手段は……、どうなんだ?


「イリーネ、どうしたの? 貴女も……」

「いえ。マイカさん、正直なところその作戦はあまり有効とは思えませんわ」


 せっせと土の防壁を形成し始めているところ申し訳ないが、この手はおそらく愚策だ。他の作戦を考えねばならない。


 何故なら、


「敵が魔法を今まで通りの軌道で撃ってくれれば有効ですが、砲撃の軌道を変えられれば無意味になりますわ。例えば、振り下ろし系統の術式に変更したり」

「確かに、それはそうね」


 そう、いくら俺達が堅牢な防壁を築き上げたとしても無意味なのだ。


 平民であるマイカは知らないかもしれないが、魔導師は魔法の射出地点を結構自由に設定できる。自分より遥か上空に設定して、空から魔法が降り注ぐように術式を変えることも可能。そうなれば、レーザーが築き上げた防壁の上を素通りして街を焼かれてしまうだけ。


 射出地点が自分から離れれば離れるほど制御が難しくなるので普通はやらないが、今回の敵みたいな超上級の魔術師ならやってきてもおかしくない。




「だったら……」

「でも、それは無いわ」


 マイカは自信満々に、そんな俺の心配を切って捨てた。


「私、眼には自信があるのよ」

「眼、ですの?」

「そう。これでも狩人やってたからね、どんな距離でも獲物は絶対に見失わない程度に目は良いの」


 彼女は、ジィっと敵を睨んだ。


 数10㎞先の敵の姿など、俺にはとても視認できないが……。彼女には、視認できている、のか?



「あれは多分魔力砲台、よ。敵はいちいち魔法を詠唱してるんじゃない、兵器か何かを使って攻撃してるわね」

「兵器ですって?」

「そ、おそらく古代兵器とかじゃないかしら。この街の成り立ち自体が、魔力溢れる地殻を調査するために人々が集ったからでしょ。そして、その豊富な魔力を兵器利用しようと画策した人間も数多くいた訳で。きっと、そのうちの誰かの作品でしょうね」


 マイカに解説され、ハッと気付く。そうか、それがあの馬鹿げた威力の魔法攻撃の正体か。


 おかしいと思ったのだ。本来であれば、勇者はその辺の魔族なんか相手にならないほどのチートを得ている筈だ。


 その勇者たるアルデバランが、同じ魔法という土俵で戦って押し負ける訳がない。


 敵は個人の魔導師ではない。戦略兵器を操って戦っている、軍隊だ。


「敵の攻撃の威力はすさまじいわ。逆に言えば、あれだけの威力の攻撃を反動なしで撃てるとは考えにくい」

「それは、つまり……?」

「あの砲台が、固定されている可能性が高いって事。少なくとも、発射地点は気軽には動かせないはずよ」


 そうか、そういうことか。だったら、前もって砲撃される場所に防壁を張るのはこの上なく合理的だ。 


「成程、固定砲台か。ただの魔導士に私が打ち負けるなぞ、おかしいと思ったのだ!」

「でも、敵の魔法は大地を抉りながら迫ってくるんだぜ? 土を競りあげたくらいで、どれだけ意味がある?」

「そこはイリーネの交渉しだいでしょ。土の精霊とやらに、気合いいれろと言う他無いわ」


 ただの防壁では駄目。土の精霊に協力して貰って、なるべく堅牢な防壁を形成しなければならない。


 ……それが、俺の役目か。確かに、土の精霊に介入して貰わないと未来は変えられんからな。


「それに、攻撃を防ぐ必要はないの。街から逸らせたら十分だわ」

「そうだ、その通りだ」

「周囲に被害が出ないようにするには、空の方向に向けて軌道を逸らすのがベスト。その為に、下から突き上げてやらないと」


 これが、マイカという女か。


 彼女は、何処にでもいる平凡な少女だ。


 特別な魔法が使える訳でも、特別な技術を持っているわけでもない。


「イリーネが土魔法を介して強化した、対魔法防壁。それはきっと、現状で未来を変えるに足る最善の一手だと信じるわ」


 ただ、彼女は視野が広い。


 そして、一番妥当であろうという判断を土壇場でも下せる冷静さを持つ。


 カールが、マイカを最初に仲間に誘った意味が分かった気がした。











「土の巨壁! ぜぇ、ぜぇ」

「これで、何とかなったでしょうか」


 俺達は、完全にダウンしたアルデバランに代わりせっせと陣地構築に勤しんだ。


 何重にも土の壁を張り、逐一精霊に頭を下げて、なるべく頑丈な障壁へと仕上げていった。


「敵の奴、なかなか3射目を撃ってこないな」

「流石に、向こうも魔力に余裕がないのでしょう」


 ほぼ連発に近い速度で撃ってきた2射目とは違い、何故か3射目はなかなか発射されなかった。


 時間が空いてくれるのは助かる。今のうちに、少しでも多くの障壁を仕上げないと。


「……ふむ。これが精霊魔法……」

「アルデバランさん、どうされましたか?」

「いや、見事なものだと思ってな。普通の障壁とは明らかに強度が違う、確かにこれならば防げるやもしれん」


 アルデバランは俺が仕上げた障壁を見て、何やら納得した表情で頷いた。


 よく分からないが、誉められているようだ。ちょっと土の精霊さんにお願いしただけなんだがな。


「ユウリさん、そろそろいけますか?」

「ああ、だいぶ魔力が戻ってきた。もう少しで予知が出来るだろう」


 後は、どうなるか。


 アルデバランの魔力は、もう殆ど残っていない。次は、彼女の手は借りられない。


 俺達が生き残るためには、この土の障壁作戦が成功するか否かに全てがかかっている。


「む、来たな。3射目だ」

「大分時間がかかってましたわね。きっと、向こうもギリギリなのですわ」


 やがて、先程と同じ様に魔力の渦が巻き起こる。


 残った魔力を振り絞り、念のために俺は精霊砲を構えておく。


「さて、来るなら来い────」


 アルデバランも、よろめきながら立ち上がり。俺達の作り上げた土の長城の最後列で、敵の一撃を待つ。


 まもなく、カールは向こうに到着するだろう。つまりこれが正真正銘、最後の1発。


 防ぎきって、見せる。






 そして、森が裂けた。




「あん?」

「えっ?」


 まだ、魔力が渦巻いている段階だ。敵の攻撃は、始まってすらいない。


 だというのに、森は裂けて大地が割れた。


「……え、何? 何が起こってるの、イリーネ」

「あ……」


 魔力を持たないマイカには、状況が理解できないらしい。


 そりゃそうだ、魔力を感じられる俺ですら理解できないのだ。


 ああ、くそったれ。道理で、3射目は妙に時間がかかった訳だ。



「……これ。さっきの砲撃の、何倍の魔力かしらぁ?」

「分からん。分からんとしか、言えん……」


 敵の先程の砲撃は、まだ全力ではなかったらしい。


 まだまだ、敵の魔法には上があった。


 先程、アルデバランが息も絶え絶えになりながら相殺した魔力砲。その数倍はありそうな巨大な魔力球が、遥か先の敵の砲撃地点に形成されていく。


「……何よ、あれ」

「私に聞くな」


 あれが、こちらに向かって放たれたらどうなるだろう。


 俺達の魔力が全快であったとして、果たして防げるのだろうか。


 渦巻く莫大な魔力、大自然の土からすら感じる脅威。それは、魔術に見識のある人間の心をへし折る光景だった。


「はぁ。そうか、私達の負けか」

「ちょっと! まだ、諦めないで────」

「きっとあの魔力砲を、森に設置された時点で負けていたのだろう。我々は前もって敵を捕捉し、攻撃される前に叩かねば勝てなかった」


 アルデバランの顔から、生気が無くなった。


 その目、その顔にははっきり諦念が浮かんでいた。


「……ああ、私は誤った」


 そう言うと、アルデバランはしゃがみこんで動かなくなった。


 おい、おい、おい。ちょっと待て、お前勇者だろーが。


 気持ちは分かるが、そんな簡単に諦めちゃいかんだろ。勇者なら勇者らしく、最後の一瞬まで足掻いてみせろ。


「……これは確かに、無理かもねぇ」

「ごめん……、アル、ごめんなさい」

「どうせ助からないならいっその事────っ!!」

「2号ォ!! それ次やったら一生許さないって言いましたよね!!」


 俺の後ろに控えていたメンバーも、絶望に支配される。ウサギに至っては、同士討ちを始める始末だ。


 俺は、死ぬのか? こんな場所で、魔族にあっけなくやられて、殺されるのか!?


「……いや。私は、まだ諦めませんわよ! どんな魔法が飛んでこようと、私の精霊砲で弾き返して差し上げますわ!」

「む、力を貸す……。イリーネ、死ぬ時は一緒」

「まったく、これだから修羅場慣れしてない連中は! まだ何か出来ることあるかもしんないでしょ!」


 まだ元気があるのは、カールパーティーの初期メンバー2人。何だかんだで、修羅場の時に一番頼りになるのはこの2人かもしれない。


「イリーネ、思いっきり地面深くまで精霊砲で穴開けられない? 土の中に逃げ込めばあるいは」

「生き埋めになるだけですわ! そもそも、あの砲撃の近くにいるだけで蒸発しますわよ!」

「……一応、魔法に斬りかかってみる。多分意味ない、けど……」


 まだ戦意喪失していない3人で、あれこれと知恵をひねり出す。


 くそ、俺はどうすれば良い? どうすれば助かる?


「アル、死ぬときは一緒です」

「ごめん、ごめんよアル……」

「くそ、まだ死にたくねぇ」


 マイカもレヴも、妙案が浮かぶ様子はない。その絶体絶命の窮地の中で、俺はすがるように正面を見据え。


 再び、俺はあの少女に抱きしめられた。


「はいはい、落ち着きなさいな」

「わぷっ……。あれ、サクラさん?」

「そうよぉ?」


 まだ諦めまいとあがこうとしている中、サクラはその莫大な魔力に背を向けて、俺を正面から抱き締めた。


「落ち着いて、深呼吸しなさい。魔術師ならわかるでしょ、アレを何とかするのは無理」

「でもサクラさん! どうにかしないと、私達────」

「どうにかできないものを、どうにかしようとするんじゃない。どうにもならなくても、助かる術を探しなさい」


 そう言うとサクラは、静かに詠唱して俺達の前に土の障壁を作った。


 サクラのその目には、諦念の中に強い決意の灯が宿っていた。


「そんな事言ったって、もう手段が……」

「聞いて、イリーネ。テンドーの家に伝わりし、蘇生魔法があるの。それを遅延発動してみるわ」

「蘇生、魔法……?」

「術者の命と引き換えに、誰か一人の命が助けられる魔法よ。まぁ、上手くいくかどうかわかんないけど」


 蘇生魔法。それは、ありとあらゆる回復魔術の頂点に位置する、まさに奇跡の魔法。


「蘇生魔法!? そんなの、この世に存在するの!?」

「正直、眉唾なんだけどね。ウチの古い魔術書の『禁呪』として記されていたわ」

「いや、蘇生魔法なんてものが実在するなら世界はひっくり返る訳だが」


 そんなありえない魔法を、サクラは使用できるというらしい。


「厳密には、超速度の治癒魔法らしいけど。死ぬ前から発動させておかないと駄目で、その魔法の効果の間は致命傷を受けても一度だけ生き返れるのだとか」

「……ああ、そういう系統の治癒魔法か。それならば、古代魔法の文献に存在しているな」

「戦場で、後衛が前衛の指揮官を守るために使用していた魔法だそうよ。これをうまく使えば、一人くらい生き残れるんじゃない?」


 サクラはそう言うと、俺の肩を抱きながら。


 その耳元で、泣くようにか細く、静かに囁いた。


「どうか、動かないでイリーネ。貴女だけは、生き残らせて見せるから」


 ……。


「サク、ラ?」

「蘇生魔法を使えるのは私。だから、誰を生き残らせたいか私が選んでいいわよね」

「え、いや。どうして、私を────」

「友達だからに決まってんでしょ。身内のマスターはここにいないし、助けるとすれば貴女以外ありえない」


 茶髪の貴族令嬢は、何かを悟ったように。


 自らの髪を解いて、そのリボンを俺の頭に巻き付けた。


「私の遺品よ。母様から誕生日に送られたリボン、大切にしてね」

「あ、いや、サクラさん!?」

「マイカにレヴもごめんね。1人しか選べないのよ、この魔法」

「……言いたいことは色々あるけど。本当に、アレを防ぐ手立てはないのね?」

「絶対無いわ。多分、この世のどんな魔導士でも防ぎようがないと思う」


 そんな、どうして。


 それじゃ、俺だけが生き残ることになる。ここにいる仲間たちや、後ろにいる街の人々や、目の前で泣いているサクラも、みんな居なくなって。


 俺一人だけ、生きながらえてしまう。


「ほ、他に手立てはないのですか!? サクラさん、その魔法を貴女自身に使ったり────」

「術者が死ぬ魔法を術者に使ってどうすんのよ。……馬鹿ね、貴方は黙って受け取ればいいの」

「ですが、何故私────」

「一度、私を助けてくれたでしょ? いま、それを返すだけ」


 助け、た? 俺がサクラを?


 そんな事があったか? 俺は彼女と接していたのは、猿の仮面を被っていた時だけで……。


「魔力の渦が収束してきた。きっと、もうすぐ全てが終わるわ」

「サクラ、さん……」

「さようなら、イリーネ」


 そう言って儚く笑うサクラ。その眼から、一筋の涙がこぼれる。


 これが、この戦いの結末か?


 この無様な結果が、街に断固として残るように叫んだ俺の行動の末路か?


 これなら女神様の言う通り、街を離れた方がよかったのではないか!?


「私の、せいでみんなが────」

「貴女のせいなんかじゃないわよ、イリーネ」


 これでは、俺がみんなを殺したようなものだ。俺が、何もかも悪いのだ。


 なのに、俺一人が生き残っていいのか?


 本当に、他に出来る事はないのか……!












「諦めるにはまだ早い!!!」











 野太い男の声がする。


 雄たけびを上げながら、この深く悲しい絶望の中に、乱入者が割り込んできた。


「え、誰!?」

「何奴!?」


 一体誰だというのだ。この、どうしようもない状況下で。


 まだ、何かを変えられると自信満々に割り込んできた男は────




「ふっ。この私はヨウィンの黒き雷光……」

「……あ」


 黒いタキシードに、怪しい髭。


 真っ赤な大きい蝶ネクタイと、鳩でも出てきそうなシルクハット。


「ある時は少女に侮蔑されて興奮し、ある時は娘に肘鉄を食らい絶頂する、街一番の被虐紳士!!」



 ……。ああ、えっと、その。


 貴方は一体、何をしにここへ?



「宴会芸博士、ユウマ☆見参!! 喝采せよ、皆の衆!!」


 それはユウリの父親にして、セクハラと宴会芸の達人たる学会一の奇人。





 ぷすぅーーーー、と。


 その男の登場と共に、間抜けな放屁音が森の木々に木霊した。


 今までさめざめと恐怖で泣いていた(ユウリ)は、父の登場と共に目から光を失った。



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― 新着の感想 ―
サーチ系スキルとかであれば……。 まあ、数十キロ?先を目視する人に何を言っても……。 尻から出る……? まさか、尻に受け入れるというのか……?!
[良い点] 主人公がとうとう覚醒するのかとハラハラしてた所にユウマ!?めっちゃわくわくする笑
[良い点] めちゃワクワクします!!
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