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第3話 出会い

「パパー!ママー!見て見て!」


ピンクの可愛らしいふりふりのドレスを着た小さな女の子が両親に駆け寄り、手にした花を背伸びして突き出す。


「あら、凄く綺麗ねぇ」


「ほんとだねぇ 」


両親は揃って花に顔を近づけ、娘に優しく微笑んだ。


「でしょ!でしょ!あっちで見つけたの!」


「ははは、流石僕達のお姫様だ。凄いぞぉ」


父親は椅子から立ち上がり、少女を抱き上げて頬ずりする。


「ぱぱぁ、くすぐったいよぉ 」


「ははは、ごめんごめん」


父親は少女を椅子に座らせ、傍に控えている執事に目配せする。

燕尾服に身を包んだ老齢な執事はそれに頷き、紅茶のセットとケーキをテーブルの上へと並べた。


「お嬢様、どうぞお召し上がり下さい」


「わぁ!イチゴさんのケーキだ。あたしイチゴ大好き!」


「ふふ、アミールは本当にマッカナイチゴガダイスキネェ」


「アアホントウニスゴクマッカナイチゴデオイシソウダネ」


両親の顔がぐにゃりと歪み。

顔がザクロの実の様に弾け飛ぶ。


マッカナイチゴ。

マッカナ チ



チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血チ血



「ひっ!? 」


女は体をビクンと震わせ、小さな悲鳴と共に目を見開く。


「はぁっ……はぁ……ゆ……夢?」


左手で胸を押さえ、荒い息を整える。

彼女の額には玉のような汗が無数に浮かび、頬を伝って零れ落ちていく。


「なんて夢よ……」


女は一言呟き、目を瞑る。

瞼に映るのはかつて幸福だったころの残照。

女は軽く首を振ってその在りし日々の幻想を振り払い、左手で額の汗を拭う。


「あんな夢を見たのも、これのせいか…… 」


女は自分の右腕に視線をやる。

だがそこには何もない。


女の腕は肩の根本あたりから先が無く、そこには布がぐるぐると乱雑にまかれていた。まかれた布は湿り気を帯び、赤茶けている。

それはごく最近、女の腕が失われた事をありありと物語っていた。


「やらかしたなぁ……まさかあんな強いなんて……私ってホント馬鹿だ……」


彼女の名はアム・レント。

遺跡や洞窟などの探索を行い、そこに眠る財宝を収集する盗賊(トレジャーハンター)だ。


年の頃は10代半ばといった所。

手入れを欠いた金のショートカットにやや釣り気味の金目のため、ぱっと見勝気な少年の様な印象を受ける。だがよく見ればその顔立ちは整っており、後数年もすればさぞや美しく成長する事が期待できる容貌をしていた。


此処は封印の洞窟。

その第4階層。

アムはこの洞窟(ダンジョン)の最奥にとんでもない力を持つ古代のお宝が眠っていると聞きつけ、入り込んだ。


慎重な彼女は入念な下準備を行ない。

その盗賊としての優れた能力も合わさって4層までは苦も無く進むことが出来た。


だが5層。

ダンジョンの最深部で彼女は大きなミスを犯す。

それはデーモンに手を出してしまった事だ。


彼女にとってデーモンは情報の無い未知の存在。

本来ならば情報の不明な相手との戦いは避け、一旦引くべきであった。

だが4層までのスムーズな攻略が彼女の判断を鈍らせてしまう。


傲慢。


自分なら出来るというその無根拠で浅はかな思い込みから、結果彼女は右手を失う愚を犯してしまったのだ。


「あたし……死ぬのかなぁ……」


天井を眺め、彼女は諦めたように呟いた。


切り落とされた右手に痛みは殆どない。

腕を切り飛ばされた瞬間、腰にセットしてある鎮痛薬を使用した為だ。

ソロで活動している彼女にとって、動けなくなる事は死を意味した。

それを避ける為、彼女は大きな怪我を負っても動けなくなる事が無いよう常に即効性の鎮痛薬を腰にセットしていた。

そしてそれは強く押し込むだけで簡単に注射出来るようになっていた。


その備えのおかげで彼女を九死に一生を得る事となる。

もし鎮痛薬が無ければ痛みでまともに動けず、デーモンから逃げ切る事は叶わなかっただろう。とは言え、それは所詮一時しのぎでしかなかった。

拾った命も最早風前の灯火と言っていい。


現在彼女は第4層の壁面に走る、大きな罅の中に身を隠していた。

安全な人里に帰還する為には、当然この魔物の徘徊するダンジョンを抜ける必要がある。


来るときは――4層までは楽勝だった。

だが利き腕を失い。

武器を失い。

逃げる際に荷物を収納してあるマジックアイテムをも落としてしまっている。

この状況で生還できる可能性は限りなく0に近いといっていいだろう。


「パパ、ママ。ごめんね……あたし、やっぱりだめだったよ」


アムの眼に涙が薄っすらと滲み。

やがて涙は大粒の雫となって彼女の頬を濡らす。

暫く声を殺して泣いた後、彼女は腰のベルトからナイフを取り出し。

それを逆手に握って自身の胸へと向けた。


生きる事を諦めた彼女は腕を振り上げる。

最後に思い浮かぶのは幸せだったころの両親と自分の姿。


「パパ…ママ……いま私も……そっちに行くね」


そう呟いて彼女は腕を振り下ろした。

いや、振り下ろそうとした正にその瞬間――


凄まじい轟音と共に、振動が辺りを揺らす。


「な……なに?」


直前まで死のうとしていた事等頭から吹き飛び、驚いた彼女はおそるおそる罅から顔を出し外の様子を伺う。

するとそこには、ダンジョン内を悠々と闊歩してい――


全裸の男がいた。


「へん……たい?……」


それは後に神を殺す男と、盗賊の少女との運命の出会いであった。

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