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第2話 デーモン

ドーム状の空間を抜け。

薄暗い通路を真っすぐに歩いていくと、前方に5体の魔物が姿を現した。


体長2メートルを超す屈強な肉体に、硬そうな質感の紅い肌。

背には蝙蝠の翼の様な羽が畳み込まれており。

額から生えた二本の角は反り返り天を突いている。

醜悪な顔構えのその魔物の名はデーモン。

悪魔系に属する魔物だ。


そのデーモンの内一体が無造作に俺に近づき、腰を屈めて俺の顔を覗き込んだ。

俺はデーモンから放たれるその不快な呼気に顔を歪めた。


デーモンは暫く俺の様子を観察した後、顔を離し無造作にその拳を俺へと振るう。何が基準かは分からないが、どうやら敵と認識した様だ。

迫る拳を前に俺は微動だにしない。

躱す事は容易かったが、正直躱すまでも無い。


デーモンの拳が俺の顔に打ち付けられる。

だが痛みはない。

デーモンは自分の拳を受けて平然としている俺を見て、驚愕の表情を浮かべる。

か弱い人間など、一撃だと考えていたのだろう。

実際その通りだ。


”但し、俺以外ならばの話ではあるが”


デーモンは未知への恐怖から、後ずさろうとする。

だがそれよりも早く俺の拳が奴の腹部へと突き刺さった。

ゴバッという不快な音と共に、はらわたが弾けとび。

腹部を綺麗に失ったデーモンはゆっくりとその場に崩れ落ちた。


「ヒギィィ」


すぐ手前のデーモンが恐怖からか尻もちを搗き、情けない声を上げる。

俺はそのデーモンの前まで歩いて行き、そいつを見下ろした。

だがデーモンは動かない。

どうやら完全に腰を抜かしてしまっているようだ。


どたどたと足音を耳にして視線を正面へと戻す。

見ると残りの3体が逃げていく。

俺の目の前で腰を抜かしている仲間を見捨てて。


「不快だな……」


奴らは仲間を斬り捨てた。

そう。

奴が俺を不要と切り捨てたように……


俺は右手に魔力を集中させ、脳内で描いた魔法構成と混ぜ合わせ、重力の魔法を生み出した。

掌の上に現れたそれは黒い小さな、まるでビー玉の様にも見える。

だが見るものが見れば、それがとてつもない魔力を内包している事は一目瞭然だったろう。


俺はそれを無造作に投げつけた。

逃げるデーモン達へ向けて。


重力捕縛(グラヴィティバインド)


俺の手を離れた黒い球は凄まじい速さでデーモン達に追いつき、空中で弾け大きく広がる。

それに捕まったデーモン達は次々と地に伏し。

血反吐を吐いて、ぐしゃりと鈍い音を立てて潰れていく。


本来重力捕縛(グラヴィティバインド)は相手を動けなくする魔法だが、強い魔力を籠める事でこのように相手を押しつぶす事も出来た。


「さて、と」


目の前で無様に腰をぬかし、恐怖におびえるデーモンを見つめる。

よく見ると始末した4匹に比べ華奢でかなり小柄だ。

恐らくまだ子供なのだろう。


「俺に服従して生き延びるか、ここで死ぬか選べ」


言葉に魔力を乗せて語り掛けてやったので意味はちゃんと通じているはず。

俺は尻もちを付いたまま動かないデーモンに手を伸ばす。

犬の様な“おて”を求めて。


正直デーモン程度を支配した所で大したメリットはない。

そのまま殺しても良かった。

だが仲間に置いて行かれた奴の姿が、一瞬だが奴に切り捨てられた自分と重なって見えたのだ。


だからチャンスを与える。

もっとも、奴が服従を拒否するようなら問答無用で殺すが。


怯えていたデーモンが恐る恐る手を伸ばし、俺の差し出した掌におずおずと手を置いた。


「良いだろう。契約成立だ」


そう言うと俺は右手の人差し指に魔力を籠め、デーモンの額へと押し付けた。


魂の隷属(ソウルスレイブ)


デーモンの赤い額に黒い魔法陣が展開し、その心を、その魂を縛り付ける。

主への絶対服従。

それ以外を決して認めぬ隷属魔法、魂の隷属(ソウルスレイブ)


これをかけられた者は主に対して悪意を持つだけで激痛が全身を襲い。

裏切れば地獄の苦しみにのたうって命を落とす事になる。


「付いてこい」


そう一言投げかけると、俺は通路を進む。

途中、潰れたデーモン達の肉塊の辺りで足を止める。


「罅一つ入っていないな」


デーモンを押しつぶす程の重力が掛かったにもかかわらず、床や壁にはへこみや罅が入っていなかったのだ。これが通常の材質などであったなら、間違いなく大きく損壊していた事だろう。


「封印の洞窟……」


薄っすらとだが記憶が浮かび上がって来る。

かつてこの場所を訪れた時の記憶が。


此処は神へと到る道。

何人も冒す事が許されない聖なる場所。


この通路もかつては神が創造したゴーレム達によって守られていた。

そんな場所にデーモン達が住み着いてしまっているのは、守護者たるゴーレムを奴が全て破壊してしまったためだろう。


記憶の中の奴は、その斬撃で容易くこの特殊な材質で出来た壁や床を切り裂いていた。それを思い出した俺は腰を深く落とし、しっかりと溜を作ってから全力で拳を壁へと叩き込んだ。


だが罅一つ入らない。


「手ごたえ無し……か」


俺は自分の拳を見つめ呟く。

壁面の破壊はもちろんの事、叩きつけた拳にすら感触が殆ど残っていない。

これは完全に衝撃を吸収されてしまった証拠だ。


「このままでは駄目だな」


今のままでは到底奴に届かない。

俺の言葉にデーモンが不思議そうに首を捻るが、気にせず言葉を続ける。


「力を……手に入れなければ……」


奴を殺すだけのだけの力を。

その決意を心へと刻み付け、俺は前へと進む。

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