第1話 目覚め
気づくと床に倒れていた。
俺はゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
辺りには床壁問わず、幾何学模様の様な青白く光るラインがそこら中に走っている。その青い光のお陰で、薄暗くはあったが辛うじて辺りを見渡す事が出来た。
ざっと見渡し、自分の今いる場所の構造を把握する。
そこは半径10メートル程のドームを半分に切り裂いた様な、半円形型の空間。
それが俺の今いる場所だった。
見覚えのない場所だ。
再度ゆっくりと視線を動かし、辺りを確認し直す。
だがやはり今いる場所に見覚えはなかった。
此処は一体どこなのか?
何故ここにいるのか?
そう言った情報が一切頭に浮かんでこない。
顎に手をやり、首を捻って深く考え込む。
だがやはり何も浮かんでこない。
いや、それどころか謎はさらに深まってしまう。
何故なら場所はおろか、自分がどこの誰かすら思いだせないかったからだ。
わからない?
俺は誰だ?
どうしてここに居る?
この場所は一体なんだ?
答えの出ない不安から落ち着きなくうろうろと歩き回り、ふと気づく。
壁だと思っていた物が、半円型の巨大な扉であった事に。
そしてそれが扉だと気づいた瞬間、記憶の断片が頭の中で煌めいた。
覚えている、覚えているぞ……
この扉だけは……
俺はこの扉の前で……
「ぐっ!?」
急に鋭い針で刺された様な強い痛みが頭に走り、立っていられず膝を着いた。
ずきずきと痛む頭の中で、大きな声が響く。
必要ない――
「何だ……この声は……」
もう必要ない――
「五月蠅い」
人の弱さは邪魔になる――
「五月蠅い!」
だからここで捨てていく――
「黙れぇっ!!」
その声を聞くたびに怒りが湧き上がり、ついに我慢できなくなった俺は拳を扉へと力いっぱい叩きつけた。
その瞬間、半ドーム状の空間に所狭しと描かれた青いラインが強い輝きを放つ。
光は青い稲妻となってバチバチと音を立てて俺の体に絡みつき。
目も眩むばかりの閃光を放つと同時に、凄まじい衝撃を持って俺を弾き飛ばした。
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!」
激痛に焼かれ堪らず苦悶の悲鳴を漏らし、その場に蹲る。
まるで体を焼き尽くすかの様な灼熱の痛みに脂汗を流し。
歯を食い縛って痛みに必死に耐えた。
「ふぅ……ふぅ……」
どれくらいの時間が経っただろうか。
体を蝕む痛みは時間の経過とともに徐々に引いていき、何とか立ち上がれるまでに回復する。
俺はふらつく体を鞭打って立ち上がり。
そして目の前の巨大な扉を見つめ、言葉を絞り出した。
「神へと到る扉……」
俺は言葉を心の中で反芻する。
そう……これは神へと到る扉だ。
酷い目に遭ったが、お陰で思い出す事が出来た。
俺は此処で切り捨てられたのだ。
”奴”に
奴の事を考えると、腹の底から怒りが湧き上がって来る。
「後悔させてやる。俺を不要だと切り捨てた事を必ず……」
俺は奴を許さない。
絶対に。
自らの決意――復讐――を胸に、俺はその場を後にした。