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第11話 共同作業

目の前でガシャガシャと大きな音を立てながら、ミアが瓦礫を右手でかき分けていた。俺はその様を眺めながら首を捻る。


「穴掘り遊びか?」


人に兄を追えと言っておいて、自分は瓦礫で遊びに興じるとは見下げ果てた女だ。

まったくどういう神経をしているのやら。


「……」


暫く待つが返事は返ってこない。

どうやら遊びに夢中で聞こえなかった様だ。

もしくは突発性の難聴の可能性もありえる。

仕方ないので奴の傍にまで寄り――


「何を遊んでいる!!」


――大声で怒鳴る。

これなら仮にぼけ老人レベルで耳が遠かったとしても気づくはずだ。


「うっさいわね!邪魔しないでよ!!」


振り向きもせず不機嫌に怒鳴り返してきた。

主の質問より遊びを優先するとは、救いがたい低能っぷりだ。


「貴様!閣下に対して何たる無礼!手内にしてくれるわ!!」


「手打ちとはなんだ?」


「はっ!ぼこぼこにしてやるという意味かと思われます!」


質問すると何故か変なポーズを取って答えてくる。

こいつも遊んでるのか?

我ながら碌な下僕がいない。

次に何か拾う機会があったら、もう少しまともな奴にするとしよう。


「いたっ!」


それまで右腕で瓦礫を穿り返していたミアが手を止め、何かを引きずり出す。


小さな子供だ。

まだ命はあるようだが、全身からぼろぼろで意識はない。

死ぬのも時間の問題だろう。


態々こんなものを瓦礫の中から引きずり出して、死体でお人形さんごっこでもする気なのだろうか?流石にこいつの人形遊びを延々眺めている程俺も暇ではない。


「下らん遊びをいつまで続けるつもりだ?」


だが答えは返ってこない。

ミアは俺などその場に居ないかのように無視し、何故か子供に魔法を開け始めた。


「おい!何をしてる!?」


「この子を助けてるのよ!お願い、アップルちゃんも手を貸して!他にも逃げ遅れた人が瓦礫の下敷きになってるかもしれないから」


どうやら死体を使っての人形遊びでは無かった様だ。

死にぞこないを助けてどうする積もりなのだろうか?


しかし俺の言葉には無反応だが、アップルにはちゃんと答えているという事は――

少なくとも難聴では無いらしい。

では何故俺を無視する?


アップルが困ったように此方を見てくるので、俺はアムを手伝うよう指示する。


「手伝って……くれるの……」


「何の話だ?」


アムが驚いた様に此方を見るが、何を言っているのか理解できない。

相変わらずこいつの感情だけはまったく読めん。


「だって救助作業を手伝ってくれるんでしょ?」


ああ、言いたいことが理解できた。

こいつまさか俺が手伝うとでも思っているのだろうか?


アップルとアムの仲は良好とは言い難い。

原因はアップルが一方的に毛嫌いしているからなのだが。

理由はまあこの際どうでもいい。


問題なのは只でさえ足手纏いの2人が反目しあい、更に強烈に此方の足を引っ張る可能性が有る事だ。そういった面倒事を避ける為、不和を緩和する意味で俺はアップルに手伝いを命じたに過ぎない。どうやらアムはそれを勘違いしてしまった様だ。


「共同作業させる事でお前たちの連帯感を高めようとしただけだ。俺自身がお前の道楽に付き合うつもりは更々ない」


「ふん!どうせそんな事だと思ったわよ!」


分かっていたなら何故聞いた?


「アップルちゃん。向こうに生命反応があるわ。付いてきて!」


「お、おう」


アムが右手を上げて当たりの生命反応を感知する。

手を再生する際、下僕になった記念にサービスで付けてやった機能だ。

先程の回復魔法や瓦礫を軽々と穿り返す腕力もそうだ。


流石にデーモン以下の只の人間をそのまま連れまわすのはあれだったからな。


「スレイヤーはやる事ないんならこの子見てあげてて頂戴!」


アムが回復した子供を押し付けてくる。

手伝わないとはっきりと言ったはずだが、こいつは脳のネジでも外れているのか?

冗談抜きで頭の中を割って覗き込んでやりたい気分だ。


子供を押し付けられ、どうした物かと頭をかく。

本当にこの子供を思うのならば、ここで楽にしてやるべきだろう。


当たりは破壊や火災で瓦礫の山と化している。

親は生きてはいまい。

福祉なる物も有るらしいが、レーヴァテインが暴れまわっている状況でこの国がそんな物をいつまで維持できるか怪しい所。

どうやって生活していくのやら。


「待っているのは飢え死にか、良くて盗人として処刑されるか……」


いや、今のこの時代は盗人への刑罰はそこまで厳しくなかったか。

どちらにせよ子供に待ち受ける未来など火を見るより明らかだ。

碌な物ではない。

無駄に生きて苦しめるより死なせてやる方が余程優しいというものだが。


「まあ俺が気にする事でもないか」


背後から近づいてくる気配に俺は振り返る。

瓦礫の合間を縫って、一体の魔装機が俺の直ぐ傍までやって来た。


大きさはレーバテインの半分ほど。

青地に肩の辺りに白のラインが入っている。

このデザインはルブラン国軍の物だ。


今更のこのこやってきたか。

無能どもめ。

まあ丁度いい。

ここで突っ立っているのもあれなので、こいつにガキを押し付けてしまおう。


「おお、生存者か!?その子供は?」


「気絶しているだけだ。保護してやれ」


「勿論だ!」


魔装機が背後のバックパックから2本セットの棒を取り出した。

その棒を広げると、間に魔力で網の様な物が展開される。

それを地面に置き、倒れている子供を簡易担架へと乗せて包んだ。


「さあ、貴方も載ってくれ。この子と一緒に安全な場所へと送ろう」


子供を包んだ棒を腕へとセットした魔装機は、もう片方の手を俺へと向ける。

そこに乗れと言わんばかりに。


勿論お断りだ。


「いらんお世話だ。そのガキだけ連れていけ」


「しかし……」


他人に安全を守って貰う謂れなどない。

相手にするのも面倒なので、俺は飛行の魔法でさっさとその場を後にする。

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