第9話 殺戮
大きな爆発音が辺りに響く。
次いで何かが崩れ落ちる音。
神を崇め奉るレイゴッド教、その神殿を支える太い柱が外壁事崩れ落ちた音だ。
辺りには間断なく爆発音が響き、その度に神殿の壁が、柱が、石像が吹き飛び崩れ落ちる。
そこは戦場だった。
黒い魔装機――レーヴァテインの手から閃光が放たれる度に建物は崩壊し、そこを守っていた青い魔装機が粉々に吹き飛んでいく。
やがて辺りに動くものは黒い悪魔のみとなったが、それでもレーヴァテインは破壊の手を止めようとしない。まだ食い足りないと言わんばかりに、貧欲に辺りに破壊をばら撒き続ける。
ここはルブランの南方にある都市、ベルクリア。
ルブラン最大の神殿拠点であり、独立峰の麓に広がる風光明媚な美しい都。
その美しかった街並みも、レーヴァテインという名の破壊の嵐に見舞われた今、最早見る影が無い。目に付く大型の建物は全て倒壊しており、街のあちこちから黒煙が立ち上っていた。
「こんなもので良いか」
レーヴァテインの操縦席に佇む男が呟く。
操者であるカミール・レインブラは攻撃の手を止め、真っすぐ神殿の中央部――最早只の瓦礫の山ではあるが――へと向かう。
レーヴァテインは大きな瓦礫を無造作に弾き飛ばし、邪魔な物を取り除く。
瓦礫の下には大きな円を描く紋章が絵描かれており、大量の瓦礫の下敷きになっていたにもかかわらず、紋章には傷や欠け等が見当たらなかった。その事から、そこに何らかの仕掛けが働いているのは一目瞭然だ。
レーヴァテインはその紋章の淵にまるで指をかけるかの様に、地面事抉って手をかける。その瞬間バチバチと激しい音を立てて稲妻が弾けとぶ。普通の人間ならば消し炭になってもおかしくない程の衝撃であったが、レーヴァテインはそれ全く意に返す事なく、そのまま紋章を地面事引っ繰り返した。
皮を剥かれ、轟音と共に姿を現したのは空洞――地下へと下る階段。
その広さはレーヴァテインの巨体を湯に飲み込むほど広い。
奥から炎の光が瞬き、次の瞬間には業火がレーヴァテインを包み込む。
「まだ抵抗する気力があったか」
そこは魔法の結界によって守られた避難場所。
ベルクリアの多くの民間人が避難している最後の砦。
その奥に隠れている民達を守るべく、最後の砦となる魔装機二体が階下から躍り出る。
「やらせんぞ!カミール・レインブラ!貴様は――」
言葉を言い終えるよりも早く機体が引き裂かれ、二体の魔装機は動かなくなる。
「さて、流石にもう邪魔者はいないな。ではゆっくりと頂くとしよう」
レーヴァテインはゆっくりと階段を踏みつぶしながら降りていく。
出来うるだけこの先に居る民間人達に恐怖を与える為に。
先程神殿の上で行った無為な破壊活動もその為だ。
音と振動に恐怖し、迫りくる死の足音に絶望させる。
人が放つ負の感情こそが、レーヴァテインの真の力を解放させる動力源となるのだ。
「まだ3か所目だが、集まりは悪くない。とは言え4体目の開放まで持って行くにはまだまだ命が足りないな」
そう呟くと、カミールは目の前の分厚い扉を吹き飛ばす。
「さあ、殺戮の始まりだ。精々怯え絶望しろ。虫けらども」
神栄歴1000年6の月24日目。
この日を境に、ルブランの地図からベルクリアが消えてなくなる事となる。