敵襲撃
次の日学校へ行くと、例の魔女の噂で持ちきりだった。
どうやら、客や野次馬の中にうちの生徒が何人か居たらしい。
人質に成っていた客は、スマホを取り上げられていたので写真は写せなかったのだけど、野次馬連中は写真だの動画だのを撮っていた様で、それをSNSにアップしたりして、ネットで拡散していた。
助けられた客だった人は、正面から写っている写真が無いか、必死に探しているみたい。
スマホの待受にしている人も居た。
家に帰って居間へ行ったら、ピートがテレビで昨日のニュースを観ていた。
「ドリー、ドリー! あなたの事やってるわよ!」
嬉しそうに手招きしてくる。
ドリー呼びを許した覚えは無いんだけどな。でも本人は解禁されたと思っているのだろう。
ソファーのピートの隣へ座ってテレビを見ると、画質の悪い映像が流れていた。きっと、スマホで野次馬が撮った動画をテレビ局が買い取ったのだろう。
〈御覧ください! あれが宝珠に導かれし運命の魔女、ノイータと名乗った謎の人物です! 運命と書いてさだめと読むそうです!〉
テレビの中でアナウンサーがしきりにそう連呼している。誰か私を殺して。
私は、クッションを頭から被せてソファーに突っ伏した。
最近の顔認識装置は、化粧位簡単に見破ってくるので侮れないぞ? あまり写真に写されるのは避けたいんだけどな。
「髪型をボブにして、輪郭を隠しているのは正解だったわね。」
そこだけが不幸中の幸い。
だけど、顔認識だけじゃなくて、音声認識やら歩行の癖を認識したりとか、最近の技術は何かと侮れないので、十分に気を付けないとな。
厚底ハイヒールもその点では正解だったかも。
あまり歩かないで、常に浮遊移動した方が良いかも。
それにしても、ピートは何故こんな目立つ様な仕事をさせたのだろう?
「そりゃあ、敵に目を付けて貰う為よ。」
「はあ?」
何それ、初耳なんですけど!? 敵って何よ!? そんなの聞いてない!
「あらあなた、既に接触しているわよ?」
「ええ、何時だろう?」
ピートが言うには、最初に空港で接触して来たのと、留学を持ちかけたのが自分達の組織。それ以外が敵、つまり他の組織なんだそうだ。
つまり、テーザー銃を持っていたのが敵という事か。
「見分け付かないよ! どっちも黒い車でスーツ姿じゃん!」
「当たり前でしょう、テレビの中の悪の秘密結社みたいに、骸骨の描かれた全身タイツで、『イーッイーッ』とか言いながら襲って来ないわよ。」
言われてみれば、そうか。ひと目見て怪しいと分かる格好をしている訳無いよねー。
「私達は人道的に、アーティファクトの所有者を保護しようとしているのよ。あいつらと一緒にして欲しくは無いわ。」
「でもさー、どうやって見分ければ良いのよ? あなた達は直ぐに分かる方法があるのだろうけどさ。」
「あら? あなたにも渡してあるでしょう? そのリストウォッチ。」
「これかよ! 使い方一切教えて貰って無いよ!」
なんだよ~、もう。
どっと疲れが出てきたよ。
今までの緊張感は何だったんだよ!
いやいや、まだ信用するのは早いぞ。騙されているのかも知れないし。
しかし、疑い出すと裏が有るんじゃないのか、更にその裏が有るんじゃないのかと、きりが無くなってしまう。何処からが嘘なのか騙されているのが分からないなら、それはそれで自分の心で判断するしか無いじゃないか。
「あーあ、人が嘘を吐いているのかどうか分かると良いんだけどなー。」
【Roger(了解) 心起動】
「えっ? 分かるの!?」
私は、ピートと顔を見合わせた。
ピートは若干血の気が引いた様に見える。
「では、ピートは嘘をついていますか?」
【相手に具体的な質問して下さい。その言葉に嘘が含まれているかどうかを判別します。】
「じゃあ、ピートは私の味方ですか?」
私は、ピートへ向き直ってそう質問し直した。
「…………」
「答えろよ!」
ピートは何かを暴かれるのを警戒したのか、無言だ。
私は、ちょっとイラッとした。
だって、それって少なからず何かを隠しているって事だから。
「わかったわよ、味方よ。そこに嘘は無いわ。」
【オールグリーン】
「えー、色で教えてくれるのー? 分かりずらいー。」
「オールグリーンは、軍事行動なんかで、異常無し、安全って意味よ。」
「何で質問相手から教えられるのよー。」
「じゃあ、本部は何処ですか?」
「…………」
「おーい。」
「…………」
「それは教えてくれないんだ? じゃあ、私もまだあなた達を信用するのはよそうかな。」
「その質問は、今はまだ勘弁して。そのうち明かす時が来ると思います。」
【オールグリーン】
「成る程ね。この機能はかなり便利な気がする。心は常時発動でお願い。」
【Roger(了解)】
「ところで、夕飯は何?」
「…………」
「無言かよ!」
「…………」
「ねえ、その位喋っても良くない? 夕食の献立に嘘が含まれてたりするの?」
「無いけど、日常会話からどんなボロが出るかわからないじゃない。」
【オールグリーン】
「ほらあ、職業的に守秘義務とか色々有るから、味方でも言えない事とかいっぱいあるのよ。」
【オールグリーン】
うーん、日常会話に支障をきたすのも考えものだね。
「わかったわよ、心解除。」
【Completed(完了しました)】
「ふう、あなたが敵側の手に落ちて無くて良かったわ。」
「オールグリーン。」
「あっ。」
「今の私。似てた? うふふ。」
「もうっ! やめてよね!」
ピーッ、ピーッ、ピーッ……
夕食を二人で食べながら他愛も無い雑談をしていたら、突然警報が鳴り響いた。
「えっ? 何この音。火事?」
「意外と早かったわね、もう少し掛かると思っていたのに。」
「どういう事? ちゃんと説明してよ!」
「さっきも言った敵よ。この場所を突き止められたわ。」
突き止められた、と言う割にはピートは冷静に微笑んでいる。きっと、想定の範囲内なのだろう。
テーブルの下に有るスイッチを操作すると、入り口のドアの部分に金属のシャッターが降りて来た。
外部からの襲撃に備えた装備が、あちこちに施されているのかも。
「さあ、急いでこちらへ。」
ピートがキッチンの床下収納庫を開けると、そこには下へ降りる階段が在った。
私が先に入り、後からピートが入って収納庫の蓋を閉める。
階段を降りた先は、階下のフロアーだった。
そこは、テナントの入っていないオフィスフロアーみたいで、コンクリートの打ち放しのだだっ広い空間だった。
ピートは、壁際の扉を開くと中へ入り、躊躇無く服を脱ぎ出した。
そして、戦闘服へ着替えると、壁に掛かっている銃器を取り、弾薬の予備をベルトに挿し、ナイフのシースも取り付けた。
そして、レバーを引いて銃弾を薬室に送り込むと、私にも衣装変更を指示した。
私は、そんなヤバイ連中が来たのかと、一瞬怪訝な表情をしたのだが、ピートの真剣な顔を見て、直ぐに指示に従う事を選択した。
「ノイータへ変身。」
【Roger(了解) 変身術起動 塑性加工術起動】
私の変身が完了したのと同じタイミングで、先程降りて来た階段の天井部分のコンクリートが赤熱し、鉄骨諸共溶岩の様に溶けて落下して来た。
私達は、灼熱のその破片を避けて、横っ飛びにコンクリートの柱の影へ転がり込むと、大きく開いた天井の穴から、二人の女性がゆっくりと降りて来るのが見えた。
その二人は、スパイ映画に出てくるみたいな黒革のピッチリしたコスチュームに身を包み、頭には空軍のパイロットが被っているみたいな黒いヘルメットを着けている。
シールドの部分は銀色の鏡面に成っていて、顔は全く見えない。
多分、マジックミラーみたいに、内側からはこちらが見える様に成っているのだろう。
一人が耳のあたりに手をやり、何かを喋っている。
「ノイータと名乗る、宝珠に導かれし運命の魔女を発見しました。確保します。」
お願い、その呼び名は勘弁して。




