表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/43

#006 襲撃者の正体

 牙が剥き出しになった口から、今にも断末魔が聞こえてきそうなヨモギ色の小人。

 それが目の前に倒れている。


(まるで蝋人形だ)


 だが、違う。

 そう思うには、細部までリアルすぎるのだ。

 特殊メイクした人かとも考えたが、如何せん骨格が全然異なっている。


 と考えていた矢先に、先の小人は掻き消えた。

 青く粘性の高そうな液体と、その中心に輝く小さな石ころと、片刃の斧をその場に残して。


(これは……魔石、だな。つまり、ヨモギ小人は魔物だった、と言う訳だ。場所からして、倒したのは先に入った爺さんか)


 刹那、額に汗が滲み始める。

 人型をした魔物の登場に、言い知れぬ恐怖を覚えたのだ。


(そもそも、何と言う魔物だ?)


 俺は魔石を拾い上げ、「<ステータス・オープン>」と口にする。

 現れたのは、


————————————————————

名前:ゴブリンの魔石

価値:1

————————————————————


 であった。


(ゴブリン!)


 雑魚モンスターの代名詞だ。

 まるでネズミやゴキブリの如く増え、良く群れるも知能は低い。

 ただし、上位種になると、武技や魔法に長けた者もいるとか、いないとか。


(その魔石の価値がバンパイア・モスと同じ……)


 腑に落ちない。

 が、何かは分かった。

 今はこれで十分としよう。


 そんな事よりもだ。

 ゴブリンはヨーロッパの妖精としても有名だ。

 つまりここは、西洋ファンタージ風異世界なのか?


(ま、そんな事だろうとは思ってたがな)


 何せ、ドラゴンもいたのだから。


 それよりもだ。

 問題は、他にもゴブリンがいる可能性が高い事だ。

 何と言っても相手はゴブリン。

 俺の知る限り、ただ一匹で行動する様な魔物ではない。

 大概、数十匹の群れで行動する。

 武器だけでなく、魔法も扱う。

 考えれば考える程、実に危険な魔物だ。


(やった、ゴブリンだ! 経験値、経験値! などと軽く見てしまうと、返り討ちに遭うだろう)


 だというのに、俺は武具の一つも手にしていない。

 身の危険は明らかだった。


(なので、この手斧は頂戴しておこう)


 青くドロッとした液体が付着していて、とても気持ち悪いがな。


(……意外と軽いな)


 ただ、柄が短い。

 使い慣れた(・・・・・)のとは違い、片手で扱う感じだ。


(こうかな?)


 左手で斧を握り、「ヤァ!」と振り下ろす。

 その直後、恐れていた事が起きた。


「ゴギャッ!?」


 目の前にある建物の影から、一匹のゴブリンが現れたのだ。

 俺を見て、目を丸くしている。

 その手には、錆び付いた短剣が握られていた。


(ゴブリンの強さが分からない以上、煙幕を張って逃げるべきか?)


 ポケットのハンカチに右手をそっと伸ばす。

 が、その前にゴブリンは奇声を発したかと思うと、俺に向かって駆け出した。


(駄目だ、間に合わない)


 迫る手には錆び付いた短剣。

 歯がむき出しの口からは、白濁した涎が溢れ出ている。

 殺る気満々だ。


 恐い。

 だが、死ぬのはもっと怖い。

 しかも、相手はゴブリン。

 垂れ出た涎から察するに、食い殺される可能性が高い。

 恐らくは、生きたままで。


 最初は内臓からか?

 栄養価が高い分、傷み易いって言うからな。

 きっと痛いし、苦しい。

 なら、今すぐ逃げるべきだ。

 だというのに、俺の直感が〝それは無い〟と言っている。


 魔法を使わずに倒せるのか?

 よくよく見れば、迫り来るゴブリンの動きは意外な程に遅い。

 まるで浜に上がった海亀だ。

 これなら、上手く躱せば倒せるチャンスが。


 俺は手斧をしっかりと握り締め、胸の前で構えた。

 右足を前に少し出し、そのやや後ろに左足を置いて。

 俗に言う正眼の構え。

 如何なる状況に対しても咄嗟に対応出来る、現代剣道における基本中の基本として教えられる。


 ゴブリンの動きは、眼でしかっりと追えている。

 そうこうする間に、相手の間合いに入ったらしい。

 短剣が大振りに振り下ろされた。

 それを俺は紙一重、退いて躱す。


「ギャギャ!?」


 打ち下ろした剣先が土を穿った。

 その姿勢のまま驚き、俺を見返すゴブリン。

 両の足は止まったままだ。


 一方の俺はと言うと、退くと同時に手斧を振り被っていた。

 一息に右足から踏み込み、毛が一本も生えていないゴブリンの頭目掛けて手斧を振り下ろす。

 力のあらん限りに。

 その間は僅か一拍子だ。


「トォーッ!」


 手斧が空気を切り裂いた。

 それ程の勢いに乗った一撃を、無防備な頭に受けたゴブリン。

 青い血を振り撒くと同時に、くぐもった悲鳴を上げる。

 ゴブリンは音を立てて、その場に崩れ落ちた。


「やったか?」


 口がパクパクと動いている。

 まだ生きているらしい。

 とはいえ、瀕死の様子。


「頭部に致命傷を負った以上、さすがに動けないみたいだな」


 俺はこの機を利用する事にした。


「<ステータス・オープン>」


 生きたゴブリンのステータスが見たかったのだ。


----------------------

 名前:

 種族:ゴブリン

 性別:雄

 出身:

 所属:

 年齢:3

 状態:瀕死

 レベル:1

 経験値:5


 称号:

 ジョブ:

 スキル:悪食

 魔法:


 体力:1/10

 魔力:2/2


 力強さ:10

 素早さ:6

 丈夫さ:4

 心強さ:3


 運:20

 カルマ:30

------------------------


 思った以上に若いゴブリンだった。

 三歳って、日本だと幼稚園児?

 なのにこのゴブリンときたら、既に経験値を稼いでいる。

 一体、何を倒したんだろう。


(……錆びた短剣に血は付いていない。少なくとも、ここに居る人から得た経験値で無い事は確かだ)


 次に気になったのが各パラメーターだ。

 幾つかが俺のレベル一の時より高い。

 力強さなど、約二割増しだ。

 なのに、遅く感じられた。


(走る速度は力強さに依存しない? それとも、知らず知らずの内に極度の集中状態(ゾーン)に入っていたのだろうか?)


 そうこうしている間に、ゴブリンの体力が零に変わる。

 状態も合わせて変わり、今や「死亡」だ。


(死んだか。で、これをこのまま放置すると……)


 一分も経ずに屍は霧散した。

 魔石と短剣だけを残して。

 本当にゲームみたいだ。


 だが、ここで悠長に構えてはいられない。

 砦の奥からは、未だ喧騒が途絶えずに聞こえていたからだ。


(さて、当初の目的〝襲撃者は何か?〟は判明した。なら、早々にここを後にすべきか? だとしたら何処に?)


 唯一知っているのは、爺さんが教えてくれた別の集落に続くだろう道の在り処のみ。

 ただし、距離が不明だ。

 それにこの空腹。

 このまま夜通し歩いたならば、行き倒れは必至である。


 なら、ゴブリンがこの砦を去るまで何処かに身を潜めるか?

 駄目だな。

 砦を落としたゴブリンが直ぐに去るとは思えない。


 では、ゴブリンを追い払う側に加勢するか?

 追い払った後、爺さんないしは砦の関係者から付近の情報を仕入れる。

 ただ、そうするには問題が幾つかあった。


 爺さんは人間っぽかったが、他の住民が人なのか不明な点だ。

 例え人であったとして、友好的に接する事が出来るのか否か。


(黒奴族とやらは蔑む対象の様だしなぁ)


 それだけは先に確かめよう。

 俺は喧騒のする方へと足を向けた。




 路に沿いつつ、慎重に奥へと進む。

 幾つかの小屋を過ぎた頃合い。


(砦と言うより、もう村だな)


 開けた場所が目に入った。

 そこには、


(あれは、オベリスク?)


 高さ五メートル程もある尖塔。

 ただし、見るべき物は他にもあった。

 爺さん以外の人の姿を、初めて認める事が出来たのだ。


(爺さんと同じくインディアン……と白人の混血っぽいな)


 ただし、状況は芳しくないらしい。

 オベリスクの奥に木柵を張り巡らした大きな建屋があるのだが、そこに人々が立て篭るも、どう見ても劣勢なのだ。

 俺は小屋の陰に隠れ、一先ず様子を伺う事にした。


(ひい、ふう、みい………………)


 二十匹近いゴブリン。

 その中に、取り分け体格の良いゴブリンがいる。

 そいつだけ、何故か獣皮を身に纏っていた。

 この群れのボスだろうか?


 その個体が中心となり、柵を壊そうと躍起になっている。

 対する防衛側はというと、柵の裏に設けたであろう足場の上から棒切れで突き叩き。

 時折、鋤らしき農具でゴブリンを狙うも、有効打には至っていない。


(おや?)


 柵の向こう側に新手が現れた。

 それも、栗毛と赤毛の女がだ。


 栗毛の方が棒状の得物で頻りに突き始めた。

 届くのか? と思っていると、意外にも届く。

 しかも、その一撃を受けただけのゴブリンが、膝から崩れ落ちたのだ。

 やがて、体が消える。

 どうやら必殺の一撃だったらしい。


(凄いな!)


 柵の裏側からも歓声が沸いた。

 一方の、ゴブリンも騒ぎ始めた。

 仲間の死滅を眼にしたからだろうか?

 ゴブリンのボスが、女のいる方にゆっくりと向かう。


「村長! 大きいのが来たわ! 気を付けて!」


「ああ、分かってる!」


 柵の内側から轟く注意喚起に、女がこれまた大声で応えていた。


(あっちの、背の高い栗毛の方が村長なのか……)


 そうこうしている間に、ボスゴブリンが女村長の攻撃範囲に入ったのだろう。

 鋭い一撃が女村長の手から繰り出された。


「チッ!」


「おしい!」


「アイツさえ倒せれば!」


 ボスを討てばゴブリンの群れは散り散りとなる。

 そんな意味合いに取れた。

 それを証明するかの様に、女村長は柵から身を乗り出し、ボスだけを執拗に狙う。

 だが、このボスゴブリンはそれを知った上でなのか、柵により近づいた。


(何か考えがあるんじゃないのか?)


 思った通りだった。

 件のボスは柵の上にいる女村長を釣り出すかの様に動いたかと思うと、


「えいっ!」


 自身に鋭く突き出された得物を掴み、


「ゴギャ!」


 彼女を柵の上から引き摺り落として見せたのだ。

 途端に騒ぎ始めるゴブリン達。

 それを甲高い一吠えで彼らの長は黙らせた。


 のしのしと歩み、女村長の下に向かうボスゴブリン。

 他のゴブリンはというと、遠巻きに囲むのみ。


「そ、村長! 今すぐ助けに……」


「駄目よ! 助けが来るまで篭ってなさい! それよりも何か武器を頂戴! この命を賭してでも、アイツを倒して見せるわ!」


 女村長が悲壮な覚悟を込めて叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝です!
『部将が人型ロボットに乗って戦うなんて、こんなの三国志じゃない! 〜七星将機三国志〜』
後漢末期の中国が舞台となる戦記物です。袁紹や曹操と言った群雄相手に現代青年が争うお話です
こちらもお気に召して頂ければ幸いです!

以下のリンクをクリックして頂けますと、「小説家になろう 勝手にランキング」における本作のランキングが上がります!
小説家になろう 勝手にランキング

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ