表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/43

#041 ブレイザー

喫煙者(スモーカー)?」


 誰かが問うた。


「魔法の煙で狼煙を上げた者だ」


 女神以外の視線が、俺に注がれる。


「お前か」


 女神が一歩俺に近づく。

 すると、何故かイーノスが、俺と女神の間に割り込んだ。


「命を助けて頂いた上で大変失礼なのですが、貴女様の御名は? あぁ、重ね重ね失礼を。私の名はイーノス、祈祷士に御座います」


 女神は一瞬目を丸くしたかと思うと、軽く微笑む。


「オォ……」


 誰かがその笑みの余りの神々しさに息を漏らした。


「そうだったな。だが、戦場故に手短にさせて貰おう。私はヴァネッサ。火炎使い(ブレイザー)だ」


炎使い(ブレイザー)のヴァネッサ……もしかして、四天のヴァネッサ様!?」


「知っているのか、マッシュ?」


「マシューです」マシューは自らの名を訂正し、先を続ける。「知っているも何も……」


 だが、女神が遮った。


「ああ、そのヴァネッサだ」


「なら、先の矢は?」


「ただの<火矢(イグニス・サギタ)>だが?」


(火矢……つまり火魔法? 俺の煙魔法と全然違う! 何をどうしたら、あの様に操れるんだ?)


「おお、あれがヴァネッサ様の……」


(それに、実体の無い火で頭蓋骨を貫通? 有り得ないだろ……)


 俺の疑問をよそに、イーノスが話を進めていた。


「ヴァネッサ様が何故この様な場所にいらっしゃるのですか? 確か、遊撃の任に就かれたと耳にしましたが」


「とある者に頼まれてな。時に隊長の、エルマとやらは何処にいる?」


 皆、途端に口を噤んだ。


「もしや、死んだか?」


 誰も答えようとしない。


「こう見えても急いでいる身なのだがな?」


 雲が太陽を隠す様に、女神の美しい顔に影が差し始めた。

 堪らず騎士ミランの従士オルテガが、


「実は先の魔物との戦闘に際し、エルマ様は……」


 戦意を喪失、見かねた従士の一人が彼女を抱えて帰還したと告げた。


「一度ならず二度までも、か。領主嫡子の婚約者候補筆頭であると伝えられたから、事のついでに助けに来たのだが……。終わったな」


 女神がそのご尊顔を曇らせる。

 どうやら、利害関係のまるで無さそうな女神すら落胆してしまう程の、致命的な失態を女騎士は犯したらしい。


(彼奴からは嫌な言葉を散々投げ付けられたが……婚姻が破談になると言うなら、流石に同情を禁じ得ないな)


「時間が惜しい」女神の顔が切り替わった。「私はこのまま敵陣深く切り込み、統率者を討つ。お前達はこのまま野営陣地に戻れ。務めは十分に果たしたと、私が口添えしよう」


「助かります」


 とイーノスが答えた。


「では、また会おう」


 女神が手を掲げる。

 俺達もまた手を振り返そうとしたのだが、女神の姿は既に無かった。


「……言葉に言い表せない程、凄かったな」


 色々と。


「ええ、本当に」


 少し離れた所に居る兵士と従士もまた、興奮冷めやらぬ様子だ。


「四天のヴァネッサ様! 初めてお目に掛かれた!」


「エルマ様の従士になって、この日ほど胸の高鳴りが抑えられない時はありません!」


 だが待て。

 そもそも俺達は、もっと喜ばしい事があったじゃないか。


「おい、お前達! 気付いてるか!?」


「何をです?」


「あの絶望的な状況から生き残れた事をだ!」


「確かに!」


「それもこれも、全てイーノス殿のお蔭で御座います!」


「ええ、イーノス様の〝予感〟に助けられました!」


「正にイーノス様は命の恩人!」


 そう、イーノスが道を指し示してくれなければ、今頃は化け物に喰われていた。

 故に、


「イーノス万歳!」


「祈祷士様、万歳!」


「イーノス様に、神の祝福を!」


 俺達はイーノスを中心として、輪になって抱き合った。

 つい先日まで非人とまで蔑まれていた俺を含め、従士兵士の身分を差を忘れて。

 喜びを爆発させたのだ。

 ただ一人、再び青い顔をし始めたイーノスを除いて。


「どうした、イーノス。お前も一緒に喜ぼうぜ」


 俺が誘うも、彼は焦点の合わぬ目で虚空を見つめながら、


「い、いけない」


 と呟いた。


「ん、何が?」


「ヴァネッサ様! そちらに行かれてはいけない!」


「……祈祷士様?」


「ヴァネッサ様がどうされたと言うのだ?」


「イーノス! おい、イーノス! しっかりしろ!」


 俺がイーノスの体を揺さぶると、虚ろだった彼の目が正常に戻る。

 それが、俺を捉えた。


「ルイ君! ヴァネッサ様が大変な事に!」


 続いて、気が触れたかの様に喚き始めた。


「落ち着け、イーノス! 一体、何を見たんだ?」


「これが落ち着いていられますか! ヴァネッサ様が、ゴブリンの王の慰み者にされてしまうのですよ!」


 ゴブリンの王って、もしかしなくてもゴブリン・キング?

 ゴブリン・ジェネラルよりも当然強いよな?

 名前からして間違いない。

 俺が相手では、手も足も出ないだろう。

 だがな?


「ゴブリン・ジェネラルをただの火矢で屠れる女神……ヴァネッサ様がゴブリンの王如きに負ける訳が無い」


「いえ、負けてしまわれます!」


「何でそう言いきれる? もしかして、予感か?」


「いいえ、違います!」


 違うのか。

 俺は安堵した。

 だが、次の瞬間には危機感を否応無しに煽られる事に。


「予知です!」


「予知ですと!?」


「知っているのか、従士オルテガ?」


「ええ。予知とは高位の祈祷士のみが得られるスキルです!」


「と言う事は……」


 俺はイーノスの手首を掴み、


「<ステータス・オープン>!」


————————————————————

 名前:イーノス

 種族:人族

 性別:男性

 出身:ローダンテ

 所属:タリス

 年齢:18

 状態:健康、興奮

 レベル:10

 経験値:910


 称号:

 ジョブ:祈祷士

 スキル:予知、予感、荷箱、不幸耐性、空腹耐性、疲労耐性、生活、心労耐性

 魔法:祈祷魔法


 体力:15/47

 魔力:20/28


 力強さ:13

 頑丈さ:30

 素早さ:10

 心強さ:28


 運:54

 カルマ:61

————————————————————


 以前、イーノス自身がレベルは三だと言ってたよな?

 僅か数日でレベル十にまで上がっただと!?

 そして何よりも注目すべき点が、スキル欄に<予知>がある事だ。


「決まりです!」


 イーノスの鼻息がますます荒くなった。

 まるで胃の腑に燃え盛る薪があるかの様に。

 無理やり蓋をしたら、その火は消えるのだろうか?


(……無理だな。その類の熱では無い)


 ならばと、俺は熱を一秒でも早く吐き出させる。


「何がだ?」


「僕の見たものが、現実になると言う事がです!」


「つまり?」


「僕とルイ君が、ヴァネッサ様を救いに向かう事がですよ!」


「何故そうなる? 俺とお前の姿が予知で見えたのか?」


「違います! 見えたのはヴァネッサ様が辱めを受けている姿です!」


「じゃぁ、俺達が行っても助けられるとは限らないだろ?」


 そもそもだ。

 ゴブリン・ジェネラルに為す術なく(もてあそ)ばれたのだから。

 より上位であろうゴブリン・キング相手に、囚われの身となるであろう女神を救い出せる筈も無い。


 だと言うのに、


「そうすべきだと、僕の予感が言ってるのです! 僕達が向かえばヴァネッサ様は助かる、と!」


 とイーノスが断言する。


「お、俺も行く!」


「わ、私も……」


 兵士マシューと従士ガイアが競うかの様に手を挙げ出すも、


「待て!」


 と俺が声を張り、やめさせる。

 その上で、


「助けに行くのは、俺とお前だけなのか?」


 イーノスの目を俺は覗き込んだ。


「はい。僕の予感が告げます」


「それが〝最善〟な予感か?」


「ええ、他の誰一人傷付かない、最良の結果を約束します!」


 なら仕方がない。


「従士オルテガ!」


「お、おう!?」


「俺とイーノスだけで女神ヴァネッサを救出に向かう」


「し、しかし、お前達だけでは……」


「最良の結果を得る為だ。仕方がない」


「ですが!」


 と兵士マシューが叫んだ。


「分かってるって。だからこそ、お前達に頼みがある」


「な、何だ? 何でも言ってくれ!」


「それは……」


 俺は彼らに告げると、


「本当に共に行ってくれるのですか?」


 二手に別れた。


「今更それ言う?」


「すいません。思わず口にせずとも良いことを……」


「助けられるなら、行くしか無いだろ!」


 名を知る人が傷付き、その結果何処かの誰かが悲しむ。

 そう考えると、もう足を止められない。

 それが俺の、性分、なのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝です!
『部将が人型ロボットに乗って戦うなんて、こんなの三国志じゃない! 〜七星将機三国志〜』
後漢末期の中国が舞台となる戦記物です。袁紹や曹操と言った群雄相手に現代青年が争うお話です
こちらもお気に召して頂ければ幸いです!

以下のリンクをクリックして頂けますと、「小説家になろう 勝手にランキング」における本作のランキングが上がります!
小説家になろう 勝手にランキング

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ