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#040 ジェネラル無双

 必死の形相を浮かべ、森を駆け抜ける俺達。

 その背後から、


——ブゥン!!


 と迫る風切り音。


「ひぃぃ!?」


「振り返るな、従士ガイア! 今は何も考えずに走れ!」


 直後に破砕音。

 木がメキメキと倒れる音が更に続く。


——ゴギャ!


 ゴブリン・ジェネラルが怒りの声を上げた。


「イーノス!」


「何です、ルイ君!?」


「本当にこっちで合ってるのか!?」


「僕の予感が外れた事がありましたか!?」


「そんなに付き合い長く無い!」


 その間にも、更に一本の木がゴブリン・ジェネラルによって折られた。


——ゴギ!


 憤怒の雄叫び。

 木が折られるペースが、明らかに上がった。


「イーノス!」


「今度は何です!?」


「疲れた!」


「僕もですよ!」


「なら、そろそろ反撃といこうぜ!」


「断ります!」


「なぜに!?」


「嫌な予感しかしないからですよ!」


 そんな馬鹿な!? と思うも、確かに妙な違和感がする。

 そしてそれは、


「祈祷士様、それにルイ殿、ゴブリンが後ろに居りませんぞ!?」


 と言う形で現れた。


「諦めたのか!?」


 俺は走る速度を緩めようとする。


「足を止めてはいけません!」


「どうして!?」


「悪寒がより酷くなったからです!」


「何を馬鹿な……」


 と俺が言い終わる前に、衝撃的な出来事が起こる。


——ビュン!


 と音がしたかと思うと、矢の如く放たれた丸太が俺達を追い越し、駆ける先の地面に突き刺さったのだ。

 束の間、誰も声を発しなかった。

 いや、発せなかった。


「……信じられません」


「どうやったら、丸太で投げ槍を始められるんだよ!」


 しかも、行く手を塞ぐかの様に。


「もう、駄目だ……」


 従士の一人が心を折られた。

 俺はそんな彼に対して、


「まだ諦めるな、従士オルテガ!」


 と励ます。


(思わず口走ってしまった)


 柄にも無く。


「でも……」


(ええい、ままよ!)


「俺なんてな! ドラゴンに襲われそうになっても、人喰いグマに襲われそうになっても、髭爺に襲われそうになっても、一度も諦めなかったぞ!」


「義理の祖父になる方が紛れてる気がするのですが……」


「ウルセェ!」と俺はイーノスに怒鳴った後、更に言葉を続ける。「お前達は一体、何の為に従士になったんだ!」


「従士になった理由? それは……」


 従士の脚に、力が戻った。


「そうだ! それで良いんだよ!」


 その間も、丸太が嫌な音を立てながら頭上を通過する。

 行く手を度々塞がれるも、


「イーノス!」


「左です!」


「よし! 皆で生き残るぞ!」


「はい!」


 俺達は揃って命脈を保った。


(このまま行けば何とかなるか?)


 そう考えたのは浅はかだった。

 ゴブリン・ジェネラルが新たな手を打って来たからだ。


「嘘だろ!?」


 頭上から届く風切り音が幾重にも重なって届く。

 やがてそれは事実として突き付けられた。

 ほぼ同時に、二本の丸太が森の中に穿たれたのだ。

 兵士の一人が、


「もう、駄目……です。自分が犠牲に……」


 と漏らす。

 俯き加減だからか、物憂げな眼差しをしていた。

 俺は彼に並走する。


「諦めんな!」


「しかし、誰かが……ぎ、犠牲になら……ないと、このままでは……」


 唇を噛み締める兵士。

 俺よりも明らかに十は年嵩のいった男がだ。


(独り身って訳じゃ無かろうに)


 だからこそ、


「犠牲になるのはお前だけじゃない! お前の家族もだぞ!」


 と俺は叱咤した。


「くっ!」


 兵士の目に再び光が点った。


(よし! まだまだ行ける!)


 が、そう思えたのは束の間。

 今度は同時に三本もの丸太が、ほぼ同時に行く手を塞いだのだ。


「なっ!? 一体どうやって?」


 二本ならまだ分かる。

 左右の腕に一本ずつ持って投げればな。

 普通の人間には無理だがモンスター、それもゴブリン・ジェネラルならば出来よう。


(だが、三本!?)


 不可能だ。

 そもそもだが、一体どうやって枝を払ったんだ?

 そう考えている間にも、更に三本の丸太が大地を穿った。

 既に生えている樹木の合間を埋める様に。

 壁だ、丸太の壁が出来ていた。

 まるで、タリス村の様に。

 先頭を行く男の足が止まるのは仕方がなかった。


「イーノス!?」


 俺の声は上擦っていた。

 だからだろうか?

 呼ばれた男は何一つ反応を示さない。

 今一度、俺は彼の名を呼んだ。

 すると、彼は答えた。


「ここまでですね」


「え? 何を言って……」


 刹那、俺をこれまで感じた事のない悪寒が背後から襲う。

 慌てて振り返ると、木々の先にゴブリン・ジェネラルの姿が。

 走りながら手首のスナップだけで針葉樹を伐り倒し、それを、


——ギギグッ!


「まさかあれは……」


「ああ、風魔法だ……」


(風魔法だと!?)


 風の刃によって一本の丸太に変えていたのだ。


(信じられない……)


 俺が得た煙魔法との、余りの違いに。


(風を自在に操れてる)


 そんな事が可能なのか?

 それとも種族ないしは個体差か?


「な、何が……」


「ルイ君?」


「一体、何が違うって言うんだ!」


 俺は、


「<煙よ(フームス)>!」


 魔法を発した。

 ゴブリン・ジェネラルに向えと強く念じながら。

 足元から発した煙が勢いよくゴブリン・ジェネラルに向う。


(で、出来た!)


 俺は思わず破顔した。

 ところがである。

 次の瞬間には、


——ギ!


 腕を突き出しただけのゴブリン・ジェネラルにより、煙が空高く巻き上げられてしまったのだ。

 まるで、空気の壁があるかの様に。

 だが、真の問題は、


「ルイ君、いけない!」


 一連の行動によって、ゴブリン・ジェネラルの注意を引いてしまった事である。


(!?)


 ゴブリン・ジェネラルが準備体操の如くグルリと首を回した後、俺に向かってニタリと笑った。

 そして、


(来る!)


 バネの様に飛び跳ねようとする。

 見る間に膨れ上がる大腿筋。

 針で突けば破裂しそうな程だ。

 それが一気に弛緩していく。

 その刹那、


——ヒュン!


 離れた木立の合間から妙な音が響いた。

 見ると、白い矢が目にも留まらぬ速さで木立ちの合間を抜け、ゴブリン・ジェネラルに迫る。

 いや、違った。

 矢、それ自体が白く光っているのだ。


 慌てて体勢を整えるゴブリン・ジェネラル。

 やがて、煙を払った時の様に腕を突き出した。


——ギ!


 伸ばした先の空間が一瞬、光輝いた。


(あれは魔法陣! もしかして、あそこに風の壁があるのか?)


 発光する矢が、無色透明な壁に衝突する。

 正にその瞬間、


「なっ!?」


——ゴギャァ!?


 矢が目に見えぬ壁の直前で迂回したかと思うと、ゴブリン・ジェネラルの背後へと回り込み、


「あっ!」


 と言う間に脳天を貫いたのだ。


「嘘だろ……」


 俺の呟きに対して、「そんな事は無い」とばかりにゴブリン・ジェネラルが崩れ落ちる。


「矢が……曲がった」


 誰かもまた、驚きの声を漏らしていた。

 ゴブリン・ジェネラルの屍が魔石と鎧を残して消える。

 それを、視界に突如現れた女性が、


(誰? って言うか、いつの間に!?)


 拾った。

 その魔石は、次の瞬間には手から消えていた。


(な、何が起こった!? てか、何者?)


 彼女はオレンジに近い赤毛を、後ろで無造作に纏めていた。

 首から下には革鎧を身に纏っている。

 鎧の隙間からは、日焼けした身体がこれでもかと自己主張していた。

 まるで戦いの女神が現世に顕現したかの様に。

 男達は皆、その女神に目を奪われた。


 女神が振り返り、


「で、スモーカーはどいつだ?」


 と口を開いた。

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