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#038 タリス村奪還作戦

「中蔵を馬鹿にするな!」


 背後で誰かが叫んだ。

 その直後、膝下に体当たりを食らい、俺は頭をアスファルトに打ち付けた。

 誰かが側に駆け付け、俺を抱き起す。


「類、大丈夫!? 意識はある!?」


「……か、体が動かせない」


「嘘……嘘でしょ? 類!!!!」


「僕はただ……中蔵を守ろうと……」


 と言ったのは……誰だ?


「気安く私を呼ばないで! そもそも、貴方は誰なの?」


 思い出した、ラガーマンだ。


「え!? 僕は君達と同じクラスの……」


「貴方なんか知らない!」


 聖羅が叫ぶと、ラガーマンの顔が蒼白に変わり……


「嘘だろ……、席も隣同士で、今朝だっておはようって……」


「あ、待ちなさい! 類にこんな事して、ただで済むと思ってるの!」


 走り出す二つの人影。


(お、痺れが取れてきたな……)


 俺はボーッとする頭を抱えながら、(おもむろ)に立ち上がった。

 そんな俺の耳に甲高い車のブレーキ音と、鈍い衝突音が立て続けに届く。

 更には……


「キャーッ!」


 聖羅の悲鳴。

 それに、車が急加速した際に起こる、タイヤ音が重なった。


「やだ、息してない。だ、誰か……誰もいない! はっ、ルイに救急車を呼ばなきゃ……」


 聖羅は混乱している様子。

 そんな彼女の足元が、


「な、何よこれ!?」


 突如光始めた。

 その光は彼女を中心に広がり、俺をも包み、次の瞬間には……




「……ヌシもようやっと目覚めたか」


 シド爺の顔が、俺を心配そうに覗いていた。


「……知らない天井だ」


「人の顔見て、何を言うかと思えば」


 お約束だとは言えなかった。

 そんな事よりもだ、


「ここは……領都だよな?」


 確か、這々の体で辿り着いた筈。

 ただ、その後の記憶が、まるで無かった。


「心配か?」


「ああ。爺さんが居るから、あの世かもしれない」


「ぬかせ。ここは領都、それも領主官邸じゃよ」


「何!?」


 よく見ると、俺はふかふかのベッドで寝ていた。

 それだけでなく、豪華な室内装飾。

 こんな待遇を受ける謂れの無い俺に、爺さんが経緯を語り始めた。


「ヌシの活躍は生き残った騎士らの証言で判明しておる。それを直に確認された領主様がヌシらの面倒を官邸でみよ、と命じられてな」


 領主直々の命で、特別待遇を受けているとか。

 俺は体を起こした。


「イーノス! それに他の奴等は!?」


 あいつも祈祷魔法を使い過ぎ、最後は鼻血を垂らしていた筈。

 無事だとは思えなかった。


「彼奴()無事じゃ。回復魔法を受けた後一眠りし、今は……孫娘と一緒じゃよ!」


 シド爺は最後吐き捨てた。


「そっか。あいつは無事だったか……」


 俺は言葉とは裏腹に唇を噛み締め、再び横になった。


「キリクは?」


「レイナと共にサムの店におる。ヌシも会いたいじゃろうと思うて連れて来たのじゃが、戦時の官邸に子供は入れなんだ」


「そうか……」


 丁度その時、部屋の外を大きな足音が幾つも響く。


「随分と騒がしいな」


「ヌシらが持ち帰った報せの所為じゃな」


 何でも、俺達を追いかけたゴブリンが、途中一斉に引き上げた事があった。

 原因は勿論、アーマンの祈祷魔法だ。

 巨大な閃光が空を貫いたな。

 ただし、物珍しい現象が起きたからと言って、ゴブリンが目の前の獲物を放って戻る筈も無く。


「ゴブリンの親玉に何かあった、と領主様は見ておる」


 要するに、この機を逃さず、一気に攻める事にしたらしい。


「正気かよ……」


 一万のゴブリンが相手何だぞ?

 対する領軍は精々千とか二千じゃ無かったか?

 それも、徴兵した領民を入れてだ。


「ヌシが心配するのも無理は無い。このワシも止めた口じゃ」


「だったら!」


「だが、前提が変わったのじゃよ」


「何!? もしかして、強力な援軍でも来たのか?」


「その通りじゃ」


「マジかよ! 千か? 二千か? いや、そんな少勢じゃないよな? もしかして、一万とか二万か?」


 俺はこの後、シド爺からの答えに衝撃を受けた。


「援軍は一人じゃ」


 耳が急に聞こえなくなる。

 そんな気がした。


「……………………………………………………何だって?」


「援軍は一人じゃ」


 何言ってんだ、この爺は。


「何言ってんだ、このクソ爺は」


「誰が、クソ爺いじゃ!」


「あんただよ! 援軍が一人だ!? そんなので、あれを押し返せる訳がねーだろうが!」


 俺は身を持って味わったのだぞ。

 圧倒的な数の暴力を!

 あれを相手にたった一人で戦う、いや、数秒耐える事すら不可能だ。


「ヌシは知らぬのよ」


「何がだよ!」


「四天と呼ばれる者の強さを」


「四天? 何だそりゃ?」


「四天ヴァネッサ。人の身にして神の化身に最も近しい、地上における最高戦力じゃよ」


 それは、何時か何処かで耳にした名だった。




  ◇




 イーノスが女村長との再会を楽しんでいた頃、同じく官邸の一室で領主自らが客を持て成していた。


「ヴァネッサ殿、御足労痛み入る」


 それは、赤毛をド派手にカールした女だった。

 大きな口に肉厚の唇、燃えるような瞳。

 肉食動物のようにしなやかな身体をしていた。


「礼なら、勇者を召喚した王都の馬鹿どもに言うのだな」口調は硬く、顔は尚更硬い。「そうで無くては、娘の許嫁を救われただけで、このヴァネッサは動けぬ」


「それでも感謝を」


「しかし、ゴブリン如きに随分と難儀しているらしいではないか」


「はい。一万と言う数もさることながら、ジョブを有するゴブリンの存在が大きいかと」


 それは過去に無い事態であった。


「それだけではありま……」


「エドワード、言葉遣いが気持ち悪い。以前の様に話してくれ」


 領主はニヤリと笑った。


「……ちっ、嬢ちゃんの頼みじゃ、仕方がねぇなぁ」


 ヴァネッサの顔も緩んだ。


「こちらは無駄に肩が凝った」


「過去は兎も角、今は貴族の端くれ何でな。で、本題に戻るが……」


 領主のエドワードは先遣隊が持ち帰った情報を全て伝えた。


「ジョブ〝レンジャー〟に、物見櫓を破壊した火球。それに、統率の取れた動き、か」


「ああ、厄介この上ねぇ」エドワードは手元の盃を呷った。「危うく、長男の恋人を死なせる所だったぜ」


「そうならぬ様、最低限の手は打ってあったのだろう?」


「あったりめぇだ。俺を誰だと思ってる」


「稀代の詐欺師、エドワードだとも」


「ありがとよ! で、問題はこの後の反撃に出るタイミングなんだが……」


 二人の会話はごく短時間に終わる。


「何だ、結局このヴァネッサの力押しでは無いか」


「それが一番被害が少なく、確実だからよ。だが、嬢ちゃんもその方が良いんだろう?」


「当然だ。余計な策を弄して、貴重な時間をこんな辺境で過ごしたくは無いからな」


「だろうねぇ」


 ヴァネッサはフフと笑った。


「ああ、但し、注文が一つある」


「何だ?」


「煙魔法を使う非人とやらを、このヴァネッサの側に配置してくれ。聞いた事もない魔法ゆえ、近くで見てみたい」


「お安い御用だ」


「では乾杯しよう。約束された勝利に」


「ああ、俺達の勝利に」


 二人は盃を鳴らし、一息に呷った。




  ◇




 翌日の日の出と共に、俺はイーノスやその他徴募兵と共に、領都の広場に集められていた。


(まさか、逃げる間も、それどころか、その相談をする為にキリクと逢う暇すら無いとはな)


 来た者から列に並び、順に隊分けされている。

 俺も、それに倣った。


(一万ものゴブリン、それもジョブを有する奴等相手に勝てる訳が無いと言うのに)


 イーノス曰く、アーマンの弔い合戦だからもある、とか。


(アーマンが俺達を救う為に犠牲になったから?)


 そんな訳あるか。

 あれは、自分が遣りたい様に逝っただけだ。


(なら、如何して俺はこんな場所に居る? 一人でなら逃げられた)


 決まってる。

 キリクを見捨てられないからだ。

 加えて……


(あの時、互いに命を預け合った仲間達の〝仇〟を討ちたい!)


 すると、


「おい、下賤! 貴様はこっちだ!」


 死の撤退戦を、文字通り飛んで逃げた女騎士が俺を呼んだ。


(げぇ、無事に帰り着いていたのか。と言うことは……)


「勿論、イーノス殿もです!」


 空飛ぶ騎士も無事だった。

 どうやら、俺達を自身の隊に組み込む目論見らしい。

 俺とイーノスは互いの顔を見合わせ、計ったかの様にげんなりする。


「どうする、イーノス?」


「聞こえない振りをして並んでも、引っ張られそうですしね」


「彼奴らの隊、かぁ」


「危なくなると、また逃げられる気がします」


「それ、予感?」


「ただの勘ですよ」


 俺はイーノスの後に続いた。

 何かあったら、彼に対応を任せる為に。

 それに今、彼らと面と向かい合ったら、余計な事を口にしてしまいそうだから。


「貴方達の働きは見事だったそうね! 私の従士が手放しで褒めていたわ!」


「……それはどう致しまして」


 女騎士の言葉に、温厚な筈のイーノスが、若干イラっとして答えた。


「ボウスキル家を代表して、礼を言う!」


僕達(・・)は出来る事を為しただけですよ」


 そう、あの場に取り残された俺達は、そうするしか無かった。

 それが出来なくなった奴から、いつの間にか居なくなってたんだ。


 そしてそれは、この後に繰り広げられた、タリス村奪還戦でも同じだった。

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