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#034 野営陣地

 領都ウェリスから街道を北東に歩く事一日余り。

 そこに、森を切り拓いて建てられた村、タリスが在った。


 開拓されたばかりの当時は、小さな畑一つ作るのにも大変な思いをしたらしい。

 特に苦労したのが、伐採した巨木の切株と根だったとか。

 切株は硬く、斧の刃を寄せ付けなかった。

 苦労して切株を取り除いても、今度は根が邪魔をした。

 根を取り払うには、周囲の土を全て掘り起こす必要があった。


 その様な苦労を数十年以上経て漸く、領都に住まう民の胃袋を満たす耕作地が得られたのだ。

 だが、その周囲には未だに深い森が残っている。

 当時は熊や猪の獣が、今ではゴブリンなる魔物が支配しているとか。

 俺は今、その中を子供が書いた様な地図を片手に探索している。


(このままだと、回復苔が採れた巨石のあった場所に出るな)


 ゴブリンの繁殖地(コロニー)があった場所を目指して。

 メンバーは探索隊の隊長である騎士エルマとその従士三名に加え、騎士見習い(<生命探知>持ち)とその従士、更には斥候役と思われる兵士三名に俺、そして若シャーマンことイーノスであった。

 騎士は流石に軽装備である。

 因みにだが、イーノスが同行している訳は、


「シド元村長が居ない以上、僕にしか森の中を安全に案内出来ませんから」


「祈祷士が居ればより確実性が増す。同行を許そう」


「有り難うございます」


 などの遣り取りがあったからだ。

 この世界の祈祷士は、騎士にすら頼られる存在らしい。

 特異なスキルでも有るのか?

 いずれ、ステータスを見せて貰おう。


 更に森の中を進むこと三十分、森が以前にも増して静かな事に俺は気付いた。

 加えて、空気が妙にひりひりしている。


(この感じ……ゴブリン・レンジャーに奇襲された時と似ているな。斥候役の兵士を前に出しているとは言え、全然安心出来ないぞ)


 やがて、巨石の有る場所に差し掛かるだろうと思われた頃合い、ゴブリンの集落と思わしき場所を斥候が発見した。


「間違い無く、コロニーであったと言うのだな?」


「そ、それが……」


 兵士曰く、繁殖地とは思えなかったらしい。


「何故だ?」


「ゴブリン供は皆武器らしき物を携えており、まるでこれから戦場に向かうが如し」


 つまり野営陣地だった。


「それは……」


(直ぐ知らせに戻るべきだな)


「強襲し戦功第一を得る、願ってもない機会だ!」


(何故なのか?)


「いえ、直ぐに戻り報告すべきです!」


 俺やイーノス、更には兵士が同意する仕草をあからさまに見せるも、


「見習い風情が!」


「何と言われようと、即刻注進すべきです!」


 騎士同士で揉め始める。


「一体全体、女騎士はどうしてああも強襲に拘るんだ?」


 俺はイーノスに訊ねた。


「ゴブリンにとって日中は寝る時間帯です。つまり、夜襲を仕掛けたいのでしょう」


「いや、無理だろ?」


 それは自明の理だ。


「何故です?」


「そこの……確かルイと言ったか。何でそう思った?」


「姿は見えないが、歩哨が必ずいる筈だ。野営陣地ならな」


「ゴブリンにか? 何を馬鹿な事を。魔物の中でもゴブリンは賢しくない部類。見廻りなどする訳が無い」


 どうやら認識が改まってないらしい。


「おい、女騎士……」


「騎士エルマ様です。言葉に気を付けて下さい。貴族に対する不敬は鞭打ちですよ?」


 そうだったな。


「失礼。エルマ様、お忘れでしょうか?」


「なにをだ?」


「現に〝レンジャー〟なるジョブを有するゴブリンが存在した事実を。レンジャーが斥候を担うなら、歩哨を担うゴブリンが居てもおかしくはない。それどころか、魔導士や戦士に騎士、それらを指揮する指揮官、将軍みたいなジョブ居るかも知れないのです」


 現に、俺の世界には居たぞ?

 ゲームの中では、だがな。


「ば、馬鹿な事を申すな……」


「いえ、検討に値する内容かと存じます」


 見習い騎士の言葉に、束の間皆黙りこくった。


 それにしても俺は不思議に思う。

 煙を全く感じない事に。

 魔物は火を使わないのだろうか?


「ゴブリンは火を炊かないのか?」


「火を恐れますからね」


 そうなんだ。

 まるで、野生動物だな。

 とあるゲームのゴブリン・メイジはファイアー・ボールどころか、ファイアー・ストームっぽいのまで放っていたと言うのに。

 いやそれどころか、魔法少年が活躍する小説のゴブリンは魔法剣を作り出すどころか、ロンドンのシティで銀行を営んだりまでしてた。


「僕からも質問があります。この先の野営地には何匹程のゴブリンがおりましたでしょうか?」


 と訊ねたのはイーノスだ。


「およそ八千です」


 ん? 確か以前耳にしたゴブリンの総数は一万だった筈。

 残り二千どこ行った?

 同じ事を考えたのか、俺と見習い騎士が渋い顔を見合わせる。

 なのに、


「うふ、うふふふふふ……」


 女騎士が気持ちの悪い声を漏らし始めた。


「歩哨が居たとして、それが何だ。この野営陣地を強襲し混乱に陥れば、戦功第一は間違いなく私に。そしたら、ああ、私は晴れてユアン様のお側に……」


 更には、顔が上気する。


(……何を想像しているのか知らんが、ただただキモイ)


 こんな場所で妄想に耽る変態など無視だ、無視。


「見習い騎士、これから取るべき行動は……」


「ルイ君、見習い騎士でもフィリップ様は騎士です。敬称を付けて呼ぶべきです」


「そうか」俺は頷いた。「見習い騎士様……」


「フィリップで頼む」


 俺は仕方なくやり直した。


「フィリップ様、エルマ様はエルマ様の従士に任せ、我等だけでも先に戻り、事の次第を伝えるべきだと愚考致します」


「しかし、エルマ殿は我等が隊長。その方を残して我等だけが……」


 そのエルマだが、未だにのぼせ上っている。

 回復するまで、今少し掛かりそうだった。


「エルマ様は野営陣地における戦力を把握する為、最後まで残られる事を志願されたのです。私達は泣く泣くエルマ様最後の命に従い……」


 俺は女騎士の従士を気遣い声を落とす。

 主人の下を離れられない者達に配慮したのだ。

 案の定、彼らは顔を青くしていた。

 フィリップも一瞬視線を移し、直ぐに戻す。


「そうであった。では直ぐにでも我等四人だけで転移(サルトス)しようぞ」


 善は急げとばかりに、俺とフィリップの従士が彼の周りに集まる。

 その刹那……


「貴様ら、黙って聞いておれば勝手な事を言いおってからに……」


 女騎士の低い声が背後から響く。

 俺は振り返った。


「おお! エルマ様が正気に戻られたぞ!」


 見ると彼女は、妄想世界から戻った筈だと言うのに顔がまだ赤い。


「貴様! 平民の分際で騎士である私を愚弄する気か!」それどころか、怒りに震えていた。「貴様も同罪だ、フィリップ! この様な下賤の口車に乗ろうとするなど、次回の考査を覚悟しておけ!」


「エルマ殿が悪いのです! 我等だけで八千ものゴブリンが居る野営陣地を攻めようなどと口走るから……」


 再び、騎士同士の口論。

 すると突然、半ば空気化していたイーノスが、


「いけない!」


 と声高に叫んだ。


(何を急に、人型ロボット兵器に搭乗して戦う天然パーマみたいな事を……)


 悠長に構えていたのは俺だけ。


「如何した、イーノス殿!?」


 正に鬼気迫る様相で女騎士が詰め寄った。


「ここは危険です!」


「真か!?」


 そこに、斥候らが相次いで戻って来た。

 彼らは慌てふためき、息を切らしている。


「野営陣地に動き有り!」


 続いて、


「ゴブリンがこちらに向かっております!」


 更には、


——カァーーーーーーン……


 と音が響いた後、近くの木に矢が突き刺さった。


「逃げろ!」


 女騎士の声を待たず、皆本能のまま一斉に駆け出す。

 その時、視界の端で捉えた野営地からは、ゴブリンが一斉に湧き出していた。

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