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#032 逃げない

——タリス村に迫るゴブリンを迎え討て


「ルイ、あたしと一緒に逃げよう? 昨日今日領民になったあたし達にそこまでする義理ないよ」


 キリクが涙目で訴える。

 俺は燃え盛る怒りの中におり、即答出来なかった。


「……悪い、キリク。少し冷静に考えたい」


 領主令を無視し、遠く離れた何処かにキリクと一緒に逃げる。

 その選択肢が本当に無いかと言えば、実はそうでもない。


 なんと言っても、相手はゴブリン一万匹。

 しかも、ジョブの恩恵を得た個体までいる。

 それらは、俺が討ち取ったゴブリン・レンジャーもそうだったが、段違いに強いだろう。


 現に、シド爺はただの一矢で倒れたのだから。

 そのジョブ持ちが一万匹中の一割程度しかいないと仮定しても、一千匹。

 タリス村はおろか、領都ウェリスも危ういのでは?


「シド爺、一つ教えてくれ」


「ルイ?」


 キリクが心配そうな顔を俺に向ける。

 俺はそんな彼女の頭を撫でて落ち着かせた。


「何じゃ?」


「領都の騎士と兵は全部で何人いて、その内のどの程度をタリス村に動員出来るんだ?」


「領主様が動かせる騎士と従士、兵の総数は五百じゃ。その内半数しかタリス村には向かわぬじゃろう」


「その訳は?」


「領境で揉め事が起きておる。その地に配した騎士団と兵は動かせぬからのう」


 こんな時だと言うのに、人同士で争っているからだ。

 勝てるとは思えないな。

 だが、俺は逃げない。


(今はまだ、な)


「徴募兵はどの程度集まる?」


「精々千じゃな」


「その内、ゴブリンを含めた魔物と戦った経験のある者は?」


「多くはない。いや、殆ど居らん。居ても、迷宮での魔石採取を生業としておる者が数十名ぐらいじゃ」


「随分と少ないな」


「迷宮には余所者が多いからのう」


 そう、余所者と非人は強制徴募の対象外なのだ。


「そんなんで村(と領都)を守れると思うか、シド爺?」


「それは……」


 口籠った爺さんには悪いが、かなり部が悪いと思わざるを得ない。

 何せ、一万対千二百五十なのだから。

 だと言うのにシド爺は言い切る。


「問題無く守りきれるじゃろう」


(嘘だろ!?)


「……何故断言出来る?」


「ヌシはアーマンのレベルを忘れたか?」


 確かレベル二十二だったな。

 文字通り桁違いのレベルで、今思い出してもゾクリとする。


「思い出したようじゃな」好々爺がニタリと笑った。「騎士の中にもそれに近い猛者がおる。それに、儂等は随分と昔からこの時に備えておった。村を守るのは容易い。問題はその後なのじゃ」


 本当なのか。

 軽々に信じられないのだが。


「アーマンは村を守る為にこれまで蓄えた、全ての〝力〟を使い切るじゃろう。それは致し方の無いこと。じゃがそのままでは、追い返しただけで終わってはダメなのじゃ。魔物はまた力を集め、村を狙うでな。故に彼奴等の巣まで追い立て、根絶やしにせねばならぬ。その為にも、領主様の兵だけでなく、領民から募るヌシら若人の力を必要とするのじゃ。討ち漏らしを防ぐ為にのう」


「成る程、そう言う事だったのか」


 俺はキリクにその事実を伝えた。


「なら、あたしも行く!」


「駄目だ!」


「如何して!?」


「危険だからに決まってる!」


「それはルイだって一緒でしょ!」


「全然違う!」


「何処が!?」


「俺は男で、キリクは女の子(・・・)だからだ!」


 女だからではない。

 騎士の女もいるからな。

 そうじゃないんだ。

 まだ子供だから駄目なんだ。


「未熟な子供が戦地に行ったりしたら、碌な事にならない。それに……」


「それに?」


「シド爺は間違いなく勝てると言ってるが、俺はそうは思わない」


「嘘、ルイ負けちゃうの?」


「俺がじゃない。騎士や兵達がだ」


「何で? あの人達強いんでしょ?」


「強いさ。だが、それ以上に強いのがいる可能性の方が高い」


「もしかして、それって……」


「ああ、ジョブ持ちのゴブリンだ」


 キリクは信じられないと絶句する。

 俺はだからと、


「キリクはここで待ってろ。俺は危ないと分かったら真っ先に逃げ帰る。多分、作戦の練り直しが始まるから、俺はその際お役御免となるだろう。そしたら、この地を離れようぜ!」


 俺は最後に、殊更元気良く言い放った。


「うん、分かった!」


 キリクの笑顔が眩しい。


「話は纏まったか?」


 と頃合いを見計らっていただろうシド爺が、俺に尋ねた。


「ああ、キリクは領都に残る」


「なら、サムにその間面倒を見る様、儂から頼むのじゃ」


「そうしてくれると有り難い」


(これで良かったんだ)


 だがな、気になる点が一つ残っていた。

 それは……


「俺に対して〝本当に申し訳ない〟と言ったのは何故だ?」


「……ヌシは恐らく、好奇の目に晒されるじゃろう。目端の効く者の中には、ヌシが奴族と看破する者がおるやも知れぬ。それが……不憫に思われたのじゃ」


「そう言う事か」そんな事なら、目立たなくなれば良い。「なぁ、爺さん」


「何じゃ」


「木を隠すには森の中、って言葉知ってるか?」

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