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#029 確保!

 四方をヤクザ者に囲まれながら、荷置き場どころか倉庫街を遠くを離れた場所に俺は連れて行かれた。

 雨は既に止み、空から降り注ぐは小太陽のか弱き明かりのみとなっている。


「ここらで良いだろう」


 とヤクザ者の一人が口にした。

 ここは人気がまるでない、崩れ落ちた家屋が並ぶ言わば廃墟。


(領都内にこんな場所があるとは……)


 人一人殺して放置するには最適そうである。


「若いの。もう分かっちゃいるとは思うがお前にはここで死んで貰う」


「それは、困るなぁ」


 俺は不思議と落ち着いていた。

 ゴブリン・レンジャーとの死闘が活かされているのだろうか?


「おいおい。随分と余裕だぜ、コイツ?」


「てめぇは黙ってな!」


 手下を一喝し、俺と向き合うリーダー格。

 俺はそんな彼に問うた。


「何でこの場所? 荷置き場でも良かっただろうに」


 ヤクザ者は、


「あそこで問題を起こしたら、今後使えなくなる可能性がある。それは荷主も望んでなくてな」


 律儀にも問いに答えてくれた。


「ちなみに、荷主の名は?」


「それは……これから死ぬ奴の知ったこっちゃねぇよ」


(流石に教えてはくれないか。……と、手を振り上げた!?)


 それが合図だったのか、俺は一斉に襲い掛かられた。

 それも、四方から同時に。

 腰だめに構えられた四本の短剣が俺に迫る。


(だが、その程度の速さではな!)


 俺は自らリーダー格に向かって踏み込んだ。

 予想外の行動だったのか、彼は目を丸くする。

 そして、慌てて足を止めようとした。


「それは悪手だな」


 案の定、彼の足は濡れた石畳の上をつるりと滑った。


「おぉ!?」


 一度バランスを崩した身体は容易く戻らない。

 俺は無様を晒す相手の懐にススっと入り込み、無防備な股間に軽く膝を入れた。

 鈍い感触。


(当たりどころが、今一つ悪かったか?)


 それに反して、


「ガァッ!?」


 意外にも白目を剥いて悶絶するリーダー格。

 短剣を握る手からも力が失われていた。


「エド!? き、貴様!」


 ヤクザ者の一人が叫んだ。

 ただし、直ぐ襲っては来なかった。

 俺がリーダー格から短剣を得ていたからだ。

 他の二人はと言うと、先を譲り合っている。

 「ならば」と、俺は手に入れたばかりの得物を一番近くにいる男に投げ付けた。

 最も当て易いだろう腹部を狙って。


「グアッ!?」


 ヤクザ者は膝に短剣を生やし、その場に転がる。


「ギル!? だ、だが、今だ!」


「お、おう! 武器がないなら、こっちのもんだ!」


 残るヤクザ者二人が左右に分かれて迫る。

 しかし、


(ゴブリン・レンジャーと比べると、怖さが全然だな!)


 余裕だった。

 二人のヤクザ者が一直線に並ぶ様、左後ろに送り足。


「わざわざこっちに来やがって!」


 ヤクザ者はニヤリと嗤い、近付いた形の俺に向かって短剣を片手で振り下ろす。

 俺はその手首を左手で掴むと同時に、右手の掌底で相手の鼻を打ち抜いた。

 ゴキリと鈍い音が鳴り響く。

 男は膝から崩れ落ちた。


「お、おい!?」


 最後に残ったヤクザ者が、焦った声を上げた。

 俺はそんな彼に対して、今しがた手に入れたばかりの短剣を中段半身に構えてみせる。

 男はジリジリと下がった。


「ふっ、退くのか?」


 若造相手に何と無様な、そんな意味を込めて俺は相手を嘲笑う。

 すると、


「ふ、巫山戯んな! 誰が逃げるか!」


 男は怒りで顔を染め上げた。

 と同時に短剣を振り上げ、


「うぁあああああ!」


 迫った。

 俺も同じく相手に向かう。

 やがて、互いが一足一刀の間合いに入った直後、ヤクザ者が先に正面を打った。

 俺はそれを、


(子供の頃から! 何度この形を繰り返したと思ってる!)


 右に開きながら短剣の左刀身で受け流し、


「とぉおおおおおお!」


 相手の頭目掛けて振り下ろした。

 ヤクザ者の額がパクリと割れ、血が間欠泉の如く噴き上がる。

 血の匂いが辺りを覆った。


「つ、強……ぇ……」


 声の主は、膝から短剣を生やした男だった。

 横に倒れ、息絶え絶えとなりながら、俺を恨めしそうな目で見ている。


「な、なんで……テメェ……みたいなのが、荷役……を……」


 俺はそんな彼の膝に刺さった短剣を、


「……」


 無言のまま足で押し入れた。


「ギャアアーッ!」


 と叫んだかと思うと、白目を剥く。

 そうなってから初めて彼に、


「銅判一枚の為だ」


 と答えた。




「さて、これからどうしようか?」


 俺は足元に視線を向けた。

 そこには各々の衣服を使って後ろ手に縛り上げた、ヤクザ者達が転がっている。


(次は……)


 こう言う場合は念には念を入れて、指を折るんだったか?

 近付き、彼らの指を確認する。

 皆、お揃いの黒い指輪を幾つもしていた。


(仲間の証、的な指輪かな?)


 ま、そんな考察は衛兵なり騎士に任せよう。

 なら、折るか?

 いや、もう必要無いか。

 皆、意識を失っている上に、瀕死に近い状態だからな。


(だが、こんな時こそ……)


 情報を集めないとな。

 決して、積み荷の中に囚われた少年の救出ではない。


「<ステータス・オープン>」


 下手人の正体を確かめるのだ。


(こいつらの親玉は俺が確実に殺されたと思っている筈。慌てなくとも大丈夫だろう。もし、移動されてたら……俺じゃ探しようが無いしな。その場合、コイツらの身元が分かっていた方が何かと都合が良い)


 ところがである。

 表示されたステータスは四人共同じ内容であった。


------------------------

 名前:ジャック

 種族:人族

 性別:男性

 出身:ウェリス

 所属:ウェリス

 年齢:32

 状態:健康

 レベル:8

 経験値:501


 称号:

 ジョブ:町民

 スキル:精神耐性

 魔法:


 体力:50/54

 魔力:2/6


 力強さ:28

 素早さ:11

 丈夫さ:11

 心強さ:5


 運:50

 カルマ:50

------------------------


 明らかにおかしい。

 一人は仲間に「エド」と、確かに呼ばれていたのだから。

 加えて、体力の項目。

 気を失い、大量の血を流して肌が青白いと言うのにほぼ満タンなのだ。


(有り得ないだろ!)


 あの弱さでレベル八って言うのもな。

 そもそもだ。

 ステータスパネル自体に違和感を感じる。


(なんか、目がチラチラするんだよなぁ……)


 学校の古いパソコンモニターの様に。


「まぁ、その辺りの考察は後にするとして、持ち物を漁る……もとい、検めてみますか」


 五枚の金貨が入った革袋を先ずは回収。

 さらには、ヤクザ者のリーダー格は随分と懐が温かい、と知った。


(金貨六枚と、それより一回り小さい金貨が三枚、銀貨が五枚と……小銀貨以下が……兎に角沢山。もしかして、集金の後だったとか?)


 さて次は残った三人を……

 するとそこに、騒ぎを聞きつけたのか街の衛兵が現れた。

 それも三人。


「ヤバッ!」


 今の俺の仕草は如何見ても強盗そのもの。

 言い訳が通じない状況なのだから。

 案の定、


「非人! ここで何をしている!」


 あっと言う間に取り囲まれ、かなり厳しい声が掛けられた。

 だが俺は、


「荷置き場で働いていたら、荷の中に貴族の御令息らしき御方を見つけたので助けようとしたのですが、ヤクザ者に見つかってしまい……ここまで連れて来られ、殺されそうになったのですが……返り討ちにしました!」


 事実から一部を切り抜き答えてみる。

 純真無垢な少年のフリをして。

 ところが、


「貴様、巫山戯てるのか!?」


 衛兵達は俺に槍を突き付け、怒鳴った。


(ヤクザ者四人をノシておいて、純真無垢な少年はなかったか……。そもそも、歳が歳だし)


 しかし、ここで本性を現しても逆効果だろう。

 なので、


「本当なのです! 少女の様に綺麗な少年でした! 騎士エルマ様が御探しになられていた迷い人に違いありません!」


 他人の信用を利用する。

 その効果は覿面だった。


「なに!? どう言うことか詳しく言ってみろ!」


 衛兵の隊長らしき男が食い付いたのだから。


「はい。僕が荷役ギルドでギルドの説明を受けていると……」


 俺は一部始終を語った。

 すると衛兵は、


「何と!? ならば、急ぎ荷置き場へ参るぞ!」


 と言ったかと思うと、一人の衛兵を傍に呼び付け、


「先の話を領主様に報告せよ!」


 と命じたのである。




 荷置き場に戻ると、本当に有り難い事に少年は同じ荷の中にとり残されていた。


「ご無事ですか!?」


「う、うぅぅ……あー」


 未だ汚物塗れのヘロヘロで。


(これは臭い。そもそも、コイツは何が原因でこんな酷い目に遭ったんだ?)


 俺はその手掛かりを得ようと、


「衛兵様!」


「どうした!」


「御令息の状態を確かめとうございます! ステータス・オープンの許可を!」


「許す!」


 半ば興味本位に彼のステータスを確かめてみた。


------------------------

 名前:ハリー

 種族:人族

 性別:男性

 出身:ウェリス

 所属:ウェリス

 年齢:14

 状態:健康

 レベル:8

 経験値:501


 称号:

 ジョブ:探索者、町民

 スキル:迷宮地図、精神耐性

 魔法:


 体力:50/54

 魔力:2/6


 力強さ:28

 素早さ:11

 丈夫さ:11

 心強さ:5

 運:50

 カルマ:50

------------------------


(十四歳でレベルが八!? って言うか、ジャックと名前が違うだけで、殆ど同じステータスじゃないか?)


 俺の様子がおかしかったのだろう、先の衛兵が、


「何かあったのか?」


 と尋ねる。

 俺は感じたままを答えた。


「さっきのヤクザ者共と、ステータスが殆ど同じでして」


「なに!?」


 刹那、現場に旋風の如く女が現れた。


「ここに例の少年がいると聞いたが真か!?」


「エルマ様! 彼方に御座います!」


「通せ!」


「はっ!」


「どけっ!」


「うわっ……」


 俺は押し退けられ、汚物に塗れた。


「おお、確かに領主様が命ぜられた通りの容姿!」


 エルマは少年の糞尿に塗れるのも厭わず、抱き抱える。


「お気を確かに!」


(ん? 騎士のエルマが上位者に対する口調。やはり貴族か……)


 やがて、少年は口を開いた。

 虚ろな眼差しを俺に向けながら。


「う、うぅぅ。その人……が金貨……五枚……で僕を……」


 エルマが吊り上がった瞳を俺に向ける。


「この若者が貴方様を売ったと!? おのれ!」


 怒りで顔を赤く染め上げた。

 俺は逆に、顔を青くする。


「た、助けてやったのに、それは無いだろ!」


 無情にも、


「確保!」


 女騎士の怒声が辺りに響いた。

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