表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/43

#023 領都

「その様にして生まれたからこそ、この国の名前はフォルトゥナ、正式にはフォルトゥナ王国なのです」


「フォルトゥナ、オウコク、ナノデス」


「なるほど。だから、国王の名が……」


「ええ、幸運王マティルの名を代々継いでいるのです」


「コウウンオウ、マティル、ノナ」


「王の下には当然、貴族が大勢居るんだろうな」


「はい。王から領地を授けられた貴族と、そうでない貴族がいます」


「キゾク、ナニ?」


 俺とキリクは荷馬車に揺られながら、様々な質問を重ねていた。

 相手は若女中のレイナ。

 当初は根掘り葉掘り訊ねられるも無視していたのだがな。


 いつしか根負けし、更には立場が逆転し俺が問う側に。

 尤も、


(好きな食べ物や、花の話を交わすよりも余程有益だ)


 俺とキリクがこの世界(こちら側)の常識に飢えていたからでもある。


「例えばだが、俺が貴族を殴ったらどうなる?」


「縛り首になります」


「シバリクビ」


「馬鹿にしたら?」


「縛り首になります」


「シバリクビ」


「道を遮ったら?」


「縛り首になります」


「シバリクビ」


「陰口を叩いたら?」


「縛り首になります」


「シバリクビ」


「それは俺が非人だからか?」


「はい」


「シバリクビ、ナニ?」


 レイナが首を括るジェスチャーをすると、キリクが「おぅ……」と言いたげな顔をした。


 しかし、法の下の平等など全く期待してはいなかったが、これ程までとはな。

 王権神授説が信じられてた中世ヨーロッパと、大差ない感じだ。

 そうそう、


「神がいるとは聞いたが、どの様な神がいるのだ?」


「最も信じられているのは国名の由来でもあるフォルトゥナ神です。その他ですと、大いなる成功を齎すとされるスケス神、安寧を約束するセクルス神となります」


「セクルス!」


「それらの神を俺が侮蔑すると?」


「神殿騎士に捕まり、縛り首となります」


「マタ、シバリクビ?」


「それら以外の神を信仰していると?」


「何も問題ありません。現に領主様はインペリム神と言う、聞いた事も無い神を信じていると公言されていますから」


「そうか」


「ソウカ」


 なら、しつこい勧誘を受けた際には〝ハチマン神〟と答えよう。

 日本古来より伝わり、数多の英雄が崇めた武神だしな。

 いや、待てよ?


「キリクは信じる神とかいる?」


「いるよ、セクルス神。山の向こうでは皆が祀ってた」


「そうなんだ」


「それも覚えて無いんだね……」


 キリクが俺を良い子良い子と慰める。

 それに、レイナも交じった。


(何故なのか?)


 と、そんな事よりもだ。


「そうそう、先程聞いた英雄達に関してだが……」


「魔王を封じた英雄ですね」


「そう、それ。神々とその化身により直接ジョブを与えられたと言ってたが、何と言うジョブだったんだ?」


「確か、大賢者、戦乙女、魔導王、剣聖それに勇者です」


「ユウシャ」


 勇者……か。

 有りがちだな。


「それらのジョブが得られる奥義書(グリモア)は何処かで買えたりするのか?」


「グリモア」


「神授職が売買されるなど、聞いた事がありません」


 神授職ねぇ。


「ただ、今代の英雄ヴァネッサ様のジョブなら買えると思います」


「英雄ヴァネッサ?」


「四天と称される最強の一角。炎を自在に操り、お髪の色も燃える様に赤い、とても綺麗な女性だとか。領都でも髪を赤く染めるのが流行ってるらしいですよ。ルイさんも染めてみては如何ですか?」


 髪染めの技術あるのか。

 でも、拙いんだろ?


「私のこの赤毛も染めたものです」


 本当かよ!

 地毛の色にしか見えないんだが。

 領都入りしたら、試してみるか。

 キリクで。


「何、ルイ? 何か思い出した?」


「いや、違う。領都に着いたら髪を染めようと思うがどうだ? レイナの髪も染めた物らしい」


「ルイと同じ色が良い!」


「と言う訳で、領都に着いたら俺とキリクは髪を染める」


「では、準備はお任せ下さい」


「ああ、お願いする」


「そんな、夫婦になるのですから当然です」


「その話、まだ続くの?」


「レイナ、ウザイ」


 と、そんな事よりもだ。

 炎を自在に操る、の方が大変気になる。


「話を戻すが、ヴァネッサとやらのジョブは何だ?」


「炎術士です。比較的大きな街なら、グリモアを仕入れている魔法ギルドがあるかと」


 良いね。

 ファイアーボールだけでなく、ファイアーアローとかも飛ばせそうだ。

 是非とも習得したい。

 上手く扱えるならば、あの我慢ならない煙魔法を二度と使わなくてすむしな。


「あの、次は私からの質問です」


「なんだ?」


「卵かけご飯にかける〝しょうゆ〟とはどうやって作るのです?」


「知らん」


「シラン」





 午後四時前、俺達の乗る荷馬車がこの日幾つ目かの丘を登り終えた。

 すると——


「領都が見えて来たよ!」


 御者台に座る女中、ステラが声を張った。


「本当、お母さん!? ルイさんにキリクちゃん、見に行きましょう!」


 丘の上からは遠くから見ても分かる程高い石壁、


(いや、あれはもう城壁だな)


 に囲まれた街が確かに見えた。


「思った以上に大きな街だな」


「マチ」


 だが、驚くべきはそれだけではない。

 なんと領都の先は深い青色に輝き、何処までも広がっていたのだ。


「もしかしなくとも、あれは海か?」


「ウミ」


「おや、奴族が海を知っているとは驚きましたね」


 俺の問いに答えたのは、イーノス。

 彼は目を丸くしていた。


「……海ぐらい、誰でも知ってるだろ」


「そうでも有りません。現にほら」


 顎で指し示された方へと顔を向けると、


「ウミ?」


(いや、キリクは十三歳だし?)


「うみ、ですか?」


(レイナ……まぁ、村娘だしな?)


「イーノス、うみとは何だ?」


(村長のお前もか……)


 イーノスが、その疑問に答える。


「海とは塩辛い水に満たされた、それはそれは大きな池の事です!」


(池じゃないだろ! と言うか、お前もなのか……)


「だが、あの水は塩辛くはないぞ?」


 今度は俺が目を丸くした。


「それは本当か!? つまり、あれは湖なのか?」


「ええ。このあたりではラトム湖と呼ばれています」


 信じられん。

 丘の上から見ても、対岸が見通せない湖なんて有り得るのか?

 だが、女村長が言う通り淡水だとしたら、正しくその通りなのだろう。


「ん?」


「どうしました、ルイさん」


「水面に浮かんでいるアレは船だと思うのだが、帆が張られて無い。にも関わらず進んでいると思ってな」


「フネ」


「ああ、やはりルイ君は奴族ですね」


 何故そうなるのか。

 その理由は、あろう事か女村長に教えられる。


「あの船は帆では無く、船に取り付けられた大きな水車で動くのだ。そんな事、そこらの村娘でも知ってるぞ」


「水車?」


「スイシャ?」


 それって、流水のエネルギーを動力に変える機械の事だよな?

 異世界で意味が違うって事無いよな?

 だとしたら、全然想像出来ないのだが。


「本当なのか?」


「厳密に言うと、水車ではありません。ただ、似た物が船の左右と後部に付いています」


 もしかしなくても、蒸気外輪船か?

 なら、是非とも見てみたいな。

 ただ、煙は見えないし、感知されないんだが……

 目を凝らしていると、別の物が俺の視線を釘付けにした。


「城壁の東側から、随分とごみごみした一画が広がっているな」


「ああ、あれは非人が押し込められて出来た、貧民窟です」


 何!? つまり俺とキリクは彼処で生活するのか?

 正直、あんな雑然とした所で暮したくはないぞ。


「村人になるルイさんとキリクちゃんは大丈夫ですよ」


「本当か!? いや、何故考えていることが分かった?」


「思い切り顔に出てましたよ?」


「そう? でも良かったよ。見るからに村よりもヤバそうな場所っぽいからさ」


 そんな所で暮らし、キリクを守り育てるなど無理だからな。


「ヨカッた、ヨカッた」


 すると、イーノスが言う。


「村人になる以上、ルイ君達が酷い目に遭う事はありません。僕の名に賭けて誓いますよ」


「そうまで言うなら信じるよ」


 だがそれは、裏切られる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝です!
『部将が人型ロボットに乗って戦うなんて、こんなの三国志じゃない! 〜七星将機三国志〜』
後漢末期の中国が舞台となる戦記物です。袁紹や曹操と言った群雄相手に現代青年が争うお話です
こちらもお気に召して頂ければ幸いです!

以下のリンクをクリックして頂けますと、「小説家になろう 勝手にランキング」における本作のランキングが上がります!
小説家になろう 勝手にランキング

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ