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#020 絶望

 絶望。

 シド爺の表情を一言で表すならそれだ。

 俺もある意味、同じ気持ちだがな。


(よりにもよって、異世界三日目にして魔王と遭遇するとかないだろ……)


 正確に言えば、魔王配下のゴブリンだが。

 当初危惧してた魔物の氾濫と、どっちがマシなのだろう?


 いや、そんな事は最早どうでも良い。

 問題は今後の事だ。

 村は……爺さんの言う通り、魔王の尖兵であるゴブリンに滅ぼされるのだろう。


 それもどうでも良い。

 なぜならば、村を襲ったゴブリンから村と若くて美しい女村長を俺は救った。

 物語ならば救世主として讃えられるだろう成果。


(だと言うのにだ!)


 何処にも所属していない事を理由に俺を「非人だ、奴族だ」と罵り!

 更には難癖を付け、俺から全てを奪った上で放逐しようとした場所だからだ!


(彼らの弱みを突き、所持品だけは取り戻せたからその場では我慢したがな)


 しかも、森の調査に際しては俺を囮にした。

 ああ、何たる非道。

 そんな奴は死んでから地獄に落ちてしまえば良い。


 なのに、何故だか爺さんを見捨てる事が出来なかった。

 何たる心の弱さよ、不甲斐無いさよ。


(こんな事ではこの先、生き延びるのは難しいかも知れない)


 西に行けば行く程、非人に対する差別は酷くなると爺さんは言う。

 ならどうする?

 一つは、所属を得る事だ。

 そうすれば、非人だと言われなくなる。


(だが、黒目黒髪は?)


 中世レベルの文明において、髪の染色技術が有るとは思えず。

 何処へ行っても目立つだろう。

 つまり、災いは向こうから来るのだ。


(ならばもう、俺自身が強くなるしかない!)


 ああ、そうだとも!

 男子たるもの強くあれ!

 他者を力で捻じ伏せろ!!


 ふぅ、少し熱くなり過ぎてしまった。

 次は直近の問題に移ろう。

 先ず考慮すべき問題は、非道な行いを平然とする彼ら、存亡の危機を迎えたタリス村の住民が俺との約束を守るのか、である。


 結論は先に出ている。

 守らないな、と。

 所属の無い者は人に非ず。

 〝非人とは取引すべからず〟なんて言葉まであるらしいからな。


(〝村人〟を得られない事態も想定し、現物支給を多めに要求するか)


 そうこう考えている間に、爺さんの顔からは絶望が退いていた。


「ルイよ」


 俺の名を呼ぶ顔が近くて怖い。


「何だ?」


「ヌシには祖霊に等しき感謝を」


「!?」


「そんな化け物を目にした様な顔をしてくれるな」


(いや、あんたの所為だろ)


「今は先の言葉だけで我慢してくれ」


「……分かった」


 と言ってみたが、全然分かってない。

 爺さんが俺に感謝を口にした? おかしい、絶対におかしい。

 何か企んでいる筈。


「念の為、周囲を索敵してから村に戻るでな。ヌシは儂から離れず付いて来て欲しい」


 俺は用心深げに、小さく頷き返した。




 日が落ちる頃合い、森から戻った俺達を待っていたのは村人総出による出迎えだった。


「お爺様、お帰りなさい!」


 女村長コリンが駆け寄って来る。

 まるで小さな子供が、親の胸元に飛び込むかの様に。

 対する爺さんは、


「おお、コリンよ! お前の顔を再び見れた事が、これ程心を湧かせるとは! ルイには感謝せんとな!」


 顔をくしゃくしゃにして答えた。


「何かあったのですね、シド殿?」


「アーマン! おお、アーマン! 儂は……いや、このルイが森の中で確かな兆しを得た! それだけで無く、儂はルイに命を助けられたのじゃ!」


 どっと沸き返る村人達。

 俺の背や頭が感謝の印とばかりに何度も叩かれ、


「黒いの! シド爺を救ってくれて、本当に感謝するぞい!」


「ルイって名だったかのう!? おんしは本当に村の救世主だのう!」


 見ず知らずに体を抱きしめられる。

 更には、


「坊主に(あやか)って、お腹の子はルイって名付けるよ!」


 頬に熱い口付けを幾度も頂戴する始末。


(な、何だこの手のひら返しは!?)


 俺は酷く困惑する。

 そこに——


「何事が起こったか分からない感じですねぇ」


「アーマン……ああ、一体全体どうしたって言うんだ?」


「いえ、簡単な事ですよ。貴方はこの村を文字通り救ったのです。いつ起こるか分からない恐怖、不安から。勿論、皆が父親代わりと慕うシド殿を救った事も、ですがねぇ」


 うーん、そう言われても。

 これまで受けた仕打ちを考えると、素直な気持ちで感謝の言葉を受け止められない。

 寧ろ、あーそうですか、って感じだ。

 そんな事よりもだ。


「なぁ、女村長」


「君! 幾ら恩人とは言え、何て……」


「構わないわ、イーノス」女村長は若シャーマンを押しと止めると、その男好きする顔を俺に向けた。「それに改めて言わせて貰うわ。お爺様の命を救って貰い、本当に有難うございました。全ての村民を代表するタリス村の長として、これ以上ない感謝の気持ちを受け取ってください」


 はいはい。


「確かに受け取った」


 で? 本当の狙いは?


「それと……」


 ほら来た!


「屋敷に食事が用意出来てるわ。レッド・ヘルムとフォレスト・ボアをふんだんに使った、心尽しの料理ですからお楽しみに」


 え? 食事?

 まさか、またぼったくりじゃ無いだろうな。

 俺が警戒していると、


「お酒? 勿論あるわよ」


「いや、違う」


 そもそも、そんな顔してたか?


「呑めない口? まぁ、残念ね。でも、村の女子供も楽しむお酒があるの。この村の特産でもあるから試してみて」


 ふっ、そんな話題を振られても、もう騙されたりしない。


「もう良い」


「何がかしら?」


「言いたい事があるなら先に言え」


「あら、察しが良いわね」


「お陰様でな」


 これ以上ないくらい、人間不信になったからな。

 それもこれも、この村で受けた対応の所為だ。


「本当なら夕食時にお酒を酌み交わしながら話したいと思っていたのだけどね」


「生憎だったな」


「なら、先に伝えるわね。良い?」


「ああ」


 心の準備は出来ているさ。

 さぁ、来い。

 今度は一体何だ?

 ゴブリンが残していった武具を全て差し出せ、か?

 それとも、今着ているボロ衣を返せとでも?

 もしくは……あれか! やはり、奴隷として村に置き、来るべき戦いの時に肉壁として使おうとしているんだろ!


「確たる兆しを見出した貴方なら分かったと思うけど、この地は危険だわ」


「……そうだな」


 俺からすれば、一番危険なのはお前達だがな。


「だから、明日にでも領都まで貴方を案内するわ」


 何故そうなる?

 あと、


「領都?」


 だと。


「この一帯で最も安全な場所よ」


 そうなんだ。

 それで?


「勿論、村の恩人に歩けとは言わない。馬車で送るわ」


 ふーん、なるほど、話の流れがさっぱり分からない。

 (てい)よく領都とやらに追い出したいだけ?

 本当にそれだけ? 身包み剥いだりしない?

 なら、この村から一刻も早く離れたい俺からすれば、願ったり叶ったりだけどな。

 でもな、俺が聞きたい話は他でもない。


「〝所属〟に関してはどうなっている?」


「村民認定もあるからこそ、領都に行くのよ。あれは、そこにある魔道具を使ってでしか出来ないの」


「何て面倒な」


「だからなのです。面倒な手数を踏むからこそ、対価が必要となる。対価が掛かるから、所属には価値があるのです」


 若シャーマンであるイーノスが口を挟む。

 俺はそれを顔を顰めただけで、無視した。

 コリンが小さく苦笑いする。

 俺はそんな彼女に気になっていた事柄を質した。


「ゴブリンから得た武具は、当然全て俺の物で良いよな?」


 ちょっと語気を強めて。


「ええ、勿論それで構わないわ」


 おいおい、本当か!? 絶対幾つかは奪われると思ってたのに!

 俺が密かに困惑していると、


「そんな顔をしないで」


 女村長が罰の悪そうな顔を浮かべた。


「……これが普通の顔だ」


「そう言う事にしておきましょう。私達に原因があるのは事実ですから。ああ、他には聞きたい事はない?」


「無いな」と答えようとするも、一つ思い出した。「キリクはどうなる?」


「同族の子? 貴方が望むなら、一緒に連れていけば良いわ」


「村民認定とやらは?」


「勿論するわよ?」


 嘘だろ!?

 いくら何でもサービスが良すぎる。

 絶対何か企んでるって!


「他にあるかしら?」


「有るけど無い」


 言えない。

 企んでる事を洗いざらい吐けなんて、怖くて言えない。


「そう? なら、屋敷に行きましょう」


 俺は腕を引かれながら、村長屋敷へと戻った。

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