#002 ステータス・オープン
俺は異世界転移したらしい。
それも、タックルを受けた後のタイミングで。
俺は不思議と納得した。
(昨今、流行っているらしいからな)
なら、次にやる事は決まっている。
お約束の——
「<ステータス・オープン>」
案の定、ステータスパネルが現れた。
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名前:倉内類
種族:人族
性別:男性
出身:
所属:
年齢:16
状態:健康
レベル:1
経験値:0
称号:
ジョブ:
スキル:煙耐性
魔法:煙属性
体力:20/22
魔力:1/2
力強さ:8
素早さ:6
丈夫さ:6
心強さ:5
運:3
カルマ:50
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ん? 名前に振り仮名が振られているだと?
しかも、苗字が後に。
これは……此処が西洋風異世界だから、とでも理解すれば良いのだろうか?
次に、種族、か。
人族以外に知的種族がいる、と言う事なのだろう。
有りがちだな。
そして、出身、所属、称号とジョブは空欄。
名前が有るのに、出身に異世界、所属に日本国と記されないのは何故なのか?
称号は兎も角、ジョブに学生とか学徒とか記載されなかったのは、そもそも職業ではないからだろう。
学業で生計を立てていた訳でも無いしな。
で、スキルと魔法、か。
書かれてあるのは、煙耐性に煙属性魔法。
思うに、この二つは関連性があるのだろう。
煙属性魔法を得たから煙耐性が生えた、と言う具合に。
噴煙を発生させる者が煙に弱いなど、本末転倒だしな。
問題は〝煙属性魔法〟だ。
最弱だと思われる。
何せ、攻撃するイメージが一切沸かないからな。
これで如何しろと?
いや、使い方次第か?
煙幕や狼煙など、元の世界でも煙は様々な場面で用いられていた。
例え外敵に遭遇したとしても、煙で翻弄している間に狼煙を上げて仲間を呼べれば……
(止めよう。悲しくなって来た)
これが火属性ならば水属性なら話は別だった。
それぞれにファイアーボール、ウォーターボールなどの攻撃魔法が有り勝ちだ。
しかもそれらは大抵、序盤で活躍する。
よしんば、煙属性魔法にもスモークボールなる攻撃魔法があったとする。
文字通り球状に形作られた煙だ。
それを相手に放ち、見事命中。
その効果は……煙いだけじゃなかろうか?
(……さて、気を取り直して次だ)
以降をざっと見た所感は、低い、の一言である。
特に運が低い。
(三、て……)
ここだけ五段階表記な訳もなく。
まぁ、生まれ育った家を火事で失った矢先に、着の身着のままで異世界転移したのだ。
ある意味順当なのかもしれないがな。
「……過ぎた事は忘れ、今を生きよう」
次は〝体力と魔力〟か。
(どちらも減ってるな)
魔力が減った原因は分かっている。
魔法を使ったからだ。
では、体力は?
分からない。
周囲に発現させた煙を吸ったからなのか? それとも魔法を使ったからなのか?
「要検証だ」
そして、唯一高い数値カルマ。
これは恐らく善悪を表す指数だろう。
大昔に、そんなゲームがあったらしいからな。
五十と言う値が善なのか悪なのかは今は不明だ。
が、この世界に現れたばかりなのだ。
中立と考えても良いのでは? と思わなくもない。
ステータスに関する考察は、取り敢えず此処までで良いだろう。
俺は、
「<ステータス・クローズ>」
思った通り、ステータスパネルが消えた。
さて、これからどうしたものか。
現状は非常に拙い。
日差しの強さからすると季節は初夏ないしは晩夏。
つまり暑いのだ。
しかも、これから日を追うごとに暑くなるか、寒くなるのだろう。
「当たり前か。いや待てよ、四季が存在しない可能性もあるな」
加えて、周囲に水場が見当たらない。
例えこの近くにあったとしても、それは飲める代物ではないだろう。
何せここは地獄谷。
火山性ガスに含まれる諸々の有害物質に汚染されていると考えられるからだ。
なのでここから離れ、綺麗な水場を探す必要があった。
「……一旦谷を登るか」
谷を下れば下る程、煙の噴出点が多いしな。
俺は近くの尾根を目指し、足を前に踏み出した。
尾根にまで登ると、そこから先はまるで別世界であった。
地平線の彼方まで深い緑に埋め尽くされている、広大な森が広がっていたのだ。
「何で谷の内外でこんなに違うのか……」
来た道を振り返ってみる。
そこには見事なすり鉢状がそこに存在していた。
「……まさか、火口だったとは。噴煙が多いわけだ」
谷底に向かってたら知らぬ間にガス溜りに入り込み、中毒で死んでいたかもだ。
(しかも、火口付近にある、でかくて丸い物体。どう見ても、何かの卵っぽいんだが……)
俺は小さく身震いした後、
「あの森に入るしかないか」
当座の方針を定め、山を下る。
その直後、俺が卒倒しかねない出来事が起きた。
地を揺るがす程の咆哮が森の中から轟いたのだ。
まるで、誤った選択をした俺を遠くから嘲笑うかの様に。
刹那、眼下に広がる森から無数の鳥が一斉に飛び立った。
耳にした事も無い様な悲壮な鳴き声を上げながら。
続いて、森の彼方此方から獣の遠吠えが立て続けに起こる。
極め付けは最後に起こった、まるで遠雷の如く腹に響く轟音。
「な、なんだよこの音は!?」
俺はあまりの大音に耳を塞ぎ、恐る恐る音のした彼方を窺う。
視界に一羽の、カラスらしき鳥が映った。
(……にしては首が長い。鷺か鵜の類かな?)
いや、そもそもここは異世界なのだから別種の可能性が高いか、などと考えていると、
「あれ、待てよ? 地平線の彼方から飛んで来ているにも関わらず、あの大きさに見えるって……」
やがて、ただならぬ事態に気が付く。
鳥には無い、長く伸びた尾が見て取れたからだ。
ここがファンタジーな世界で間違いないなら、一つだけ思い当たる存在があった。
それは——
「ド、ドラゴン!?」
時には人を襲い、それどころかあらゆるモンスターを喰らう食物連鎖の最上位であろう生命体。
俺は叫ぶ事さえ忘れ、山肌を転がり落ちるかの様に駆け下り、森の中へと向かった。