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#017 魔王

 え……ま、ま、


「魔王!?」


「左様、魔王じゃ」


 俺は頬を思い切り張られたかの様な衝撃を受けた。

 ドラゴンだけでなく、魔王まで居るのかよ! と。

 そんな俺の様子に、シド爺は小さな溜息を一つ吐く。

 そして、静かに語り始めた。


「今より遥か昔。見上げる空の遍くまでに善神らが揺蕩う古の時代に、光が届かぬ闇の中から〝悪〟が現れた。それこそが原初の魔王と言われておる」


 原初の魔王は瞬く間に空へと昇り、善神を滅ぼし尽くそうとした。

 無論、善神達はそれに抗った。

 自らの化身を産み出してまで。

 その結果、原初の魔王は神々の化身に討たれたらしい。

 今も残るその証が古竜だとか。

 クラウド・ドラゴンはその一体と言い伝えられている。


 時が経ち、善神の多くが空から地上に降りた頃合い。

 魔王は再び現れた。

 しかも、原初の魔王とは異なり、自らの化身を引き連れて。

 善神の化身と魔王の化身は戦った。

 時には空を割り、山を砂に変え、海を干してまで。

 その後、長きに渡る均衡の時代が続いた。

 やがて、いつの間にか魔王とその化身は消え去っていた。

 ただ、地に降りていた神々とその化身もその多くが滅びていたらしい。

 末裔だけを残して。


 神々とその化身の多くが滅び、その末裔が人と深く交わった後の時代。

 世界にはいつしか魔法とスキルが生み出されていた。

 その恩恵により世は栄えた。

 天にも至る巨大な聖塔、雲と同じ高さに浮かぶ島々、それを成す為に叡智を集められ造られた魔導具の数々。

 人々は平和を享受し、贅沢を覚え、芸術を愛で、道楽に溺れ、古から伝えられし悪を忘れた。


 それから更に時が経つと、今度は神々の末裔同士が争う時代となる。

 種の存亡を掛けた戦いが其処彼処で起きた。

 戦乱期の幕開けだ。

 強者が弱者から全てを奪い尽くす。


 気が付くと、一つの種族が大地の半分を征服していた。

 その種族の肌は苔の如く深い緑色をしており、体は小さく、血は目が覚める程青かった。

 性格に至っては無慈悲にして残忍。

 個体毎に名は無く、所属も無く、ただ種族にゴブリンと記されているのみ。

 それだけでも奇異な種族であったが、ゴブリンには他の末裔とは更に大きな差異が一つあった。

 それは死すると屍ではなく石を残す事。

 まるで第二の魔王の化身の様に。


 やがて真実は明らかとなる。

 それは、ゴブリンを使役していた者こそが、後に第三の魔王と呼ばれし存在である事。

 辛うじて絶滅を免れていた神々の末裔。

 彼らは一致結束し、魔王に挑んだ。

 だが、既に帰趨は決しつつあったのだ。

 多勢に無勢であったが故に。

 しかも、ゴブリンだけではなく、他の、オークやオーガ等の種族も後に控えていた。

 しかし、その状況を覆す奇跡が起きた。

 〝ジョブ〟の登場と、赤・青・黒の奥義書(グリモア)の発明である。


 大賢者、戦乙女、魔導王、精霊使い、剣聖、聖騎士、聖女、そして勇者。

 善神の御技を模倣した奇跡のスキル、化身の力を現した究極の魔法。

 神々の末裔はその力により、遂には魔王の封印に成功した。

 今から三百年程前の事である。




「成る程、それが魔王か」


 ここまで話を聞いた俺が最初に感じた事、それは「魔王って明らかに高度な学習能力を有してるな」であった。

 善神? が化身などの対抗策を打ち出したら、それに対する存在を必ず送り出しているしな。

 それどころか、善神陣営をあと一歩のところまで追い詰めたのだから。


 で、ここからが本題。

 爺さんが魔王の復活を危惧した理由だ。


「つまり、祈祷師の予知に加え、魔王の尖兵であるゴブリンが人里近くにコロニーを設けたと思われる。だから魔王が復活したのではないか、そう考えたんだな?」


「如何にもその通りじゃ」


「だが、ゴブリン自体は何百年も前から居たんだろう? この付近にコロニーの一つや二つ出来たからって……」


「じゃからこそ、森の中のゴブリンを調べに来たのじゃ」


「調べるって、コロニーをか?」


 冗談キツイぜ。

 名前からして一体、何匹のゴブリンが住んでいるのやら。

 見つける前に、逆にこっちが見つかるわ!


「違う」


「じゃ、何を?」


「ゴブリンのステータスを確かめるのじゃ」


「ステータスを? そりゃまたどうして?」


「ヌシも知ってるじゃろうが、ただのゴブリンには名前も所属も記されてはおらぬ。じゃが……」


「え、まさか!」


「左様、ある程度の力を有する魔物の中にはおるのじゃよ。名前ないしは所属がのう。そして、魔物にそれを刻める者は魔王しか有り得ぬと伝えられておるからじゃ」




 翌夜明け前。

 気温が一番低くなる時分。

 俺はマントに包まり、うつらうつらとしていた。

 そんな俺の口を何者かが突然塞いだ。


(!?)


 慌てふためく俺。

 その耳元で、


「シッ、ゴブリンじゃ」


 と囁かれる。

 無論、声の主は爺さんだった。


「え、ど、何処に?」


「北東の方角、距離は三百歩と言った所じゃな」


「数は?」


 俺は問いながら右手に斧を、左手には短剣を握った。


「三……いや、五じゃ」


「今更だけど、何でそんな事が分かるんだ?」


「猟師のジョブを得るとな、<弓術>スキル意外に<気配察知>なども覚える。それが有ると、森の中でも獲物の存在が有る程度分かるのじゃ」


 俺が目を丸くしていると、シド爺は更に小さな声で囁いた。


「気付かなんだか? 一見して生き物がまるでおらぬ森のそこかしこに、真新しいゴブリンの痕跡が残っておったのを」


 嘘だろ!?


「しかし、漸く現れたか。このままでは無駄な三日間になるやも知れぬと、ヒヤヒヤしておった所じゃ」


「漸く?」


「そんな事よりもじゃ、ヌシはこのままこの巨石の下で警戒しつつ待っておれ」


 え? ゴブリンが五匹も近づいているのに待機してるだけ?


「爺さんは?」


「儂は巨石を壁にしつつ、見られぬよう背後の木まで退がる。そこから、機を見てゴブリンに弓矢を馳走するつもりじゃ」


「ま、待てよ! それって俺を囮にしてない?」


「悪く考え過ぎじゃ。それに、猟師の儂が前に出てどうする。手斧しか持たぬヌシが前、儂は姿を隠しその援護が適任じゃ」


「どう考えても囮にしてるじゃねぇか!」


「ふん、なんとでも言え! ただし、儂の指示なく巨石から離れようとすれば射つでな」


 爺さんはそう言うが早いか、潮が引くかの様に森の中に消えていった。


「お、おい!」


 もう、何処にいったのか、まるで分からない。

 もしかしなくても、猟師ジョブで得られたスキルの効果か?

 すげーな!

 本当に俺の援護をしてくれる位置にいるのか、今やそれすらも不明だ。


 それにつけても、漸く、だと?

 そこかしこに、ゴブリンの痕跡が合っただと?

 全く分からなかったよ!

 何で一言言ってくれない!

 もしかして、言えない理由が合った?


 ……くそっ! やられた!

 つまり、最初っから俺を生き餌代わりに使うつもりだったって事だ。

 なら、間引きも嘘だったのか?


 分からない。

 そして、今はそんな場合じゃない。

 爺さん曰く、五匹のゴブリンが接近しているのだから。

 俺は手斧を握りしめ、極力体を小さく縮めつつ、辺りの気配を伺った。

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