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#016 アレが数百年ぶりに蘇った

「それだけでは無い。ジョブに就けば、そのギルドから様々な庇護が受けられるのじゃ」


 何て世界だ!

 ジョブに関する意味不明なハウツー本を読むだけでその道のプロに成れるどころか、保護までされるなんてな!

 本当にゲームみたいだ!


 いや、待てよ。

 もし〝聖騎士〟の黒本があったら、俺がそれを読んだその日から聖騎士様になれるって事か!?

 人柄や経歴が相応しく無かったとしても?

 いやいやいや、幾ら何でもそれは可笑しいだろ!


「何ら可笑しくはない。所詮ジョブは、その者が有する一つのジョブにしか過ぎぬのじゃからな」


「何? その言い方はもしや、一人が複数のジョブを持てるのか?」


「当たり前じゃ。儂など猟師だけでなく、村人に村長も有しておる」


「ほ、本当か!? ス、ステータスを見してくれ!」


「断る」


「何でだよ! 俺のステータスは好き勝手見てたじゃないか!」


「それはヌシが人の前で寝たのが悪い。盗み見られて当然じゃ」


 完全に開き直られた。

 それとも、これがこの世の常識?


「ちなみにだが、俺が爺さんのステータスを無理矢理見たとしたらどうなる?」


「ヌシは非人じゃから、最低でも鞭打ちじゃな」


 今まで見ようとも思わなくて本当に良かった。


「非人でない場合は?」


「失礼な輩、で終わる」


 なんて差別。

 一日も早く非人から抜け出さないと駄目だな。

 そこで気になるのが……


「改めて確認する」


「何じゃ?」


「この仕事が終わったら、本当に〝村人〟にしてくれるんだろうな?」


 つまり、〝村人〟の黒本を読めるって事だよな?


「……無論じゃ」


 妙な間があった。

 俺はシドにシド目ならぬジト目を向ける。


「儂は約束を違えぬのじゃ!」


 二日間寝食の面倒を見ると約束した事を、いとも簡単に破ったのに?


「その顔、信じておらぬな!」


「心当たりはあるだろう?」


「あれは……止むに止まれぬ理由があったのじゃ」


「ほう、例えば?」


「村を襲ったゴブリン相手に何人が戦えたか知らぬのか?」


「生憎と何処かの誰かさんの孫娘の許婚に後頭部を殴られ、気絶してたからな」


「そうじゃったな。答えは……」爺さんは指を四本立て、俺に向けた。「これだけしか、今のタリス村にはおらぬ。残るは爺婆に女子供だけじゃ」


 村の総人口すら知らない俺だが、非常に少ない事だけは分かった。

 でもな。


「だからと言って、何も知らない俺を嵌めて良いとは思えないが?」


「ヌシが黒奴族、非人だからじゃ」


「同じ人間なのに?」


「同じでは無い。非人とそれ以外では普通では決して越えられぬ()があるのじゃから」


「そんなにか?」


「いずれヌシも身を以て知るじゃろう。一見して黒奴族故にな」


「黒眼黒髪がそんなに悪い事なのか?」


 爺さんは哀れみを込めた眼差しを俺に向け、「そうじゃ」と小さく頷き返した。




 二日目も早朝から精力的に森を歩き回った。

 しかし、結果は変わらず。

 何一つ見出せなかった。

 これは素人の俺にも分かる程極めて異常な事態だ。

 チラ見した爺さんの横顔も、これ以上ないほど陰鬱な表情を浮かべている。


 その夜の、二人して死ぬ程固いパンを食した後の事。

 俺は重苦しい空気を少しでも何とかしたいと考えていた。

 そこで、俺と爺さんにとって共通の話題を投げ掛け、先ずは会話を増やす事に。


「なぁ、爺さん」


「なんじゃ」


「魔物って何なんだろうな?」


「随分と藪から棒じゃな」


「いやだって、どう考えてもおかしいだろ? 死んだら骸が消え、魔石だけが残るって」


「そんな事考えた事も無いわい」


「本当に? じゃぁさ、何で村が魔物に襲われたと考えてるんだ?」


「そんな事、決まっておる。魔物と儂らは、決して相容れぬ存在だからじゃ」


「どう言う事?」


「どうもこうも、遥か古の時代より、儂らは魔物と種の存亡を掛けた戦を繰り返し行っておろうが」


「そうなのか?」


「むしろ、何故黒奴族のヌシが知らなんだ? 死の山の向う側は嘗ての大戦の名残りが最も色濃く残っている地だと、こちら側では言い伝えられておると言うのに」


 その理由は、俺が黒奴族では無いからだ。

 とは言え、それを素直に語る気は俺に無い。

 なので、話題をそれとなく逸らす。


「いや、流石にここまで異常じゃ無かった。鳥も獣も居たし。だと言うのに、一体どうしたって言うんだ、この森は。鳥や獣どころか、トカゲや蛇の一匹も居ないじゃないか」


「何かが……起きようとしておるからじゃ」


 と答えた爺さんの声は、実に弱々しかった。


「何かって?」


「分からぬ。じゃが、確実に起こる」


「兆しでも見たのか?」


 ま、見たのだろう。

 この異常な雰囲気の森も、前兆と言えば前兆と言えるだろうしな。


「アーマンが視たのじゃ」


「視た? 村の祈祷士が?」


「村の祈祷士!? この、戯けが! アーマンは祈祷師じゃぞ? 本来は気安く名も呼べぬ、高き位に在わす御方じゃ!」


 そんなの知らないって。

 それもこの世界の常識なのか?

 でもな……


「こう言っては悪いが、如何してその様な御方がこんな辺鄙な村に……」


「それが先の兆しに繋がるのじゃ」


「え?」


「予知されたのじゃ、祈祷師のスキルでな。遠く無い未来にタリス村に危機が訪れる、とな」


 予知!? そう言えば、そんなスキルがアーマンのステータスパネルに記されていたな。


「でも、それだと……」


「アーマンは自らが得た予知が大事に繋がると考え、また犠牲となる弱き者を少しでも救おうとタリス村に移って来たのじゃ。以来、アーマンは祈祷魔法で来るべき時に備えている。魔石を用いてな。得た魔石を全てアーマンに譲るのは、その為じゃ」


 そうだったのか。

 意外にも、弱者思いの良い人だったんだな。


「で、その危機って何なんだ?」


「分からんのか?」


「いや、皆目見当も付かない」


「魔物が増え、世が乱れ始めておる。加えて、この森の異常を目にしてもか?」


 それなら薄々。

 魔物のコロニーって言葉も聞いた後だから尚更だな。


「ちなみに、シド爺とアーマンの見解は?」


「アレが数百年ぶりに蘇ったのではないかと考えておる」


「アレって?」


「勿論、魔王の事じゃ」

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