表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/43

#014 記憶喪失

 記憶喪失。

 便利な言葉、設定である。

 大抵の問題を、この一言で解決出来るからな。

 現に、


「そうだったんだ……」


 煙属性魔法に関して知らなかった事実を、キリクは不問とした。


「実は気が付いたら、死の山の火口に居てさ」


「それじゃあ、仕方がないね」


「何が?」


「一人で得たか如何かで変わるって、お父さんから聞いてたから」


 だから何が?


「ううん、何でもない」


 何がだよ!

 そんなに思わせぶりに言われると、気になってしょうがないじゃないか!

 だと言うのに、少女は大きな欠伸をしたかと思うと、華奢な身体を預けて来る。


「お、おい!? キリク?」


「ごめん、安心したら急に眠くなっちゃっ……くー……」


 そして、そのまま眠った。


「寝入るのはやっ!」


 そう言う俺も、強い眠気に襲われる。

 夕食前まで、気を失ってたと言うのにな。

 思った以上に疲労が溜まっていたらしい。

 俺は抗う事なく、意識を手放した。




  ◇




 食卓の後片付けをしに戻った給仕女に、


「ジル、どうじゃった?」


 とシドが問うた。


「二人共薬が良く効いたみたいですよ、お父さん」


 そう、シドはルイ達に一服盛っていたのだ。


「ですが、本当にそこまでする必要があったのですか?」


 ジルが尋ねる。

 シドは強く頷き返した。


「当然じゃ。黒奴族は何を仕出かすか分からぬからな」


「分からないと言えば、二人が喋ってた言葉もさっぱり」


「じゃろうな。アレは儂等が使う言葉とはまるで違う。文字もさっぱりじゃ」


「でも良かったわ」


「何がじゃ?」


「キリクに話し相手が出来た事がですよ」


「ああ、いつも寂しそうにしておったからのう」


「娘のレイナが気にして気にしてねぇ」


「あの子は優しい子じゃからのう」


「それに賢い。私の自慢の娘です」


「儂の自慢の孫娘じゃ」


 そこにコリンが加わる。


「私の話か?」


「おう、そうじゃ、そうじゃ。コリンも儂の大事な孫娘じゃ」


「何だ、レイナの話か」コリンは道化の様に頬を膨らませるも、直ぐに目的の話題に変えた。「ところで、例の二人は?」


「ついさっき寝ましたよ」


 と答えたのはジルだ。


「そうか」


 すると、コリンは本当に小さく溜息を吐いた。


「コリン」


「なに?」


「言いたい事があるなら、言うてみい」


「お爺様……」


 一瞬、シドの目尻が下がった。


「本当に彼らを、いや、彼を連れて行くのですか?」


「鬼畜の所業かも知れぬ。じゃが、背に腹はかえられぬ」




  ◇




 夜明け前、と言うよりは夜中と言った方がしっくりする頃合い。

 突然、


「痛っ!?」


 脇腹に痛みを感じた。


「起きるのじゃ、ルイ!」


 覚醒しつつある微睡みの中、高齢男性特有のしわがれた声が頭に響く。

 部屋の灯りを頼りに声がする方へと顔を向けると、そこには案の定、


「……なんだ、また爺さんか」


 がいた。

 掲げた拳を、今にも振り下そうとしている。


「爺、と馴れ馴れしく呼ぶでない!」


 そして直ぐに振り下ろされた。


「がぁっ!?」


「狩猟衣は昨夜の内に渡してあると聞いておる。早う、着替えるのじゃ。もたもたしておると、今一度先のを食らわすぞ」


「んー、何処に置いたかな?」


 それは部屋の隅に畳まれて置かれていた。

 控え目に言って草臥(くたび)れた、元は茶色かったであろう毛皮を主体とした灰色の衣服だ。


「あれ? キリクが居ない?」


「当たり前じゃ! 非人とは言え、嫁入り前の娘を獣同然の若い男と同じ部屋で一夜を明かせられるか!」


「それもそうか」


「下らん事に感心しておらんで、早く着替えるのじゃ!」


 急かされるまま着てみる。

 すると、色が緑色ならば御伽噺に出てくるロビン・フッドもかくや、と言った体になった。


「早うせい!」


 そしてそのまま、俺に有無を言わさず、母屋を挟んで反対側に位置する小屋へ向かう。

 ふと見上げると、空には小さき太陽。

 月明かりにも似た光を放っていた。


(綺麗だ……)


 などと、のんびり鑑賞する間もなく、小屋の中に入らせられる。

 中には幾つかの武具と共に背負子、革のマントが用意されていた。


「おお!?」


 俺の目が輝く。

 現代の日本では先ずお目に掛かれない品々を前にしたからだ。

 その中の一つ、両刃の剣に手を伸ばすと、


「勝手に触るな!」


 ぴしゃりと叩かれる。


「ヌシのはこれらじゃ」


 それは見覚えのある代物だった。


「これ、俺がゴブリンから得た手斧と短剣じゃないか!?」


 いつの間に。

 研ぎ直されているのが、せめてもの救いか。


「気の所為じゃろ。ごく有り触れた斧と短剣じゃぞ?」


 そう言われたた反論の余地無し。

 今度から所持品には名前か家紋を記しておこうと思う。


「他に武器は?」


「無い」


 俺は愕然とした。


「いや、手斧と短剣でどうやって獲物を狩れと?」


「そう言うからには、狩猟の経験があるのじゃろうな?」


 俺は胸を張って答える。


「無い!」


「……そんなヌシに出来るのは、斧を用いてのヤブ払い程度じゃな」


「俺を連れて行く意味有る?」


「狩った獲物を運んで貰う」


「ああ、成る程」


「それにじゃ、忘れたか?」


「何を?」


「今一つの目的、森の中における魔物の間引きをじゃ」


 そうだった。

 三日間森の中を彷徨い、狩猟をしつつ、魔物を間引くんだった。

 まだ頭が半分寝ぼけているな、これは。

 ただ……


「もし魔物と遭遇したら、この手斧で倒せと?」


 ゴブリンなら兎も角、他の種もいるんだろ?


「もし、などでは無い。確実におる」


「え?」


「二十にも及ぶゴブリンが村を襲った。森の何処かに、集団繁殖地(コロニー)が設けられた可能性が高いのじゃ」


 あ、そっちか。

 他の魔物、特に手斧では相手にし辛いのが居るのかと思った。

 と言うか……


「魔物って繁殖するのか?」


「当然じゃろ。そうで無ければ増えたりせんわ」


 本当?

 倒したら霧散したので、てっきりゲームみたく特定のポイントから一日に数度の間隔で涌き出る(ポップする)のかと思ってた。


(しかし、コロニーかぁ……)


 こうなると、俺の興味は——


「なぁ、爺さん」


 シド爺は何かを諦めたかの様に、溜息を吐いた。


「……何じゃ」


「本当に、三日後には村を離れて良いんだろうな?」


 約束通り村から解放されるか否か、それが問題だ。

 爺さんは、自身が持っていくであろう一張りの弓と矢束を検めながら、


「寧ろ、ヌシ()など居らぬ方が村には良い」


 俺に背を向けたまま、答えた。


「(ヌシら、か)そうか」


「そうじゃ」


 しばしの沈黙。

 やがて、シド爺は振り返り、


「安心せい。今日からの三日間、しっかり扱き使ってやる」


 と嗤った。

次回の更新は18日となります


「何度も頭を打って気絶してるし、記憶喪失になるのも仕方がないよね」と思っていただけましたら、

是非ともブクマや評価、感想などを頂けたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宣伝です!
『部将が人型ロボットに乗って戦うなんて、こんなの三国志じゃない! 〜七星将機三国志〜』
後漢末期の中国が舞台となる戦記物です。袁紹や曹操と言った群雄相手に現代青年が争うお話です
こちらもお気に召して頂ければ幸いです!

以下のリンクをクリックして頂けますと、「小説家になろう 勝手にランキング」における本作のランキングが上がります!
小説家になろう 勝手にランキング

最後まで目を通して頂き、誠にありがとうございました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ