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#011 化け物

「ふざけんな!」


 部屋に入って来た際の臭いといい、話の最中に煙草を吸い出した事といい、これまでの言動といい、もう勘弁ならん!

 この際、刺し違える覚悟で魔法を放つか?

 ……うん、そうしよう!


 噴煙が噴き出たと同時に腕時計を巻いた左腕を捻り押さえ込めば、何とか取り返せる気がする。

 腕に対して時計のベルトが緩く、スカスカだしな。

 俺は瞬く間に覚悟を決めた。

 身体に掛けられていた布切れを握り、それで鼻と口を覆う。

 そして、小さな声で——


「<(フーム)……>」


「待って! 違うの! イーノス、貴方の誤解なの! 彼は本当に私を助けてくれただけなの!」


 ん?


「だが、彼はコリンに厭らしく触れようとしていた!」


「あ、あれは違うわ!」


 何かが始まった。


「許婚の僕ですら、直に触れた事がない場所だと言うのに!」


 何処だよそれ……いや、寧ろ何処まで?


「違うったら!」


「コリン、一体何が違うんだい!」


「彼は恐らく、私の胸元に落ちたゴブリンの魔石を摘まもうとしていたの!」


「ゴブリンの魔石を?」


「ええ、さっき一際大きな魔石をイーノスに渡したでしょう?」


 やはり、事前に会っていたのか。

 道理で同じ匂いを纏っていた訳だ。


「ああ、これですか」


 そう言いながら、若いシャーマンが腰の袋から取り出したのは魔石。

 それは、女村長が言う通りゴブリンやバンパイア・モスのソレとは一回り以上大きかった。


「近頃見ない大きさの魔石だな。これは務めが捗りそうだ」


 務め?


「父さん、良かったですね。それに……」


「ああ、これでタリス村は今暫く持ち堪えられる」


 情報が足りないので良く分からんが、魔石がこの村にとって重要なのは理解した。

 だがな——


「俺の誤解が解けたようだな?」


「ん? 何の話でしょう」


 若いシャーマンは素で分かっていないらしい。

 それとも振りか?


「俺が女村長を襲ったのは誤解だと判明した、と言う事だ。そうだろ、爺さん?」


「シド、だ。じゃが確かに、孫娘の言葉で先の疑いは晴れたのう」


「なので、俺の所持品は返して貰おうか?」


 イーノスは顔を顰めるも、


「疑いが晴れたのです。仕方がありませんね」


 腕から腕時計を抜き、俺に寄越した。


「ただし……」


「ただし?」


 腕時計が無事に戻ってきた所為か、心にも余裕が戻る。


「魔石はなりません」


「何故だ?」


「この村の決まりです。税を納めずに入村し、村内の録を食んだ者はこの周辺で得た魔石を村に納めなければなりません」


 何だそれ。


「本当なのか、爺さん」


 爺さんは諦めた雰囲気を醸しつつ、


「……誠の事じゃ」


 と俺に告げた。


「俺はこの村の住人ではない。よって、禄を食んだ記憶も無いのだがな」


「コリンより、貴方が村でも滅多に出ないご馳走、それも数人前を美味しそうに完食したと伺っております」


「食べて良いと言われたから、手を付けただけだ」


「対価も払わずに?」


「求められるとは知らなかった」


「この世に対価の無い物など存在しませんよ」


「それは、手を付ける前に言うべきでは?」


「村の決まりに、それはありません」


 税ですら無かった。

 この村の生業は詐欺ないしは、ぼったくりバーかよ!


「因みに、俺が食した料理のお代は総額幾らだ? いや、物々交換だったか?」


「ですから、それが魔石なのです」


「全部か?」


「ええ、全部ですね」


 六万円、いや、ボスゴブリンのを入れたら七万円分の価値はあっただろう。


「随分と高いな」


「昨今ではただでさえ稀少性の高いレッド・ヘルムとフォレスト・ボアの、中でも特に貴重な部位に加え、滋養効果が高くスープに入れると味わい深いゴールデン・ファンガスを料理に用いましたから。大変美味しかったのでは?」


 確かに旨かった。

 何一つ注文して無いけどな。


「だが、断る、と言ったら?」


 俺は今一度、布切れで口と鼻を覆う。

 刹那、爺さんの押し殺された声が部屋に響いた。


「魔法を試そうと思うなら止めておけ。見た事も聞いた事も無き魔法だが、ヌシのレベルでは詠唱仕切る前に、儂かアーマンに止められる。それも、折角助かった命と引き換えにじゃ」


「そんな事、試してみないと……」


「分かるんじゃよ。それだけ、儂らとヌシにはステータスの差がある」


 本当だろうか?


「因みにどれくらいだ?」


「ヌシのレベルは……確か〝二〟じゃったな?」


 ボスゴブリンを倒す前は確かにそうだった。


「知って慄け。儂のレベルはなぁ……」


 爺さんがニヤリと笑う。

 俺の喉がゴクリと鳴った。

 まさか、五十三……とか言い出したりしないよな?


「六だ!」


「なに!? 六だと!」


 と過剰に応じて見たが微妙だ。

 一撃で倒せたボスゴブリンが五だったし、その倍程度じゃなぁ。

 ところがである。


「お爺様、六に達したの!?」


「凄いですね、シドさん! 僕はまだ三ですから、まだまだです」


「イーノスはこの村の祈祷士になるのだから、それで良いのよ」


「でも……」


「村長の言う通りだ。ただの村の祈祷士にそれ以上は必要あるまい」


 と最後に締めたのは老シャーマンだ。

 と言う事はだ。

 この四人の中での最高レベルは爺さんの六なのか?

 ならば煙の魔法、効くんじゃ……


「どうやら、貴様は分かっていないようだな」


 今度は老シャーマンの低い声が部屋に響いた。


「そ、そんな事は無い。レベル六、凄いじゃないかー」


 俺は大根役者か。


「ああ、大変な偉業だ。何せこの辺りに出る魔物と言ったら、ゴブリンやバンパイア・モスなどの様な、低レベルしかおらぬからな」


 そうなんだ。

 で、それが何さ?


「まだ分からぬか。レベル差があると経験値が入り辛いのは承知しておろうな?」


「勿論だ。レベル差が一つあると、同じ経験値を得るのに少なくとも二倍の数を倒す必要がある」


「そうだ。レベル差が二つあると三倍、三つあると五倍必要だ」


 七倍、十一倍と続く……って素数か!

 待てよ?

 レベルが一のゴブリンやバンパイア・モスが大半のこの地で、レベル六にまで至ると言う事は……

 俺はその意味を把握し、もの凄い勢いで顔から血の気が引くのを感じた。


「理解した様だな」


「あ、ああ……」


 先の考え方が正しいなら……


「レベル五から六に上がるのに経験値が四十必要だと仮定すると、レベル一のゴブリンを四百四十匹倒さねばならない計算になる」


 なんてゴブリンスレイヤー。

 いや、爺さんがゴブリンだけを倒してレベルアップしたとは限らないがな。


「つまり、碌な戦闘系スキルを有しない非人なぞゴブリン同然。そして、この儂に掛かればゴブリンなぞ羽虫同然、と言う訳だ」


 返す言葉がない。

 そんな俺に、老シャーマンが止めを刺しに来た。


「このアーマンがレベルを知って慄け……<ステータス・オープン>」


 パネルが現れた。

 そこには……


————————————————————

 名前:アーマン

 種族:人族

 性別:男性

 出身:ローダンテ

 所属:タリス

 年齢:45

 状態:貧血

 レベル:22

 経験値:26448


 称号:

 ジョブ:祈祷師

 スキル:予知、不幸耐性、空腹耐性、疲労耐性、生活、心労耐性

 魔法:祈祷魔法


 体力:117/117

 魔力:111/111


 力強さ:41

 頑丈さ:85

 素早さ:21

 心強さ:84


 運:12

 カルマ:71

————————————————————


 何だこれは! レベルが桁違いに高いじゃないか!

 ジョブも良く分からないが、祈祷士よりは凄そう。

 ん? あぁぁ、スキル〝予知〟!?


「ん? いつの間にか上がっておるな」


 しかも、言うに事欠いて〝いつの間に〟だと!

 体の震えが止まらない。

 アーマン、こいつは……


「どうやら理解した様だな。見ての通り、このアーマンは〝ただの祈祷士〟では無い。抗うなら、それ相応の覚悟を致せ」


 化け物だった。

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