第九十六話 にくにく
俺は僧侶用の短杖をストレージから
取り出して装備した。
例によって前に出る脳筋二人が
あっさりと敵を片付け
戦闘での出番が無い。
アルコが覆い被さった
スパイクリカオンを退けてくれた。
被害者を見たミカリンが声を上げた。
「ブリ?!ブリなの??」
いや
それは違うだろ。
この前ラハッチに受けた傷を
直した時に見たが
天使は内臓は愚か血も出ないのだ
天使の傷口は欠けた陶器のようで
一つの材料で体が構成されている
そんな感じがした。
しかし、俺の予想を覆す返事を
被害者は言った。
「ぶえええミガリン~痛いよ~
お腹破けちゃったよ~」
急いで駆けつけようとした俺は
急停止した。
「え?ブリッペなの」
なんだよ
急いで損した。
「大天使たるもの
腹が破けたぐらいで泣くな」
偉そうに言うミカリン。
おいおい
お前、足捌き覚えるまでは
転んで擦り剥いては
しょっちゅう泣いてたじゃないか。
「ぶえええええええ」
余計に泣いた。
つか、すげぇな
並みの人間なら泣いてる場合じゃないんだが
意識がハッキリしてるだけでも異常だ。
まぁそれ故に痛みもハッキリ認識して
余計にツライだろうけど
「?!命令が効かない」
ミカリンが滅茶苦茶に驚いていた。
天使長権限は絶対だ。
意識不明だったウルに
起きろと言ったら覚醒したぐらい
デタラメな力だ。
今のも「泣くな」と命令したのだから
止まるはずだったのだ。
いくらブリッペでも
この状態では流石に可愛そうだ。
俺は回復呪文を掛けてやる。
食われた内蔵は欠損しているので
使える内で最上位のを掛けてやった。
「うへぇぇえ、いつも済まないねぇ」
本当だよ。
「マスター。私は肉の処置をしてましょうか」
「おぉ、済まない頼めるか
知り合いでな、少し話すわ」
俺はそう言ってアルコに
スパイクリカオンの処理を任せ
言い争いを始めた
ミカリンとブリッペの間に入った。
「ふへへ天使長権限も今の
ブリッペには効果がないのだー」
「お前、受肉で降りて来ただろ」
だから内臓も有るし出血もする
そして天使でなく人状態と
判定されるのであろう
恐らく天使長権限は天使に限定されるのだ。
「な・・・なんてバカな事を」
ミカリンが倒れそうなぐらいフラフラだ。
「バカ?ミカリンだって受肉で
降りてるじゃーん」
違うぞ。
人間状態は受肉によるモノでは無く
呪いによる同化が人に掛かったせいだ。
ウルは理解していたはずだ。
ミカリンが顔を手で覆いながら言った。
「僕、降りてないよ。前回の降臨から
帰れてないじゃないか。
どうやって降りるの」
得意気な顔が固まるブリッペ。
「どうやったの」
いや
だから降りて無いんだって。
駄目だコイツ。
ウルーラハーお前ら面倒くさがって
ちゃんと教えて無いだろ。
状況を理解させる事から始めよう。
俺はストーレージから飲み物を
人数分取り出して配り
座って、紙に相関図形式で
今の状況を懇切丁寧に説明した。
「ええーじゃあミカリンとは
全然違うじゃーん」
やっと理解したブリッペは憤慨した。
「やっだぁもう。帰るー」
帰れ。
「・・・人間ってどうやってゲート開けるの」
憤慨した様子から一時停止し
キョトンとした表情になって
ブリッペはそう言った。
「さぁ・・・アモン?」
ミカリンも分からない
そりゃそうだ。
状態が人間であって
人じゃないんだから
人間を良く知っている
俺は冷たく答えた。
「開けられません」
悪魔召喚ですら、まだ研究段階だ。
今日見た記述の中に
天使降臨は単語すら無かった。
俺はそう付け加えて説明した。
「・・・どうしよう」
泣きそうになっているブリッペ。
「ミカリンはゲート開けられないのか」
下級から主天使になっている。
出来るんじゃないのか
「それが、呪いの制限で無理っぽい
主天使でもまだ出来ない。
もしかしたら大天使まで登りつめても
ダメかも・・・。」
その可能性は高い
天使より上位の女神の力で刻まれた呪いだ。
呪いが解除されるまでは出来ないに違いない。
「うーん。じゃあウルかラハに
回収してもらおう。首飾りで呼べないか」
ミカリンは首飾りを弄りながら
バツが悪そうに答えた。
「こっちから呼べないんだよねコレ」
そうか
元々ラハが見つけ易いようにと
ウルが残していった目印的な物だしな。
「そもそも何しに来たのさ
それも受肉で」
そうだ。
何しに来たんだコイツは
「んーとね。ラハッチがね
あなたにしか頼めないって」
ミカリンの護衛と
俺の監視だそうだ。
ふざきんなラハの野郎
上手い事言って面倒を押し付けたろ
「なんでもね。アモンのせいどれいに
なるんだって、それは受肉じゃないと
出来ないんだってー。」
ありがろうラハさん。
性奴隷有難く頂戴いたします。
フヒヒ。
コイツ脳みそはともかく
イイ体してやがるからなぁ
「えぇ!?ちょだ駄目。駄目だよ」
ミカリンが慌てている。
いやー
こうなった以上仕方が無いだろ。
「こうなった以上仕方が無いだろ」
「仕方が無く無いよ!駄目だって」
俺のセリフに被せるように
ミカリンは強い否定を入れて来た。
「マスター。下味をお願いして
よろしいですか」
ふと見ればアルコはスパオクリカインを
もう解体済みで、薪にも火が入っていた。
「分かった。ちょっと外すぞ」
俺はそう言って天使二人から離れ
アルコの手伝いをした。
ブリなんかより
よっぽど大事だ。
下味
ここが一番大事な作業だ。
スパイスの種類や量によって
味が全然変わって来るのだ。
・・・・・。
肉人形になるため受肉で降りたら
肉食獣の肉になりかけた天使。
だめだ
こんなタイトルじゃ誰も読んでくれない。
まぁこの一連のシリーズが
タイトルうんぬん言えた作品では無いか。
俺は邪念を振り払い
肉に下味つけを行った。




