第九十話 人形師マリオ
マリーが目を覚ますとやっかいなので
放置してクフィールに案内を頼んだ。
渋ったので「脅された」と言えと言い
強引に案内させる。
「言い出したら聞かない子っすねー」
初めは渋々だったが
段々ノリノリで色々と見せてくれる
クフィール。
資料室は興味深い手記が多かった。
俺は使えないが風系の攻撃呪文も
いくつか閲覧した。
自分では研究開発できないモノ程
ちょっと本気で覚えて置く
「ここがマリオの研究室っす。」
マリオ
魔法をリアクターにした。
自動人形の研究をしている者だ。
「マリオー入るっすよー」
クフィールはノックもせずに
扉を開けた。
部屋の中は
・・・・
怖い。
球体関節のマネキンがズラーって
きゃーちょっと苦手だ。
「クフィか。ノックをしろと
いつも言っているだろう。」
椅子に座り、入り口に対して
背を向けたまま男の声がした。
こいつがマリオだ。
机に向かい、バラバラの人形の
パーツを整備・・・分解なのか
とにかく部品を工具でいじっていた。
作業を中断して
椅子を回転させ
こちらに向き直るマリオ。
俺はその姿に恐怖した。
マリオの左腕は
人形のそれだった。
服のせいでどこから人形なのかは
判断しかねるが
袖から露出している
左腕は作り物だ。
魂の底が凍り付く様な恐怖だ。
魔法使いとしてマリオと
戦ったとしても
俺が勝つと思う。
でも、この恐怖は
そう言いう事じゃない。
研究の為に自らの左腕を
切り落とす覚悟。
それが怖い。
狂っている。
それも自然にだ。
マリオはいくつもレンズが
昔のTVカメラの様に
用途に合わせて回転して交換する
仕組みの複雑で大きい眼鏡。
いや、もうゴーグルだな。
それを外した。
出て来た顔は
まだ若い
30にはなっていないだろう
薄っすらと生える無精ひげ
だらしないが不思議と不潔な印象は
無かった。
「そっちの坊やは誰だい。」
左腕はお世辞にも自然とは言えない
カクカクした動きだが
動いていた。
右手に連動して
ゴーグルを落とす事無く
机の上に置いた。
「見学者で魔族の王に
魔法を指導した子っす
さっきのドカーンも
この子の魔法っすよ」
マリオは片方の眉毛を上げ
返事をした。
「そいつはスゴい。で
ここには見学だけかい
見てもいいけど
触らないでおくれよ」
俺は挨拶をしてから
早速、質問してしまった
失礼だとは思ったが
確かめずにいられなかった。
「その・・・腕はどうしたんですか」
俺の質問に得意気な表情になるマリオ。
「ふふーん。スゴイだろう」
ああ
スゴイよ。
「研究の為にそこまでするのか・・・
自らの腕を切り落としてまで・・・。」
俺は冷や汗をかきながらも
なんとか声にした。
クフィールもマリオも
一瞬、キョトンとして
爆笑した。
「違う違う。僕はね」
生まれつきだそうだ。
左腕の肘から先が欠損というか
未成長というか
無いそうだ。
そもそも
この研究自体が
自分の不自由さをなんとかしたかった。
ごく自然な理由だ。
「何かの本の読みすぎだよ」
畜生
その通りです。
ライバルに切り落とされたとか
死んだ母親を蘇生しようとして
持ってかれたとか
なんか特別な原因や理由があるモノと
勝手に解釈してしまったのだ。
だって
左腕なんだもん。
恐怖による冷や汗は
恥ずかしさによる冷や汗に
変わっていった。
マリオは研究成果について
いろいろ教えてくれた。
義手に代表される
体に装着するタイプは
まずまずだそうだが
完全自立の自動人形に関しては
望みが薄いそうだ。
「魔力自体を蓄積できる媒体
自体が希少でね。」
要するに電池の性能が低すぎる問題だ。
ここでピンと来た。
彼の研究が容認されている理由だ。
この電池が改良される
それはすなわち
クフィールの言っていた
魔導院が第一に求められている
魔力回復のアイテムに直結するのだ。
「後、命令を記録しておく
媒体はもっとヒドイ状態だ。」
簡単な命令すらまともに出来ないらしい。
「今は真っすぐ歩くのがやっとだ。」
「歩けるんですか」
スゴイじゃないか
俺は驚いて見せた。
「あ・・・あぁ。その程度で
驚いてくれるなんてビックリだな」
意外そうだった。
実際、歩く成果を発表したところ
これが何になると一笑に付されたそうだ。
「お茶を入れられるようになるのは
いつなんだって言われたよ。」
悲しそうな表情のマリオ。
気にするな。
「そんなこと言ったら魔導院だって
客に茶すら入れてくれないですよ」
ここでクフィールが割って入って来た。
「さっきの竹に入った飲み物
美味しかったったす」
嫌味だったんだが
効果は薄いようだ。
俺は再びストレージから
追加で3本出した。
「わーい。嬉しいっす」
まるで恐縮することなく
受け取るクフィール。
その分、働けよ。
「へぇ、これは便利だ。」
さすが奇天烈な研究ばかりの場所だ。
あまり驚かない。
その方が助かるのだが
なんかちょっと寂しい。
ただ、歩くだけでも使い道はある。
酸や毒霧の元の入った壺を背負わせて
自爆切り込みさせるだけでも
戦場においては有用だろう。
俺は自分の意見を言ってみたが
二人はドン引きだった。
「そういう為に研究してるんじゃ
ないんだけど・・・。」
「悪魔みたいな発想する子っすね
やだ怖い」
俺は悪びれず反論した。
「戦場で死ぬ味方が減ると思いますよ」
これには、二人ともウーンと
考え込んでしまった。
危険な軍人の発想なんだがな。
これはすなわち
敵の死体が増えるって事だからな。
そしてそのうち
敵も同様の兵器を使ってくるのだ。
結局死体は増える
でも技術は確実に上がる。
元の世界がコレだった。
生活を豊かにした道具
元が軍事技術から発展したものは
恐ろしく多い。
コンピューターも砲弾の着弾地点を
予想する為に発展された計算機だ。
携帯やスマホの元になった
通信は言うまでも無く
それまで手旗信号やハトを使っていた
軍の行動スピードを激変させた。
その後は部屋の中を色々見せてもらい
マリオは快く紹介してくれた。
触るなとの事だったのだが
触って良いものは
向こうから積極的に見せて来た。
何かマリオに不自然なモノを
感じた俺は中級デビルアイで
部屋を走査してみた。
なんと隠し部屋がある。
本棚が偽装された扉だ。
俺はわざとその本棚の本を
物色し続てみた。
「あぁこっちのパーツは
もっとスゴいよ。見てごらん」
マリオは慌てて俺を誘導した。
分かりやすい人だ。
俺は誘導に従い本棚から離れる。
武士の情けだ。
本棚の奥の隠し部屋に
一体の人形が安置されている。
その人形はまだ只の人形だが
容姿が問題だ。
「陶酔ねぇ」
俺はそう呟いた。
その人形は頭髪が青紫
色白の肌。
左の瞳は赤
右の瞳は青のオッドアイ
尖った顎をしていたのだった。
クフィールの居ない時に暴いてやろう。
フヒヒ。




