第九話 風呂中の来客なんていつの時代の
悪魔の機能は全て使用不可だと
思っていたが
脳内アラームが鳴っている。
ステイタス画面にあったスキルで
危険予知ってもしかして
脳内アラームの事だったのか
分かりにくいな
しかしこれは困った
何が危険なのか
さっぱり分からない
完全膝カックン耐性が無いので
周囲の状況を把握出来ない。
不安を煽るだけで
現実的対応に困る
スマホの地震警報と同じだ。
ふとミカリンを見てみれば
周囲を見回す仕草をしている。
こいつも何か感じ取ったのか
よし
ここは知ったかぶりで行こう。
「気が付いたか」
俺はさも分かってるかの様に
お前がいつ気が付くのか待っていた
そんな感じで言った。
「囲まれているっぽい・・・・
あーこの体、こういう感度は鈍いのかなぁ」
いや
レベルが低いからだよ。
それにしても囲まれている事が
分かっているのか
俺より優秀だ。
マズいな。
俺もミカリンもまだレベル1だ。
食肉用にウサギみたいなのを狩っては
いたが魔物ではないので
経験値が入って来なかった。
包囲などと言う
戦術を行使する相手と
やり合っても勝てるワケが無い
お湯から上がろうとするミカリンを
俺は手で制した。
耳を澄ますと
背にしている岩の向こうから
枝を踏んで折った音が聞こえた。
もうこんな近くまで来ているのか
俺は目の前のバケツから
火のついた薪を手に取る。
コイツを命中させるだけでも
結構ビックリさせられるだろう。
「僕が囮になるよ。主様は
逃げられるだけ逃げて」
ミカリンが小声でそう言って来た。
真顔が凛々しいな。
やだ
カッコイイ
じゃあお言葉に甘え・・・
たい所だが、全裸で逃げ切れるとも
思えないし
まず
戦闘になる前提が問題だ。
しなくて済むかも知れないじゃないか
「まぁ相手を見てみようじゃないか」
俺はそう言って岩によじ登った。
顔を半分だけ出し
音のした方を注意深く見る。
シルエットだけだが
相手が何なのか
俺には分かってしまった。
戦闘しても
今の俺達には絶対に勝てない。
しかし、相手が相手だ。
ここは最後の決断を
いきなりしてしまおう。
「ちょ・・・何してんのさ!」
岩の上まで登り
仁王立ちした俺を見て
ミカリンが悲鳴に近い声でそう言った。
俺はミカリンを見下ろし
不敵な笑みを浮かべる。
死ぬか尊敬されるかのどっちかだ。
俺は意を決して大声で歌い始めた。
曲はあの「ヒーローの歌」だ。
大声で歌う俺をミカリンは
唖然を見ていた。
完全に気が違ったと思っているのだろう。
しかし、俺は賭けに勝った。
この時点で攻撃してこないのだ
予想通りの相手だった。
気配を殺す事を止めた相手が
堂々と足音を立て
あちらこちらから現れ
風呂までやって来た。
皆、俺の歌に合わせて合唱になった。
「何コレ??何が起きてるの??」
キョロキョロと辺りを見回すミカリン。
事態が把握出来ない様子だ。
現れたのは身の丈3mにも及ぶ獣人。
ハイエナっぽい顔をして
「ツァッツア」とうるさいあいつらだ。
岩の上に立っている俺と
肩の位置が合うので
サビの部分では
俺はベアーマンと肩を組み
左右にスイングして
熱唱した。
歌い終わると
ベアーマンの代表者
装備が一人だけ良い物を身に着けているので
恐らくコイツがリーダーなのだろう。
そいつが話しかけてきた。
「見た所エルフでは無いな
なのにこの歌を知ってるとは
エルフと知り合いなのか」
ん
翻訳がおかしいのかな
ツアツア言わないのか
「聞いて驚け。森の妖精に
懇意にしてもらっている者だ」
つか本人だが
今はその姿になれん
知り合いで通そう
ザワッ!
そんな音が聞こえそうな程
ベアーマン達が驚きのリアクションを取った。
ミカリンも湯の音が立つぐらい
ベアーマン達のリアクションに
ビックリしていた。
ベアーマン達は
代表者の後ろに整列し
一斉に跪いた。
「こ、これは大変失礼を・・・」
おお
しどろもどろになってる。
絶大な権力を誇っているな
森の妖精は