第八十三話 試練終了
えっちらおっちら歩いて来るコタツ三体。
大きさはエルフの里で倒した奴と
同じくらい・・・いや
寸分たがわず同じであろう。
今、目の前にしている三体も
全く同一サイズにしか見えない。
四つん這い時の高さは10m程度
外壁が15m程度なので
後ろ足だけで直立しない限り
越えられる事はなさそうだ。
この事からも
ゲアの言った対バング用を
信じて良さそうだ。
「そろそろ射程です」
俺の考えを打ち消す様に
ナリ君が緊張した声で言った。
「ああ、あの漆黒のなんたら
を大袈裟にいこうか。」
俺の言葉に眉をしかめるナリ君。
「あれは無意味だと、マスター」
「戦闘に限って言えばだ。
今、重要視されるのは君の偉業だ。
派手にいかないとな」
「御意。マスター」
背中の剣に手を回すナリ君。
俺は仕草と表情で
皆、ナリ君から離れる様に
ジェスチャーした。
長剣なのに綺麗に抜刀する。
相変わらず上手い。
使わない左手は
なんかカッコよく前方に
突き出している。
意味は無いが
カッコイイポーズだ。
宝刀は既に細かい雷光を
刀身に走らせていた。
気合十分だ。
「見るがイイ!我が暗黒の雷を!!」
そこからテンプレなんだ。
「・・・・。」
んん?
「漆黒の闇の底より出でし煉獄の雷雲よ」
久しぶりで忘れたろ
「我が裁き、彼の地より7つの門を開き」
あれ7だっけ
まぁ何個でもいいか
「盟約に基づき我の召喚に答えよ」
チラりと後ろを振り返ってみると
皆、固唾を飲んで注視している。
俺は両手で耳を塞いだ。
それに気が付いたミカリンも
勘付いて同様に耳を塞ぐ
音がデカいんだ
この事を悟った
他の面々は慌てた。
そう
フルフェイスのメット
外から耳を塞げないのだ。
「食らえ!!暗黒雷撃弾!!」
叫んだナリ君は
眩しい紫電に包まれ
カッコよく振り回し
突き出した剣先から
雷撃がほとばしる。
雷の通り道になった場所の
空気は音速で切り裂かれ
カミナリ独特の炸裂音が響く
耳を塞いで正解だ。
予想通り
ナリ君の能力も上昇していた。
初見の倍はあろうかと思える程の
雷、音も倍だ。
チャッキー君と遭遇した夜
あの時ですら、うるさくて仕方なかった。
それに輪を掛けて今回のはうるさかった。
目には走った様に見えるが
ほぼ光速で飛来する雷。
避けられるワケが無いし
バングが回避行動を取った事は
今までない。
雷は真ん中のバングに命中すると
ド派手に爆発した。
魔力量が多かったのか
煙化も視認されず破裂するバング。
後方ではどよめきと歓声が
沸き上がる。
「やったな」
仕留めた事に安堵し油断してしまった。
俺はある事を失念していたのだ。
仮面は煙化しない
炸裂した勢いを受け
激しく回転しながら
バングの仮面は
まるで
狙いすましたかのように
一直線に飛んで来て
ナリ君を弾き飛ばした。
「どぉおおおおうはあああー!!」
振り返り、民衆に向けて手を
上げようとしたナリ君は
受け身も取れずに
直撃を食らい、手足を器用にも
あり得ない変な方向に向かせて
宙を舞った。
「「あーナリくーーーん!」」
俺とミカリンは爆笑しながら叫んだ。
観衆の方は本気で悲鳴を上げている。
僧侶用の杖で良かった。
笑ってしまって呪文が唱えられない。
俺はメニューを開きながら
小銭の様に回転するナリ君の
元へ走った。
「なんて運が無い男なんだ」
泣きながら爆笑している
ミカリンはそれでも必死に
それを言葉にした。
そうか
運が0なの教えて無かったな。
「しっかりしろ!今すぐ
ぶははは治療してやるからな」
きりもみ回転だったのだろうか
なんかクロワッサンみたいに
なってしまって倒れたナリ君を
起こしながら
俺は声を掛けた。
意識ある訳ないか。
「ぼボーシスさんの・・・
足の裏は・・・柔らかかった」
血反吐を吐きながら
ナリ君は息も切れ切れに喋った。
おお
意識ある
流石は王
強いな。
しかし
薄れ行く意識で
思う事がそんな事でいいのか
俺は笑いで震える指をなんとか
動かして回復呪文をフリックした。
「アゼルバイジャン!!」
おお、間に合ったか。
試して無いが多分、死体には
回復呪文は効果が無い。
「あれで生きてるなんて
大した奴だぜ」
「ふっ我が人生は常に
九死に一生を得てきた」
いや
必ず九死がやってくるのが
問題なんだけど
どうにも対策が無いので
そう思ってるなら
それでいいか
彼にはこれが日常なのだ。
「よし、後二つだ。頼むぜ王様」
俺のセリフに青ざめるナリ君。
「それが・・・魔力が」
まーた使い切ったのか
MP譲渡も考えたが
さっきの仮面舞踏会を
後二回もやるのかと思うと
俺もうんざりだ。
残りは俺とミカリンで受け持とう。
俺は演技指導をして控えた。
立ち上がったナリ君は
大袈裟な演劇調の演技で
観衆に聞こえる様に語った。
「我が宝剣を持ち出すまでも
無い相手だったな!
残りは貴様らにくれてやる!!」
「ははっ」
フラフラのはずなのに
カッコよく歩き出すナリ君。
俺の目くばせで
魔族槍兵の一人が共に
ついて後方に戻っていった。
「どうしよう。笑いが止まらないよぅ
呪文に集中出来ないよぅ」
コントの間に
残りのバングはかなり接近して
しまっていた。
これは急いだ方がいいな。
「俺がやる。杖貸してくれ」
ミカリンが放った簡錫を
キャッチすると
俺は急いで火球を連射し
バングの足を狙い打った。
両前足を失った二体は
お辞儀するように
ゆっくりを前のめりになった。
少し時間が稼げた。
俺は暴走陣を引いて
広範囲のスパイクを詠唱した。
ボルトはナリ君の偉業に
被るので地味な魔法で
処理しておこう。
地味な杭に串刺しされた
二体はゆっくりと煙化していった。
念のため仮面が剥がれ落ちるまで
見届ける。
この仮面部分にすこしでも
黒いボディ部が残ってしまって
いれば、死んでいない
まだ動くのだ。
まぁ大した事は出来ないだろうが
煙化が終わるとスパイクも
効果が切れ消えた。
仮面を確認しようとした
俺の脳内に
例の盛大なファンファーレが
聞こえた。
「おわっ」
ボリューム調整出来ないのかな
これ結構ビックリするぞ。
「ひゃ」
ミカリンもビクついていた。
同様の大レベルアップしたのだろう。
「のぉうわ・・おおおおおおおお!」
観衆の居る場所で
ビックリしたついでに
勝どきを上げて胡麻化すナリ君。
こういう機転は利くんだな。
バング3体だ。
パーティメンバー全員
ジャンプアップした。




