第八十二話 試練スタート
「下がれ!我らが出る
ドーマ防衛隊形で頼むぞ!!」
ゲートから出る際に
対面の橋向こうから
バルバリスの騎兵団が出るのが
見て取れた。
それを見た俺は
慌てて戻りゲアに乗車してもらった
それは大正解な判断だった。
「ゲア殿?!どういう事ですか」
「秘密兵器じゃ!見ておれ」
技師であって戦士では無いゲアだが
バルバリス内でもそこそこの地位だ。
それが見た事も無い車で出陣だ。
騎兵団も目を丸くしていた。
「助かる。俺が言っても
取り合ってくれないだろうからな」
俺は騎兵団の馬を
出来るだけ驚かせないように
車を動かしながら
ゲアに礼を言った。
騎兵は重装備だが
バングの鞭に無傷と言う訳には
いかないし、乱戦になってしまうと
巻き添えを恐れて魔法攻撃が出来ない。
ここは下がっていて欲しい。
しかし、俺の命令を
バルバリス兵が聞くワケないのだ。
「ハーハッハッハ!
俺に出来る事ならなぁんでも
言ってくれぃ」
豪快に笑うゲア。
アモンキャリアに乗れて嬉しそうだ。
ゲートから外に出ると
外周沿いを回ってドーマの
南側に向かう。
後ろに騎兵団を引き連れていて
なんか偉そうな絵になっている。
バルバリス側が兵を出した。
これはドーマをも防衛する意志だ。
しかし、騎兵団の数は少ない。
この事は昼のゲアの話を裏付けた。
バルバリスの主戦力はネルドに
投入されているのだ。
最低限の防衛戦力だけしか
今のベレンには無い。
南側に到着すると
小さな門から魔族の兵も
次々と出て来ていた。
「ナリ君。騎兵団と協力して
防衛に専念するよう言って」
車を徐行させると
ナリ君は御者席に仁王立ちし
演技掛かった口調で
俺の頼みを実行した。
王直々のお言葉に
盛り上がる魔族の兵達。
見上げれば城壁の上にも
巨大な弓を装備した滑車が
ズラリと並んでいる。
防衛の陣形が組まれると
俺達は車から降りた。
「ゲアは中に引っ込んだ方がいいぞ」
俺はそう言ったが
アモンキャリアから下りようとしない
ここから見届けると言ってきかなかった。
「まぁ大丈夫だとは思うけどね」
攻撃役は俺、ミカリンそしてナリ君。
それぞれに盾役がいてもらった方が
良いので魔族槍兵から二人ついてきて
もらった。
アルコと合わせて攻撃役を守って
もらう寸法だ。
「へへーん。焼き払っちゃうよ」
ミカリンには昼間購入したローブと
簡錫を装備してもらった。
なんと武器屋に杖が売っていなかった。
魔法の普及率の低さが
こんな所でも感じられた。
「どんなんですか?バングって」
そういえばナリ君は遭遇してないか。
ナリ君は着替える時間が無く
盛り盛りの恰好のまま
宝剣だけ背負ってきた。
もう宝塚か高見沢みたいに豪華だ。
「まぁ・・・すぐ見えるさ」
説明が面倒くさいので
適当に答える俺。
俺は僧侶用の短杖だけ持った。
これでも手ぶらよりは
攻撃力が上がるのだ。
魔法使い用の杖を
もう何本か作った方がいいな。
「匂います・・・数多いですよ」
アルコの嗅覚。
本当に嗅覚なのか
第六感を表現するのに嗅覚に
置き換えて言っているのか。
よく分からんのだが
当たるので信頼していい。
警報が鳴ったのは
巡回警備をしていた
バルバリス兵がバングと遭遇し
一も二も無く引き返した。
報告は曖昧で数は不明だが
ベレンに向かっているのは間違いなく
今現在も外壁上から
望遠鏡で確認中だ。
今回は複数と見て
間違いない。
数もそうだが
タイプが気になる
ハンプティとコタツでは
難易度が異なる。
「来ます!!」
外壁の上から声が上がった。
見えた。
コタツが三体
並んでこっちに向かって来る。
相変わらず意志がある様には見えないが
同士打ちを始めないトコロ
均等に距離を保っているトコロ
などなど
簡単な動作プログラムが垣間見える連中だ。
うぉぉぉおっと
良い恐怖だ。
姿が見えただけで
騎士団、魔族兵達から
極上の恐怖がなだれ込んで来た。
完全人化でこれだ
悪魔化して残らず平らげたい
欲求に狩られる。
そんな中でもミカリンの恐怖は
格別だ。
ショートケーキの苺ちゃんだよ。
ただ初回と違って
耐性が出来ている様だ。
取り乱す事無く集中している辺り
流石と言える。
アルコは馴れないようだ。
甲冑が小刻みに震えていた。
良く見ると
バングの動きが変・・・というか
処理落ちなのか
カクッカクしてる
垂直同期のブレも酷いように思えた。
「あれが・・・バングでですか」
ナリ君の恐怖がセリフと共に
ダイレクトに伝わって来た。
こんなに怖いのに
表情に出ていない。
すごいな
大したモノだ。
強靭な精神力と言うべきか
プライドの権化と言うべきか
「そう。じゃ後はヨロシク」
そう言って踵を返そうとしたが
肩をすんごい力で掴まれた。
「駄目です。マスター!」
痛いよ。
冗談だっての
「えーっとな、あいつら移動速度が
一定だから、しばらくヒマだぞ」
射程に入るまで、まだ結構距離がある。
バショ
頭上から射出音が響く
まだ全然届かないというのに
恐怖に負けたのか
震える指がトリガーを引いてしまったのか
バリスタが打たれた。
それが合図だったかのように
他のバリスタも無駄弾を打ち始めてしまった。
「あー勿体無いから、止めさせて」
俺は振り返って、昼に世話になった
魔族指揮官にそう言った。
俺に話しかけられた事によって
硬直した表情から我に返る指揮官。
「・・・ハッ、た直ちに!!」
指揮官は声を荒げ「止めい」を
連呼するが、その声も恐怖で
裏返っていた。
ダメだこりゃ
可哀想だし
何より恐怖で戦線が崩壊するのが怖い。
後ろからバリスタで串刺しなんて
冗談じゃ無いぞ。
お客さんから良く見える位置で
倒そうと考えていたが予定を変更だ。
丁度、バリスタの飛距離も
分かったし、落ちた矢の前まで行こう
それなら当たらないだろ。
「アモン。」
味方の混乱を懸念したのか
ミカリンが話しかけて来た。
「うん。前に出ようか」
「えっ?!我らだけでですか」
俺のセリフに驚くナリ君。
ここはアピールポイントだな。
俺は演劇調に声を張り上げて言った。
「あの程度、王の雷の前には
なんの障害にもならん」
「そうなんですか」
目を丸くするナリ君。
そうなんですよ。
つか、乗ってくれよ。
「王の力!しかと見よ!!」
俺はナリ君のそうなんですかを
打ち消す様に被らせて叫び
前方に歩み出した。




