第七十六話 ドーマ市内観光
「替わりに馬車を使ってくれぇ」
ゲアはそう申し出てくれたのだが
3人とも御者が出来ない。
馬を扱った経験がないのだ。
「こっちで行くからいいよ」
比較テスト用に作った直6を
勿体ないということで客車に搭載してある。
客車単独でも動くのだ。
連結のバーを外して
俺は御者席に乗り込み
投石の呪文を行使した。
ピストンの位置が異なるので
最初は戸惑ったが、判別しやすい
磁鉄鉱を使用したピストンなので
誤動作を起こさずエンジンは回った。
これを只の石で作成したら
道端の石ころ全てが魔法に該当してしまう為
無差別に投石が起こり
走るどころでは無い事態になってしまう。
「ふあ・・・出発ですか」
揺れた事で寝ていたアルコが目を覚ます。
「あーヒドいよ置いてく気ーっ」
お
ミカリンだ。
何やら抱えてこっちに走って来た。
「どこ行ってたんだ。」
そう言う俺に抱えている物を見せた。
飲み物とかだ。
気を利かせたのか。
「ぬぉおおお!コレもバラさせてくれぃ」
動き出した客車に興奮したゲアが叫んだ。
「勘弁してくれ。」
出かけられなくなる。
戻るまでに直すようにゲアに念を押し
俺は客車をゲートまで回した。
昨日、目撃していなかった者は
皆、馬無しで動いている車に
腰を抜かしそうになっていた。
「ミラーが欲しいな。」
森や街道では気にならなかったが
市街地などはバックミラーが無いと不安だ。
今度付けよう。
「うぉーアモンキャリア単独出撃ー!」
客車にはそんな名前付けていたのか。
・・・それでいいや
つか
ミカリン名付のセンスあるんじゃないか。
「ゼータ・アモン!アモンキャリア行きまーす」
ゲートから出る際にノリでそう叫ぶ
直ぐにエンジンの違いに気が付いた。
V8に比べて直6は音も静かで
回転がスムーズだ。
扱いやすい。
もしかしたらアモン2000
要らなかったんじゃないか。
普段は客室のアルコまで
御者席に出張って来た。
まぁ景色とか見たいよね。
アモン2000と違って
運転席が広いので3人くらい
並んで座れるし
問題は無い。
ただ二人とも都会が初めてなので
ギャーギャーうるさい「アレ何?」連呼だ。
加えて、すれ違う一般魔族どもも
ギャーギャーうるさい「アレ何?」連呼だ。
地図を頼りに市内を回り
武器や防具、アイテム系などを
物色して回った。
資金はルークスからお礼金を
もらっていたので心配無い。
むしろ外で使うよりドーマ内で
このお金は落としきった方が
ドーマにとっても良いハズなので
気にせずバンバン使った。
以前からやりたかった
登録装備の一発チェンジの設定を
二人ともしておく為2セットづつ購入した。
「盾と・・・槍ですか?」
アルコには従来通りの格闘用装備と
それとは別に対バング用セットも組んだ。
「ああ、前回の盾使いぶりから
アルコなら出来るよ」
バング相手に格闘は危険が大きい
一発の被弾で即致命傷だ。
素早さが犠牲になってしまうが
フルアーマーにタワーシールド
近接武器では射程の長い槍が最適だ。
欲を言えば魔法の付加された武器防具が
望ましかったが
魔法自体の普及率が低いので
無理だった。
うーん付加魔法系を開発せんとなぁ
必要な物が大体揃ったが
まだ資金に余裕があるので
オシャレに使う事にした。
「必要ないよ」
「勿体無いです」
二人はそう言ったが
ふふ
嘘だ。
俺は知っているぞ。
前回で経験済みだ。
君らよりよーぽっどオシャレに
無頓着だった娘ですら
お店で着せ替えしているうちに
どうして、私どうなっちゃたの
てな具合で夢中になってしまうのだ。
鏡に映る新しい自分に
ぽーっと気持ちよくなってしまう
それが女という生き物なのだ。
弱き者よ、汝の名は女なり
ですよねーシェイクスピア先生
・・・使い方が違うか。
魔族女子だってオサレしたいのだろう
それ系のお店はすぐ見つかった。
嫌がる二人だったが俺は強引に
市内なら普通の服も必要だと
お店に入った。
「いらっしゃいませー」
居たよ。
本当に柳原可奈子みたいなアパレル店員
こいつかなりデキるぞ。
これは任せてOKだろ。
「二人を綺麗に変身させてください」
俺は丸投げした。
そして
10分としない内に
「見て見てコレは?ねカワイイ??」
「どうでしょうかマスター」
あっという間に陥落しやがった。
速いね君らチョロすぎじゃない。
俺は適当に「おっイイネー」などと
返事をしながら忍耐を起動させる。
ここからは長丁場になる場合が多い
男子はここで絶対に
イライラしてはいけない
しようものなら
どんな報復が待っているか分からない
余計面倒くさい事になるので
ここは頑張って我慢なのだ。
案の定、昼を過ぎた。
「アレ?こんなに買ったの」
「申し訳ありませんマスター」
自分達で選んだんだろ。
結局あれもこれもになったな。
「カワイイ姿を見せてお詫びしてくれよ」
俺がそう言うと二人とも
花が咲いた様な笑顔だ。
俺が嫌がる二人を連れて行ったんだ。
怒るワケにはいかない
つか
怒ってないし
二人の嬉しそうな顔が見たいだけだし
「ただ、ちょっと腹が減ったな」
頷く二人。
この二人が空腹を忘れて熱中するなんて
オサレ恐るべしだ。
「どこが美味しいのかな」
ルークスから渡された市内の地図
何屋なのかは記載されているが
星は表示されていない
ミシュランマップとは違う。
「こういう時はだな」
俺は鼻をクンカクンカさせた。
わざわざ半魔化して嗅覚に全集中だ。
「こっちだ」
閃きにしたがって車を移動させ
とある店まで付いた。
昼過ぎだというのにまだ客が多い
この事実だけで当たり間違い無しだ。
「どれを注文すれば・・・。」
「それも、こうだ」
俺は、「店のオススメ三人前で」と叫ぶ
「そんな適当な」
そう突っ込むミカリンだったが
全部言い終わらない内に店主の返事だ。
「あいよ」
これでいいらしい。




