第七十五話 発明家という者
ドタバタのせいで
遅めの朝食になった。
メシを食いながらアルコに
その事を説明したが
ピンと来ていない様子だ。
「勝者が長の方が分かりやすいのでは」
どうもベアーマンには
血統とか無いらしい
猿やライオンの様な社会形態なんだな。
「人は面倒くさいんだよ」
そう言って納得させておいた。
戴冠の儀
これを執り行ってからが
正式な王となるそうだが
出来る日取りが決まっているのと
それまでにこなすノルマ
まぁ試練があるらしく
ナリ君はまだ正式な王では無い。
名前が空欄だったのは
そういう事が関係していたのだろう。
・・・・。
ナリってつけちゃったけど問題に
なったりしないよな。
メニューが開けるのは
今の所俺だけだから
黙っていれば大丈夫だろう。
つか
一度登録したら
もう弄れない項目なので
もうどうしようもないのだ。
考えても仕方ない事は
考えない。うん。
今日は夕方から要人向け
王の帰還の祝賀会だ。
それまではドーマ内を視察
まぁ観光だな。
明日は一般向けにドーマ内を
パレードする事になった。
一般へのお披露目だ。
ナリ君が視察について来たがっていたが
衣装の仕立てやらなんやら
自由な時間があるはずも無く
3人だけで行くことになった。
「ヒドイですマスター」
俺のせいじゃないだろ。
大人しく自らの役割を果たせ
他人にも馴れるいい練習だ。
そんな感じで言い包め
3人で馬車置き場に向かうと
衛兵に止められた。
「おぁあ!ここここれは
救世主ご一行様。本日も良いお天気で」
ここでも救世主扱いか
まぁ探しても見つけられなかった
王を無事送り届けたんだから
国の恩人だよな。
それにしてもこの衛兵の態度
怪しすぎる。
俺は無視して横をすり抜ける。
ここに辿り着くまでに
俺のレベルは40になっていた。
クロードやマイザーとも互角のレベルだ。
そのお陰か見事にすり抜けに成功。
一気に魔車まで駆け出す。
「あああダメです。お待ちくださいー」
後ろで衛兵のそんな声が聞こえたが
俺は走り続けた。
アルコとナリ君の名付効果の恩恵で
素早さの数値上昇がハンパじゃない
我ながら笑えるくらい速くなっている。
鎧を着こんだ衛兵では追いつけない。
ミカリンもアルコも俺の後に
ついて来ている。
二人とも最近は指示しなくても
思い通りに動いてくれるので楽だ。
あっという間に厩舎の隣の
馬車置き場まで来た。
俺の魔車を停車したのは
入り口近く、ここからは一番奥だ。
そのまま走った。
「無茶です。マイケル無茶です。マイケル
無茶です。マイケル無茶です。マイケル」
近づくと聞こえて来る
俺の車のボイス。
俺の車の周りには整備士やら
衛兵やら数人が集まっていた。
駆け寄る俺の足音に気が付き
皆振り返り俺を確認すると
大慌てだ。
「ああー恐れていた事が!」
「おいゲア責任取れよ!」
「足止めしろって言っといたのに
あいつ何やってんだ!!」
「無茶です。マイケル無茶です。マイケル
無茶です。マイケル無茶です。マイケル」
辿り着くと
俺の車はバラバラになっていた。
「あーっアモン2000がー!」
その惨状を見たミカリンが叫ぶ
何それ、そんないつ付けたの
・・・それでいいや。
天を仰ぐ者
話題を天気に持って行こうとする者
車の下を覗き込み「出てこい」と
怒鳴っている者。
ふと見てみればアルコが
今にも泣き出しそうな顔だ。
バラバラの姿にショックを
受けているのか。
俺は「大丈夫直るから」と
頭を撫でてやる。
事実壊れているのではない
キレイに分解されている。
これなら
また、組み立てるだけだ。
しかもジャッキアップポイントと
呼ばれる骨組みの強度が
しっかり出ている場所に
キッチリとレンガをかましている。
そこ以外にジャッキを当てると
最悪フレームが変形してしまう。
俺しか弄らないと思って
場所をあえて記入していなかったのだが
構造を理解してポイントを
導き出していたようだ。
分解した奴は強度を理解している。
車の下を覗き込んで声を掛けていた奴の
呼び出しに答えてその人物は
引き出しの様にスライドして出て来た。
車整備でお馴染みの
板にローラーがついた奴で
車の下に潜り込んでいたのだ。
この世界にも寝板があるのね。
「なんじゃあ邪魔しおって」
出て来たのはドワーフだ。
こいつがアモン2000
バラバラ殺人事件の犯人だろう。
「持ち主が来ちまったんだよぉ
俺は知らないからな」
呼び出した兵はそう言って
現場から逃走した。
「すいません。止めたんですが・・・。」
人族の整備士が事情を説明してくれた。
俺の魔車に目を付けたドワーフが
周囲の制止を振り切って
分解を始めてしまったそうだ。
このドワーフはなんでも
バルバリス王の知り合いとかで
ドーマにおける全機械の
設計・接地・整備の総責任者だそうだ。
そのドワーフはドワーフの御多分に洩れず
大声で名乗った。
「ゲアって言う。あんたが持ち主か
心配いらねぇ、ちゃーんと
元通りにしてやんからよ。」
当然だ。
「ん?ガウのおっさんに似てるな」
馬や牛の顔は差異が少ない
牧場の人は見わけが付くそうだが
一般人から見ると
皆同じ顔に見える。
人の顔はすごく個性的だ。
同じ人種、性別、年齢でも
体型・顔の造形など
すんごい差がある。
首が短かったり
顔が超デカかったり
鼻の形、耳の形など
他の動物より明らかに差がデカい
化石になって発掘された場合
別種に判断されそうなぐらい違う。
この世界の人族も同様だ。
で
亜人種となると動物より差があるが
人よりは少ない感じだ。
最初は見わけが付かなかったが
最近は分かる様になって来た。
知っているドワーフの中で
ベレンの冒険者協会の幹部をしていて
昔はクロードなどと
一緒に行動していた男だ。
このゲアと名乗ったドワーフ
すごくガウと似ていると感じたのだ。
そしてその疑問は直ぐに解けた。
「ガウはワシの兄じゃ
なんじゃ兄を知っとるのかね」
「噂でね」
今のチンチクリンの俺とは
面識が無い
ここは適当に答えて置こう。
俺が怒っていないのを理解した
周囲の人は皆ホッとした様子で
各々の持ち場に戻っていった。
「あんちゃん。この車を
作った奴を教えちゃくれんか」
「目の前に居る。俺だ」
「おぅ?その若さでか」
「魔法を使いだ。見た目の
年齢に騙されるなよ」
面倒なことは
大体魔法で誤魔化せる。
「そうかーじゃ
教えちゃくれんか」
「何をだ」
「このピストンを稼働させる
リソースが見当たらん。
どうやって動かしておるんじゃ」
ここで俺は思い出した。
エルフの里で車の作成を
手伝ってくれたドワーフが
風が無くても動く船を作った
ドワーフが居ると言っていた。
ああ
ゲアだ。
この文明レベルでのエンジンと言ったら・・・。
「少なくとも蒸気じゃあないな」
俺のセリフに目が光るゲア。
「ぬぉヌシ!!スチームエンジンを
知っているのか」
雷電でなくても知ってるわい
ゲアは大興奮だ。
恐らく理解者が皆無だったのだろう。
彼に対する周囲からの扱い
結果は出すので納得するが
理解出来ない奇人。
恐らく孤独の中で
ただひたすら金属を
加工し続けたのだろう。
典型的な発明家だ。
俺はバラバラになった
アモン2000を眺めて思う
そう言えば
チャルーズ・バベッジも
トーマス・アルバ・エジソンも
知らない機械を見ると
分解せずにいられなかったそうだ。
ゲアもそれと同じ人種なのだ。
俺はアモン2000のエンジンを
解説してやった。
「そうかー魔法かぁ」
残念そうだ。
魔法となると誰もが預かれる恩恵では
無くなってしまう。
「すまんな。蒸気に転用しようにも
ピストンの内容積が足りん」
ガソリンや軽油などの
化石燃料の登場まで
こいつは日の目を見ないな。
「いやぁクランクその他
随分参考になったわい
特にV字型にして全長を短くし
トータルの重量を押えるアイデアは
是非真似させてくれぃ」
「船ならそこまで軽量に
拘らなくてもイイんじゃないか
海上でのトラブルを考慮すれば
大型でも壊れにくくメンテのしやすい
エンジンの方が最適だぞ」
目が光るガウ。
こういう会話が出来る相手に
相当飢えていたようだ。
マシンガンの様に話し始める。
こんな物を作るぐらいだ。
俺もこの手の話は嫌いじゃあ
いや
大好きです。
メチャクチャ話が盛り上がった。
もうゲアは感極まって泣き出すわ
ミカリンは呆れてどっか行っちゃうわ
アルコは魔車の客車で寝ちゃうわ
ゴメンゴメン
出かけるんだったよね。




