第七十四話 役立たずのスパイを
「しかし未遂とはいえ王の暗殺
無罪放免とはいきますまいて」
そこまでの権限はあるのだろうが
行った場合、ルークスの威信は落ち
摂政の座も引き摺り下ろす方向に
動く事になるだろう。
なにより反発が押さえられない。
教会に切り込む特攻が出る可能性もある。
「それ以前に教会の送り込んだ暗殺者が
王を殺害しかけたとなれば
反発は必至だ。ただでさえ王の帰還で
盛り上がっている所だ。成功しようが
失敗しようが教会の関係がバレた時点で
悪手極まりないな」
グレアの表情が驚愕に変わる。
俺は確信した。
やはり先走りだ。
「グレア。指示もなく先走った結果
最悪の事態になっちまったな。
お前も妹ももう助からない」
そもそも暗殺の専門じゃない
証拠を持ったまま実行に及ぶとか
「指示無しですと?」
驚くルークス。
「回りくどいのは苦手だったな。
まず事実だけ並べようか」
1.グレアはスパイ
2.犯行はグレアの独断
3.教会は暗殺を指示していない
「王の帰還は昨日だ。暗殺の指示まで
速すぎる。どう対応しようか
今日あたり内緒の会議が開かれるだろうよ」
結果は見え見えだ。
「そして結果は経過観察だろう。
暴力的な独立運動が起きないなら
教会にしてみれば同じだからな
暗殺なんてリスクがデカすぎる
国内の信者だってドン引きだ。
更に
魔族側に暴力行使の正当な理由を
与えちまう事になる。
独立運動だって兆候が出てから
対処すればイイ。
急いで暗殺する必要なんて無い」
顎に手を当てて頷くルークス。
グレアの顔は青ざめている。
「おい、本当なのか!」
ラングは語気を荒げてグレアに
問い詰めた。
俺は手で止めるようにラングを制した。
「言わないよ。仮に言っても
偽証で無いかの検証が出来ない
あまり意味が無い」
「しかし、この女の持っている
情報は重要では」
食い下がるラング。
ルークスもそれには同意した。
「ですな。ここは拷問の
専門家に任せますかな」
いるの?
怖ぇな魔族。
俺はたまらずナリ君に
助けを求めた。
「王よ。拷問するのか」
ナリ君はゆっくりとカッコよく答えた。
「全ての意見を聞いてから判断を下す。
マスター、あなたの案がまだだ」
拷問なんて冗談じゃない
鞭で打つにも
痛くないソフトSM専用のでやろうよ。
皮が剥ける様なのは無理。
「俺の案か、結論を先に言うと
暴力無しで教会とも表向き
今まで通りで尚且つ教会の内情を
知る事が出来る様になる。
時間も稼げるので、その間に
魔族の民の動向を見て
今後を判断できるようになる。
こんな感じだ。」
「それでいこう」
即答するナリ君
いや
具体的にどうするのか聞こうよ。
「どんな方法ですかな」
ルークスが代わりに聞いて来た。
まぁどんな案であれ
王は座っているだけで
実働するのはルークスだ。
当然そうなるわな。
俺は勿体ぶって説明を始めた。
「暗殺未遂なんて無かった。」
ドーマも教会もその方が良いだろう。
「グレアを含めたここの皆で
協力すれば簡単だろ」
「この女が協力しますかね」
ラングは気に食わない感じだ。
「するさ。そうすれば自分と
妹の当面の身の安全は確保出来る。
このままじゃ二人ともお陀仏だ。」
俺はグレアの前にしゃがみ込むと
グレアの両肩に手を乗せる。
「俺を信じろとは言わん
ただ俺に助けさせてもらえないだろうか」
はぁー
肩の肌もすべすべじゃねぇか
「お前だけでは無い。妹も助ける
セットで無いとお前を助けた事に
ならないからな」
この美人の妹だ。
さぞかし、いやらしい身体してやがるだろうな
それが制服に包まれて
ああ
背徳感がたまらん
いけません
「更に言えば、第二第三のお前を
助ける事にも繋がる。助かる道が
あると言う証明。何にも増した説得材料だ。」
熱く語り掛ける勢いで
グレアを少し前かがみ気味に揺する。
見え・・・ない
ダメか。
「裏切りに自らの心を削りながら
怯え疑う日々。そんな事が
まるで意味無いって事になれば
誰もスパイなんてしやしないさ」
「わ・・・私は何をすれば・・・。」
もう少し前かがみで
じゃない
「暗殺未遂なんて無かった
何食わぬ顔で今まで通り
行動すればいい。ただし・・・。」
そうラングみたいなのに
内緒でぬっ殺されない様に
しておかないとな。
「・・・ただし。」
グレアに驚いた様子は無い。
そんなうまい話は無い
分かっているようだ。
「持っている教会側の情報を
全てよこせ。今後指示された事も
含めてだ。」
「・・・Wスパイですな」
俺の利用価値のセリフの段階で
予想していたのだろう
ルークスは一言そう言った。
「ああ、ただしグレアは教会の
情報を取る為に最初からWスパイだった
そう言う事にしよう」
これならグレアを闇討ちできまいて
「さて、今まで向こうに
渡したこちら情報と
教会に要求された事
後は仲間がいれば教えてくれ
そいつらの身の安全も確保せにゃ
ならんからな」
「仲間って事なんでしょう
だったら縛を解いてあげようよ」
おっと
ミカリンから良い突っ込みだ。
いかんな
俺はこういう気配りが全然足りない
ミカリンが来てくれて良かった。
「ももちろん解いてからに
決まっているじゃあないか
やだぁなぁ」
努めて冷静に言ったつもりだが
回りの皆が白い目で見ている気がする。
ミカリンとラングが協力して
グレアを縛っていた縄を解く
はぁ
良い眺めだったんだが
仕方が無いな。
俺はラングにロウと交代する様に
言った。また、その際
今までの流れを説明するようにも
言って置く
そのまま部屋のテーブルに皆
腰掛けグレアに自供するよう促した。
グレアは観念した様子だ。
他に選択肢は無い。
グレアから語られた内容を
纏めるとこんな感じだ。
雇い主は教会ドーマ出張所の
神父でゲッペという男。
きっかけは、やはり学園に在住している
妹の身内ということで目を付けられた。
要求された事は
摂政ルークス率いる魔族首脳陣の情報だ。
他の仲間は協会前の雑貨屋の店主だけ
ただ彼女が知らされていないだけで
ゲッぺが同様に使役している
スパイがいる可能性は残る。
と言うか居るよな。
「雑貨屋の店主は何をしているのかね」
グレアに問いかけるルークスの質問に
「雑貨を販売してるんじゃないかな」
と答えそうになったミカリンの
口を俺はすかさず塞ぐ。
今はやめなさい
「連絡の中継です。魔族は教会には・・・。」
そうだな
先程のルークスの怨敵という表現から
察するに礼拝する魔族は皆無だろう
出入りすればそれだけで目だってしまう。
「ルークス。グレアは首脳陣の
同行を詳しく知る仕事なのか」
雑用って言っても色々だ。
首脳陣にこき使われていれば
特別な情報を入手可能だ。
「ふーむ、調べようと思えば
いくらでもその隙はあったでしょうなぁ」
なんか適当だな。
俺は心配になって聞いた。
「随分と余裕だな。」
「隠す事がございませぬ」
その後も具体的に尋問したが
人口や役職の詳細など
公表されている事ばかりで
わざわざスパイを雇うような
情報では無かった。
「それで怒られなかったの?」
危険を冒したのに
そのリターンは割に合わなさすぎだ。
「はい・・・特には」
またグレアから珍味な感情が
流れ込んで来た。
複雑な味だ。
悪感情でもこれは何だ。
恥ずかしさとかかな
うちの娘達には欠けているモノだ。
「うーん、俺が調べてみるよ。
グレアはそのまま出来るだけ普通に
しててくれ」
「おお、頼めますかな」
「お願いしますマスター」
・・・・まるなげ首脳陣からも
正式なご依頼を頂きました。




