第六十八話 王の帰還
「済まないな。アルコ」
「いいえ、急ぐ用事ではありません」
翌日は早朝から出発だ。
協会で魔族保護地区の場所を
教えてもらうと保護地区ドーマは
一度ベレンを通り過ぎた南側だ。
ナリ君を送り届ける為
一度ベレンをパスする恰好になるのだ。
「厚意に感謝する。」
畏まるナリ君
一見かなりぶっきらぼうだが
これはナリ君的には
最大限畏まっている。
だんだん分かる様になって来た。
「まぁ隣だしな。」
川を一本挟んで隣接した立地だ。
徒歩でもすぐだ。
とは言ってもベレン自体がデカいので
反対側からだとすごい距離だ。
以前には無かった石畳で
街道は舗装されていた。
これは速いぞ。
俺は結構スピードを出して
先行している馬車をどんどん抜いていった。
昼前にベレン周辺に着いた。
門には向かわず
ドーマへの迂回路に入る。
「見てごらんアルコ。これがベレンだよ」
右手にベレンを見ながら
魔車は迂回路を進んだ。
アルコは車窓から身を乗り出し
憧れのベレンを見て
きゃあきゃあ喜んでいる。
この辺は年齢通りのはしゃぎ方だ。
ベレンの様子は前回と同じだが
壁の内側は覗き見る事が出来ない
まぁ入ってみれば分かる。
俺達はそのままベレンの城壁沿いを
回りベレンから伸びる橋を渡って
ドーマに到着した。
「保護区ねぇ・・・。」
俺は独り言を呟いた。
規模は小さいがベレンと同様の
壁に囲まれた都市だ。
堅牢すぎると思ったのだ。
門番から検閲を受ける為
門前から脇に移動させられた。
俺達が検閲を受けている間にも
物資を積んだ馬車は
検閲無しで入っていく
いつもの事で顔パスなのだろう。
俺達はそうはいかない
特にこの車じゃあな。
牽引車に座ったまま
門番Aからの質問に答えていると
後ろ客車内から
悲鳴にも似た大声が上がる。
男の声でナリ君では無い
客車内を調べている
もう一人の門番Bの声だと思われた。
俺に質問をしている門番Aも
同僚の声だと判断したようだ。
俺への質問を即中断した。
「どうした?!」
顔を横に向け客車に
大声で問いかける門番A。
その横顔を見た俺は
門番Aの被っている兜に注目した。
兜は横が大きく逆Uの字に
開いていて、生の角が
一見すると兜から生えている様に見える。
「兜の装飾じゃないのね」
防御的にはどうなんだソレ
角への衝撃はそのまま頭蓋骨に
伝達されてしまう。
かと言って角を保護する兜となると
巨大なサイズになってしまう。
それに角からの衝撃は当たり前と言うか
そういうモノでそう言う器官か
いいのか。
それよりも悲鳴だ。
ナリ君何かしたのか。
門番Aの問いかけに返事が無い
俺と門番Aは一緒に客車内に入った。
御者席から客車内に入ると
そこに広がっていた光景は
なんだこりゃ
検閲で見せろと言われたのだろう
非戦闘態勢でナリ君は宝剣を
抜いた格好だ。
そのナリ君の足元で門番Bが
触れ伏している。
アルコとミカリンは
ワケが分からないと言った表情で
門番Bを凝視していた。
「ちょ!まっ・・・違う
我は襲ってなどいない!!」
自分が門番Bに切りかかり
門番Bが命乞いをしている。
ま
そんな風にみえるか。
「言われて剣見せたんだろ」
分かってるよ。
ナリ君を安心させる為に先んじて
推測を口にする俺。
違ってたらどうしよう。
そこでまた
事態は俺の予想外の展開になった。
「うっひょああああああえ」
本気でビックリした。
俺と一緒に客車内に入った
門番Aが奇声を発し
門番Bと並ぶ様にひれ伏したのだ。
「・・・ナリ君、その剣そういう
特殊効果付加してあるの?」
「どうなんでしょうマスター」
俺が知るか。
なんで持ち主が聞いて来るんだよ。
「・・・・王よ。」
門番達は感極まって泣き出し始めた。
「ナリ君!王だったのか?!」
「どうなんでしょうマスター」
だからこっちが聞いてるんだが
まぁ本人の狼狽えっぷりから
ナリ君本人も分かっていないのだな。
「王だー!!王がご帰還なされた!!」
門番達は車外に飛び出すと
仲間を呼び始めた。
いや
経験値稼ぎしたい訳じゃないから
呼ばなくていいんだけど・・・。
その後は大騒ぎだ。
呼ばれて集まって来た連中も
ナリ君の剣を目にするだけで
同様にひれ伏してしまい。
中々、話が進まない。
そうこうしている内に
豪華そうなローブを身にまとった
年よりの魔族が現れ
よし来た。仕切ってくれーと
喜んだのも一瞬。
そいつもひれ伏した。
もう、足の踏み場が無い位
ひれ伏した魔族で埋め尽くされていた。
何しに来たんだお前ら
俺は段々イライラしてきた。
「ナリ君・・・進めて」
「どうやってですかマスター」
「ええい、頭上に剣を掲げろ!」
俺に言われた通り
素直に頭上に剣を掲げるナリ君。
ポーズが決まっている。
上手いじゃないか。
俺は叫んだ。
「表を上げぃしかと見よ
王の帰還である!!称えよ!!」
平服する魔族の歓声が
割れんばかりに響き渡る。
「王は長旅でお疲れである。
誰ぞ王をお休み出来る場所に案内せい」
魔族と全然関係ない俺の号令で
あたふたと動き出す魔族達。
気持ちいいなコレ
「流石です。マスター」
「いや・・・やってよ」
かっこいいポーズのまま
呟くナリ君は差に続ける。
「剣いつ下ろせばいいですか」
完全に思考が停止している様子の
ナリ君であった。




