第六十五話 こうまでして
チャッキー君達とは広場で別れた。
村へは歓迎されていない雰囲気を感じた。
懐かしく、話がしたくもあったが
向こうが気が付いていない様子だ。
ここは別人で良いだろう。
「マスター。そのスキルと魔法では
どちらを使うのが良いのですか」
帰り道ナリ君が聞いて来た。
「普通はそんなスキルは無いので
魔法を使うんだが、ナリ君の場合は
使いやすい方で良いんじゃないかな」
スキルは詠唱が無いので速い。
魔法の場合のメリットはほぼ無い
MPの減り具合にもよるが
まだ、完成していないのでなんともだ。
「すんごい音がしてたけど・・・。」
魔車に戻ると二人はまだ起きていて
ミカリンがそう言って来た。
チャッキー襲来の話は隠す理由は無いが
話しておく必要も無い
言わなくていいか
俺は雷の魔法が完成間近な事を話した。
「マスター。雷ってどういう字ですか」
使わない時はテーブルを畳めるタイプの
勉強机で字の書き取りをしていたアルコが
聞いて来た。
この子は真面目さんタイプだ。
喜んで勉強している。
俺はアルコに字を教えるが
書き順などは適当だ。
ベレンに着いたら学園より
初等教育の学校に行った方が
いいかも知れない。
大人も通っているそうなので
この体格でも問題あるまい。
俺はふとランドセルを背負った
アルコを想像し
いけない気持ちなる
この成熟ボディにランドセルだ。
すごくエロい状態だ。
いけません。
「よし、風呂入るか。ミカリン
協力してくれ」
俺はそう言ったが
皆、訝しげだ。
客車内に風呂は無いのだ。
「え?風呂無いでしょ」
そう言うミカリンに
俺は勝ち誇った様に言った。
日本人の風呂に対する執念に怯えろ。
「フフフ。それがあるのだよ!!」
ミカリンだけで良かったのだが
みんなついて来た。
まぁみんな使い方を
覚えていた方が良いか。
客車の前、御者席の背後のハシゴから
屋根に上り、専用クランクをグルグル回すと
ゆっくりと屋根が天を迎え入れる様に
観音開きしていく。
「「おぉ」」
皆が感嘆の声を上げる。
中央に四本の短いポールも
連動して垂直に立つ
ポールは一枚の巨大両生類の革が
繋がっていて袋状になった。
これが浴槽だ。
屋根が左右の壁に
その内側に前後の壁
これはポールに繋がった布だ。
目隠しもバッチリだ。
クランクをしっかりとロックする。
これを忘れると最悪
入浴中に畳まれる。
俺は浴槽まで近づくと
ウォーターシュートで水を溜めた。
お湯が出る呪文があればいいんだがな・・・。
溜め終わるとミカリンの出番だ。
浴槽から二本のパイプが
窯に伸びている。
この窯に薪を放り込み
最後にミカリンにヒートアローを
薪目掛けて撃って貰うと
あっという間に火が付いた。
「これでお湯になるのですか」
そう質問してくるアルコに
構造を簡単に説明する。
対流を利用して水が循環する仕組みだ。
熱すぎる場合はパイプに付いている
コックを捻れば循環が止まる仕組みだ。
消化用のレバーも教える。
密閉する事で酸素を絶って消化する
仕組みだ。
「やったーお風呂だーっ」
「マスターは天才です」
女子は大絶賛だ。
「・・・こうまでして風呂に入りますか」
ナリ君は微妙だ。
「あぁ俺はやる」
もはや、車に風呂が付いているのではなく
風呂に車を付けたと表現した方が
正しい位、風呂の比率が巨大だ。
それでも簡易浴槽は一人用だ。
まぁ足は伸ばせる。
やはり車の面積は狭いものだ。
順番は俺、ナリ君、ミカリン、アルコになった。
アルコは毛が結構抜けるのを気にして
最後を申しでて来たのだ。
そして風呂上りに飲み物を
味わっていると、ナリ君も上がって来た。
「最高です。マスター」
気に入ってくれた様だ。
トラブルも無く全員入浴を終えたが
トラブルは終わってから起こった。
排水が出来ない事と
窯が冷えるまで
屋根を畳めないという不具合が
発覚したのだ。
今夜はそのままで
明日朝から改良しよう。
どうせ今は熱くていじれない。
大分夜も更けて来たので
そのまま就寝だ。
滑車を回すと
普段は天井にへばりついている
寝床が下りて来る仕組みだ。
各々それぞれの場所で眠る。
ミカリンの歯ぎしりに
ナリ君が戦闘態勢で起きたのには
笑った。
「なんでこんな音を出すんですか」
「さぁ・・・なんでだろうね」
集団生活に頑張って馴れてくれ
翌朝
風呂の窯に排水のノズルを追加と
畳んだ時にぶつからない位置に移設して
風呂後も直ぐに出発出来る様に改造した。
結構時間を食ってしまい
出発は昼頃になってしまった。
平野に出ると街道だ。
速度が一気に上がる
普通の馬車をバンバン抜いて行く
俺達の魔車を見たリアクションは
様々で悲鳴を上げる者もいた。
これは噂になるかも知れないな。
南側に例の峡谷が見える。
この辺りが前回ベネットに会った辺りだ。
例の復活した城だが
特に用も無いし
行きたがる人も居なかったので
立ち寄らずに
東に行く街道と
西のベレンに伸びる街道の
分岐点にあった集落でその日は
宿を取る事にした。
生れてはじめての乗り物酔いに
すっかりやつれたナリ君は
食事も取らずにベットに倒れこんだ。
そこから二日掛けて
ベレンの手前
バロードの村に入った。




