第五十七話 車は急に
初めの計画では馬車そのものに
エンジンを搭載する予定だったが
メンテや耐用年数を考慮し
馬の替わりになる
牽引車の作成に切り替わった。
これなら様々な目的に合わせて
異なる貨車を引く事が出来る。
客車もここまで改造した事が
勿体ないので
比較用に作成した直6を
搭載し単独でも稼働可能にした。
牽引車は元の世界で言う
バギーを連想してもらうと
一番近い外見だ。
完成した魔車を見たプラプリは
呆れた様な感心した様な声で言った。
「どうして馬じゃダメなの
ここまでして・・・どうして」
その通りだ。
馬一匹いれば済む事なのだ。
元の世界を知らない
この世界の住人にしてみれば
奇異この上無い無駄な事に
思えるのだろう。
「かっこいいだろ」
説明が面倒くさいので
俺はそうとだけ言った。
結局はコレなのだ
ロマンなんだよ。
「いやあ長様。知り合いの
ドワーフにゲアってのがいますが
そいつが似たような機関を研究して
風が無くても動く船を作りましたぜ。
アモンさんの魔車もいずれは
馬では替わりが利かない代物に
きっとなりますぜ」
作成に協力してくれた
ドワーフのギドがそう言ってくれた。
この里での魔車に対する
唯一の理解者だ。
移住しててくれてありがとう。
「アモンにしては結構時間が
掛かったね。石鹸なんて
あっという間に作ちゃったのに」
モーターカーとソープを
同じ次元で考えるんじゃあない
工業製品として余裕で100年以上の
差があるぞ。
そう思ったがミカリンの
突っ込みも最もだ。
自分でも手間取った実感があった。
「うん。コレに手間取ってな」
俺は運転席に並んだスイッチの内
二つを指さす。
「コレ・・・押すとどうなるの?」
「よくぞ聞いてくれた
皆静かに!聞き逃すなよー」
俺は勿体ぶって
まずは1のボタンを押す。
「はい、マイケル」
「「喋ったあああああああ!!」」
一同、腰を抜かす程
驚いてくれている。
俺は達成感と満足感から
喜びに震えた。
そう
この車は喋るのだ。
「ええこの車生きてるの??」
「マスターの声っぽかったですが」
「ね、ね、2のボタンはどうなるの」
「何の意味があるんじゃ」
俺は2のボタンも続けて押す。
「無茶です。マイケル」
「「喋ったああああああ」」
面白い。
苦労した甲斐がある。
まず音源だが、速攻つまずいた。
MP3などのデジタルファイルなど
望むべくも無い。
アナログオンリーなこの世界だ。
俺は蓄音機まで技術レベルを戻さざる
を得なかった。
リング状の蝋を二秒で1回転させ
針で俺のセリフを刻むと
それを元型にエルフの里で
多用されている木の樹脂に
複製を作り、エルフ製のラッパを
流用して音を拡大しているのだ。
回転する動力はゼンマイ。
このゼンマイなんだが
一杯まで絞めると力が強く速く動いてしまい
早口で高音になる。
止まる寸前の緩い状態だと遅く動いてしまい
低音でゆっくりさんだ。
常に一定のスピードで動作するように
時計などに使用されているテンプ
ガンギ車を使用して再生速度を固定した。
振り子の揺れ時間は一定。
大きい時は速く振れ
小さい時はゆっくり振れる。
この特性を利用し
ゼンマイの力を一旦振り子で
受け止めて速度を一定にしてしまうのだ。
この機能により
ゼンマイの巻き具合に関わらず
時計は一定の速度で動いてくれる。
これを流用し再生速度を
オリジナルにピッタリにする
これに異常に手間取った。
申し訳ない。
でも
次はもっと速く出来る自信があるよ。
テスト走行も良好だった。
エルフの魔法隊も形になってきたし
俺達は出発する事にした。
俺達が滞在している間
ボーシスは何度かブンドンと
エルフの里を行き来していた。
丁度、ブンドンに戻るというので
魔車に乗ってもらい
ブンドンを目指した。
「イヤッホーご機嫌だぜ」
化石燃料を爆破させて
動かしてるのではないので
爆音はしないのでちょっと寂しい
やっぱりブロロロって音が欲しいな。
MPの消費と速度の関係が見たいので
俺はメニュー開きっぱなしで
牽引車で運転だ。
最初は気を使ったが
直ぐに馴れた。
自転車感覚だ。
いちいち足を動かそうと強く
念じなくても動作し
状況に合わせて漕いだり緩めたり
そんな感じに投石の魔法で
ピストンが動かせるようになった。
ゲージが減る様子は無い
アベレージ60kmでも問題無かったが
道の状態で振動と揺れの方が問題だった。
快適さから20~30km辺りで
運行する。
「最高速ってどこまで出るの?」
椅子は一つしかない
俺の後ろのボディ部に腰掛け
肩車の様に足を俺に回している
ミカリンがそう聞いて来た。
「なんで客車にいないんだ」
「こっちのが楽しい」
ミカリンはご機嫌だ。
ベルトしていないので危険だ。
急ブレーキで飛びそうだが
いざと言う時は天使化して
それこそ文字通り飛行すれば
コイツに限っては問題無いのか。
「最高速か・・・やってみるか」
森を抜けた
ここいらは道の状態も一番良い状態だ。
確かに試すならここだろう。
「客車のアルコとボーシスに
注意をしてくれ」
「OK」
そう言うとミカリンは
器用に牽引車から客車に
飛び移り二人に注意をしてくれた。
「えー」というボーシスの声が聞こえる。
「ミカリンは客車のブレーキ要員ね」
牽引車が急ブレーキしても
客車の勢いで押されまくる状態に
なり止まらないどころかコントロール
不能になるのだ。
投石の呪文が使えないミカリンは
動かす事は出来ないが
俺のブレーキに合わせて
客車のブレーキを掛ける事は出来る。
運転に興味があったミカリンには
運転方法は一通り教えてはあるのだ。
「OK。いいよ」
客車側の運転席に座り
ブレーキに足を掛けるミカリン
二、三度ブレーキを軽く掛け
効き具合を確かめる。
ミカリンがブレーキを掛ける度に
後ろに引っ張られる。
蛇行する様子も無い
左右の効き具合は問題無いようだ。
「おーし!いっくぞおおお」
俺は気合を入れて
加速していくTOPギアにしても
まだ俺の魔力トルクが上回っている
車輪の外周距離から速度を割り出した
スピードメーターは100kmに
あっという間に届き
まだ加速している。
「うえああああ」
ミカリンがビビッている。
だろうな
俺も怖い。
舗装道路の100kmとは
感覚が違う
凄いスピード感だ。
車体は余裕のようで
変な音や挙動は無かった。
まだ出せそうだったが
精神的にブレーキが掛かる。
大き目の石なんぞ
踏んづけようモノなら
転倒も有り得る。
もう止めよう
俺がそう思った時
それは起こった。
右手の茂み
以前スパイクリカオンが
飛び出して来た所だ。
その付近でまた
何かが飛び出した。
「ブレエエエエエエキイイ!!」
咄嗟にそう叫び
俺はフルブレーキを掛ける。
前のめりになりながら
俺は衝撃から何かを撥ねたのを
確信した。
何かじゃない
人だった。
やっちまった・・・。
俺はハンドルに突っ伏し
張り裂けそうな程
高鳴る心臓を何とかしようとした。
「大丈夫?!」
ミカリンが後ろから
俺の方に飛んで来た。
「俺達はな・・・ただ轢かれた人は・・・」
「人?・・・バングじゃなかった?」
俺はハンドルから顔を上げ
今の出来事をフラッシュバックさせる。
「黒い服を着た・・・人じゃなかった?」
「えー僕にはバングに見えたけど
まぁ見て来るヨ」
ドキドキが収まらず
震えが止まらない
人なら
すぐに救護しなければならないのに
情けないが動けない
「すまん。頼む」
「OK~」
軽く返事をするミカリン。
たまにコイツの大物っぷりに助けられる。
どうか
どうかひとじゃありませんように
俺は祈った。
ミカリンは直ぐにテケテケ走って
戻って来た。
「ど、どうだった?!」
「うーんとね・・・バングに似てる人だった」
俺は考える。
「て、事は・・・・ダメじゃん!!」
悶える俺の膝はスイッチ1を押してしまう。
「はい、マイケル」
俺はストレージから僧侶用の短杖を
取り出すと牽引車から飛び降り
後方に転がる黒い塊を目掛け走り出した。




