第五十四話 ブリッペ
俺は完全人化すると
ストレージから僧侶用の
短杖を出し回復呪文を
ブリッペに掛けてやる。
生き物でない天使に
効果があるのか
今後のミカリンの為に
確認したかったのだ。
「うへぇぇえふーわ」
気持ちよさそうな糸目になり
ブリッペは変な声を出す。
効いている様だ。
穴は見る見る塞がり
装備の穴も塞がる。
この辺は人とは違う効果だ。
「アモンを攻撃しちゃダメだよ
僕にダメージが来るんだよ
ウルから聞いてないの?」
ブリッペを介抱しながら
ミカリンは怒った。
「聞いてたんだけど
いざ目の当たりにすると
許せなくて・・・つい」
かわいい顔だが
俺を見た瞬間に
瞳が殺し屋のそれに変化する。
「許せない・・・許せない許せない」
俺は壁の準備をした。
「死ねおりゃああ!」
カツン
ドンピシャのタイミング
石壁で槍の一突きをガードする。
バリア用の壁を解除すると
まだ滞空しているラハに言った。
「おい殺せ」
駄目だこいつ
壊れてる。
会話も成り立ちそうもない
名付のコツを教えてもらう以前の問題だ
意志の疎通は不可能だろう
「庇って損したわ」
イライラしながら俺は言った
魔法習得前に会っていたら
確実に殺されている。
俺の態度の変化に
慌てるミカリン。
「そそそんな事無いよ
ホラこうして謝ってるし」
ミカリンはブリッペの後頭部の
髪の毛を鷲掴みにすると
何度も地面に叩きつける。
「ぶへっ・・・ちょぶへ」
滞空したままのラハは
目と目の間を指でつまむ様な
仕草のまま固まっていた。
うーん
多分、四大天使の中で
一番しわ寄せ食ってるのが彼だ。
俺はなんとなく察した。
「おい、下りてこいって」
そう言う俺の言葉に
ラハは首を横に振って答えた。
「串刺しになりたくありませんね」
「自分の身を守っただけだ。
そっちが攻撃しないなら
俺もしない」
ミカリンが割り込んで来た。
「命令!二人とも正座!!」
ミカリンが怒った。
「くぅ」
「にゃん」
天使長権限の発動だ。
二人とも強制的に仁王立ちする
ミカリンの前に正座状態だ。
ウルの時も感じたが
便利だなーそれ
「ウルが嘘をつくとは思えません
でしたが、にわかには信じがたい話
であったのも事実でした。
攻撃はしないように釘を刺していたのですが
御覧の通り、彼女には何かをさせるのではなく
何かをさせない為の処置が必要と判断しました」
犬の鎖みたいなもんか
「それで手足を打ち抜いて攻撃力を
奪ったと」
「はい、乱暴ですが手遅れよりマシだと」
「だって・・・許せないんだもん」
天使達のやりとりを聞きながら
俺は壁の準備に入った。
「そんなにミカリンが心配なら
お前も俺の奴隷になるか」
「えっ?私が欲しいの」
「良いアイデアだと思います」
「ちょ何言ってんの天使は僕だけで
いいって前に言ったじゃないか」
うーん冗談だったんだが
3天使の反応はそうじゃない感じだ。
「ま冗談はさておき本題に入ろう」
「冗談ですか・・・残念ですね」
本気で俺に押し付けるつもりだったのか
残念そうな感じバリバリのラハ。
「私が・・・欲しいの私が」
これはもう放っておこう
確か、愛と水を司る天使だったはずだが
天界の言う愛ってどんな愛なんだ
こいつを見てると本気で心配だ。
「そうだ。バングについて
知っている事全部教えて」
ミカリンは本題に入った。
ラハは前回の捜索で
南方面、要塞都市ネルドの付近を
担当していた。
「申し訳ありませんが、望んでいる程
情報を持ち合わせていないのです。」
「見てないの?」
「見たんですが・・・」
ラハの話では要塞の戦力が
バングを食い止めている状態で
どちらも攻め切る戦力は無い様子だった。
「お恥ずかしい話ですが
とても、近付く気が起きません
何なんですかアレは」
恐怖も一緒に思い出しているのか
ラハは少し震えていた。
「情けなーぃ。僕はこんな状態でも
一匹倒したよ」
「何ですって?!さ・・・流石は
天使長と言わせてください」
素直に尊敬しているラハ。
はぁ?
いやいやいやいや
ミカリン初遭遇の時
泣いて俺にすがりついてたろう
すがりつく相手の居なかった
ラハの感じた恐怖はミカリンの比では
無かったであろう。
逃げ出さず一応の偵察はこなした。
それだけでも褒めて然るべきではないか
それ程、天使にとってはバングの恐怖は
特別な気がした。
「ラハッチ。ミカリンはな」
不意に袖を引っ張られた。
見ればミカリンが真っ赤な顔で
何やら表情だけで必死に訴えていた。
分かったよ。
黙ってるよ。
天使間のプライドの問題は
俺には関係ないしね。
「ミカは・・?」
言いかけた俺にラハは
そう続きを促す。
俺は違う話に逸らす事にした。
「魔法が使用出来る」
大天使クラスになると
魔法という認識は無い
人間は何も考えずに
手足などを思い通り
それこそ気合や下準備も無く
動かす。
それと同じ様に
魔法に準ずる力を
天使は行使しているのだ。
俺はこの前のウルに
説明したように
ラハとブリにも説明した。
そしてそれがバングに対して
最も効果的である事も伝えた。
「人間風情があのバングという
正体不明の存在にどうやって
抵抗しているか不思議でしたが
この様な術を開発していたとは」
俺はウィンドエッヂの呪文を
ラハにレクチャーした。
こいつならすぐ出来んじゃねぇの
「ウインドエッヂ!」
一発目で成功してる。
ただ威力はエルフ達の方がありそうだな。
ウルのスパイクも最初は悲惨だった。
そう考えれば優秀な方か
「ふむ。弓を失った場合でも
これなら戦えそうですね」
先程、ブリの手足を打ち抜いた弓
下級天使の装備だが
この弓を引く行為自体が
呪文の詠唱と同意なのだろう。
「ねーブリッペにも何か魔法
教えてー。」
何でだよ。
そう思ったがうるさそうなので
俺はウォーターシュートを
ブリッペに教えた。
「ウォーターシューッ!!」
ちっ
成功しやがった。
それも俺より威力があるぞ。
流石は水属性か。
「これでブリッペもバングさんに
出会っても安心だね。」
駄目だよ。
水を生成するまでが魔法で
出来上がった水は
魔力の篭っていない普通の水だよ。
バングにダメージなんて入らないよ。
「やったね。」
俺は面倒くさいので
そのままで行く事にした。
出会わない事を祈る。




