シン プロローグ
3コーラス歌い切った。
サビの部分では感極まって涙も流した。
というのに
まーだ消えてないですけど・・・。
何なの、この間の悪さ
映画なんかでも曲が終わっても
まだエンドロールが続いている時の様な
間の悪さだ。
「おかしぃなぁ・・・。」
消えて行く部屋のスピードを
結構、真剣に測って
曲の最後 ジャンジャン で
ピッタリ消える予定だったんだが
どうする
もう一回歌うか・・・。
「いや、それは恥ずかしいだろ。」
取り合えず瞑った目を開けるか。
怖いから閉じていたんだが
今、世界どうなって居るんだ。
良し
目を開けるぞ・・・。
今
今から
開けるぞぉ!
って怖い
駄目だ。
どうしよう。
「戦士様・・・ですわね。」
幼女の声だ。
俺は反射的に目を開けた。
見えた光景は
俺のアパートでも
元の世界でも無い
人間界ですら無かった。
薄桃色がかった空。
木や草が生えている所謂、森の中だが
どれも見た事の無い植物だ。
しかし、瞬間的に体感的に
俺はここが何処なのかを理解出来た。
魔界だ。
あの引っ掛かった世界と同じ感触だった。
ただ虚ろな感じは一切しない。
確固たる存在感で
ここで生まれ育てば
世界が消えるなど想像もつかないだろう。
今、俺は魔界に居て
見知らぬ森の中で胡坐をかいて座っていた。
姿は悪魔男爵だ。
「わ私の騎士にして差し上げますわ。
さぁ屋敷まで案内なさい。」
幼女は精一杯強がってそう言った。
紅い髪と瞳。
黒を基調に赤のラインのドレス。
その装飾の豪華さから
身分の高さが窺えた。
気負っていなければ
今にも泣き出してしまいそうな状態だ。
ロ・・・紳士として
とても無下には出来ないな。
「騎士は遠慮しよう。
屋敷とやらには俺が連れて行く。」
薄っすら涙を浮かべた瞳を
丸くして幼女は驚いて言った。
「わ私の騎士になりたがらない戦士様が
居るなんて・・・。」
みんな同じだと思うなよ。
価値観はそれぞれだぞ。
「騎士は遠慮したいが
夫にはなってみたいかな。」
「・・・まぁ。」
両手を頬に持って行き
クネクネし始める幼女。
こんな小さいのに女だ。
恐ろしい。
「さてと、どっちから来たんだい。」
俺は幼女にそう尋ねたが
返って来た答えは想像を超えた。
どっちでもないのだ。
屋敷から出る事を禁じられていて
外に出たいとボンヤリ考えていたら
「壁とか天井がですわね。
こう・・・グァーっと歪みまして」
で気が付いたら俺の目の前だったそうだ。
「時空系だ。」
「じ・・・・?」
「お嬢ちゃんには特別な力があるようだな。」
「皆、そう仰いますわ。」
俺はデビルアイで幼女を走査して驚いた。
あり得ない魔力量だ。
こんな小さな体にこれだけの量
健康に支障が出ても
いや死んでもおかしくない危険な状態だ。
もういつ破裂するか分からない
クイズ番組で使う風船状態だ。
回答者がもう「キャー」とかしか言えない状態だ。
外に出たい、そう思っただけで
呪文は愚か自覚も無いまま
周囲に、世界に干渉したのだ。
「これをあげよう。」
俺はすかさずストレージから
クリスタルを取り出し
即興でチェーン拵えネックレス状態にして
幼女の首に掛けた。
「まぁ・・・何ですのコレ。
すごく楽になりましてよ!」
キングクリスタルと反対の特性を持つ
クリスタルで使い道が無いが
珍しいので取っておいた奴だ。
魔力の放出を促す効果がある。
途端に俺にも魔力と悪魔力の供給が始まった。
放出された力が流れ込んできているのだ。
着用者のマインドダウンを
無意味に加速させるだけだと思っていたが
こんな副次効果があったとは驚きだ。
風船の穴と同じで
はち切れそうな今は凄い勢いで
放出しているが次第に勢いは落ち着いて行った。
「気分が優れなくなり始めたら外すんだぞ。」
そう注意を促したが
彼女の魔力生産量から換算すると
丁度バランスが取れていると思われる。
ある程度の所で放出は微々たる量に収まった。
それでも彼女の保有量は圧倒的だが
これなら健康を害する事はあるまい。
「お医者様でもダメでしたのに
戦士様、あなたは一体・・・。」
「アモンだ。」
「・・・アモン。
申し遅れましたわヨーコと申します。」
横浜横須賀ーっ
屋敷まで送ると約束したが
俺に土地勘があるハズも無く
取り合えず誰かを探す事にした。
身分の高いお嬢様のようだ
屋敷を知っている者も多いハズだ。
俺はそう言ってヨーコを肩に座らせ
センサー系を起動させ
人の居そうな方向へと歩き出した。
肩に座ったヨーコは大層喜び
ご機嫌で色々話始めた。
なんか
インコみたいだな。
集落を発見したのだが
歩きだと結構掛かりそうなので
飛んでも大丈夫かとヨーコに聞くと
期待タップリに快諾した。
低空低速で飛行したのだが
幼女にはこれでもスーパーアトラクションだ。
もうキャーキャー喜んでいた。
「隠し立ては無駄である!!」
集落付近まで来た所
何やら様子が変だったので
気付かれない様に離れた場所に着陸し
工作員スキルを使用して接近した。
村人と思しき人々が
中央の広場に集められていて
悪魔忍者軍団が彼等を取り囲み恫喝していた。
「ここに居るのは分かっている。」
「王族誘拐は死罪なるぞ!」
口々に村民を責め立てるが
村民の方は何の事か分からない様子だ。
「大人しく姫様を引き渡すでござる。」
一番偉そうな忍者がそう言った。
その偉そうな忍者を見て
思わず声が出た。
「「ダーク」」
「じゃねぇか。」
「ですわ。」
語尾の差異は性別によるもので
発言がヨーコと被った。
「ダーク知ってるのか。」
俺は反射的にヨーコにそう聞いた。
その間もダークは偉そうに恫喝していた。
「次期ババァルを継承されるお方
何かあればこの村全員の首をもっても足りぬぞ。」
「私の騎士ですわ。
アモン様こそ、どうしてご存じですの。」
あー・・・まぁ
その・・・これで良いんだ。
シンアモン
そう言う事か。
「ヨーコ、ちょいとばかりダークを懲らしめるが
これからの為に必要な事なんだ。
殺しはしない、勿論ヨーコを傷つけたりしない。」
出来るだけ怖がらせたくないので
優しくそう言ったが
意外にもヨーコは楽しそうだ。
「ダークよりお強いのですか。」
「ああ、ダークだけじゃない
魔界、天界、人間界でも
俺に勝てる奴は居ない。」
いや
ミカリンとかミネバインとかウルジェミスは
俺より確実に強いかな
でも4番目とか格好悪いから
いいや最強にしておこう。
「もし、それが真実ならば
アモンの妻になって差し上げますわ。」
「そうか、真実だと分かったその時は
キスで知らせてくれよ。」
俺は自分が何者かを知っている。
「姫はここだぁ!!
俺が攫った!!
ここには隠れただけだ
村人は関係ねぇぞ!!
ドコ調べてんだ間抜け忍者ども!!」
どう振舞うかを知っている。
軽く跳躍し
ダークの前に着地し
手下の忍者にヨーコを渡した。
俺の気配を誰も
ダークですら察知出来なかった事実に
忍者達は明らかに狼狽していた。
「な・・・何者?」
「俺か。」
俺は自分の名を知っている。
「我が名はアモン!!」
俺は自分が何をすべきかを知っている。
「力を以て全てを破壊する
最強の魔神なり!!」
ダークは背中の
なまくら日本刀を抜いて言った。
「魔神?下級戦士にしては体躯が確かに・・・。」
おい、そんな刀じゃ
あー
そうかいつか来る地上の俺に
作ってもらうまで
それでガンバレ。
「12将は強い順なんだろう?
まずはダーク、お前を倒して
・・・9位の座を頂こうか!!
姫誘拐はその為の餌だぁ」
「ぬっ!?12将は周知でも
拙者をダークと知っているとは
一体・・・ま待たれよ話を!!」
「俺に話し合いは無駄だ!!
いう事を聞かせたければ
戦って勝て!!以上だ。
いっくぞー。」
ダークの能力は分かり切っている。
初手のデビルフラッシュで
影を無くして逃亡先を潰した。
そして死なない程度
動けなくなる位の悪魔力で殴って行く
待っていろ俺、ちゃんとログインしろよ。
「うらぁ!!」
待っていろヨハン、ちゃんと秘術で負けてやるからな。
「おらぁ!!」
待っていろダーク・・・は目の前にいるのか。
取り合えずボコるぞ。
「ドララララぁ!!」
ダークに加勢する為
死角から襲い掛かろうとした下忍も
視覚変更と完全膝カックン耐性のお陰で
俺は振り返る事無く蹴って倒した。
良い恐怖が回りに溢れた。
12将で自分達のリーダーが
一方的にボコられていく
助ける事も出来ない。
村民は目の前の惨劇にただただ怯えた。
「王家が何だ!!貴族が何だ!!
風習がどうした!!
全部、ぶっ潰す!!!
うはははははは!!!」
高らかに笑い
悪魔は拳を振るった。
こうして全ては始まった。
君は自分が
何処から来たのかを知っているか。
 




