最終回 終わる世界と悪魔
東武東上線沿線のアパート
その一室が俺の部屋だ。
今俺はそこに居る。
外の世界は危険なんだ。
出たら死んでしまうんだぞ。
本当にだ。
外は形ある者を許さない
プラズマだけの世界だ。
悪魔の力を手に入れ
世界を救う偉業を成したと言うのに
なんで最後の最後に
こんな引き籠りと同じ状態なんだ。
俺に移動の兆候は
一切現れないまま
世界は縮小を続けた。
皆去ってしまった事で
エネルギーの供給も無く
精霊も居ないので
魔法もロクに使用出来ない。
今残っているのは
俺の周囲数メートルだけという有様だ。
なので
俺は残された世界を改変し
かつてのアパートを再現していたのだ。
消滅空間と似た状況だ。
黄金の汽車が呼べないかと
何度も叫んだが
汽車は勿論、鎖の一本も
来ることは無かった。
姿は宮本たけしの姿にした。
悪魔男爵でいる方が頑丈だが
長時間、維持する力も残っては居ない。
この姿が一番消費の少ない楽な姿なのだ。
ふとデスクのPCを見た。
太郎からのメールを開いたのが
全ての始まりだったけなぁ。
何か
この状況を打開するメールなんかが
届いていたりしてと期待して
PCを起動させようとしたが
動く事は無かった。
俺のイメージを投影しただけのモノで
実物では無いので当然だった。
ベッドに寝っ転がり
アリアが残していった
ネックレスをただボーッと見ていると
枕元のラジカセが起動した。
アンティークなインテリアとして
ジャンク屋で購入した物だ。
壊れていて動かした事は無い物だった。
それが今、動き出したのだ。
【・・・ァ・・・ん】
ラジオが起動しているのか
チューナーのLEDが不規則に点滅していた。
【・・モン君!聞こえとるかね】
不明瞭だった音声は
本当にチューニングが合った様に
次第に明瞭になり
声の主も分かった。
「カシオか?!」
俺はベッドから半身を起こして
ラジカセと正対した。
【おぉアモン君!そうじゃワシじゃカシオじゃよ】
「元気そうだな。」
【旧世界の状態はどんなじゃね】
俺は今のアパートだけになった
世界を説明した。
消滅空間で一緒に過ごした部屋なので
カシオも理解が速かったようだ。
【・・・アモン君、これからワシは
君に残念な報告をしなければならん。】
俺は反射的に叫んだ。
「まさか人類負けたのか?!」
違うそうだ。
既に新世界はその自覚の無いまま
長い歴史を持った人類社会として
営みを始めているそうだ。
バングもメタボも竜も
そんな事件は起こって居なかった歴史だ。
【古き神として、その威信を掛け
あらゆる事を惜しまず試したが
全て・・・ダメじゃった・・・・
許しておくれアモン君、君は・・・】
「ああ、移動出来ないんだろ、俺。」
【・・・気づいておったのか。】
俺は指に引っ掛けたアリアのネックレスを
クルクルと回して答えた。
「そんな気はしていたし、今この状況で
俺に成すべき事が残っているハズも無いだろ。」
移動は衣服も含め
所持品にも同様に訪れる。
なのにアリアはネックレスだけを残して行った。
これはネックレスを自分のモノと
思っていないと言う事だが
それは無い、あんなに喜び常に身に着けていた
あの日の大事な夜でもだ。
なのにネックレスは移動しなかった。
これはネックレスに移動の条件を満たさない
なんらかの障害があると言う事だ。
俺を構成する金属粒子から作った
このネックレスは移動出来なかった。
【アモン君、君の存在の力というか
存在そのものがじゃが・・・。】
思い込みで事実すら歪む程の強烈な存在の力だが
これは この世界だけ限定のチートだ。
俺の自意識
元の世界で結婚し子育てまで終えていた。
俺はこの世界に置けるそのコピーだ。
オリジナルの存在では無いのだ。
鋼よりも硬いこの悪魔ボディ
人間界で活動する為の義体
それを乗っ取ったモノだ。
元の持ち主のシンアモンのモノだ。
オリジナルの存在では無いのだ。
体も意識もこの世界だけ限定の
言わば仮初のモノなのだ。
オリジナルの俺も
シンアモンも確固たる存在の力があり
それぞれの世界に存在が許された者で
次の世界への切符を受け取れる資格があるのだろう。
意識も体も借り物のの俺に
その切符が手に入るはずが無い。
俺はこの世界限定の幻だ。
その見返りがチート並みの
存在の力だったのだ。
移動は出来ない替わりに
この世界においては圧倒的に有利。
そう考えると何かスッと納得した。
【分かっておったのに何故
何故、君は命をとしてまで戦ったのじゃ
どんなに頑張っても君は救われないというのに】
特別な事じゃ無い
誰だってそうするだろ。
助けが必要な人が目の前に居て
自分にそれが出来るなら
誰だってそうするハズだ。
流石に照れくさいので
一言で済ませた。
「それがヒーローだからさ。」
通信は良好だが
音声は乱れた
嗚咽を堪えながら話しているのか
苦しそうにカシオは言った。
【救えないだけでは無いのだ。
ワシは権能の影響でかろうじて思い出せたが
新しい世界に君の偉業は何一つ残っておらん
君という人物を覚えて居る者も皆無なんじゃ・・・。】
バングその他の事件が起きていないのだから
そうなるんだろうな。
【恩を返す事は愚か
偉業を伝え残す事も叶わず
皆、知らん顔で日々を過ごすのじゃ
あんまりじゃ・・・
あれ程君は頑張ってくれたというのに・・・
ワシですら抗うにも限界が訪れ
皆の様に君を忘れてしまうのじゃ
口惜しい!!】
「いいよ、それで。」
ヒーローが正体を隠す。
まぁ敵に秘密にしたいってのが主だろうが
もう一つ
私は見返りや賞賛を求めていない
という意識の表れだ。
「それがヒーローってもんだ。」
ラジカセからの音声は次第に
小さく途切れ途切れになっていき
やがて何も聞こえなくなった。
まぁ聞こえていても
カシオの謝罪ばかりなので
あまり良いモノでは無かったな。
「あ、ストレガとヨハンの事を聞けば良かった。」
あの二人は俺が改造してしまった。
移動の条件から外れてやしないか心配だったのだが
もう後の祭りだ。
まぁ残っていたのなら
消える世界から逃れる様に
この部屋まで来るハズだから
無事に移動していったのだろう。
そう思うしかない。
事実を確認する方法も無いしな。
天井も壁も消えて行き
いよいよ世界は
俺の座るベッドだけになった。
何するかな・・・。
完全に消える残り時間を
ざっと見計らうと
俺は悪魔男爵化した。
最後を迎えるならこの姿が良い。
そして目を閉じ
ヒーローの歌を歌い始めた。
完
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「お疲れじゃったのー。」
「ぶわぁ疲れたぞヴィータ。
いいなぁお前、今回出番なくて」
「何を言うとるか馴れない
なのだわ 口調で頑張ったじゃろうが
何で、そこデビとキャラ違うんじゃ。」
「中の人が違う設定だからだ。
お前ちゃんと読んでないだろ。
それに のじゃキャラ枠は今回
ビルジバイツだったからなぁ。」
「同じでも構わんじゃろうに・・・。」
「分かり難くなるからな。
最後の方に出て来たキャラなんか江戸っ子みたいな
口調にさせられてたぞ。」
「それにしてもプロット無しでよくやった。」
「致命的なミスがいくつかある・・・。」
「終了後にこっそり直すのじゃな
いつもの如く。」
「そして、いつもの如くもう一話ある。」
「なんで最終回が最終回じゃないのじゃ。」
「好きなんだろ、こういうパターンが・・・。」
「というわけで次回で終了です。」
「お付き合い下さった皆さんに感謝を」




