第五百十八話 弱点
上昇した。
雲の層を超えてなお
上も上だ。
座標は特定済みだ。
そしてその場所から
動く事は無かった。
しがらみ常識も
全て後方に流して
俺は一直線に目指した。
マンガみたいなでっかい月を
背後にシンアモンは居た。
もう一人の俺。
このシンアモンの地上活動に置ける
義体を乗っ取ったのだから
そっくりなのは当たり前なのだが
流石はオリジナル。
今の俺には纏っている覇気の違いが
分かるようになっていた。
姿は同じでも別格だ。
ただ
シンアモンはボロボロだった。
「久しいな地上のアモンよ。」
姿を目にして
俺は掛ける言葉を失った。
左腕は肘から先が無く
右足も脛の途中で欠損していた。
翼も大小無数の穴が開いてしまっていた。
近くまで来て停止、同じ目線で滞空した。
遠目では分からない
全身も罅やら傷だらけだった。
「だ・・・大丈夫なんですか?」
俺はやっとの事で
それを口にした。
「ああ、見た目にはヒドイが
機能的には問題無い。
お前も竜からのダメージが
どういうものか知っているだろう。」
そうだ。
麻痺の様な状態になり
即時回復は無理なのだ。
シンアモンは一体どれだけの
竜を屠ってきたというのだ。
「やっと会えたな。
・・・・長かった。
本当に長かった。」
シンアモンは何やら
激しく感動していた。
何がそんなに来るのか
俺には想像がつかない。
悪い気はしないが
俺自身がこんなんで
何か申し訳ない気持ちだ。
「世界も残り少ない。
いよいよ最後の決戦だ。」
「世界・・・が残り少ない。」
時間ではないのか。
「ああ、気が付いていないのか。
見て見ろ、もう星は星としての
形を失っている。
宇宙は存在を失い
プラズマの蓋で世界は塞がれた。」
「宇宙が無い?」
この間行ったんだが
つかそこでシンアモンの召喚も行った。
「そうだ・・・ホレ。」
そう言うとシンアモンは
拳を上に突き立て
空を物理的殴った。
ブワアアアアン。
直ぐ上の空は
殴られた場所から波紋が広がる様に
映像が歪んだ。
ここが空の
いや
今の世界の限界だ。
「認識の薄い世界から
削除されていくのだ。
宇宙は既に無く
星も月も太陽も
人々が認識できる程度の
映像と化した。」
移動するのは人だけではないのか。
「これが末期の世界なのか。」
水平線は弧を描いて見えるが
球体の上に居るのではなく
まるいお盆の中心から
縁を見ている恰好だ。
今、世界は平になっていて
空のドームに星が映し出されているのだ。
これでは
50年前に行けた衛星に
今行けないのもっともだ。
以前、クリスタルドラゴンを
宇宙に弾き飛ばそうと
下から体当たりしたら
即、跳ね返って来たが
こう言う事だったのか。
「この向こうは・・・どうなっているんですか。」
俺も直ぐ上を殴って
確かめるとそう言った。
「プラズマしかない。
ここが物質の限界だ。」
消滅空間みたいなものなのか
とにかく形有るものは
存在出来ない空間ということか。
望遠モードでエラシア大陸より
遥か先をサーチしようとして
出来なく、直ぐに諦めた。
もう他に大陸など無いのだ。
ユーさん。
新大陸もう無いぞ。
今更ながら
俺は事態の大きさ深刻さに
ショックを受けていた。
世界が終わろうとしているのだ。
「この状態・・・いつまで持つんですか。」
急に残り時間が気なった俺は
焦ってそう言った。
「決着がつくまでは
この状態で停滞するだろうよ。」
「竜の王か。」
「そうだ。
奴が存在する限り
人類絶滅の可能性が
どうしても残ってしまう。
逆に言えば倒しさえすれば
もう勝ちは決定だ。」
そしてその時は
もう目前に迫ったと言う事だ。
「俺の回復が間に合わん。
お前に全てを託す。」
全力で断りたい。
なんて嫌な丸投げだ。
「え?魔王集合とか
ビルジバイツ言ってたけど。」
俺はしどろもどろになってそう言った。
「間に合わん。
間に合っても出番は無い。」
そうなのか
ヴァサーの技なら防御力無視の効果がある。
役に立たないという事は無いなはずだが。
「大咆哮、竜の王が自らの存在の力を
消費して放たれるソレは
全ての生き物の魂を肉体から
強制的にはじき出してしまうのだ。
吠えられたら終わりだ。
無論、竜の王もおいそれと
使用しない技だ。
何しろ自身の存在を削るのだからな。
出来れば使いたくないハズだが
今の奴は追い詰められるだけ追い詰められ
仕留められる寸前でこの世界に
逃げ込む状態だ。
現界したと同時に大咆哮をする可能性大だ。」
誰がそこまで追い詰めたんでしょう。
「そんな・・・吠えられたら終わりって
どうにもしようが」
それでは戦況もクソもない
如何なる策も技も発揮する時間の無いまま
終わってしまう。
成程、集合しても
あまり意味は無いかも知れない。
「簡単だ。吠える前に倒す。
知っての通り現界するまで
物体化するまでは
如何なる攻撃も無効だ。
なので現界した瞬間を狙い。
奴の咆哮より速く攻撃するんだ。」
「一撃で絶命させる必要がありますよ。」
「そうだ。それが可能になる策だ。
今から奴の弱点を教えるぞ。
良く覚えるんだ。
決して外すな。」
おお、弱点があるのか。
俺はワクワクしながら
シンアモンの言葉を待った。
シンアモンは無事な方の腕を曲げ
自らの額を指差し言った。
「頭だ。
頭を打ち抜くんだ。
ここを撃ち抜けば
奴は即死する。」
ほぼ全ての生き物がそうですよね。
「成程、分かりました。」
ドヤ顔で語るシンアモンに悪くて
俺は突っ込む事が出来なかった。
「よし。では始めるぞ。」
え
始めるって
「もうじき現界だ。」
そう言って下を見るシンアモン。
俺は望遠モードで
黒い球体を見るが
今までとは明らかに異なる兆候が出始めていた。




