第五百十六話 2を作らない英断
上空の匂いはそうでも無かった。
メタボの酸霧とは逆で
空気より重いみたいだ。
まぁなので今回は
地下道に逃げられなかった訳だが
黒い球体はデカくなっただけで
相変わらず何のデータも取れない。
ただ大きさがヤバイ
今は直径50mにも膨らんでいた。
「なぁ兄貴・・・この黒い玉の大きさの竜が出てくんのか。」
誰もが思い、肯定されるのが怖くて
口にしなかった疑問をヨハンは言った。
「全く分からん。大きさを誰も知らんのだ。」
下位の竜よりデカいとは思って居たのだが
せいぜい20m位だと勝手に思っていた。
50mとかもう怪獣サイズだ。
ミネバインしか格闘出来ないだろう。
「まぁ殴り合いをする訳じゃないからな。」
俺の悪魔光線で急所を撃ち抜ければ
どんなデカい相手でも関係無い・・・と思う。
「いや悪りぃ俺はそれしか出来ねぇぞ。」
ヨハン早くも及び腰だ。
「球体はあくまで門の大きさで
出て来る竜はこれよりは小さくなるのでは
もしかしたら子犬サイズかも知れませんよぉ。」
ユーそれは無いだろう。
一通り観察したが
こうして見てる分には変化は見られなかった。
植物レベルの動きなのだろう。
匂いが無いので着陸を試みたが
下降するに連れ匂いが強くなり
慌てて上昇した。
ハンスと合流する為
進路を北に取り
バロードに向かう。
馬車で一日の距離も
空だとあっという間だ。
直ぐにバロードを視界に捉えた。
「何でぃありゃ?!」
ハルバイストが声を上げた。
バロードの村から爆音と共に
何かが打ち上がった。
垂直に煙が上り
もう一度爆音がすると
方向をこちら変えた。
緊張するハルバイストに
俺とミカリンは至って落ち着いて答えた。
「あ、ストレガちゃんだ。」
「ああ、心配無い妹だ。」
俺達が何を言っているのか
理解し兼ねる様子だった。
「攻撃されたらかなわん。
迎えに出るわ。」
時間が無い。
説明は連れて来てから出良いだろう。
俺はそう言って
コクピット背後のハシゴから
船首甲板へと急いで出た。
「よろしく~。」
今、操縦を教わっているミカリンが
そう声を掛けてくれた。
甲板に出ると冒険者ゼータになり
翼を展開し飛び立った。
「ストレガー俺だーっ!!」
ミサイルの様に急速に接近する
飛行物体は煙の排出を中止し
加速を止め減速に入った。
声が聞こえた様だ。
惰性で俺の前までイイ感じで接近して来た。
「脅かさないで下さいお兄様。
何ですかアレは
また変な物を作って・・・。」
「手伝いはしたが
制作者は俺じゃないぞ。」
高度がそこそこあった。
重力操作が弱いストレガは
ゆっくりと下降に移って行こうとしていたので
俺はストレガの手を取り
スガソーリまで連れて行った。
何か
ストレガ嬉しそうな表情だ。
そのまま甲板に降り立つ。
「クリシアに向かったんじゃなかったのか。」
ストレガ以外の魔導院関係者は
既に発っていた。
「私は常にお兄様と一緒です。」
「そうだな。」
最後の戦闘になるだろうから
それが良いかも知れない。
「姿は晒して良いのか。」
公式的には死亡した魔導院前院長だ。
「ウフ、目撃する人はですねぇ。」
次第に大きくなるベレンの黒い球体は
遂にベレンから離れた場所でも視認出来た。
教会の言っていた事が現実味を帯び
成金ゾンビ達は持てるだけの金を
馬車に詰め込むと我先にとバロードを後にしたそうだ。
ここにはハンスと部下しか
もう残っていないそうだ。
「説得が全くの無駄骨だった。
しなくても同じだったと
ハンスさんガックリしてますよ。」
「いや、説得という前情報あってこそだぞ。」
と慰めて置こう。
しなくても一緒だったとは
俺も思う。
ん
今
舟の先端に
美男美女だ。
お
これは滅多に無いチャンスじゃないか
早速やろう。
俺はストレガにギリギリまで前に立ってもらい
両手を水平に開く様に頼み
俺は後ろからストレガの腰を押さえた。
「わんっすもぉぁおおおおぷんっゅやだー!!」
ご機嫌で歌う俺。
俺が何で喜んでいるのか
ストレガには理解出来ない様子だ。
「何ですかコレ。」
「まるで、空を飛んでいるみたいだろ。」
「飛んでますよね。この船」
そうだった。
下からも突っ込みが入った。
「アモン!それ不吉だよ。
変なフラグ立てないでよ。」
そうだった。
俺のフラグにも負けず
ミカリンは何と着陸までやってのけた。
車に関しては俺は元の世界での経験があって
それで当然ミカリンより上手かったが
こんな空飛ぶ乗り物は無い。
ミカリンはこういう操縦系得意なのだな。
俺は改めて感心した。
本部になっている建物の正面庭に着陸した。
周囲を取り囲む聖騎士達は
目の前の出来事に呆気に取られ
魂を抜かれた様にポカーンとしてた。
まだ船首でTの字になっているストレガと
背後の俺にハンスだけは普通に挨拶した。
「おかえりなさい。」
全く動じていない。
いつもの笑顔だ。
「おぅただいま。」
「兄でした。お騒がせしましたーっ」
ストレガの声に
聖騎士達の一時停止も解除された。
「何ァんだ。」の声も聞こえた。
武器を降ろすとヤレヤレと言った様子で
解散していく。
いや
お前らも大概にしろ。
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船首甲板のお約束
映画「タイタニック」の名シーン
真似して落っこちたカップルが居るとか居ないとか




