第五百十五話 ベレン上空到達
ヨハンにタゲが移った今がチャンスだ。
俺は人化するとジュノをキャリアに
運び込みベッドに転がした。
「彼女も魔王の一人なのですか。」
その作業を手伝いながら
ユークリッドは聞いて来た。
「いや、魔王じゃなく魔神の方だ。」
俺は今回のジュノの状態を説明した。
ユークリッドは少し考えてから
自らの案を語った。
「対象が一つとは言え
強力な禁止事項を設定出来るのですから
その竜の親玉に行使出来ませんかね。」
「いや格下相手にしか効かないんだ。
竜の王がジュノより下って可能性は
ほぼ無いだろうな。
試すにしても生身の人状態だ。
効かなければ無防備なまま
相手に姿を・・・。」
待てよ。
前回は市民全員に掛けた。
これは対象が目の前に居る条件には
当てはまらない。
恐らく効果範囲があって
その中に対象が居れば良いのだ。
「・・・射程距離があるなら
離れた所から試してもらえば良いのか。」
「駄目元です。
やる価値はあると思いますよ。
タイミングが分かるのであれば
竜の親玉が出現した瞬間に
罠を掛けられるかもしれません。」
固定ベルトの閉め具合を確認しながら
俺は考えた。
良い手かもしれない。
ダッソと合わせれば
何も出来なくなった相手を
一方的にボコれるぞ。
流石はユーさん。
鬼だ。
さてと
ヨハンが気になる。
いくら改造人間と言えど
神と魔王を同時に相手にするのは
無理だろう。
どんなザマになっているのか
ワクワクしながら俺達は甲板に戻った。
ヨハンを中心に和気あいあいと
お茶会が再開されていた。
何だツマンネ。
「いや、色々誤解があったみてぇでよ。」
封印を解いたのはヨハンではなく
オーベルで
ヨハンはむしろ阻止の方向に
動いていたのだ。
それを理解してからは
ハルバイストは普通に戻った。
「聞けば勇者と共に貢献してくれた
英雄じゃねぇか。
勇者魔王と魔神相手に大したモンだぜ。」
ハルバイストの言葉に
何故か自慢気なビルジバイツ。
「そうじゃろうそうじゃろう。
あの爺が奥の手すら使い果たし
諦めるなど滅多にある事ではないぞや。」
フクロウ姿のオーベルしか知らない俺には
信じられない。
その後は雑談モードに入った。
特に神と魔王の昔話は面白かった。
ひと悶着の言葉のやり取りで
想像はついていたが
やはりこの二人は以前、降臨で対決した過去があった。
「もう何作っても
腐るわ、錆びるわ。
鍛冶師泣かせだぜ。」
これはトラウマになるな。
対ミネバの時にはミネバインすら半壊したそうだ。
「神も魔王も古き者は厄介だぜ。」
腐敗。
バクテリアや細菌の活動だ。
生命が誕生したと同時に出現だろう。
鍛冶より古いのは間違い無い。
でも時間や海の方がもっと古いハズだ。
神側の方が強いんじゃあ・・・。
暗黒。
ヤバい
ババァルやばい。
星の誕生より古い。
原始も原始だ。
下手をすると光より古いかもしれない。
ババァルまじババァだ。
『何ですってぇー!!』
そして悠久の昔から
遥かなる未来まで
その美しさは変わる事無く
マジ永遠。
『いやですわ~。』
そして面白い。
俺が脳内でババァルと遊んでいると
ビルジバイツが何やら感知したかのようで
考える様に固まっていた。
「どうかしたか。」
敵か。
「・・・いや、気のせいじゃ。
何でも無い」
そう言って普通の調子に戻ると
今度はビルジバイツの苦労話だ。
「確かに古き者は強力じゃが
新しき者が勝てぬ道理は無いぞや。
妾の前回が良い例じゃ。」
そう医術の神イクスファス。
戦力でも無く
生産力でも無い神に
当初、悪魔側は油断も油断していたそうだ。
しかし始まってみれば
「妾の権能が次から次へと
無効化されてしまうのじゃ。
しかもそれだけでなく
妾の毒を材料にまでしおって攻めてきよる。」
無駄に消費するばかり
権能を使えば使う程
相手の方が強力になって行くと言う
悪夢の様な一方的な展開だったそうだ。
そして最後は封印されてしまった。
これは良い手だ。
倒せば魔界に帰ってしまうが
引きの波にも勝る封印ならば
永久欠場が期待できる。
なまじ倒すよりよっぽど効果があるだろう。
ハルバイストが折角と言って居た事から
ビルジバイツは神側にとっても
厄介極まりない相手だったのだろう。
悪魔側が油断していた事から
神側でも予想外のダークホースだったのだろう。
もっと英雄視されても良いハズなのに
そうなっていなさそうなのは
他の神の嫉妬なのだろうか。
俺はそう聞いて見た。
「いやイクスが有利な相手ってのが
少なくてな・・・。」
対ビルジバイツでは無敵の強さだったが
暗闇や疑惑や時空に
効く薬があるとは思えない。
そう言う事か。
「っとそろそろ油売ってる場合じゃねぇな
操縦に戻らねぇと。」
ハルバイストの言葉に促され
眼下を見ればベレンが見えて来る距離まで
もうスガソーリは進んでいた。
「俺も行こう。」
アルコがコクピットでこれからどうしたら良いのか
分からなくオロオロしていそうだ。
「助かりました。
ここからどうした良いものか・・・。」
案の定だった。
「悪りぃ悪りぃ
つい長引いちまってな勘弁な。」
そう言ってアルコと交代するハルバイスト。
アルコは荷物を下した直後の様に肩を回した。
「上手く飛ばせたじゃないか。
偉いぞアルコ」
俺はそう言ってストレージから
冷えた飲み物を渡して労った。
「ありがとうございます。
アベソーリより複雑で難しいです。」
喉が渇いていた様で
アルコは一気に飲み干した。
今度、ドリンクホルダーも設置しておこう。
そう言えば車には標準で付いているが
飛行機ってどうなのかね。
前身、後退、左右転回の
二次元の乗り物の戦車と比べて
上下方向が加わった三次元的な乗り物だからな。
複雑になるのは致し方ない。
更に戦車は何もしなくても停止してるだけで
危険は無いが
飛行する物体はそうは行かないからな
停止=墜落だから
それは緊張感も各段の差がある。
「アレが例の破滅のくす玉ってか。」
ハルバイストは黒い球体が
水平に来るように高度を調整し
コクピット正面に捉え近づいていた。
「ビルジバイツ!」
俺は咄嗟に上を向いて
そう声を掛けた。
全員が入れるほどコクピットは
広くないので他の面々には
船首に回ってもらったのだ。
すし詰めおしくらまんじゅう状態で
うっかり緊急脱出装置を
おしりで押してしまったなんて
洒落にならないからな。
「あぁ、またデカくなっておるな。
勢いが増しておる様に見えるぞや。」
日がな一日、観察を続けていた
ビルジバイツの目でもそう確認出来たようだ。
それとダブダブの長ズボンっぽい
ロングスカートだったので諦めていたが
こっちの球体も確認出来た。
出会った頃とは格段の成長だった。
しかし
蠅のイラストのパンティーなんて
よくあったな。




