第五百十 話 フライト中のアレコレ
スガソーリは無事空へと飛び立った。
通常なら興奮しまくりの感動のはずなのだが
搭乗者が皆、俺の背に乗っての飛行を
経験しているので
あまり感激は無い様子だった。
巡航速度は凡そ300キロ程だ。
超音速飛行の三分の一にも満たない速度だが
それでも地上のどの乗り物よりは速い。
ハルバイストの言葉を実証した結果だ。
遅いと言っても300キロだ。
甲板で風を感じるなど
危なくて出来ない。
物凄い風圧だ。
据え付けたキャリアが飛びそうで不安になった俺は
たまらずジョイントの強化を施した。
接続が強化されると今度は
キャリアの屋根そのものが不安になった。
元々300キロの速度に耐えられる様には
作っていない
せいぜい100キロ程度を想定していたのだ。
舗装路の無いこの世界では
地上ならそれでも過剰と言えた。
300キロで飛行する設計では無い。
強度の改装を行うが
キャリアの形そのものが
空力を一切考慮していない設計なので
どこかを強化すれば
その影響で他の場所の強度が不足する。
そこでその場所を慌てて強化すると
そのせいで今度は他の場所がと
強度のいたちごっこが始まった。
「ええい、ふきっ晒しなのがいけないんだ。」
俺は船首の改装を開始した
強化ガラスで風防を
裏返した舟を重ねる恰好で設置した。
「いい眺めじゃねぇな。」
船首の甲板、真下は操縦席で
上方を確認する為床がガラス製だった。
ハルバイストは自分の頭の上で
作業する俺の股間を眺める恰好だ。
これが逆ならパンチラ放題で天国だっただろうに
「うるせえこれでも食らえ。」
俺はそう言ってバケツの水をぶっかけた。
ガラスで仕切られているので
安全なのだがハルバイストは
思わず防御姿勢を取ってしまっていた。
期待通りの反応に俺は指を刺して笑うが
これがハルバイストの怒りを買ったのか
ビクっってなってしまった自分に腹が立ったのか
「こん畜生めぇ。」
と蛇行を開始した。
船内の色んな物がひっくり返る音が聞こえた。
二人は後で皆にメッチャ怒られた。
風防は大成功で巡航速度でも
甲板に出る事が可能な程
風圧は下がったが
風防の効果範囲外
舟の端から手を出すなどすると
突然、風が襲って来て
持って行かれそうな程だった。
ここに居る面子は大丈夫だろうが
小さいお子様を乗船させる際には
ってそんな事は考えなくてもいいか。
強化ガラスの重量はソコソコあったせいで
舟のバランスが微妙に前のめりだと
ハルバイストから文句が出たので
自分で確かめるべく
操縦法を教わり体感した。
確かに船首を持ち上げる方向に
常時気を使っていないと
下降を始めようと傾く
これは長時間の操縦には気になる。
俺は早速カウンターウェイトの作成に入った。
魚の腹びれの様に
船底部から二本のアーム
先端に鉛を内蔵した重りだ。
これをジャイロに連動させ
上下方向のピッチも
左右方向のバンクも常に0に保とうとする様にした。
固定式と違いこれなら
船内のどこに重量物を配置しようと
またそれらが船内で移動しようと
安定を保てるのだ。
ついでにその情報をコクピットにも
メーターで表示する様にした。
視界の悪い時には役立ってくれるだろう。
このアームは使い方で
急な方向転換や制動などにも
威力を発揮した。
「だから空戦はしねぇって。」
そうは言いつつもハルバイストは嬉しそうだ。
新しい物好きは基本新装備を嫌がらない。
「強いに越した事無いだろ。」
「まぁな。」
こうした飛行しながらの改造は
終わる事が無く続いた。
必要に迫られたのもあるが
ほとんどは趣味の領域で
俺が楽しかったせいだ。
翼の先端のライト
左は赤、右は緑の
ナビゲーションライトは元の世界の決まりで
他に航空機の居ないこの世界では
意味が無かったが
俺は一人悦に入り
視点変更を駆使しては
喜んでいた。
「敵に居場所を教えるだけじゃねぇのか」
ヨハンは嫌がったが
操縦をするハルバイストは
舟の幅を認識しやすいと好評だった。
まぁ幅ギリギリの渓谷を飛ぶ予定は無いが・・・。
途中、ワイバーンなどに遭遇し
その度にミカリンが迎撃に発艦した。
その都度、俺は人化するので
作業が中断するが良い休憩になった。
帰還したミカリンの意見だと
戻りやすく、光を見ただけで
舟の進行方向が判別出来るので
便利だと言っていた。
乗っていると分からないが
いざ単独飛行に出ると
天舟は恐ろしいほど小さくなる。
簡単に見失うのだ。
ワイバーンなどの迎撃に
舟自体に武装を施す案もあった。
特にアルコはアベソーリの主砲の設置を
希望していたが俺とハルバイストに
凄い勢いで却下された。
「反動でどうなるか分からん。」
「撃った瞬間にこっちがバラバラになるぜぇ」
あれは大地に足を付けた
超重量兵器のなせる業だ。
「弓は自信無ぇが投槍なら
そこそこイケるぜぇ。」
ヨハンがそう言うので
試しに適当の槍を投げさせて見せたが
流石は改造人間の筋力
飛ぶ飛ぶ。
ライバル心に火が点いたアルコが
「私にも」と言い出し
ヨハンを超える投擲を披露すると
「ちょっと本気になってみるかな」
とヨハンの方にも火が点き
壮絶な槍投げ大会になった。
最後の方ではアルコはベアーマン化までした。
600ヤードくらい飛ばしていた。
周囲が呆れかえる中
汗だくで互いの健闘をたたえ合う
ヨハンとアルコ。
そんな中ミカリンが恐ろしい事を呟いた。
「今、下に人里って・・・無いよね。」




