第五百九話 果たして舟が空を飛ぶものか
「胸を張って、顔を上げてください!
これから向かうバリエアは
皆さんが納めた税によって出来た町です。
堂々と訪れて良いのです!」
ウリハルは馬を操りながら民衆に
そう声を掛けながら
人々を奮い立たせた。
「私に着いて来てください!
共に参りましょう!」
ユノの力は何かをさせない方向の力だが
ウリハルは真逆で何かをさせる力だ。
節制の禁欲の範疇に
興奮が含まれているなら
この力比べは勇者の勝ちだ。
初めて見た時の印象
葬列と表現したが
同じ人々とは思えない程
今は明るく力強い集団だ。
ヴィータとウリハルに導かれ
キャラバンは旅を再開していった。
「ふぁー静かになったな。」
ゴミは片づけられているが
焚火のやテントの跡
凄い広さで痕跡は残っていた。
今の静けさと相まって
寂しさを感じた。
「さぁて俺らも行こうぜ。」
キャラバンを見送り
ヨハンはそう声を上げた。
俺はその声を合図に悪魔男爵に変化した。
「ちょちょちょ待ちねぇい。
兄ちゃんまさか
飛んでいくつもりか。」
「この位の人数なら抱えて行けるぞ。」
あまり有用性が無いので
実際に使用したことは無いが
デフォルトサイズを超える大型化
オーバーサイズにもなれるのだ。
それならば全員、抱える事も
背に乗せる事も出来る。
俺はそう説明した。
「いややや、そうかも知んねぇけど。」
「時間の猶予がどの位あるか分かりませんが
早い方が良いでしょう。」
食い下がるハルバイストに
ユークリッドがそう言った。
「ですね。陸路では何日掛かるか。」
ベレンからここまでの
日数を思い出しているのであろう
アルコも同意だ。
「距離空ければ僕も二人位なら余裕だよ。」
天使化した場合の想定を
ミカリンは言った。
「ただ運ぶだけなら問題は無ぇのかも知れねぇがよ。
その空飛ぶ竜とやらに遭遇した時は
どーんすんでぃ。」
「「あっ」」
ハルバイストの言葉に
俺とミカリンは開いた口が塞がらなかった。
「数十メートルなら
落っことしてくれていいぜ。」
ヨハンはそう言った。
流石は改造人間だ。
「私は槍の様に投擲してもらって構いませんよぉ。
そのまま攻撃します。」
ユークリッドも軽い調子だ。
初撃は良いとして
その後はどうするんだろう。
「お荷物になる為についていくワケじゃねぇだろ。
おいらにもう一日時間をくれ
陸路で行くより断然速い乗り物を
作るからよ。」
「て事はアベソーリとは
違うモノを作る気か。」
あれ程興味を持っていたのだ
初めはアベソーリを作成するつもりなのかと
勘ぐったが陸路を行くよりと言う事は
「おうよ。天界以外じゃ
使用禁止のモノだが。
今はココが天界でもあるわけだし
問題ねぇだろ。」
「天舟ですか。」
ミカリンだけは知っていた。
天界の乗り物で
主に天使を戦地まで輸送し
治療や補給も行う空飛ぶ舟だそうだ。
「今のおいらなら一隻位楽勝よ。」
ほーっそいつは有難いが
「俺は乗れるのか。」
「多分、人化してないとダメージが入るね。」
案の定、対悪魔用の兵器ってワケだ。
「その機能は取っ払う。
竜が悪魔じゃ無ぇなら意味の無い装備だ。
乗る天界人も少ないしな。」
搭乗している天使の力を
流用する機構だそうだ。
「んー単純に重力制御翼の着いた箱だ。
外装は天使の強化が期待出来ない分
普通に軽くて硬い素材にしてぇところだ。
おっと、こんな話は退屈だよな。」
「いや、もっと詳しく聞かせろ。」
俺のセリフに皆、荷物を降ろし
キャンプの準備を始めてしまった。
「食材を狩って来ますね。」
「あ、僕も行くよ。」
長丁場になると予想しているようだ。
アルコとミカリンはそう言って行ってしまった。
ハルバイストから詳しい設計を聞き
図面を起こし
装備について話合いながら修正
本来、神や天使の力で動く物だが
動力部はアベソーリに使用していた
キングクリスタルで代用した。
置き去りの際
これは重要部品だと言う事で
丁寧に下ろされ
キャラバンで保管されていたのだ。
ヨハンが権力で持って来ていた。
ただ通常の天舟と異なり
魔力で動く様に変更になり
動力部の大型化と重量増の為
フレームの変更を余儀なくされ
それによるスタビリティの変化など
各運動性の変化
その落としどころに二人共判断が付かなかったが
舟自体で戦闘をするのではなく
単純に移動の利便性と非飛行員の安全性を重視し
最高速や機動性を落としても
安定性と耐久性を上げる方向で決まった。
「んじゃ始めるとするか。」
ハルバイストはそう言うと
例のハンマーを実体化させた。
材料はどうするのか聞こうと思ったが
ハルバイストは何とそのまま地面を打ち始めた。
打ち付けれらた場所から金属が出現した。
これは俺が地中から金属粒子を補給する行為と
体内で形を生成する行為を
同時に行っているのだと瞬間的に理解した。
あのハンマーさえあれば
釜も原石も必要無い。
最も人間には扱えないシロモノだとは思うが
ともかくハルバイストは
バンバン部品を生成していった。
「おい野郎ども手伝え!」
組付けようににも一人では無理だ。
ヨハンはそのままの腕力で問題無いが
ユークリッドの方はシロウに変身し
俺の指示でフレームを組み上げを
手伝って貰った。
組み上がった場所から
その湾曲に合わせた
カーボンの外装を俺は作成していった。
「成程な。
炭がそんなモノになるとは驚きだぜぇ」
俺の生成の様子を青く光る眼で見ていた
ハルバイストは素材と生成方法を
理解した様で感心しながらそう言い
たちまち
俺と同じよう様に外装を
ハンマーで生成し始めた。
水上などに着水出来る様に
本当に舟様な外観で
違いは四肢の様に翼が生えている事だ。
ミネバインの翼と同様の機構だそうだ。
この四枚の角度と出力差で
移動及び姿勢制御を行うそうだ。
生活部分の作成は面倒だったので
アモン・キャリアをそのまま据え付けた。
なんか屋形船っぽくなった。
狩りを終え
戻って来たミカリンとアルコは
見た目にはもう
完成してしまっている天舟を見て
驚いていた。
「何か・・・天界のとは大分違う形だけど。」
「まぁな、場所が違えば
最適な形も変わるってモンよ。」
船底から着陸用の脚が生えていて
しっかりと地面に立っていた。
これまでの車のサスペンション技術が流用され
結構乱暴に下りても本体を破損せず
衝撃を吸収してくれるだろう。
背後のパネルが下方向に開き
アモンキャリアをそのまま出発させる事も可能にした。
「細かい所や調整は飛びながらでもいいか。」
取り合えず飛行可能な状態まで持っていけた。
俺は出発を促すが
ハルバイストは待ったを掛けて来た。
「大事な事を忘れているぜ。」
クリスタルへの魔力譲渡はやった。
燃料OKだ。
操縦はハルバイスト一任で
これも陸上テストで問題なく翼は稼働した。
パイロットOKだ。
ハルバイストに行先を指示出来る者も大勢いる。
ナビOKだ。
俺はダメな理由が思いつかなかったので
素直に聞いた。
「何だ?」
腕を組んで偉そうにハルバイストは言った。
「名前に決まってらぁ命名だよ。
それをしないで動かすワケにはいかねぇだろ。」
祝福を与えるのが恒常の神様方には
大事な事だそうだ。
意外な感じがしたがユークリッドやヨハンも
それに同意した。
「まぁ好きに付けていいんじゃないか。」
「いや、これだけは兄ちゃんの仕事だ。」
ほぼほぼ作ったのはハルバイストなのだから
ハルバイストが命名すれば良いと
俺は言ったのだが
頑として聞かなかった。
皆までハルバイストの意見に賛成だった。
「そうか・・・じゃあ。」
アベソーリの代わりを担うモノだからな。
「スガソーリだ。」
反応は微妙だった。




