第五百四話 代役は大役
巫女は腕を組んで仁王立ちになると語り出した。
「相手を思う気持ち、貴様から学んだつもりでいたが
全然、理解出来てい無かった事を痛感した。
あの時点でも俺は自分の欲求だけで
貴様を喜ばす考えに欠けていたのだ。」
この態度、まさか
「更に、あの体では生身の人と
まぐわうには不都合が多すぎる。
貴様を壊しかねない。
そこで改めて出直して来た。
ユークリッドから聞いている。
どうだ、この体なら喜んでまぐわえるか。」
波長の合う人間の体に憑依して乗っ取る。
前回のヴィータが教会から出られない時に
幼いジゼルさんにそれを使った実例を
俺は知っていた。
「アーテイム、お前
巫女の体を乗っ取ったのか。」
アーテイムはニヤリと笑い喜んだ。
「流石は我が夫となる男よ。
姿を変えても一瞬で看破するとは
まさに魂で繋がっているのだな俺達は」
今のセリフ、全部間違っているが
俺はスルーした。
それにしてもユークリッドは
一体俺の事を神々になんて吹聴しているのだろう。
一度真剣に問いただした方が良さそうだ。
「おいおい勝手に乗っ取るのは
ヒドイんじゃないか。」
静かに閉じていた両目
片目だけ開けてアーテイムは答えた。
「勝手では無い。キチンとお願いし
巫女も快諾してくれたのだ。」
頼む方も頼む方だが
許可する方もどうかと思うぞ。
本当に快諾したのか
パワハラじゃないだろうな。
「で、どうだ
この体なら俺を抱けるか。」
はい。
いややや待て待て
「仮にいたしたとしても
ソレで失われる純血は
巫女さんのであって
お前のじゃないんじゃないか。」
アーテイムはクワッっと両目を
見開き驚いた声で言った。
「何と?!その通りではないか!!」
あ
しまった~
してから言えば良かった。
痛恨のミスだあああって
いややダメだろう。
「しかし、本体ではどうせ叶わぬのだ。
他に方法は無い。
俺は精神的にはこれでも良いのだが・・。」
精神的か
本体は処女のまま精神だけが
大人の階段を上った。
この場合はアーテイムの権能はどうなるんだろう
処女神として変わらず機能するのだろうか。
よし早速試し
だからダメだって。
「あの時はああ言ったが
いたす必要はあるのか?
俺の真の目的はアーテイムの解放であって
お前が処女神という枷に不満が無いのなら
無理しても意味がないぞ。」
「むぅ手段に拘り
その先の目的を見失ってしまったか!!」
「それに、あの時も言ったが
事の前、事の前に
心通わす事が必要かつ重要だ。
いたすのは
その心を確かめ合う行為でもあるんだ。」
俺は奥の部屋にもよく聞こえる様に
特に「事の前」にアクセントを強めて言った。
「それをせずに行為だけ行っても
それは虚しい事だと俺は思う。」
でも実は
男はそれでも良いんですけどね。
「心は通ったぞ。
あの戦いで俺は貴様の
次の一手が読める自信がある。」
自信たっぷりにそう言うアーテイム。
俺はこめかみを押さえながら言った。
「それは男女としてでは無く
戦士同士の交流だ。」
「まぐわう以外の男女の交流・・・とは」
どうでもいいが
まぐわう 以外の表現をしてほしい。
俺は椅子を引いて言った。
「折角の生の肉体だ。
お茶でも味わいながら
話でもしようじゃないか。
これも交流って奴だ。」
素直に腰かけるアーテイムは
既に準備されていた茶に驚き言った。
「むぅ既に用意してあるとは
戦闘以外でも先手が冴えるな貴様は」
「いや、他の人が居てな
鍵をこじ開けるトコロで隠れてもらったんだ。」
もう大丈夫だろう。
流石のユノもここからピンクタイムには
持ってはいけまい。
防衛の為にもアーテイムはこのままいてもらおう。
俺は奥の部屋から
隠れていた三人を呼び出し
お茶も人数分追加して
普通のお茶会を開始した。
ユノもすっかり通常モードで
普通に会話を楽しんだ。
こっちの方が魅力的に感じたが
変に藪を突かない方が良いだろう。
もう自重しよう。
最終決戦のプレッシャーのせいか
移動での別れのせいか
そういう交流を俺は
求めてしまっているのかも知れない。
・・・・いや
前からそうだよな。
あれかモテ期到来ってやつなのか。
「お揃いですねぇ
これは手間が省けて助かりますよぉ。」
そうこうしてる内に
馬車の主が戻って来た。
お茶会に参加し
会議の開催時間などを告げ
神々はケイシオンの馬車に
先に集合する旨を伝え
上手に解散させた。
俺も出て行こうとしたが
ユークリッドは引き留めた。
「人間サイドも先に打ち合わせますので
是非アモンさんも残って頂きたいのですが」
「んーおいらはどうしたら良い。」
ハルバイストが横からそう言った。
厳密には神側だが
今は俺の助手で人間の扱いなのだ。
「そうですねえ。居て貰っても
退屈でしょうし、その間キャラバンを
誰かに案内させましょう。」
神側に内緒の話もあるのだろう。
ハルバイストもそれは察したようで
残る事を食い下がったり
理由を聞いたりとかはして来なかった。
話し方もそうだが
粋な奴だ。
素直に同意した。
「9大司教から連日のご指名なんて
自分が偉くなったのかと錯覚してしまいそうだわ。
これは単純にリディ君の知り合いという事に
起因するモノで私自信の実力とは
関係の無い事なのだから
浮かれない様に気を付けなくっちゃ。
それにしても今日は一体
何の用事かしら
気になるわ~。」
案内役が扉に何かを話していた。
突っ込まないとどうなるんだろう。
俺は敢えて今回は黙ってみた。
「来たようですねぇ。」
ユークリッドは普通だ。
ビビビを特に個性的とは思ってはいないようだ。
懐が深すぎる。
「おいおい大丈夫なんだろうな・・・。」
ビビビとは初対面になるハルバイストが
不安そうにそう言った。
俺が突っ込まなくても
言う事だけ言えば気が済んだ様で
ビビビはノックをして来た。
だよな
俺が居ない間だって行動してるワケだから
俺は次はどう対応しようか
考えておく事にした。




