第五百話 正義は
「形勢不利だ。
やはりやるしかない。」
背中に乗っているだけの
まさにお荷物がそう言っていた。
不利もクソも最初っから一方的だったんだが
「し・・・しかし。」
何をやるのか知らないが
ウルの方は乗り気では無いみたいだ。
俺は攻撃を中断して
様子を見る事にした。
「ウル、これは命令だ。」
「くっ分かりました。」
背中の上でジェミスはポーズを取り出した。
「超神聖合体!」
ん
変身じゃなく合体か
まぁ
どっちにしろ
こういう時は大人しく待つのが
敵としての礼儀だ。
中断して良かった。
「「爆誕!!」」
二人がそう言うと
黄金の光に包まれたジェミスは
ウルに吸収されていった。
それに合わせて
ウルの甲冑は白金から黄金へと変化し
トゲトゲが増え
レリーフも凝ったモノへと変わった。
体躯もデフォルトサイズの俺と同等になった。
「天使を超え神を超え
絶対正義・天神超戦士
ウルジェミン!!」
・・・んはどっから来た?
「行くぞぉ魔神めぇ!!」
「はいはい。もう攻撃していいか。」
舐めてた。
強いわウルジェミン。
背中におぶっていた意味があったんだ。
合体と言う位だから
近くにいないとならないのだろう。
しかしそれならば
何故、最初から合体をしなかったのか。
ウルが嫌がった事から
何かしらの副作用なりのデメリットが存在するのだろう。
拮抗
まさにソレだった
ウルジェミンは全ての能力において
今の俺と同格だった。
俺は本気になった。
ウルジェミンが補給に地表に下りようとした際には
禁呪である鋼鉄処女まで使用した。
ウルジェミンは常にあの凶悪な聖属性の光を
全身に纏っていて
全身ガバガバ状態だ。
どこに命中しても俺の攻撃は全て切り裂かれ
鋼鉄処女ですら1秒と動きを
封じる事できず破壊された。
鋼鉄処女ごと
数万度の蒸し焼きにしてやろうと
思ったがとても間に合わない。
こんな事だったら
合体前に攻撃しておけば良かった。
俺は本気で後悔した。
何しろ全身ガバガバだ。
ただのパンチやケリでも
食らう訳にはいかない。
しかし、俺の遠距離攻撃も魔法も
悪魔光線ですら
その聖属性を貫いてダメージを与える事は愚か
足止めすら叶わなかった。
何度も間合いを詰められ
その度に
テーン風盾に犠牲になってもらいながら
俺は吹っ飛ばされた。
何度目かの吹き飛ばしで
俺は派手に地上を転がり
かなりの距離を移動しやっと止まった。
丁度、アベソーリの辺り
地べたに仰向けになった俺の視線に
ハルバイストが見えた。
白だ。
着替えさせたの俺だ。
知ってた。
遠くから
歌が聞こえた。
「正義~!」
【チャチャ】
「正義~!」
【ダダッダン】
「俺は正義~!!」
余裕だな。
俺は倒れたまま情けない声を出した。
「ゴメン。勝てないかも。」
ちょっと笑って言ってしまった。
俺もデタラメだが
ウルジェミンはもっとヤバい。
遠距離攻撃が無いのが
せめてもの救いだ。
倒す事は出来なくても
逃げ切る事は出来るかも知れない。
いや
正義も裁きも諦めると言う事が無い。
地の果てまでも追ってくるだろう。
ハルバイストのリアクションは
俺のどの想像にも無かった。
「いや、不変・不敗の絶対
それが正義、奴の権能だ。
倒せる奴はいねぇよ。」
「・・・じゃあ悪魔も竜も
全部アイツが面倒見れば良いんじゃねーの。」
「・・・倒せる奴はいねぇ
ただ、倒れちまう事はあるんだ。
ホレ、始まっちまった。」
顎で空を促すハルバイスト
俺は半身を起こして
その先の空を見た。
余裕でゆっくりと飛行しているのかと
初めは思っていたのだが
どうも様子がおかしい。
不安定さが増していく中
あの聖属性の光が
切れかけの蛍光灯の様に
細かく点滅し始めた。
「人の体で天使と合体なんて
無茶も良いトコだ。
天使の神の力を行使するにゃあ
存在の力そのものを消費するしかねぇだろうな。」
神の御業を再現した教会の秘術。
それと同じだとしたら。
光の点滅は遂に止んでしまい
ウルジェミンは二つに分離した。
片方の小さめの影は
そのまま落下していき
もう一つが慌てて追った。
「・・・せめて看取ってやらぁ。」
ハルバイストはそう言うと
持っていた巨大なハンマーを消失させた。
しまったのか。
そうしてウルジェミンの落下した辺りに向け
ゆっくりと歩み出した。
反撃のチャーンス
フヒヒヒ
『・・・お止めになってくださいまし。』
冗談だよ。
幻聴ババァルの
すんごい悲しい声に俺は無言で答えると
宮本たけし姿
完全人化し後に続いた。
ウルとジェミスは
映画やドラマなどでお馴染みの
忌の際状態だった。
ウルは肩膝を着き
ジェミスを抱きかかえるようにしていた。
輪郭を保つ事も既に危うい状態
透けすぎて元の色が判別出来ない。
透けた先の色の方が遥かに濃いのだ。
このヤバさはミネバの比では無い。
俺はそう直感した。
ウルは必死にジェミスに語り掛け続けていた。
ジェミスの状態が酷すぎて目立たないが
ウル自身もとても四大天使とは思えない程
弱っていた。
俺達が傍に来ている事は気づいているのだが
構う余裕は無い
ウルはジェミスの名を呼び続けていた。
その様子を見たハルバイストは呻いた。
「こりゃぁもうイクスファスでも
手の施しようがねぇ・・・・
この大馬鹿野郎が。」
最後の方は涙声過ぎて
良く聞き取れなかった。
流石の俺ももう一回言ってとは
ちょっと言いにくかった。
神が近くに来た事が
少しでも効果があったのか
ジェミスは言った。
「・・・ウル。ま魔神は。」
口が動いている様子は無いが
途切れそうな程
か細い声が聞こえた。
ウルは一度俺を見た。
俺は黙って頷いた。
「はっ・・滅しました。
真にお見事でございます。」
「フフ・・・正義は・・・勝つ。」
「はい!・・・はい。」
その一言で透明化が加速し始めた。
「ジェミス様ー!!」
「・・・バカヤロウバカヤロウ」
必死な神軍団に対し
俺だけ気合の抜けた声を出した。
「あのー正義の神様
お願いが・・・・。」
ウルもハルバイストも
顔の半分が開いた口になった。
「・・・何だ。弱き子羊よ。
お前が善良な者ならば
願いに答えよう。」
その顔のまま
ジェミスを見る二人
色がちょっとだけ復活していた。
俺は笑いを堪えて続けた。
消えてしまう前に
上手く行けば良いのだが。
「この世界の正義は成されました。
しかし、次なる世界に民も
忌むべき悪魔までもが移動を開始しております。」
「・・・そうか。
もう始まっているのか。」
「次なる世界には
正義は存在するのでしょうか。
弱きを救う力はあるのでしょうか。」
「ある・・・俺だ。」
閉じていた目を見開き
ジェミスは力強くそう言った。
消えかけていくジェミス
その薄い輪郭が
黄金の粒子になっていくのが見えた。
移動だ。
これは間に合ったか
消滅の前に移動すれば
次の世界での成すべき事
その存在の力を得る事が出来るハズだ。
そうしてウルの腕から
ジェミスは消えた。
「上手くいったかな。」
俺はそう呟いたが
この成否を判定出来る者はいない。
上手く行ったと信じるだけだ。
「当たり前ぇよ。
正義は不滅だぜ。
例え倒れる事があっても
必ず立ち上がってくれらぁ。」
ハルバイストは涙声のまま
今度は少し嬉しそうに
そう言った。
ウルは拳を握りしめながら
立ち上がり
俺を見た。
ウルも黄金の粒子に包まれ始めていた。
すごい険しい表情だが
怒りは感じ取れない。
やがてウルは口を開いた。
「礼は・・・言わんぞ。」
俺は真面目に返した。
「俺は言うぞ。
ウル、ありがとう!!
本当にありがとう天使様!!」
ウルは凄い顔芸を披露してくれた。
恥ずかしさ、怒り、悔しさ、照れくささ
まぁ
何にしろやっぱり四大天使のマイナス感情は
世界一のご馳走だ。
やめられない。
「だから・・・きっ貴様という男は」
おっと消えた。
最後に
何を言いたかったんだろう。
まぁ、ウルの事だ。
どうせ大した事無いに決まっている。




