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ぞくデビ  作者: Tetra1031
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第四百九十六話 お疲れ様アベソーリ

窓から差し込む日差しで目を覚ました。

床に脱ぎ散らかした服は

俺のだけ残っていた。


枕の横

もしかして帰って来たりとか

思ってそのままにしていたネックレスは

やっぱりそのままだった。


彼女が

アリアが消える際にネックレスだけは

黄金の光に包まれる事無く

去ると同時にベッドの上に

そのまま落ちたのだ。


「成すべき事がこれって・・・。」


それはゲスな言い方だな。

思わず自嘲する俺。


秘めた想い

ファミリーを捨て

何も持たず

体一つで俺を追った。

その想いを決死の覚悟で打ち明け

俺はその想いに答えた。


俺は

昼間悲惨な目に遭った後だけに

涙が出る程嬉しく

滅茶苦茶ハッスルしてしまった。

「私・・・幸せ。」

最後にそれだけ言うと

アリアは眠りに落ち

その直後に移動スライドは始まった。


ベッドから半身を起こし

ネックレスを手に取り

暫くボーッと眺めた。

静的だが大きな虚しさと

寂しさに俺は晒された。

ババァルの核を手にした時と被った。


「俺と裸でベッドを共にすると

消える定めなのか・・・。」


赤い波が足元に絡みついては居ないぞ。


いや

ババァルと違いアリアは移動スライドだ。

次の世界にいけば

また会えるのだ。


戦うのではなく

出来るだけ安全な次の世界で

待っていて欲しい。


俺がそう望んだ事も

彼女に移動スライドが訪れた原因なのかも知れない。


これで良かったんだ。

俺は自分にそう言い聞かせ

ベッドから出た。


「次の世界で待っていてくれ

・・・服は着ろよ。」


ババァルの方も

きっちり探し出して

次の世界に送り出してやらねばだしな。


記憶の改ざんは

見事な程、違和感なく前線基地の

人々に行われていた。

元々、魔導院の所属では無いし

工作員という立場から

表立って目だったり、責任を負っていたり

する事が無かった事も大きい。


ただ忘れられてしまうと言う事は

すごく寂しく

また言いようの無い怖さがあった。


「・・・どうかなさいましたか。」


ストレガなら覚えているかも知れないと

淡い期待を抱いていたが

これまた綺麗さっぱり忘れていた。


「いや、何でも無いさ。」


俺の様子を心配してくれただけのようだ。

ここに居てもやる事は無い

俺は自分のやり残した事を

片づける為バロードを後にした。


「この辺のハズなんだがなぁ・・・。」


ベレンを越え南に進路を取った。

アルコから聞いたアベソーリの廃棄場所。

利用可能なパーツは外せるだけ外して

持って行ったそうだが

本体そのものは置き去りだ。

残して置いても問題は無いかも知れないが

忍びない。

心を持たぬ機械とは言え

俺の大事な人達を守るため

その身を捧げて散った。

その為に生まれ

見事に使命を果たし切った。

労ってやりたい。

弔ってやりたい。

人が愛情を持つ相手は

生き物だけでは無いのだ。


「お、あったあった!」


聞いていたより南の方で

アベソーリを発見した。

見事なぶっ壊れ方で

外装に装着したスコップ等の

備品類は綺麗に無く

本体と切れた履帯

体当たりのせいだと思われる

曲がった砲身や

壊れた装甲に痛々しさを覚えた。


近くまで下りる

枯れた花束が時間の経過を感じさせた。

皆も感謝していたのだ。

弔ってくれたのか。


「良く頑張ったな。立派だったぞ。」


俺はそう語り掛け

素材として収納を開始しようとしたが

センサー系にあるのハズの無い

反応に気が付き

収納を思いとどまった。


中に誰かいる。


子供か小さめな女性位の人間が中にいたのだ。


俺は悪魔男爵バロンから冒険者ゼータに

姿を変えると

半開きでちゃんと閉じなくなったハッチを開け

ズカズカとアベソーリの中に入っていった。


バラせるだけバラし

綺麗に並べられたパーツ群の中央に

胡坐をかいて腕を組んで

こちらに背を向けている餓鬼がいた。

ドワーフなどはよく着ていた作業着

オーバーオールに酷似した・・・

いや

こいつのはオーバーオールそのものに見えた。

それ以外の部分には肌が露出し

服の印象を裏切る華奢さだ。

しかも他に何も着ていないのか

裸エプロンならぬ

裸オーバーオール状態に見受けられた。

うーん

下に赤か緑の服を着てほしい。


俺の接近にとっくに気が付いていた様だ。

振り返る事無くそいつは言った。


「ちぃ魔神かよ。ついてねぇや全く・・・。」


俺を見る事も無く魔神と判断したそいつは

俺の言葉を待つ事も無く続けた。


「大人しく首はくれてやらぁ

その替わりと言っちゃあナンだが

暫く待っちゃくれねぇか

頼むこの通り、後生だ。」


胡坐のまま器用に向きを反転させ

俺に頭を下げた。

顔には跳ねた古いオイルに埃が乗って

すんごい汚い状態だ。


「何を待てば良いんだ。」


「こいつの解析さぁ

お前さんにゃあ分からんかも知れねぇが

コイツは相当にヤバい乗り物だ。

魔界側にだって脅威になり得るモンだぞ。」


そういって細ッそい腕

その拳で床をコンコンと叩いた。


俺を魔神と判断し残念がった。

魔界側などというセリフが出た。

命令も無く自由に活動している。

俺が半魔化にも関わらずダメージが来ない。

つまり人状態の神の可能性が高い。

キャラバンに未参加の残り2名

その中で機械に興味を抱く神となると


「あんた、ハルバイストか。」


「っぉお!!何で分かったんでぃ

魔界側にはそんなに有名な神じゃねぇハズなんだが」


迷う事の無い単純な二択だったんだが

こっちの事情を知らないのか。

初見で見抜かれた事にスゴイ驚いている。


「そっちの要求には全面的に応える

替わりに俺の要求も聞け。」


「なんでぃ」


「風呂に入れ、汚いぞ。」


「どうせ、また直ぐ汚れらぁ。

それに風呂なんてドコにもありゃしねぇ。」


快活に笑うハルバイストの襟を摘まみ

車外へ出るとキャラバンで披露した石風呂

それをサイズ調整した石壁を唱え

ウォーターシュートとヒートアローで

俺はあっという間に風呂を完成させた。

悪魔力の関係無い魔法なので

ハルバイストへのダメージも心配要らないだろう。


「例えまた直ぐ汚れるとしても

区切りの際には綺麗にするモンだ。

ましてや人と会って話すんだからな。」


俺はそう言って

ハルバイストからオーバーオールを剥ぎ取り

風呂に放り込んだ。


・・・女の子だった。

どうして神側には

こう外見と性別が一致しないのが多いんだ。


俺の驚きとは裏腹に

ハルバイストは恥ずかしがる様子は無く

先程の言葉を裏切る様に風呂を楽しみ始めた。


少しは恥じらえよ。

まぁまだギリギリ男湯に入っても良い(昭和基準)年齢かな


俺の思考をヨソにハルバイストは気持ちよさげに

体を洗い始めた。

その褐色の肌と子供体型

笑顔の感じから

初期のミカリンを思い出さずにはいられなかった。


「なぁ今度はおいらが当ててやるよ。

お前さん・・・・魔神ラクーンだろ。」


誰だそれ。

俺の表情で不正解を悟ったハルバイストは続けた。


「違うのかぃ風呂だったら

てっきりそうだと思ったんだけどよぉ。」


何と風呂を冠する悪魔が居るそうだ。


「そいつとレイノヒモの対決は見物だったぞぉ。」


台所神VS風呂魔神

勝負は水物とは確かに言うが

どんな戦いになるんだ。

ちょっと見て見たい。


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