第四百九十二話 アーテイムの馬車前
俺は人をからかうのは大好きだが
自分がからかわれるのはガマンならない。
早目の報復が必要だ。
下手に弄られキャラになってしまう前に
あいつはイジらない方がいい
このイメージを定着させないといけないのだ。
「ふふ、さて我が復讐の対象者だが」
誰にやれば良いのだろう。
直接の加害者はアホデルタだが
かのじ・・・彼はむしろ巻き込まれた被害者だ。
俺と共闘してもいいくらいだが
報復など考えるキャラではないだろう。
仮にも美の神だからな
美しき復讐などとは言葉の上のみの存在で
復讐は押し並べて醜悪なものだ。
ミカリンとヴィータは
加害者側であるようだが
良心のブレーキから
事態の収束に動いた。
話しぶり、その後の態度からも
彼女らも巻き込まれた側の様だ。
そうなると
やっぱり
あいつか。
しかし、証拠が無い。
見事と言える。
完全に裏で画策し人を操ったのだ。
調停者のクラスも持ってるんじゃないか。
証拠集めに動くのも
それはそれでよろしくない。
俺が報復を企んでいる事が
事前にバレてしまい
事を起こす前に謝罪なり
説得なりの先手を打って来るだろう。
謝っているのに
報復なんて大人気ないですよ。
そうやって封じ込めるのだ。
おのれ
おのれおのれおのれ
証拠集めが出来ない。
その上での報復は
「お前がやったに決まっている」との
一方的なこちら側の決めつけになるので
誰もこちら側を支持出来ないだろう
擁護の仕様が無くなる。
改めて見事だ。
人をおちょくりつつ
報復も完全に封じ込めた
完璧なイタズラと言って良い。
敵ながら天晴だ。
エラシア大陸の覇者
バルバリスの皇帝が弱味を見つけたがるのも頷ける。
直接的な報復は諦めざるを得ない。
江戸ではなく長崎で
何か別の機会に恨みを晴らせる様に心掛けしかないな。
かと言って素直に泣き寝入りなどするものか。
こうなったらユークリッドを含めた
神側サイド全てに被害の及ぶ嫌がらせをするしかない。
俺の
八つ当たり
うっぷん晴らし
付き合ってもらうぞ。
バルバリス市民と
それらの信仰を搾取する神々共め
なんか一周目の最終決戦みたいな勢いだな。
このエピソードで二週目終わりとか
いや
規模的にしょぼ過ぎるだろ
大丈夫だな
うん
やってしまおう。
「コレしか無いか・・・。」
色々考えた挙句
俺はアーテイムを口説き落とし
濃厚接触してしまうと決めた。
処女で無いと権能を失うというのだから
奪われでもしたら
さぞかし困った事になるだろう。
ふひひ
殺したりとは違い
互いに惹かれ合い合意の上となれば
そうそう責められるモノでもあるまい。
ミネバも復活したのだから
戦闘の指揮だって問題は無いハズ
被害の少ないトンデモナイ迷惑だ。
「えーっ何て事を困りましたねぇ」
今からユークリッドの困り果てた顔が
目に浮かぶ
これは
面白いぞ。
早速、実行しよう。
まずターゲットの補足からだ。
アーテイムはドコに居るのか。
これは首脳部である中心部
戦闘の指揮をするとなれば
それより前方に配置されているハズだ。
他の神々と同様に教会専用の資材馬車に
偽装している可能性が非常に高い。
これだけで場所は大分絞り込める。
近くには指揮を出す聖騎士の馬車が多く
警備が何気に厳重で
中に普段着に偽装した女性がいれば
ほぼほぼ間違い無くアーテイムだろう。
俺は工作員スキルを発動し
神経系だけを断続的に悪魔化し
目的の付近の捜査を開始した。
しかし捜査は空振りに終わった。
キャラバンの列に
それと思しき馬車は無かった。
「どういう事だ・・・。」
断続的瞬間悪魔の際に感じた不快感。
人状態で無い神なら
それを俺が逃すハズがないのだ。
それぞれもう一度思い出す。
一つは中心も中心の最重要地点で
付近の会話を盗聴すると
主はフォロンだ。
これは間違い無いだろう。
炊き出しでブリッペと一緒に
作業していた女性
コイツが例のレイノヒモだろう
背格好もブリッペと酷似していて
双子かと思った程だ。
これも間違いない。
ミネバの馬車で感じた反応は
イクスファスと思われる
容態が急変したのだから
来ないハズが無いのだ。
俺の読みではそこにもう一つ反応があり
そいつがアーテイムだと予想していたのだが
不快感は一つだった。
そうなればイクスファスだ。
狩猟の神が居て
医術の神がその場に居ないなんて事は無い。
いずれもアーテイムでは無かった。
「ええい、奴はドコだ。」
もしかして状態が固定では無く
ミカリンの様に変動可能だった場合
人化されてしまったら
この方法では特定の仕様が無い
名前以外は性別しか知らないのだ。
そうなったら今は諦めて出直すしかない。
「何か別の方法を考えないとな。」
小便の為、人混みから抜け
街道脇の林に行き用を足した。
終えると、それまでのクセで
瞬間悪魔化をしてしまったが
それが功を奏した。
「見つけたぞ!」
その馬車は林の向こう側に
着かず離れずの距離で
不自然に滞在していた。
しかもガードをしている連中は
全員、人間じゃなかった。
頭巾やリュックで隠しているが
天使に間違いない。
万が一人間に見られても良いように
変装しているのだろう
天使に守護された
離れた馬車
その付近に周囲の天使とは
別格の不快感。
間違いないコイツがアーテイムだ。
「ふふふ、上手に隠したつもりだったようだが
無駄に終わったな。」
俺は不敵な笑顔を浮かべて
ズケズケとその馬車に向かった。
下級天使相手なら人状態でも遅れは取らない。
人なら死にかねないレベルの静電気で
制止を要求する天使共を
ことごとく気絶させ俺は前に進んだ。
「あーていむぅうう、やってやるぜぇ」
主天使と思われる集団が
馬車の周りを守っていた。
これまでの進撃でもう制止の要求は出さず
問答無用でそいつらは襲い掛かって来た。
主天使となると
人状態ではキツい
しかしここで悪魔男爵化すれば
本隊のキャラバンの方にも
有事がバレてしまう。
俺は本気人状態で連雷撃を駆使し
そいつらを気絶させる事に成功した。
バング相手の経験値稼ぎ
その時の人状態戦闘その経験が生きた。
やっておいて良かった。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
呼吸を整える俺に向かって
そいつは拍手をした。
馬車のタラップに座り込み
手下の主天使に指示を出していた男だ。
こいつらのリーダーか
四大天使程では無いが高位の天使の様だ。
感じるプレッシャーが違う。
部下が次々を倒されていると言うのに
余裕の見物をしている事から
有する実力もケタ違いなのだろう。
「見事だな。戦闘も・・・人のふりも。」
巨漢だ。
タラップから下りて立ち上がると
2m以上もあり
腕も足も太い。
声も玄〇哲章みたいだ。
「何だ・・・人じゃないのバレてんのか。」
「安心しろ俺以外には気づいた者は居ない。」
どうしてそれが安心の材料になるのか疑問だったが
その答えになる行動をその巨漢は始めた。
何やら呪文を唱えると最後に叫ぶように言った。
「決界!!!」
結界では無い。
外から入れなくするだけではなく
中からも出られない術だそうだ。
「これで外からは誰も入れん。
中の様子が漏れる事も無い。
当然、解除するには俺を倒すしかない。
遠慮せず本当の姿になるがいい。」
大剣を構える巨漢は
やる気満々でそう言った。
「いや、遠慮はするさぁ
馬車の中の人に被害が及んだんじゃ
何の為にここまで来たのか
分からなくなっちまう。」
俺は冒険者ゼータにチェンジすると
デビルアイで馬車の中を走査して言った。
くーっ
狩猟の神なんて言うのに
150cm位のかわいい女性がいるじゃありませんか
この巨漢倒してから
たっぷり可愛がってあげるからね。
俺は土壁系最上位の鉄壁を唱え
馬車を囲った。
「これなら安心してやれるかな。
ああ解除するには俺を倒すしかないぜ。」
俺を倒す~の辺りは
巨漢の声マネで言い
俺も創業祭を構えた。
「むぅ・・・。」
魔法には少し驚いたようだ。
巨漢から初めて余裕の色が消えた。
ふふ巨漢
貴様の敗因はその巨体だ。
車〇正美のマンガでは
絶対やられ役だ。
決闘が始まろうとしていた。




