第四百九十 話 アホデルタの馬車
俺は恋をした。
本当の美というものに遭遇してしまったのだ。
「どうして・・・どうしてこんなに気になるんだ。」
胸のドキドキが止まらない。
半魔化状態で心臓無いハズなんだが
気分次第で良くも悪くもなるこの世界だ。
思い込みが強い程、影響もでかい。
俺は強いと思い込めば本当に戦闘力が向上するのだ。
逆に弱気も強化されるので
駄目だと思い込むとダメな方向に加速する。
良し悪しだが
「これは・・・悪いコトなのか
いや、そんなハズはない。」
だって恋は素敵な事なのだから。
気になって仕方が無い。
酒を飲まずにいられない吸血鬼の様に
俺は見ずにいられなかった。
ユークリッドの馬車から出た俺は
いつものクセで完全膝カックン耐性を使用し
周囲の状況を調べた。
ウリハルの演説は終了していて
あの喧噪は落ち着きに変わっていた。
まぁ祭は続いているので普通に賑やかだ。
数キロに渡るキャラバンの隊列
一度の演説では無理なので
先頭方向にむけ、次の幕をすべく
ウリハルは移動したのだが
もう一度聞きたい観衆がゾロゾロと
ついていく有様だ。
なんか熱狂的なファンがアイドルの全国公演に合わせて
一緒に移動する現象に似ている。
というか同じなのか。
どうして
そこまで
のぼせ上れるのかと
さっきまでの俺は
そう思っていたのだが
今は痛い程、その気持ちが分かる俺だった。
「見ずにいられない。」
俺はそのお姿を拝見しようと
初めて見た時と同じように
視点変更を駆使して
もう一度、その馬車の窓に
視点座標を合わせた。
「ヤバい視線あっちゃった!」
向こうから俺を見られるハズはないのだが
俺の視点座標と真正面に
そのお顔が向いていた。
慌てて通常視線に戻す俺。
正気を保てない
見つめ合う状況なんて不可能だ。
死んでしまうじゃないか。
「ハァハァ・・・ビックリした。」
しかしなんて美しいんだ。
これまでも色々な美女に出会ってきたが
あのお方に比べれば
全て出来損ないと言える。
完成された美を知ってしまうと
何とも味気無いガッカリ感だけが漂う。
かわいそうにな
あれだな
焼肉なんかで最初の方に高い肉食って
もう少し食いたいけどサイフの状況が
なんて時にファミリーなんたらとか
最安の肉を追加注文した感じか
空腹感も減った上で
格下の肉を追加しても
味の違いに凄い後悔する。
徐々にグレードを上げて行くか
固定するかのどっちかにした方が良いのだ。
「しかしあんな美人がいるとはなぁ
どこの村で合流した難民なんだ。」
人種としてはバルバリスの支配層
所謂、白人だ。
クワン先輩やセドリックなどと同じ
・・・いや
同じなど不敬だ。
許せんぶっ殺しに行くか
・・・まて
人種の話だ。
落ち着け俺
器量の幅はあるさ。
で
馬車なんだが
中央に陣取る神及び教会首脳陣の場所から
少し後方に位置していた。
今にして思えば
何故、その馬車に視点ポイントを合わせたのか
疑問なのだが
まるで誘導されるように視点が行ってしまった。
まぁお陰でお姿を拝見出来たのだから
良しだ。
うん。
えーと何言おうとしてたんだっけ
あ
そうそう馬車の位置が重要地点から
外れていたので最重要では無いが
それなりに地位のある庶民
或いは貴族
・・・貴族だよな。
あんなにキレイなんだもんな。
でも服装は庶民だったな
アレか
ヴィータもしていた偽装か
服がボロボロの難民が多い中で
綺麗なドレスで悠々と馬車の中じゃ
やっかみで危険が増すだけだもんな。
危険と言えば
いつもの俺なら
タイプの子が普段の服装で無く
普通の服なんか着るとスイッチが入り
滅茶苦茶にしたくなるのだが
これは何て言う性癖なんだろう。
ナースやワーデス(どっちも今言わない)等の
制服でハッスルする制服フェチの真逆だよな。
まぁ呼び名はいいか
とにかく
今回それが無い
下半身よりも頭の方に血が行ってる感じだ。
犯すなんてトンデモナイ
侵されざる聖域だ。
むしろそんな事をする輩がいようものなら
悪魔光線で蒸発させてやるさ。
・・・悪魔なんだよな。
あの美しさの前では
真の俺の姿、悪魔男爵の何と醜い事か
ストレガの絵本でイケメン化していたのも
知った時は真実と異なると憤慨したが
今は理解出来るな。
絵にならない。
つり合いって大事だな。
何とも醜い悪魔じゃって
ん
違う
今回は人状態がデフォだから
宮本たけし姿が真の姿になるのか
なぁんだ
・・・って
駄目だー。
ブサメンだー。
強そうな分まだ悪魔男爵のがましだー。
是非お近づきになりたいが
嫌そうな顔されたら
それだけで死ぬな
危険だな。
まだ死にたくないな・・・。
でも
もし
親しくなれたら
恋人になんてなれたら
あー
もう
浮かれたり落ち込んだり
気持ちのジェットコースターやー
その後も視点変更しては
即、戻すと言う行為を繰り返し
物理的にも気持ち的にも
一歩も動けない状態が続いた。
くそう何をしているんだ俺は
とにかく何か行動を起こそう。
高速思考。
・何がしたいのか
何がしたいんだ俺は
お近づきになりたいで良いんだよな
ただ不快な気持ちにはさせたくないし
もっと言えば俺も不快に思われたくない
その事実を感じたくない。
うーん後半は
・何をされたくないのか
だな
・何をしてはいけないのか
あのお方にマイナスな事だよな。
それがこちらの認識と一致していないと
壮大な不幸が巻き起こるが
その認識を近づける為にも
知り合ってコミュしていかんとだな
うーん考えても答えに近づく気がしないぞ。
・何をすべきか
これはなぁ・・・
前提条件で変わるからなぁ
自分の為になのか
社会の為にとか
相手も自分も望まなくても
良い結果、未来の為の行動だからなぁ
・何もしない方が良いか
これは熟考の果てと
勇気が出なくてそうなったとで
かなり心労の度合いが変わる上
更に決定の後に
・これで本当に良かったのか
と永遠に苛まれる地獄が待ってるからなぁ
・何が出来るのか
これ、そもそもなんだよな。
出来る事しか出来ないワケだからなぁ
俺
何が出来るんだ。
破壊か
間違い無く秀でている自信がある。
あのお方を破壊なんて出来るワケが無い
むしろ、その脅威から守らねば・・・
これか
あのお方以外の
不出来な醜いモノ全てを
破壊すれば
世界は美で完成されるのか
俺なら出来るだろう
いや
俺しか出来ない。
俺は
俺はこの為に生まれたのか
この為に今まで生きて来たんだ。
「やっと・・・分かったよ。」
「全然っ!!分かってないよおおおおお!!」
崇高な使命に目覚めた俺の背後から
不快感が襲って来た。
ミカか。
何とも不細工な哀れな天使よ。
そうか
まずお前からか
俺は内圧を上げながら
ゆっくりと振り返った。
美の失敗作を葬る為にだ。
「たあああああっ!!」
俺の照準から逃れる為に
ランダムな軌道変更し飛行するミカの
真下をアスリートばりの全力疾走する
んー
これまた不出来な美女
哀れな豊穣神か
ふっ
豊穣ではあるが
ふつくしくないな。
貴様も共に消えるが良い。
不敵に笑い
余裕の俺をガン無視して
通過していく二人。
アレ?
俺に襲い掛かって来たんじゃないの
「失礼するのだわ!!」
「お邪魔致します!!」
二人の飛び込んだ馬車は
何と、あのお方の馬車ではないか!
「がっ!!貴様ら!!!」
侵されざる聖域に
許さんぞ!!
俺は瞬間湯沸かし器になったが
あのお方を巻き添えには出来ない。
くそぅ
考えやがったな。
「きゃあ!!何事なんですか?」
入って来た美の不良品2ヶは知り合いなのか
あのお方はちょっとビックリした程度だ。
しかし
お声も何とふつくしい
俺はこんな火急な時だと言うのに
聞こえた声に酔いしれてしまった。
不覚だが不可抗力だよ~
良い声なんだもーん。
「更に失礼するのだわ!!」
「お許し下さい!!」
「え?えぇ??」
美の神が酔っぱらった時に作ったエラー品二体が
間髪を空けず、あのお方に襲い掛かった。
攻撃では無い事は俺も
あのお方も理解出来たので
慌てなかったが
一体何を・・・。
「アモーン!!」
「コレを見るのだわ!!」
「きゃーっ」
ミカリンがあのお方のスカートをたくし上げ
ヴィータがあのお方の御パンツを下げた。
ナイス
いけません
俺は視点変更のモードを
4k録画モードで発動した。
それに映し出されたのは
在るべきハズの無いイチモツが
凛々と
悠然と
俺の何倍も逞しく
反りっぱなしな
天を穿つかの様な
「ぐわあああああああ!!」
俺の目玉は爆発し
同時に脳の回線もショートした。
俺は頭部から煙を噴いて倒れた。
以降は再起動中に捉えた
俺の周囲での会話である。
当時の俺はスピーカーは死んでいたが
マイクは生きている状態だった。
ついさっき
同じ様な状態の奴が居たような気がした。
「いやぁ面白かったですねぇ」
「本当に危なかったよ!!」
「エラー品とか言いたい放題だったのだわ」
いや
以前、自分で比べれば醜女って言ってたろ
「玩具にするには危険すぎるよ!!」
「しかし、普段自分では冗談ばかりお言いになるのに
その本人には冗談が通じないとは・・・ズルくないですか。」
「そんな理由で巻き込まないで欲しいのだわ・・・。」
その後、3人はアホデルタに謝罪した。
アホデルタはちいっとも怒っておらず
ただ恥ずかしそうに呟いた。
「見られちゃった・・・ウフ」
俺は2度目の爆発を起こした。




